在宅酸素療法(HOT)を始めたものの、カニューレが当たる鼻や耳の痛みに悩んでいませんか?皮膚が赤くなったり、ただれたりするのはつらいものです。

この記事では、カニューレによる皮膚トラブルがなぜ起こるのか、その原因を詳しく解説します。

さらに、今日からすぐに実践できる具体的な対処法や、今後のトラブルを防ぐための予防策、日々のスキンケアのポイントまで、専門的な視点から分かりやすくお伝えします。

快適な在宅療養生活を送るために、ぜひ最後までお読みください。

なぜ?カニューレで鼻や耳が痛くなる主な原因

在宅酸素療法で用いるカニューレは、常に皮膚に接触しています。このため、さまざまな要因が組み合わさり、痛みや皮膚トラブルを引き起こすことがあります。

主な原因を理解することが、適切な対策への第一歩です。

長時間の圧迫による血行不良

カニューレのチューブが同じ場所に長時間当たり続けると、その部分の皮膚や皮下組織が圧迫されます。この圧迫により、毛細血管の血流が悪くなり、皮膚の細胞に必要な酸素や栄養が届きにくくなります。

その結果、皮膚が赤くなったり、痛みを感じたり、ひどい場合には皮膚の組織が傷ついてしまうこともあります。特に骨に近い耳の後ろなどは、圧迫の影響を受けやすい部位です。

摩擦による皮膚への刺激

顔を動かしたり、寝返りをうったりする際に、カニューレのチューブが皮膚とこすれます。この繰り返される摩擦が、皮膚の表面にある角質層を傷つけ、外部からの刺激に弱い状態にしてしまいます。

バリア機能が低下した皮膚は、少しの刺激でも炎症を起こしやすくなり、赤みやかゆみ、痛みの原因となります。

主な原因の概要

原因主な仕組み起こりやすい症状
圧迫持続的な圧力で血行が悪くなる赤み、痛み、潰瘍
摩擦チューブとのこすれで皮膚が傷つく赤み、ひりひり感、ただれ
蒸れ汗や皮脂で皮膚がふやけ、弱くなるかゆみ、湿疹、感染

汗や皮脂による蒸れと皮膚の軟化

カニューレが接触している部分は、汗や皮脂が溜まりやすく、通気性も悪くなるため蒸れやすい環境です。皮膚が長時間湿った状態にあると、ふやけて軟らかくなります。

この軟化した皮膚は非常にデリケートで、わずかな摩擦でも傷つきやすくなります。また、高温多湿の環境は細菌が繁殖しやすいため、皮膚トラブルを悪化させる一因にもなります。

カニューレの素材に対するアレルギー反応

頻度は高くありませんが、カニューレの素材であるポリ塩化ビニルやシリコンなどにアレルギー反応を起こす方もいます。

特定の素材に触れた部分にかゆみ、赤み、発疹などが見られる場合は、アレルギーの可能性を考えます。

もし新しい種類のカニューレに変えてから症状が出た場合は、素材が合わないことも視野に入れる必要があります。

【部位別】よくある皮膚トラブルとその症状

カニューレによる皮膚トラブルは、チューブが接触する様々な部位で発生します。ここでは、特にトラブルが起こりやすい部位と、それぞれの特徴的な症状について解説します。

鼻(鼻孔・鼻柱)のトラブル

鼻に挿入するプロング(先端部分)は、鼻の入り口である鼻孔や、左右の鼻の穴を隔てる鼻柱に直接触れます。この部分は皮膚や粘膜が薄く、非常にデリケートです。

圧迫や摩擦により、赤みやひりひりとした痛み、乾燥、かさぶたなどができやすくなります。

耳の後ろや耳介のトラブル

カニューレのチューブを耳にかけるため、耳の後ろや耳介(じかい)は常にチューブが接触し、圧迫されやすい部位です。

特に耳の後ろは骨が出っ張っているため、圧迫による痛みが強く出ることがあります。赤みやただれ、ひどいときには皮膚がえぐれて潰瘍になるケースも見られます。

部位別の主な症状

部位主な症状特徴
鼻(鼻孔・鼻柱)痛み、乾燥、かさぶた、赤み皮膚や粘膜が薄く、デリケート
耳の後ろ痛み、赤み、ただれ、潰瘍骨に近く、圧迫の影響を受けやすい
赤み、かぶれ、チューブの跡寝返りなどで摩擦が起こりやすい

頬のトラブル

鼻から耳へつながるチューブが頬に沿って接触します。特に就寝中、無意識のうちに寝返りを打つことで、チューブが頬とこすれて摩擦によるトラブルが起こりがちです。

朝起きると、チューブの跡が赤く残っていたり、かぶれたりすることがあります。

皮膚トラブルの進行度

皮膚トラブルは、軽い赤みから始まり、放置すると重症化することがあります。初期段階での適切な対応が重要です。

進行度とセルフケアの目安

進行度皮膚の状態推奨される対応
初期圧迫による一時的な赤み、軽い痛み位置調整、保護、保湿ケア
中期持続する赤み、ただれ、強い痛み保護の強化、医療機関への相談を検討
重度水ぶくれ、潰瘍、浸出液速やかに医療機関に相談

