食事中や会話中に突然むせたり、喉に痰が絡んで不快な思いをしたりすることは誰にでも起こり得ます。
しかし、これらの症状が頻繁に起こる、あるいは日常生活に支障をきたすほど気になる場合、その原因を理解し、適切な対策を講じることが大切です。
この記事では、むせや痰絡みがなぜ起こるのか、どのような原因が考えられるのか、そして日常生活でできる工夫や医療機関を受診する目安について、分かりやすく解説します。
むせ・痰絡みとはどのような症状か
むせや痰絡みは、多くの方が一度は経験する症状ですが、その背景には様々な体の反応が関わっています。これらの症状が何を意味するのか、基本的なところから理解を深めましょう。
むせるという現象
むせるという現象は、医学的には「誤嚥(ごえん)」またはそれに近い状態の時に起こる体の防御反応です。
食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入りそうになったり、入ってしまったりした際に、それらを外に排出しようとして激しく咳き込むのが「むせ」です。
気管は肺へとつながる空気の通り道であり、異物が入ると呼吸困難や肺炎を引き起こす可能性があるため、体はそれを防ごうとします。
通常、飲食物を飲み込む際には、喉頭蓋(こうとうがい)という蓋が気管の入り口を塞ぎ、食道へとスムーズに送り込まれます。しかし、この連携がうまくいかないと、異物が気管に入り込み、むせが生じます。
痰が絡むという状態
痰が絡むという状態は、気道(鼻からのど、気管、気管支など空気の通り道)に過剰な分泌物が溜まっていることを示します。
痰は、気道の粘膜から分泌される粘液や、外部から侵入した細菌、ウイルス、ホコリなどの異物、そしてそれらと戦った白血球の残骸などが混ざり合ったものです。
適度な粘液は気道を潤し、保護する役割がありますが、何らかの原因でその量が増えたり、粘り気が強くなったりすると、のどに絡みつくような不快感や、咳をして排出しようとする症状が現れます。
痰の色や性状は、その原因を探る上で手がかりになることがあります。例えば、透明または白色の痰は、気道の乾燥や軽い刺激、アレルギーなどが原因であることが多いです。
一方、黄色や緑色の痰は、細菌感染を示唆することがあります。
症状が示す体のサイン
むせや痰絡みは、単なる不快な症状というだけでなく、体が発している何らかのサインであると捉えることが重要です。例えば、頻繁なむせは嚥下機能の低下を示している可能性があります。
また、持続する痰絡みは、気道に炎症や感染が起きている可能性を示唆します。
これらの症状が一時的なものであれば大きな心配はいらないことが多いですが、長引く場合や、他の症状(発熱、体重減少、呼吸困難など)を伴う場合は、背景に何らかの病気が隠れている可能性も考えられます。
そのため、症状の変化に注意を払い、必要に応じて医療機関に相談することが大切です。症状の性質や頻度、持続期間などを正確に把握することが、原因究明と適切な対応への第一歩となります。
むせ・痰絡みが起こる主な原因
むせや痰絡みは、様々な要因によって引き起こされます。加齢によるものから、特定の病気、生活習慣に至るまで、その原因は多岐にわたります。
ここでは、代表的な原因をいくつか紹介します。
加齢による影響
年齢を重ねるとともに、体の様々な機能が変化します。飲み込む力(嚥下機能)や咳をする力も例外ではありません。
喉の筋肉が衰えたり、唾液の分泌量が減少したりすることで、食べ物や飲み物が気管に入りやすくなり、むせやすくなることがあります。
また、気道の粘膜の働きが弱まり、痰を排出しにくくなることも、痰絡みの一因となります。
高齢者の場合、むせは誤嚥性肺炎のリスクを高めるため、特に注意が必要です。誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液が気管に入り、それに含まれる細菌が肺で炎症を起こす病気です。
