COPD(慢性閉塞性肺疾患)と診断され、少し動いただけでも息切れを感じるようになると、外出したり体を動かしたりすることが億劫になりがちです。

しかし、安静にしすぎるとかえって体力や筋力が低下し、さらに息切れしやすい状態に陥る「息切れの悪循環」を招きます。

この悪循環を断ち切るために重要なのが、呼吸リハビリと運動療法です。これらは呼吸の方法を整え、必要な筋力を維持・向上させることで息切れを軽くし、より快適な日常生活を送ることを目的とします。

この記事では、ご自宅で安全に取り組める呼吸リハビリの基本と、運動療法の具体的な方法を分かりやすく解説します。

COPD(慢性閉seh塞性肺疾患)と息切れの関係

COPDの患者さんにとって、息切れは最もつらい症状の一つです。

なぜ息切れが起こり、それがどのように日常生活に影響するのかを理解することが、リハビリテーションの第一歩となります。

なぜCOPDで息切れが起こるのか

COPDは長年の喫煙などが原因で、肺に慢性的な炎症が起こり、空気の通り道である気道が狭くなったり、酸素を取り込む肺胞が壊れたりする病気です。

肺の機能が低下すると一度に吸い込める空気の量が減り、また、うまく息を吐ききれなくなります。

このため体が必要とする酸素を十分に取り込めず、少しの動作でも息苦しさ、すなわち息切れを感じるようになります。

息切れの悪循環とは

息切れを感じると、人は無意識に体を動かすことを避けるようになります。活動量が減ると全身の筋力、特に呼吸を助ける筋肉や足腰の筋肉が衰えていきます。

筋力が低下すると以前よりも少ない運動で息切れするようになり、さらに動かなくなるという悪循環に陥ってしまいます。

この状態が続くと、着替えや入浴といった日常のささいな動作さえも困難になることがあります。

息切れの悪循環の段階

段階体の状態行動の変化
初期肺機能の低下により、坂道などで息切れを感じる息切れを避けるため、活動量が少し減る
中期筋力・体力が低下し、平地歩行でも息切れする外出の機会が減り、自宅にこもりがちになる
後期さらに筋力が低下し、身の回りのことでも息切れする寝たり座ったりの生活が中心になる

呼吸リハビリと運動療法が重要な理由

呼吸リハビリと運動療法は、この「息切れの悪循環」を断ち切るために大変重要です。呼吸リハビリは効率的な呼吸法を身につけることで、息切れを和らげます。

運動療法は低下した筋力や体力を回復させ、より楽に体を動かせるようにします。

これらを継続することで息切れが改善し、行動範囲が広がり、生活の質(QOL)の向上が期待できます。

呼吸リハビリの基本「口すぼめ呼吸」と「腹式呼吸」

呼吸リハビリの中心となるのが、「口すぼめ呼吸」と「腹式呼吸」です。これらの呼吸法は気道を広げ、一度に多くの空気を吐き出せるようにすることで呼吸を楽にします。

口すぼめ呼吸の正しいやり方

口すぼめ呼吸は息を吐くときに口をすぼめることで気道の内側に圧力をかけ、狭くなった気道が塞がるのを防ぐ呼吸法です。

特に動いた後や息が苦しい時に行うと効果的です。焦らずゆっくりと行うことがポイントです。

口すぼめ呼吸の練習方法

手順方法意識する点
1. 息を吸う鼻からゆっくりと2秒かけて息を吸い込む。胸やお腹が自然に膨らむのを感じる
2. 息を吐く口を笛を吹くようにすぼめ、4〜6秒かけてゆっくりと息を吐き出す。吸うときの2倍以上の時間をかける
3. 繰り返すこの呼吸を数回繰り返す。苦しくならない範囲で、リラックスして行う

腹式呼吸で呼吸筋を鍛える

腹式呼吸は胸とお腹の間にある横隔膜という筋肉を主に使って行う呼吸法です。横隔膜をしっかり動かすことで肺が大きく広がり、一度の呼吸でたくさんの空気を取り込めるようになります。

安静にしている時に練習し、無意識にできるようになることを目指しましょう。

腹式呼吸の練習方法

手順方法意識する点
1. 準備仰向けに寝て膝を立て、片手をお腹、もう片方の手を胸に置く全身の力を抜いてリラックスする
2. 息を吐く口すぼめ呼吸でゆっくり息を吐きながら、お腹がへこむのを確認する胸の上の手は動かさないようにする
3. 息を吸う鼻から息を吸いながら、お腹を膨らませるお腹の上の手が持ち上がるのを感じる

