日本は台風や地震などの自然災害が多い国であり、在宅酸素療法(HOT)を行っている患者様やご家族にとって、災害時の対応は生命に関わる重要な課題です。
停電によって酸素濃縮器が停止した際、どのように呼吸を維持し、安全を確保すればよいのか。日頃からの備えがいざという時の命綱となります。
本記事では、在宅酸素療法を受けている方々が災害に直面した際に慌てず行動できるよう、具体的な防災準備や避難のノウハウを網羅的に解説します。
電源の確保方法からボンベの管理、地域との連携まで、実践的な知識を身につけ、不安を解消しましょう。
停電発生時の酸素濃縮器の挙動と初期対応の手順
停電発生時、据え置き型酸素濃縮器は即座に停止するため、警報音に慌てず直ちに予備の酸素ボンベへ切り替えることが最優先の初期対応です。
電源供給が断たれた直後のパニックを防ぎ、呼吸状態を安定させるための具体的な手順と心構えを解説します。
酸素ボンベへの切り替えと流量設定の確認
停電で酸素濃縮器が停止した直後に最も優先すべき行動は、予備の酸素ボンベへの切り替えです。在宅酸素療法では、停電や機器故障などの緊急時に備えて、必ず携帯用などの酸素ボンベが処方されています。
濃縮器のカニューラ(鼻に入れるチューブ)を外し、酸素ボンベに接続されたカニューラへ素早く交換してください。
この際、焦って流量設定を間違えないよう注意が必要です。普段、安静時に使用している流量(例えば毎分1リットルや2リットルなど)にボンベのダイヤルを合わせます。
呼吸状態が安定していることを確認してから、次の行動に移ることが鉄則です。暗闇での作業になる可能性もあるため、ボンベの近くには懐中電灯を備えておくことが推奨されます。
内蔵バッテリー搭載機種の稼働時間と限界
一部の酸素濃縮器、特に外出用としても使用できるポータブルタイプの機器には、内蔵バッテリーが搭載されています。
停電時には自動的にこのバッテリー駆動へ切り替わる機種もありますが、その稼働時間は無限ではありません。
機種や設定流量によって大きく異なりますが、一般的には数十分から数時間程度でバッテリー切れとなります。
内蔵バッテリーはあくまで「一時的なつなぎ」であり、長時間の停電を乗り切るための恒久的な電源ではありません。
バッテリー残量表示をこまめに確認し、残量がなくなる前に酸素ボンベや外部電源への切り替え準備を進める必要があります。
過信せず、あくまで避難までの時間を稼ぐためのものと認識して行動しましょう。
帝人やフクダ電子などメーカーごとの緊急連絡体制
酸素機器メーカー各社は、災害時における緊急対応マニュアルやサポート体制を整備しています。
帝人ファーマやフクダ電子、エア・ウォーターなどの主要メーカーは、震度5強以上の地震発生時などに、安否確認や機器の稼働状況を確認する連絡を行う体制を敷いている場合があります。
しかし、広域災害時は電話回線がパンクし、メーカー側からの連絡が遅れる、あるいは繋がらないことも想定されます。
そのため、機器本体や取扱説明書に記載されている緊急連絡先(コールセンターなど)を事前にメモし、携帯電話のアドレス帳に登録しておくことが重要です。
自分から連絡できる手段を確保しつつ、基本的には自助努力で数日間は凌げる準備をしておく意識が必要になります。
酸素供給手段の切り替え優先順位
| 優先順位 | 供給手段 | 特徴と対応 |
|---|---|---|
| 最優先 | 酸素ボンベ | 電源不要で即座に使用可能。停電直後はまずこれに切り替え、呼吸を安定させる。 |
| 第2位 | 外部バッテリー | ポータブル濃縮器の場合、用意しておいた予備バッテリーを使用し、ボンベを節約する。 |
| 第3位 | 車載電源(シガーソケット) | 車のエンジンをかけ、インバーター等を通じて機器を動かす。長期停電時の有力な手段。 |
在宅酸素療法における酸素ボンベの備蓄目安と管理法
災害時の酸素供給を維持するためには、最低でも3日から1週間分の酸素ボンベを備蓄し、転倒防止策を講じて安全に保管することが不可欠です。
