在宅酸素療法で日常的に行う酸素ボンベの交換。いざという時に「手順が分からない」「ガスが漏れているような音がする」と慌ててしまうことはありませんか。

この記事では在宅酸素ボンベの正しい交換手順を分かりやすく解説するとともに、交換時によくあるトラブルの対処法をまとめました。

正しい知識を身につけ、日々のボンベ交換を安全・確実に行いましょう。

在宅酸素ボンベ交換の基本知識

まずは、なぜボンベの交換が必要なのか、いつ、どのように準備すればよいのか、基本的な知識を整理しましょう。事前の理解が落ち着いた行動につながります。

なぜ定期的な交換が必要なのか

在宅で使用する酸素ボンベには高圧の医療用酸素が充填されています。酸素療法を継続することでボンベ内の酸素は消費され、残量が少なくなります。

治療を中断させないために、空になる前に新しいボンベへ交換することが重要です。定期的な交換は切れ目のない安定した酸素療法を維持するために欠かせません。

交換時期の目安と確認方法

ボンベの交換時期は圧力計(残量ゲージ)で判断します。圧力計の針が一定の圧力(例えば、赤色の目盛りの範囲)を下回ったら、交換の合図です。

日々の使用量や外出の予定を考慮し、残量に余裕を持って交換を計画しましょう。

圧力計で見る交換の目安

圧力計の状態残量の状態対応
緑色の範囲十分あり継続使用可能
黄色の範囲注意が必要交換を意識し始める
赤色の範囲残りわずか速やかに交換する

交換に必要な器具と準備

ボンベの交換作業を始める前に必要なものを手元に揃えておくとスムーズです。

主に必要なのは、新しいボンベと現在使用している圧力調整器を取り外すためのレンチ(スパナ)です。これらは通常、酸素供給業者から提供されます。

  • 新しい(満タンの)酸素ボンベ
  • レンチ(スパナ)
  • 清潔な乾いた布

慌てないための酸素ボンベ交換手順

ここからは、具体的な交換手順を解説します。一つひとつの動作を落ち着いて、確実に行うことが安全のポイントです。

手順1 古いボンベのバルブを閉める

まず、現在使用しているボンベのバルブを手で時計回りに「閉」の方向へしっかりと回して閉めます。

この時、圧力計の針が0を指すまで、チューブ(カニューラ)から残った酸素を完全に抜きます。この作業によって安全に圧力調整器を取り外せます。

手順2 圧力調整器を取り外す

バルブが閉まり、圧力が抜けたことを確認したら、レンチを使って圧力調整器の取り付けナットを反時計回りに回して緩め、取り外します。

ナットが固い場合でも、力任せに回さないように注意しましょう。

圧力調整器の取り外しポイント

項目確認点
バルブ完全に閉まっているか
圧力計針が0を指しているか
ナットの回転方向反時計回り(緩める方向)

手順3 新しいボンベに圧力調整器を取り付ける

新しいボンベのバルブ口のゴミやホコリを清潔な布で拭き取ります。

その後、取り外した圧力調整器を新しいボンベのバルブに接続し、手で時計回りにナットを回せるところまで締めます。

最後にレンチを使い、ナットが動かなくなるまでしっかりと増し締めします。

手順4 バルブを開けて接続を確認

圧力調整器が確実に取り付けられたら、新しいボンベのバルブを今度は反時計回りにゆっくりと「開」の方向へ回して開けます。

圧力計の針が上がり、満タンに近い圧力を示していることを確認します。この時、接続部から「シュー」という大きな音(ガス漏れの音)がしないか、耳で確認することも大切です。

ガス漏れ?交換時によくあるトラブルと対処法

どんなに注意していても、トラブルが起きる可能性はゼロではありません。よくある事例と、その対処法を知っておけば、いざという時も冷静に対応できます。

「シュー」という音がする時の原因と確認点

バルブを開けた時に接続部から「シュー」という音が続く場合、ガスが漏れている可能性があります。慌てずに一度バルブを閉め、ナットの締め付けが緩くないか確認してください。