嚥下機能の低下に関連する要因
加齢以外にも、嚥下機能の低下は様々な要因で起こりえます。例えば、脳卒中やパーキンソン病などの神経疾患、頭頸部の手術後、あるいは薬の副作用などが挙げられます。
これらの状態では、飲み込みに関わる神経や筋肉の連携がうまくいかなくなり、食べ物や飲み物がスムーズに食道へ送られず、気管に入りやすくなります。
原因のカテゴリ | 具体的な要因例 | むせ・痰絡みへの影響 |
---|---|---|
加齢 | 喉の筋力低下、唾液分泌減少 | 嚥下反射の遅れ、気道クリアランス低下 |
神経疾患 | 脳卒中後遺症、パーキンソン病 | 嚥下運動の麻痺・協調不全 |
呼吸器疾患 | COPD、気管支喘息 | 気道過敏性亢進、気道分泌物増加 |
病気や体調不良
特定の病気や体調不良も、むせや痰絡みを引き起こす原因となります。例えば、風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症では、気道に炎症が起こり、痰の量が増えたり、咳が出やすくなったりします。
また、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性的な呼吸器疾患も、持続的な痰絡みや咳、むせの原因となることがあります。
逆流性食道炎も、むせや痰絡みと関連することがあります。胃酸が食道に逆流し、さらに喉まで上がってくると、その刺激で咳が出たり、喉に炎症が起きて痰が増えたりします。
特に、就寝中や食後に症状が悪化する傾向があります。
生活習慣や環境
喫煙は、気道を刺激し、慢性的な炎症を引き起こすため、痰の分泌を増やし、咳や痰絡みの大きな原因となります。
また、空気の乾燥も喉の粘膜を乾燥させ、刺激に対して過敏にすることで、むせや痰絡みを誘発することがあります。特に冬場やエアコンの効いた室内では、湿度管理に注意が必要です。
ストレスや疲労も、自律神経のバランスを乱し、唾液の分泌量や質に影響を与えたり、免疫力を低下させたりすることで、間接的にむせや痰絡みに関与することがあります。
十分な休息とリラックスを心がけることも大切です。
影響を与える可能性のある生活習慣
- 喫煙
- 過度の飲酒
- 刺激物の多い食事
- 水分摂取不足
日常生活でできるむせ・痰絡みの予防と対策
むせや痰絡みは、日常生活のちょっとした工夫で予防したり、症状を和らげたりすることが期待できます。ここでは、ご自身で取り組める対策をいくつか紹介します。
適切な水分補給
水分が不足すると、唾液の分泌量が減少し、口腔内や喉が乾燥しやすくなります。また、痰の粘り気が増して排出しにくくなるため、痰絡みの原因にもなります。
こまめに水分を摂ることで、喉を潤し、痰を柔らかくして出しやすくする効果が期待できます。一度にたくさん飲むのではなく、少量ずつ頻繁に飲むのがポイントです。
白湯や麦茶など、刺激の少ない飲み物がおすすめです。
水分補給のポイント
タイミング | 飲み物の種類 | 注意点 |
---|---|---|
起床時、食事中、入浴前後、就寝前など | 水、白湯、麦茶、経口補水液(必要な場合) | カフェインやアルコールは利尿作用があるため、水分補給としては適さない場合がある |
のどが渇いたと感じる前 | 常温または温かいもの | 冷たすぎる飲み物は胃腸に負担をかけることがある |
口腔ケアの重要性
口の中を清潔に保つことは、むせや痰絡みの予防、特に誤嚥性肺炎の予防において非常に重要です。口腔内の細菌が唾液や食べ物と一緒に気管に入り込むと、肺炎を引き起こすリスクが高まります。
毎食後の歯磨きやうがいを丁寧に行い、細菌の繁殖を抑えましょう。入れ歯を使用している場合は、入れ歯の清掃も念入りに行うことが大切です。