普段の外出用としてだけでなく、非常用電源の代替としての役割を考慮した適切な保有本数の計算と管理方法について説明します。
医師と相談して決める必要本数の計算式
災害時に必要な酸素ボンベの本数は、患者様ごとの酸素流量と、救援が来るまでの想定日数によって異なります。
一般的には、最低でも3日分、可能であれば1週間分程度の酸素を確保できる体制が望ましいとされています。
具体的な計算としては、「毎分の流量(リットル)×60分×24時間」で1日に必要な酸素量が算出できますが、実際には連続使用ではなく、労作時のみ使用する場合など個人差があります。
主治医や酸素業者と相談し、「もし停電が3日続いた場合、今の保有本数で足りるか」を具体的にシミュレーションしてください。
不足が懸念される場合は、予備ボンベの追加配備が可能かを確認することが大切です。
保管場所の安全性確保と転倒防止策
酸素ボンベは高圧ガスが充填された重量物であるため、地震の揺れで転倒すると大変危険です。転倒した衝撃でバルブが破損すれば、ガスが噴出してロケットのように飛び回る事故につながる恐れがあります。
また、足の上に落下すれば骨折などの大怪我を招きます。保管場所は直射日光が当たらず、火気のない風通しの良い場所を選び、必ず専用のスタンドやラックに入れて固定してください。
壁にチェーンで固定するか、安定性の高い専用カートに乗せたまま保管するなど、震度6クラスの揺れでも倒れない対策を講じることが、二次災害を防ぐために重要です。
災害発生時の配送遅延と在庫温存の工夫
大規模災害が発生すると、道路の寸断やガソリン不足により、酸素業者の配送トラックが自宅まで到達できない事態が容易に想像されます。
通常の注文サイクル通りにボンベが届かないことを前提に行動しなければなりません。そのため、停電していない間は可能な限り酸素濃縮器を使用し、ボンベは移動や完全停電時のために温存してください。
また、安静にできる時は主治医の指示の範囲内で酸素流量を低めに設定し、消費量を抑えるといった工夫も必要になる場合があります。
これを「トリアージ」的な自己管理と考え、限られた資源を延命させる意識を持つことが大切です。
- 現在保有している酸素ボンベの総残量を把握する
- 使用期限が切れていないか、定期的に容器の刻印を確認する
- パッキン(ワッシャー)の予備がボンベと一緒に保管されているか確認する
- カニューラの予備もボンベと同じ場所に保管しておく
- 家族全員がボンベの交換方法と開閉操作を習得しておく
災害時に役立つ電源確保の選択肢と注意点
停電下で酸素濃縮器を稼働させるには、正弦波出力に対応したポータブル電源や、車のシガーソケットを活用したインバーター給電が有効な選択肢となります。
医療機器の故障を防ぐための正しい電源選びの基準と、各供給手段のメリット・デメリットを解説します。
正弦波インバーターと医療機器の適合性
電源選びで最も重要なキーワードが「正弦波(せいげんは)」です。
家庭のコンセントから来ている電気の波形は滑らかな正弦波ですが、安価な発電機やカーインバーターの中には「矩形波(くけいは)」や「修正正弦波」と呼ばれるカクカクした波形の電気を出力するものがあります。
酸素濃縮器のようなモーター制御やマイコンを搭載した精密医療機器に矩形波の電気を使用すると、正常に動作しなかったり、異音が発生したり、最悪の場合は故障したりします。
非常用電源を購入する際は、必ず「正弦波(Pure Sine Wave)」出力に対応している製品を選んでください。パッケージや仕様書に明記されているため、購入前の確認作業は必須です。
自動車のバッテリーを活用するシガーソケット給電
自家用車は、災害時において非常に優秀な「発電機」となります。
車のシガーソケット(アクセサリーソケット)にDC/ACインバーターを接続することで、車内で家電製品を使うためのコンセントを作ることができます。