今すぐできる!痛みや赤みを和らげる応急処置

カニューレによる痛みや赤みを感じたら、症状を悪化させないために早めの対処が大切です。ここでは、ご自宅ですぐに試せる応急処置の方法を紹介します。

カニューレの一時的な位置調整

まずは、痛みを感じる部分への圧迫を和らげることから始めましょう。チューブが当たっている位置を数ミリでもずらすだけで、痛みが軽減されることがあります。

耳にかけるチューブの位置を少し変えたり、頬に当たるチューブを少し浮かせたりするなど、工夫してみてください。

ただし、酸素がきちんと供給されるように、鼻のプロングがずれないよう注意が必要です。

患部の清潔と保湿

皮膚トラブルが起きている場所は、汗や皮脂で汚れやすくなっています。ぬるま湯と低刺激の石鹸をよく泡立て、優しく洗い、清潔なタオルで押さえるように水分を拭き取ります。

その後、刺激の少ない保湿剤を塗り、皮膚のバリア機能をサポートしましょう。この清潔と保湿が、皮膚の回復を助けます。

応急処置のポイント

対応具体的な方法注意点
位置調整チューブが当たる位置を少しずらす酸素供給が妨げられないようにする
清潔・保湿低刺激の石鹸で優しく洗い、保湿剤を塗る強くこすらない、ゴシゴシ拭かない
保護クッション材や保護フィルムを貼る皮膚の状態に合った保護材を選ぶ

保護材を使った圧迫の軽減

痛む部分に直接カニューレが当たらないよう、クッションの役割を果たす保護材を利用するのも有効です。

医療用のクッション性のあるテープや、ドレッシング材(傷を保護するシート)などを小さく切って貼ることで、圧迫や摩擦を大幅に軽減できます。

薬局などで手軽に購入できるものもありますので、試してみる価値はあります。

冷却による炎症の鎮静

赤みや熱感がある場合は、軽い炎症が起きている可能性があります。清潔なタオルで包んだ保冷剤などを短時間、優しく当てることで、炎症を和らげることができます。

ただし、冷やしすぎは血行を悪くする可能性があるので、1回あたり数分程度に留めましょう。

快適な療養生活を送るためのカニューレ装着の工夫

毎日のことだからこそ、少しの工夫でカニューレの装着感は大きく変わります。皮膚への負担を減らし、より快適に過ごすための具体的な方法を見ていきましょう。

カニューレのチューブの長さを調整する

顔周りのチューブの長さを調整するアジャスター(スライダー)の位置は適切ですか?アジャスターを締めすぎると顔全体への圧迫が強くなり、緩すぎるとカニューレがずれて摩擦の原因になります。

あごの下で、指が1〜2本入るくらいの適度なゆとりを持たせるのが目安です。自分に合った最適な長さに調整しましょう。

顔に当たる部分のチューブの固定方法

頬に当たるチューブが動いて気になる場合は、医療用のテープで軽く固定する方法があります。テープを貼ることで、寝返りなどによるチューブのずれや摩擦を防ぐことができます。

肌の弱い方は、かぶれにくいサージカルテープやシリコンテープを選ぶと良いでしょう。毎日同じ場所に貼るのではなく、少しずつ位置をずらすことも皮膚への負担を減らすポイントです。

様々な種類の保護具

種類特徴使用部位の例
ソフトタイプカニューレ素材が柔らかく、皮膚への当たりが優しい全体的な負担軽減
イヤークッションチューブに巻き付けて耳への圧迫を軽減する耳の後ろ
皮膚保護フィルム薄い透明なフィルムで皮膚を摩擦から守る頬、鼻の下

様々な種類のカニューレと固定具の活用

現在では、患者さんの負担を軽減するために、様々な種類のカニューレや関連製品が開発されています。

例えば、通常のものより素材が柔らかいソフトタイプのカニューレや、耳への負担を減らすための専用クッション(イヤーパッド)などがあります。

これらの製品を活用することで、悩んでいたトラブルが解決することもあります。かかりつけの医師や、酸素供給業者に相談してみましょう。

就寝時の工夫と注意点

睡眠中は無意識に体を動かすため、皮膚トラブルが起こりやすい時間帯です。いくつかの工夫で、朝の不快感を減らすことができます。

  • チューブの取り回しを工夫する
  • 枕の素材や高さを調整する
  • 寝室の湿度を保つ

就寝時の具体的な工夫

工夫目的方法の例
チューブの整理寝返りによる摩擦や圧迫を防ぐチューブを頭上から垂らす、枕元でまとめる
枕の調整耳への圧迫を減らす柔らかい素材の枕、耳用のくぼみがある枕
保湿皮膚や粘膜の乾燥を防ぐ加湿器を使用する