舌の表面に付着した舌苔(ぜったい)も、細菌の温床となりやすいため、舌ブラシなどで優しく清掃することも効果的です。
また、定期的に歯科医院で専門的な口腔ケアを受けることも、健康な口腔環境を維持するために役立ちます。
環境調整と生活習慣の見直し
室内の乾燥は喉の粘膜を刺激し、むせや痰絡みを悪化させる可能性があります。加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、適切な湿度(一般的に50~60%程度が目安)を保つように心がけましょう。
特に、空気が乾燥しやすい冬場や、エアコンを使用する際には注意が必要です。
喫煙は気道に悪影響を及ぼし、痰の分泌を増やしたり、咳を引き起こしたりする最大の原因の一つです。禁煙は、むせや痰絡みの改善だけでなく、全身の健康にとっても非常に重要です。
また、十分な睡眠とバランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、免疫力を高めることも、感染症予防の観点から大切です。
生活習慣の見直しポイント
- 禁煙する
- 室内の湿度を適切に保つ
- 十分な睡眠時間を確保する
嚥下体操や呼吸訓練
飲み込む力を維持・向上させるための嚥下体操や、痰を排出しやすくするための呼吸訓練も有効な対策です。嚥下体操には、首や肩のストレッチ、口や舌の運動、発声練習などがあります。
これらの運動は、飲み込みに関わる筋肉を鍛え、スムーズな嚥下を助けます。インターネットや書籍などで紹介されている簡単な体操から始めてみるとよいでしょう。
呼吸訓練としては、深呼吸や腹式呼吸、ハッフィング(「ハッ、ハッ」と強く息を吐き出す方法)などがあります。これらは、肺の奥に溜まった痰を移動させ、排出しやすくする効果が期待できます。
ただし、自己流で行うと効果がなかったり、かえって体に負担をかけたりすることもあるため、可能であれば医療機関で専門家の指導を受けることをおすすめします。
食事の際に気をつけること
食事は毎日のことであり、むせやすい方にとっては特に注意が必要な場面です。食べ物の選び方や食べ方、食事環境を工夫することで、安全に美味しく食事を楽しむことができます。
食べやすい食品の選択と調理法
むせやすい場合は、食べ物の形態や硬さ、まとまりやすさが重要になります。パサパサしたものや、サラサラした液体、硬いものは誤嚥しやすい傾向があります。
適度なとろみがあり、まとまりやすい食品を選ぶとよいでしょう。例えば、おかゆ、ヨーグルト、ゼリー、細かく刻んでとろみをつけた料理などが挙げられます。
調理法も工夫しましょう。食材を柔らかく煮込んだり、ミキサーにかけたり、とろみ剤を活用したりすることで、飲み込みやすくなります。
また、一度に口に入れる量を少なくし、ゆっくりとよく噛んで食べることも大切です。
飲み込みやすい食品・調理の工夫例
食品の形態 | 具体例 | ポイント |
---|---|---|
ペースト状・ゼリー状 | プリン、ムース、果物のコンポート(ゼリー寄せ) | まとまりやすく、喉ごしが良い |
細かく刻んだもの | 刻み食、ソフト食 | 咀嚼の負担を軽減するが、誤嚥のリスクもあるため注意 |
とろみをつけたもの | 汁物や飲み物にとろみ剤を使用 | 液体の流れを遅くし、気管への流入を防ぐ |
正しい食事姿勢と食べ方
食事中の姿勢も、むせを防ぐためには非常に重要です。椅子に深く腰掛け、足を床につけ、少し前かがみの姿勢をとると、食べ物が気管に入りにくくなります。
ベッド上で食事をする場合は、上半身をできるだけ90度近くまで起こし、顎を軽く引くようにしましょう。顎が上がっていると、気管が開きやすくなり、誤嚥のリスクが高まります。