ガソリンさえあれば長時間発電し続けることができるため、ボンベが尽きそうな場合の強力なバックアップとなります。
ただし、酸素濃縮器の消費電力(ワット数)に対応したインバーターを用意する必要があります。
多くの据え置き型濃縮器は始動時に大きな電力を消費するため、定格出力だけでなく最大出力にも余裕のあるインバーターを選ぶことが大切です。
換気の良い屋外でエンジンをかけ、一酸化炭素中毒に注意しながら使用しましょう。
ポータブル電源の容量計算と選び方
キャンプや防災用として人気のポータブル電源(大容量リチウムイオンバッテリー)も、在宅酸素療法の心強い味方です。
選定の際は「バッテリー容量(Wh:ワットアワー)」と「定格出力(W:ワット)」の2点を確認します。
例えば、消費電力が100Wの酸素濃縮器を5時間動かしたい場合、理論上は500Wh以上の容量が必要ですが、変換ロスなどを考慮すると700Wh〜1000Whクラスの大容量モデルを用意するのが安心です。
また、ポータブル電源自体を充電するためのソーラーパネルを併用することで、停電が長期化しても日中に電気を自給自足できる可能性が生まれます。
高価な買い物になりますが、命を守る投資として検討する価値は十分にあります。
電源確保手段の比較と導入ポイント
| 電源の種類 | メリット | 注意点・デメリット |
|---|---|---|
| ポータブル電源 | 室内で使用可能。騒音がなく、スイッチ一つですぐに給電できる。 | 容量に限界がある。使い切ると充電が必要。機器に合った出力が必要。 |
| 自動車(インバーター) | 燃料がある限り長時間発電可能。エアコンも使え、避難場所にもなる。 | 一酸化炭素中毒防止のため屋外使用が絶対。延長コードが必要な場合がある。 |
| カセットガス発電機 | カセットボンベで手軽に発電。入手しやすい燃料。 | 定期的なメンテナンスが必要。室内使用厳禁。騒音が大きい。 |
避難所生活を見据えた事前の行動計画
迅速かつ安全な避難のためには、福祉避難所への事前登録や、パルスオキシメーターを含む専用持ち出し袋の準備、ハザードマップに基づく経路確認を事前に行うことが重要です。
機材を抱えての移動困難を想定し、いつ・どこへ・どのように避難するかという具体的な行動計画の立て方を提示します。
福祉避難所への登録と利用条件の確認
一般的な体育館などの避難所での生活が困難な高齢者や障害者、医療的ケア児者などを対象とした「福祉避難所」という施設があります。
老人ホームやコミュニティセンターなどが指定されていることが多く、バリアフリー対応や介護支援等の配慮がなされています。
しかし、福祉避難所は災害発生直後に最初から開設されるとは限らず、まずは一般避難所に身を寄せ、必要性が認められた後に移送されるケースが一般的です。
ただし、自治体によっては事前の登録制度を設けている場合があります。
お住まいの自治体の防災課や障害福祉課に問い合わせ、酸素療法を行っていることを伝えた上で、利用条件や事前登録の可否を確認しておくことが大切です。
持ち出し袋に入れるべき医療機器関連グッズ
非常持ち出し袋には、水や食料といった一般的な防災グッズに加え、在宅酸素療法特有の必需品を入れておく必要があります。
カニューラや延長チューブの予備はもちろん、処方薬やお薬手帳、健康保険証、特定医療費受給者証などは必須です。特に重要なのが「パルスオキシメーター(血中酸素飽和度測定器)」と「乾電池」です。
避難生活で体調が悪化した際、数値で客観的に状態を把握することは、救護スタッフに的確に状況を伝えるために役立ちます。
また、口腔ケア用品やウェットティッシュなど、感染症予防のための衛生用品も多めに入れておくことをお勧めします。
ハザードマップと移動経路のシミュレーション
酸素ボンベを引いて歩く、あるいは車椅子で移動することを想定し、自宅から避難場所までのルートを実際に確認しておくことが重要です。