皮膚トラブルを防ぐための日々のスキンケア

カニューレによる皮膚トラブルを予防するためには、日々のスキンケアが非常に重要です。

皮膚そのものを健康に保ち、刺激に負けない状態を作ることが目標です。「洗浄」「保湿」「保護」の3つの基本を押さえましょう。

洗浄 優しく洗うことの重要性

カニューレが触れる部分は、汗や皮脂、ほこりなどが付着しやすいため、毎日清潔に保つことが基本です。洗顔の際は、洗浄力の強すぎる洗顔料は避け、低刺激性の石鹸や洗顔料をしっかりと泡立てます。

泡をクッションにして、指が直接肌に触れないように優しく洗いましょう。熱いお湯は皮脂を取りすぎて乾燥の原因になるため、ぬるま湯ですすぐのがポイントです。

保湿 皮膚のバリア機能を高める

洗浄後の肌は水分が蒸発しやすく、乾燥しがちです。洗顔後はすぐに、化粧水や乳液、クリームなどで水分と油分を補いましょう。

保湿によって皮膚のバリア機能が正常に保たれ、外部からの刺激を受けにくくなります。特にカニューレが当たる鼻や耳の後ろ、頬などは丁寧に保湿することを心がけてください。

保護 刺激から皮膚を守る

日中のスキンケアとして、保湿剤を塗った上からワセリンや皮膚保護クリームなどを薄く塗布し、保護膜を作る方法も有効です。

このことにより、カニューレのチューブとの直接的な摩擦を減らし、皮膚を刺激から守ることができます。塗りすぎるとべたつきの原因になるため、薄く均一に伸ばすのがコツです。

スキンケア用品選びのポイント

ポイント理由成分の例
低刺激性デリケートな肌への負担を減らすアミノ酸系洗浄成分、セラミド
無香料・無着色香料などが刺激になることがあるため
高保湿皮膚のバリア機能をサポートするヒアルロン酸、ワセリン、グリセリン

医療機関に相談すべきタイミング

日々のセルフケアや工夫を行っても、皮膚トラブルが改善しない、あるいは悪化する場合には、専門家である医師や看護師への相談が必要です。

自己判断で対処を続けると、かえって症状を長引かせてしまう可能性があります。

症状が悪化する場合

赤みや痛みが日を追うごとに強くなる、トラブルの範囲が広がっている、といった場合は、炎症が進行しているサインです。

これまで紹介したセルフケアを続けても改善の兆しが見られないときには、早めに受診しましょう。

水ぶくれや浸出液が見られる場合

皮膚に水ぶくれができたり、傷口からじゅくじゅくとした液体(浸出液)が出たりしている状態は、皮膚の深い部分までダメージが及んでいる証拠です。

また、細菌感染を起こしている可能性も考えられます。このような場合は、自己判断で薬を塗ったりせず、直ちに医師の診察を受けてください。

痛みが強く、日常生活に支障が出る場合

皮膚の見た目以上に痛みが強く、夜眠れない、集中できないなど、日常生活に影響が出ている場合も我慢する必要はありません。

痛みをコントロールしながら、皮膚トラブルの原因を根本的に解決する方法を一緒に考えることが大切です。遠慮なくかかりつけの医師に相談してください。

市販薬を使用する前の注意点

薬局で販売されている塗り薬には様々な種類がありますが、症状に合わない薬を使用すると、かえって悪化させることがあります。

特に、ステロイド含有の薬は効果が強い反面、使用方法を誤ると副作用のリスクもあります。市販薬を試す前に、まずはかかりつけ医や薬剤師に相談することをお勧めします。

よくある質問

Q
カニューレは毎日交換する必要がありますか?
A

カニューレの交換頻度は、製品の種類や使用状況によって異なりますが、一般的には1〜2週間に1回程度の交換が推奨されています。

しかし、汚れが目立つ場合や、チューブが硬くなってきたと感じる場合は、早めに交換してください。清潔を保つことが皮膚トラブルの予防につながります。

詳しい交換頻度については、医師や酸素供給業者の指示に従ってください。

Q
お風呂に入るとき、カニューレはどうすれば良いですか?
A

酸素濃縮装置からカニューレを一旦外し、入浴するのが一般的です。入浴中は酸素の吸入が途切れますが、短時間であれば問題ないとされる方がほとんどです。

ただし、患者さんの病状によっては入浴中も酸素吸入が必要な場合があります。入浴時の対応については、必ず事前にかかりつけの医師に確認し、その指示に従うようにしてください。

Q
皮膚トラブル用の市販薬を使っても良いですか?
A

自己判断での市販薬の使用は、症状を悪化させる可能性があるため、慎重になる必要があります。軽い赤み程度であれば保湿剤で様子を見るのが基本です。

炎症を伴う場合や、ただれ、傷がある場合には、必ずかかりつけの医師に相談し、処方された薬を使用してください。皮膚の状態に合った適切な治療が、早期回復への近道です。

Q
カニューレのチューブが硬くなってきました。どうすれば良いですか?
A

カニューレのチューブは、使用しているうちに皮脂や紫外線などの影響で徐々に硬くなることがあります。

チューブが硬くなると、皮膚への当たりが強くなり、痛みや摩擦の原因になります。また、亀裂が入る可能性も考えられます。

硬化に気づいたら、交換時期の前であっても新しいカニューレに交換することをお勧めします。

参考にした論文