食べる際には、一口の量を少なくし、ゆっくりとよく噛んでから飲み込むように心がけます。急いで食べたり、話しながら食べたりすると、誤嚥しやすくなるため避けましょう。
食事に集中できる静かな環境を整えることも大切です。
食事環境の整備
落ち着いて食事に集中できる環境を整えることも、むせの予防につながります。テレビを消したり、会話を控えたりするなど、食事に意識を向けられるようにしましょう。
また、食器や食具も、本人が使いやすいものを選ぶことが大切です。例えば、持ちやすいスプーンや、滑りにくいお皿など、食事動作をサポートする工夫も有効です。
食事介助が必要な場合は、介助者も正しい知識を持つことが重要です。無理強いしたり、急かしたりせず、本人のペースに合わせて介助するように心がけましょう。
一口ずつ確実に飲み込んだことを確認してから、次の食事を促すようにします。
誤嚥を防ぐ食事環境のポイント
- 静かで落ち着いた環境
- 適切な食器・食具の使用
- 時間に余裕を持った食事
医療機関を受診する目安
むせや痰絡みは日常的によくある症状ですが、中には医療機関での検査や治療が必要な場合もあります。どのような場合に受診を考えればよいのか、その目安について説明します。
症状が続く・悪化する場合
一時的なむせや痰絡みであれば、様子を見てもよいことが多いですが、症状が数週間以上続く場合や、徐々に悪化している場合は、医療機関を受診することを検討しましょう。
特に、以前は問題なく食べられていたものでむせるようになった、痰の量が増えてきた、痰の色が濃くなってきたなどの変化が見られる場合は注意が必要です。
症状の頻度や強さ、持続期間などを記録しておくと、医師に説明する際に役立ちます。いつから症状があるのか、どのような時に症状が出やすいのか、他に気になる症状はないかなどを整理しておきましょう。
他の症状を伴う場合
むせや痰絡みに加えて、以下のような症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。
- 発熱
- 呼吸困難・息切れ
- 胸の痛み
- 体重減少
- 声のかすれ(嗄声)
- 食事量の低下
これらの症状は、肺炎やその他の呼吸器疾患、消化器疾患、あるいは神経系の病気など、何らかの基礎疾患が隠れているサインである可能性があります。自己判断せずに、専門医の診察を受けることが大切です。
特に高齢者の場合、誤嚥性肺炎は重症化しやすいため、早期発見・早期治療が重要です。
受診を検討すべき症状の組み合わせ例
むせ・痰絡み | 考えられる可能性 | 受診科の目安 |
---|---|---|
発熱、黄色・緑色の痰 | 気管支炎、肺炎 | 内科、呼吸器内科 |
食事中の頻繁なむせ、体重減少 | 嚥下障害 | 耳鼻咽喉科、老年内科、リハビリテーション科 |
胸やけ、酸っぱいものが上がってくる感じ | 逆流性食道炎 | 消化器内科、内科 |
何科を受診すればよいか
むせや痰絡みの原因は多岐にわたるため、どの診療科を受診すればよいか迷うことがあるかもしれません。まずは、かかりつけの内科医に相談するのが一般的です。
かかりつけ医は、全身の状態を把握した上で、必要に応じて専門の診療科を紹介してくれます。
症状によっては、最初から専門医を受診することも考えられます。
例えば、飲み込みの問題が主である場合は耳鼻咽喉科やリハビリテーション科、呼吸器系の症状が強い場合は呼吸器内科、逆流症状がある場合は消化器内科などが専門となります。
どの科を受診すべきか判断に迷う場合は、まずはお近くの内科クリニックに相談してみるのが良いでしょう。
医療機関で行われる検査
医療機関では、むせや痰絡みの原因を特定するために、様々な検査を行います。問診や身体診察に加えて、必要に応じて以下のような検査が実施されます。
問診と身体診察