自治体が発行するハザードマップを確認し、浸水想定区域や土砂災害警戒区域を避けるルートを選定します。
普段は何気なく通っている道でも、段差や急な坂道、側溝の蓋がない場所などは、機材を持っての避難時には大きな障害となります。
実際にカートを引いて歩いてみて、通行が可能かどうか、どの程度の時間がかかるかを計測してください。
また、夜間の避難も想定し、街灯の有無や足元の視認性についてもチェックしておくと、より実践的な避難計画が立てられます。
- 予備のカニューラおよび延長チューブ(最低2セット)
- パルスオキシメーターと予備の電池
- 現在服用している薬(1週間分程度)とお薬手帳
- 酸素業者や主治医の連絡先が書かれたメモ
- 健康保険証、介護保険証、特定疾患受給者証のコピー
- マスクやアルコール消毒液などの衛生用品
災害時の連絡手段と情報収集の重要性
通信障害による孤立を防ぐため、災害用伝言ダイヤル(171)の活用法を習得し、主治医や酸素業者を含む多重的な連絡網を事前に構築しておくことが命を守ります。
非常時に確実に助けを求められるよう、行政や地域支援者との連携を含めた情報収集と連絡手段の確保について解説します。
災害用伝言ダイヤル「171」の活用法
大規模災害時には携帯電話や固定電話の音声通話が規制され、非常につながりにくくなります。そのような状況下で有効なのが、NTTが提供する「災害用伝言ダイヤル(171)」です。
「171」にダイヤルし、自宅の電話番号などをキーにして伝言を録音・再生することができます。家族間での安否確認はもちろん、離れて暮らす親族に避難先や現状を伝える手段として非常に有効です。
また、web版の「災害用伝言板(web171)」もあり、こちらはテキストで情報を残せます。毎月1日や15日などに体験利用ができるため、家族全員で一度練習し、操作方法を覚えておくことが大切です。
主治医・酸素業者・家族との連絡網作成
緊急時に連絡すべき相手の優先順位と電話番号を記した「緊急連絡カード」を作成し、常に携帯することをお勧めします。
カードには、主治医、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、酸素機器メーカーのコールセンター、家族の連絡先を明記します。
また、スマートフォンが電池切れや故障で使用できない場合に備え、公衆電話からかけられるように小銭(10円玉や100円玉)もセットで持っておくことが有効です。
災害時には酸素業者も被災している可能性があるため、一つの連絡先に依存せず、行政の相談窓口や近隣の支援者など、多重的な連絡網を構築しておくことが安全性を高めます。
地域包括支援センターや民生委員との連携
公的な支援ルートを確立しておくことも重要です。お住まいの地域の「地域包括支援センター」や担当の「民生委員」は、高齢者や障害者の見守りを行う重要な役割を担っています。
日頃から自分が在宅酸素療法を行っていること、災害時には自力避難が困難である可能性があることを伝えておくことで、安否確認の優先度が上がったり、避難支援の対象リストに入ったりする可能性があります。
プライバシーの問題で躊躇される方もいますが、非常時の命には代えられません。
「避難行動要支援者名簿」への登録制度がある自治体では、積極的に登録を行い、地域の支援体制の中に自分を位置づけておくことが大切です。
緊急時の連絡先と確認事項リスト
| 連絡先 | 伝えるべき・確認すべき内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 酸素機器メーカー | 機器のエラー状況、ボンベの残量、配送の見通し | フリーダイヤルは繋がりにくい場合があるため、複数の番号を控える。 |
| かかりつけ医療機関 | 現在の体調、SpO2数値、薬の残量、受診の可否 | 夜間・休日の緊急連絡先も確認しておく。 |
| 自治体(防災課等) | 避難所の受け入れ状況、福祉避難所の開設状況 | 災害時は代表電話が混雑するため、ラジオ等での情報収集も併用する。 |