再度締め直しても音が止まらない場合は、パッキン(部品間の気密を保つための部品)が劣化またはずれている可能性があります。

ガス漏れが疑われる場合のチェック項目

チェック箇所対処法
ナットの締め付けレンチで増し締めする
パッキンの状態ずれや損傷がないか確認する
接続部のゴミ清潔な布で拭き取る

圧力調整器がうまくはまらない

圧力調整器がバルブにうまくはまらない場合、無理にねじ込むのは絶対にやめてください。ネジ山が破損する原因になります。

一度取り外し、斜めになっていないか、ネジ山にゴミが付着していないかを確認し、再度まっすぐに差し込むように試みてください。

交換後に酸素が出てこない

ボンベを交換したのに酸素が出てこない場合、いくつかの原因が考えられます。

まずはボンベのバルブが完全に開いているか、流量設定ダイヤルが適切な位置にあるかを確認しましょう。

それでも解決しない場合は、圧力調整器の故障やチューブの折れ曲がりなども考えられます。

酸素が出ない時の確認リスト

  • ボンベのバルブは完全に開いているか
  • 流量設定は正しいか
  • チューブが折れたり、潰れたりしていないか

トラブルが解決しない場合の連絡先

自分で対処してもトラブルが解決しない場合は無理をせず、速やかに契約している酸素供給業者に連絡してください。24時間対応の緊急連絡先があるはずです。

電話で状況を正確に伝え、指示を仰ぎましょう。

安全第一!ボンベ交換時の重要注意点

酸素ボンベの取り扱いは常に安全を最優先に考える必要があります。交換作業を行う際は、以下の点に特に注意してください。

火気厳禁の徹底

酸素は、それ自体は燃えませんが、物を激しく燃やす性質(支燃性)を持っています。

ボンベの交換作業を行う場所の周囲2メートル以内にはタバコ、ライター、ストーブ、ガスコンロ、仏壇のろうそくなど、いかなる火気も絶対に置かないでください。

火気とみなされるものの例

屋内屋外
ストーブ、ファンヒータータバコ、ライター
ガスコンロ、調理器具バーベキューコンロ
ろうそく、線香焚き火

手指の清潔と油分の付着防止

ハンドクリームや機械油など油分が付着した手でボンベのバルブや器具に触れると、発火の原因となることがあり非常に危険です。

交換作業の前には必ず手を洗い、油分を落としてから行ってください。

ボンベの安定した設置と転倒防止

酸素ボンベは重量があるため、転倒すると非常に危険です。必ず専用のボンベスタンドに立てるか、壁に固定するなど、安定した状態で作業を行ってください。

交換中にボンベが倒れないよう、足元にも注意しましょう。

交換済みボンベの正しい保管と返却方法

使い終わった空のボンベも適切に管理することが大切です。次の交換や業者による回収まで安全に保管しましょう。

空ボンベの保管場所

空になったボンベは新しいボンベと同様に、火気のない風通しの良い、安定した場所に保管します。

満タンのボンベと区別がつくように、「空」と書いた札を付けておくと分かりやすいです。このひと手間により、誤って空のボンベを再度使用するのを防ぎます。

保管場所の条件

条件理由
火気のない場所引火・発火の危険を避けるため
風通しの良い場所万一のガス滞留を防ぐため
安定した場所転倒による事故を防ぐため

バルブの保護キャップを忘れずに

空ボンベには配送時に付いていた保護キャップを必ず取り付けてください。

このキャップは万が一ボンベが転倒した際に、バルブ部分が損傷するのを防ぐ重要な役割を果たします。

酸素供給業者への返却ルール

空ボンベは酸素供給業者が新しいボンベを配送に来た際に回収するのが一般的です。

回収日や方法については、業者との契約内容を確認しておきましょう。勝手に廃棄することは法律で禁じられています。

交換作業に不安がある場合の相談先

ボンベの交換は慣れが必要な作業です。もし一人での作業に不安を感じる場合は、ためらわずに専門家に相談しましょう。

酸素供給業者のサポート体制

酸素供給業者は機器の専門家です。交換手順が分からなくなった時やトラブルが発生した時には、最も頼りになる相談先です。

多くの業者では導入時に交換方法の詳しい説明を行ったり、分かりやすいマニュアルを提供したりしています。

かかりつけ医や訪問看護師への相談

体調の変化によって交換作業が難しくなった場合などは、かかりつけの医師や定期的に訪問してくれる訪問看護師に相談するのも良い方法です。

療養生活全体をサポートする視点から、適切なアドバイスや手助けをしてくれます。

主な相談先の役割

相談先主な役割
酸素供給業者機器の操作・トラブル対応
かかりつけ医治療方針・体調管理の相談
訪問看護師日常の療養生活のサポート

家族の協力と理解を得るために

ご家族に交換手順を覚えてもらい、協力してもらうことも大きな安心につながります。

業者から説明を受ける際に同席してもらったり、マニュアルを共有したりして、万一の場合に備えておくと心強いです。

在宅酸素ボンベ交換に関するよくある質問

最後に、ボンベの交換に関してよく寄せられる質問とその答えをまとめました。日々の疑問解消にお役立てください。

Q
交換の頻度はどれくらいですか?
A

交換の頻度は処方されている酸素の流量や、一日の吸入時間によって大きく異なります。数日に1回の方もいれば、1週間以上持つ方もいます。

ご自身の圧力計の減り具合を日々確認し、生活パターンに合わせた交換サイクルを把握することが大切です。

Q
交換作業は自分で行う必要がありますか?
A

基本的には患者さんご本人やご家族が交換作業を行います。

ただし、高齢や体力的な問題で作業が困難な場合は、酸素供給業者や訪問看護師がサポートしてくれることもあります。

不安な場合は、まずはかかりつけ医やケアマネージャーに相談してみてください。

Q
重いボンベを運ぶのが大変です。何か良い方法はありますか?
A

酸素ボンベは確かに重く、移動が負担になることがあります。専用のボンベカート(キャリー)を使用すると、室内での移動が格段に楽になります。

酸素供給業者に相談すれば、レンタルできる場合が多いです。

ボンベ運搬の負担軽減策

  • 専用カート(キャリー)の利用
  • 家族やヘルパーの協力を得る
  • 業者に設置場所を工夫してもらう
Q
夜中にボンベが空になったらどうすればいいですか?
A

このような事態を避けるため、就寝前には必ずボンベの残量を確認し、少なければ交換しておく習慣をつけましょう。

万が一、夜中に空になってしまった場合は、落ち着いて予備のボンベに交換してください。

予備がない、または交換が難しい場合は、契約している酸素供給業者の緊急連絡先に電話して指示を仰ぎましょう。

以上

参考にした論文

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