呼吸法を練習するタイミングと回数

これらの呼吸法は、日常生活の中に習慣として取り入れることが大切です。特別な時間を設けるだけでなく、テレビを見ている時や寝る前などリラックスしている時に意識して行いましょう。

最初は1回5分程度から始め、1日に数回行うのが目安です。慣れてきたら、立っている時や歩いている時にも試してみましょう。

在宅でできる運動療法の種類と進め方

COPDの運動療法は息切れを改善し、体力をつけるために行います。無理のない範囲で継続することが最も重要です。

始める前には必ず主治医に相談し、どの程度の運動が適切か確認してください。

まずはウォーキングから始める

ウォーキングは特別な器具も必要なく、誰でも手軽に始められる有酸素運動です。最初は短い時間、短い距離から始め、体調を見ながら少しずつ延ばしていくのが良いでしょう。

「少しきつい」と感じる程度が効果的な運動強度の目安です。息切れが強い場合は途中で休憩を挟みながら行ってください。

自宅でできる簡単な筋力トレーニング

筋力がつくと同じ動作をしても疲れにくくなり、息切れの軽減につながります。特に日常生活でよく使う足腰や腕の筋肉を鍛えることが重要です。

  • 椅子からの立ち座り運動(スクワット)
  • かかとの上げ下ろし運動
  • 水を入れたペットボトルを使った腕の運動

これらの運動をそれぞれ10回程度を1セットとして、1日に1〜2セット行うことから始めてみましょう。

自宅でできる筋力トレーニングの例

運動の種類鍛える部位方法
椅子スクワット太もも、お尻椅子に浅く座り、ゆっくり立ち上がって、ゆっくり座る。
かかと挙げふくらはぎ椅子の背もたれなどに捕まり、かかとをゆっくり上げて下ろす。
アームカール腕(力こぶ)ペットボトルを持ち、肘を曲げて持ち上げる。

運動の強度と時間の目安

運動の強度はご自身の感覚で判断する方法(自覚的運動強度)が分かりやすいです。

下の表にある「楽である」から「ややきつい」と感じる範囲で運動を行いましょう。「きつい」と感じたら、ペースを落とすか休憩が必要です。

自覚的運動強度(ボルグスケール)の目安

スケール感覚の表現運動強度の目安
6-7非常に楽であるウォーミングアップ程度
11-12楽である運動に適した強度
13-14ややきつい運動に適した強度
17-非常にきつい運動の強度が高すぎる

運動時間は最初は1回10分程度から始め、最終的に20〜30分継続することを目標にします。

週に3〜5日行うのが理想的です。

運動前後のストレッチの重要性

運動の前には筋肉を温めて怪我を防ぐためにウォーミングアップとして軽いストレッチを行いましょう。

運動後にも使った筋肉をほぐし、疲労回復を促すためにクーリングダウンとしてストレッチを行うことが大切です。

ゆっくりと気持ちよく筋肉を伸ばすことを意識してください。

在宅酸素療法(HOT)中の運動で注意すべき点

在宅酸素療法(HOT)を行っている患者様も運動療法は可能です。むしろ、酸素を吸入しながら運動することで息切れが軽くなり、より効果的にトレーニングができます。

ただし、次のようにいくつかの注意点を守る必要があります。

運動時の酸素流量の調整

体は安静にしている時よりも運動している時の方が多くの酸素を必要とします。そのため、主治医の指示に従い、運動時には酸素の流量を安静時よりも増やす調整が必要な場合があります。

自己判断で流量を変えず、必ず事前に医師に確認してください。この適切な流量調整により、安全かつ効果的な運動が可能になります。

パルスオキシメーターの活用法

パルスオキシメーターは、指先で血中の酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を簡単に測定できる機器です。運動中や運動後に測定し、体の状態を客観的に把握するために活用しましょう。

主治医から目標とするSpO2の値を指示されている場合は、その範囲を維持するように運動強度を調整します。

SpO2の値と対応の目安

SpO2の値体の状態対応
95%以上正常運動を継続して問題ありません
90~94%やや低い運動のペースを落とすか、主治医の指示を確認します
90%未満低い運動を中止し、安静にして主治医に相談します