まず、医師が症状について詳しく尋ねます(問診)。いつから症状があるのか、どのような時に症状が出るのか、痰の色や性状、他の症状の有無、既往歴、服用中の薬、生活習慣などについて詳しく確認します。
これらの情報は、原因を推測する上で非常に重要です。
次に、身体診察を行います。喉の状態を観察したり、胸の音を聴診器で聴いたり、呼吸の状態を確認したりします。これにより、炎症の有無や気道の状態、心臓や肺の異常などを大まかに把握することができます。
嚥下機能検査
飲み込みの機能(嚥下機能)に問題が疑われる場合には、嚥下機能検査を行います。代表的な検査には以下のようなものがあります。
- 反復唾液嚥下テスト(RSST): 30秒間に何回唾液を飲み込めるかを測定する簡単な検査です。3回未満の場合は嚥下障害が疑われます。
- 水飲みテスト(MWST): 少量の冷水を飲んでもらい、むせや呼吸の変化、声の変化などを観察します。
- 嚥下造影検査(VF): バリウムなどの造影剤を含んだ模擬食品を飲み込んでもらい、その様子をX線動画で撮影します。食べ物がどのように喉を通り、食道へ送られるか、気管への流入がないかなどを詳細に評価できます。
- 嚥下内視鏡検査(VE): 鼻から細い内視鏡を挿入し、喉の奥の状態や、食べ物を飲み込む際の喉頭蓋や声帯の動きを直接観察します。着色した水やゼリーなどを用いて、誤嚥の有無も確認できます。
主な嚥下機能検査とその特徴
検査名 | 検査内容 | わかること |
---|---|---|
反復唾液嚥下テスト(RSST) | 30秒間の唾液嚥下回数を測定 | 嚥下反射の簡易評価 |
水飲みテスト(MWST) | 少量の水を飲んだ際のむせや呼吸状態を観察 | 明らかな誤嚥の有無、嚥下能力のスクリーニング |
嚥下造影検査(VF) | 造影剤入りの模擬食品を嚥下しX線動画撮影 | 嚥下運動の詳細な評価、誤嚥の有無と程度 |
嚥下内視鏡検査(VE) | 内視鏡で喉を観察しながら嚥下状態を評価 | 喉頭の状態、声帯の動き、誤嚥の直接確認 |
画像検査やその他の検査
肺炎やその他の呼吸器疾患が疑われる場合には、胸部X線検査や胸部CT検査などの画像検査を行います。これにより、肺に炎症があるか、気管支に異常がないかなどを確認できます。
また、血液検査を行い、炎症反応やアレルギーの有無、栄養状態などを調べることもあります。
痰が多い場合は、喀痰検査を行うこともあります。痰を採取して顕微鏡で観察したり、培養したりすることで、細菌やウイルスの種類を特定し、適切な抗菌薬の選択に役立てます。
逆流性食道炎が疑われる場合は、胃内視鏡検査(胃カメラ)を行うこともあります。
医療機関で行われる一般的な治療法
むせや痰絡みの治療は、その原因によって異なります。医療機関では、原因に応じた適切な治療法を選択し、症状の改善を目指します。
原因疾患の治療
むせや痰絡みが特定の病気によって引き起こされている場合は、まずその原因となっている病気の治療を行います。例えば、感染症が原因であれば抗菌薬や抗ウイルス薬を使用します。
逆流性食道炎であれば、胃酸の分泌を抑える薬や消化管の運動を改善する薬を使用します。
気管支喘息やCOPDなどの呼吸器疾患が原因であれば、気管支拡張薬や吸入ステロイド薬などを用いて気道の炎症を抑え、気道を広げる治療を行います。
原因疾患を適切に治療することで、結果としてむせや痰絡みの症状が改善することが期待できます。
原因疾患と治療アプローチの例
原因疾患 | 主な治療法 | 期待される効果 |
---|---|---|
細菌性肺炎・気管支炎 | 抗菌薬投与 | 原因菌の除去、炎症の鎮静化 |
逆流性食道炎 | プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカー | 胃酸分泌抑制、食道粘膜保護 |