日頃のメンテナンスが防災力を高める
日常的なフィルター清掃や火気厳禁の徹底こそが、災害時の機器トラブルや二次災害を防ぐための最も確実な防災対策です。
過酷な環境下でも機器を正常に稼働させ、火災などの事故を未然に防ぐために、日頃から習慣化しておくべきメンテナンスと安全管理のポイントを説明します。
フィルター清掃と機器の動作チェック
酸素濃縮器には、空気中のホコリを取り除くためのフィルターが付いています。
このフィルターが詰まると、酸素を濃縮する能力が低下したり、コンプレッサーに負荷がかかって故障の原因になったり、最悪の場合は内部温度が上昇して停止してしまったりします。
災害時には修理の技術者がすぐに来られないため、故障リスクを極限まで下げておく必要があります。取扱説明書に従って定期的にフィルターの掃除や交換を行いましょう。
また、アラームが正常に鳴るか、電源コードに破損がないかといった基本的な動作チェックを日常的に行うことで、異常の早期発見につながります。
火気厳禁の徹底と地震火災の予防
酸素はそれ自体が燃えるわけではありませんが、「支燃性(しねんせい)」と言って、他のものが燃えるのを激しく助ける性質があります。
そのため、酸素吸入中にタバコを吸ったり、ストーブやコンロの火に近づいたりすることは厳禁です。特に大地震発生時は、転倒した暖房器具や破損した電気配線から火災が発生するリスクが高まります。
酸素濃縮器の周囲2メートル以内には火気を置かないことを徹底してください。また、引火しやすい油やグリース、アルコール類を酸素機器の接続部分に付着させないよう注意が必要です。
災害時の混乱の中でも「酸素の近くでは火を使わない」という原則を守り抜くことが、命を守ります。
加湿ボトルの水管理と衛生対策
酸素濃縮器の加湿ボトルに入れている水は、災害時に断水すると交換が難しくなる可能性があります。不衛生な水を使い続けると、レジオネラ菌などの細菌が繁殖し、肺炎を引き起こす原因となります。
普段から精製水や滅菌水を使用し、毎日交換してボトルを洗浄する習慣をつけておくことが基本です。
災害時で清潔な水が入手できない場合は、医師の判断にもよりますが、感染症リスクを避けるために加湿なしで酸素を吸入するという選択肢もあります。
短期間であれば加湿なしでも直ちに健康被害が出ることは少ないため、不潔な水を使うくらいなら空の状態で使用する等の判断基準を主治医と確認しておくと安心です。
日常点検と安全対策チェックシート
| 点検項目 | 内容・頻度 | 防災上のメリット |
|---|---|---|
| フィルター清掃 | 週に1回程度、ホコリを除去・水洗い | 機器の負担を減らし、故障リスクを低減する。 |
| 周囲の整理整頓 | 機器の周りに燃えやすい物を置かない | 地震時の火災拡大を防ぎ、避難経路を確保する。 |
| コンセント確認 | ホコリが溜まっていないか、タコ足配線でないか | トラッキング火災による発火を防ぐ。 |
家族や地域と共に作る支援の輪
災害時の生存率を高めるためには、家族との避難シミュレーションや近隣住民への協力要請を行い、地域全体で支え合う支援の輪を広げておくことが重要です。
自分ひとりでは対応しきれない事態に備え、平時から周囲との関係性を築き、共助の体制を作るための具体的なアプローチを紹介します。
家族で行う防災シミュレーション訓練
頭で分かっていることと、実際に体が動くことは別物です。家族全員で、停電が起きた瞬間を想定したシミュレーション訓練を行ってみましょう。実際にブレーカーを落として部屋を暗くし、懐中電灯の明かりだけで酸素濃縮器からボンベへの切り替え作業を行ってみます。また、避難持ち出し袋を持って玄関まで移動してみる、車椅子への移乗を行ってみるなど、具体的な動作を確認します。実際にやってみると、「暗くて手元が見えない」「ボンベが重くて運べない」「廊下に物が置いてあって通れない」といった課題が見えてきます。これらの気づきを改善していくプロセスが、実際の災害時の生存率を高めます。