※上記はあくまで一般的な目安です。ご自身の目標値や対応については、必ず主治医の指示に従ってください。

外出時の携帯用酸素ボンベの取り扱い

ウォーキングなどで外出する際は携帯用の酸素ボンベや液体酸素装置を使用します。カートを使って楽に運べるよう工夫しましょう。

また、外出時間に合わせて、酸素の残量が十分にあることを必ず確認してください。

ボンベの取り扱いやチューブの管理に慣れ、安全に外出できるようにしましょう。

呼吸リハビリと運動療法を安全に続けるためのポイント

リハビリテーションは無理なく安全に「継続する」ことが何よりも大切です。ご自身の体調とよく向き合いながら、焦らずに取り組んでいきましょう。

体調が悪い時の判断基準

毎日同じように運動できるとは限りません。体調が優れない日は無理せず休む勇気も必要です。

以下のような症状がある場合はその日の運動は中止し、症状が続くようであれば主治医に相談してください。

  • 熱がある
  • いつもより痰の色が濃い、量が多い
  • 胸の痛みや強い動悸がある
  • 足のむくみがひどい

無理なく継続するための目標設定

「毎日30分歩く」といった高い目標を最初から設定すると、達成できない日に挫折感を感じてしまうことがあります。

まずは「家の周りを一周する」「5分間、椅子からの立ち座り運動をする」など、達成しやすい小さな目標から始めましょう。

小さな成功体験を積み重ねることが継続への意欲につながります。

医師や理学療法士への相談

リハビリを進める上での疑問や不安は一人で抱え込まず、かかりつけの医師や訪問看護などで関わる理学療法士に相談しましょう。

専門家は、あなたの体の状態に合わせた適切なアドバイスを提供してくれます。定期的に体の状態を評価してもらい、運動プログラムを見直すことも重要です。

日常生活で息切れを管理する工夫

呼吸リハビリや運動療法と並行して、日常生活の送り方を少し工夫するだけでも息切れは楽になります。エネルギーを上手に使い、息切れを予防する習慣を身につけましょう。

動作のペースを調整する

何事も急がず、ゆっくりとしたペースで行うことを心がけましょう。例えば、着替えや入浴などの一連の動作を一度に行わず、途中で椅子に座って休憩を挟むなどの工夫が有効です。

また、重いものを持つ際は、息を吐きながら持ち上げると呼吸が楽になります。

日常生活での動作の工夫例

場面工夫のポイント
入浴浴室に椅子を置き、座って体や髪を洗う
着替え椅子に座って服や靴下を着脱する
家事調理器具などを手の届きやすい場所に収納する

栄養バランスの取れた食事

COPDの患者様は呼吸に多くのエネルギーを使うため、痩せやすい傾向があります。体重が減少すると筋力も低下し、息切れが悪化しやすくなります。

筋肉の材料となるタンパク質や活動のエネルギー源となる炭水化物、体の調子を整えるビタミン・ミネラルをバランス良く摂ることが大切です。

快適な療養環境の整備

生活空間を整えることも息切れの管理に役立ちます。室内の不要なものを片付けて、移動しやすい動線を確保しましょう。

また、加湿器などを使って室内の湿度を適切に保つと、気道の乾燥を防ぎ、呼吸が楽になることがあります。換気をこまめに行い、きれいな空気を保つことも重要です。

COPDの呼吸リハビリに関するよくある質問

ここでは、患者様やご家族からよく寄せられる質問にお答えします。

Q
運動するとかえって息苦しくなりませんか?
A

確かに運動を始めたばかりの頃は息苦しさを感じることがあります。しかし、それは体が運動に慣れていないためです。

口すぼめ呼吸を意識しながら無理のない強度で継続することで徐々に筋力と持久力がつき、同じ運動をしても息切れしにくくなっていきます。

大切なのは焦らずにご自身のペースで進めることです。苦しいと感じたら無理せず休み、パルスオキシメーターで体の状態を確認しながら行いましょう。

Q
どのくらい続ければ効果が出ますか?
A

効果を実感できるまでの期間には個人差がありますが、一般的には2〜3ヶ月程度、継続することで「以前より楽に歩けるようになった」「息切れが少し軽くなった」といった変化を感じる方が多いです。

リハビリテーションは薬のように即効性があるものではありません。日々の積み重ねが数ヶ月後の楽な生活につながると信じて、根気強く取り組むことが大切です。

Q
家族ができるサポートはありますか?
A

 ご家族のサポートは患者様が安心してリハビリを続ける上で大きな力になります。まずは、COPDという病気とリハビリの重要性を正しく理解することが第一です。

その上で一緒にウォーキングに出かけたり、運動の時間を声かけしたりするなど、前向きな気持ちで取り組めるような環境づくりを支援してください。

また、体調の変化に気を配り、不安な様子が見られたら一緒に主治医に相談に行くなど、精神的な支えになることも重要です。

以上

参考にした論文

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