近隣住民への事情説明と協力要請
災害時、救急車や消防車がすぐに到着するとは限りません。最初に助けに来てくれるのは、隣近所の人々である可能性が高いです。
そのため、向こう三軒両隣や自治会長などには、自分が在宅酸素療法を行っていること、災害時には移動に介助が必要になるかもしれないことを、可能な範囲で伝えておくことが大切です。
「何かあったら声をかけてください」と伝えておくだけで、相手も気にかけてくれるようになります。
また、マンションであれば管理組合に、戸建てであれば町内会に相談し、地域の防災訓練に参加してみるのも良いでしょう。地域の中に自分の存在を知ってもらうことが、支援を受ける第一歩です。
パニックを防ぐためのメンタルケア
災害発生時、呼吸器疾患を持つ患者様は、呼吸困難への恐怖から過呼吸(パニック発作)を起こしやすくなります。パニックになると酸素消費量が増え、さらに息苦しくなるという悪循環に陥ります。
これを防ぐためには、「準備ができているから大丈夫」という自信を持つことが大切です。
また、家族は患者様の手を握り、「大丈夫、ボンベはあるよ」「一緒にいるよ」と声をかけ、安心させてあげてください。
日頃から「何かあっても何とかなる」という楽観的な思考を持つ訓練や、腹式呼吸などのリラクゼーション法を練習しておくことも、心の防災対策として有効です。
よくある質問
- Q停電したら酸素濃縮器はどれくらいで止まりますか?
- A
在宅用の据え置き型酸素濃縮器には、基本的にバックアップ用のバッテリーは内蔵されていません。そのため、コンセントからの電力供給が止まった瞬間に、機器も停止します。
停止と同時にアラームが鳴りますので、慌てずにあらかじめ準備しておいた酸素ボンベに切り替えてください。
ポータブルタイプの場合は内蔵バッテリーに切り替わりますが、稼働時間は機種によりますので確認が必要です。
- Q酸素ボンベの使用可能時間はどう計算すればいいですか?
- A
酸素ボンベの使用可能時間は、「ボンベの容量(リットル)÷設定流量(リットル/分)」ではなく、ボンベ内の圧力も考慮する必要があります。
簡易的な計算式は「ボンベの内容積(L)×圧力計の数値(MPa)×約10÷設定流量(L/分)」ですが、複雑なため、お使いのボンベに付属している目安表を確認するのが確実です。
一般的に外出用ボンベは流量2L/分で数時間程度ですので、災害用としては複数本の備蓄が必要です。
- Q避難所に酸素濃縮器を持っていくことはできますか?
- A
持っていくことは物理的には可能ですが、重量が10kg〜20kg程度あるため、人力での運搬は困難を極めます。また、避難所に電源の空きがあるかどうかも分かりません。
現実的な対応としては、まずは酸素ボンベを持って避難し、避難所の運営者や自治体の担当者に酸素濃縮器が必要であることを伝え、後から搬入するか、医療機関へ移送してもらう等の調整を行うことが一般的です。
- Q車のシガーソケットで酸素濃縮器を使う際の注意点は?
- A
車のシガーソケットから電源を取る場合、DC/ACインバーターという変換器が必要です。
この際、必ず「正弦波」を出力できるインバーターを選んでください。
安価な「矩形波」や「調整矩形波」のインバーターを使用すると、酸素濃縮器が故障したり、正常に動作しなかったりします。
また、機器の消費電力に対応したワット数の製品を選ぶことも重要です。
- Q災害時に酸素業者が来られない場合どうすればいいですか?
- A
道路状況などにより酸素業者の到着が大幅に遅れることは十分に考えられます。
まずは手持ちの酸素ボンベを節約しながら使い、主治医に連絡を取って指示を仰いでください。
安静にすることで酸素消費を抑えたり、場合によっては入院可能な病院への搬送を要請したりする必要があります。
自治体の災害対策本部や保健所も相談窓口となりますので、連絡手段を確保しておきましょう。