気管支喘息 | 吸入ステロイド、気管支拡張薬 | 気道炎症の抑制、気道狭窄の改善 |
薬物療法
原因疾患の治療と並行して、あるいは症状を和らげる目的で、薬物療法が行われることがあります。
痰が絡んで出しにくい場合には、去痰薬(痰を柔らかくしたり、気道粘膜の滑りを良くして痰を排出しやすくする薬)が処方されることがあります。
咳がひどい場合には、咳止め(鎮咳薬)が使われることもありますが、痰を伴う咳の場合、無理に咳を止めると痰が気道に溜まってしまう可能性があるため、医師の判断のもと慎重に使用します。
アレルギーが関与している場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が有効なことがあります。
また、嚥下機能の低下に対して、一部の薬剤が嚥下反射を改善する効果が期待されて研究されていますが、その効果は限定的です。
リハビリテーション
嚥下機能の低下がむせの主な原因である場合には、リハビリテーションが重要な治療法となります。
言語聴覚士などの専門家の指導のもと、嚥下訓練を行います。嚥下訓練には、飲み込みに関わる筋肉を鍛える間接訓練(食べ物を使わない訓練)と、実際に食べ物を使って安全な飲み込み方を練習する直接訓練があります。
間接訓練には、口唇や舌、頬の運動、喉のアイスマッサージ、発声訓練などがあります。直接訓練では、食べ物の形態や一口量、食べる姿勢などを調整しながら、安全に飲み込む技術を習得します。
また、呼吸訓練や咳の練習も、痰を排出しやすくしたり、誤嚥時の対応力を高めたりするために行われます。
リハビリテーションの主な内容
訓練の種類 | 具体的な内容例 | 目的 |
---|---|---|
間接訓練(嚥下体操) | 口唇・舌・頬の運動、頸部可動域訓練、発声訓練 | 嚥下関連筋の強化、協調性の改善 |
直接訓練 | 段階的嚥下訓練(ゼリーから開始など)、食事姿勢指導 | 安全な嚥下方法の習得 |
呼吸訓練 | 腹式呼吸、ハッフィング、咳の練習 | 喀痰排出能力の向上、誤嚥時の対応 |
生活指導と環境調整
薬物療法やリハビリテーションと並行して、日常生活における注意点や工夫についてのアドバイス(生活指導)が行われます。
食事の形態や食べ方、水分補給の重要性、口腔ケアの方法、禁煙の推奨、室内の加湿など、これまで述べてきたような内容が中心となります。
また、必要に応じて、福祉用具(例えば、とろみ剤、嚥下しやすい食器、加湿器など)の導入や、住宅改修(例えば、手すりの設置など、安全な食事環境を整えるためのもの)に関する情報提供や支援が行われることもあります。
患者さん本人だけでなく、家族や介護者への指導も重要です。
むせ・痰絡みに関するよくある質問
ここでは、むせや痰絡みに関して多くの方が疑問に思うことや、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Qむせやすいのは年のせいだから仕方ない?
- A
加齢とともに飲み込む機能が低下し、むせやすくなることは確かにあります。しかし、「年のせい」と諦めてしまう必要はありません。
適切な口腔ケア、嚥下体操、食事の工夫などを行うことで、症状を軽減したり、誤嚥性肺炎などのリスクを減らしたりすることが期待できます。
また、むせの原因が加齢だけでなく、他の病気が隠れている可能性もあるため、気になる場合は一度医療機関に相談することをおすすめします。
専門家のアドバイスを受けることで、より効果的な対策が見つかることもあります。
- Q痰の色で何かわかるの?
- A
痰の色や性状は、気道の状態を知るための一つの手がかりになります。
痰の色と状態の目安
痰の色・性状 考えられる状態(一例) 透明・白色、サラサラ 気道の乾燥、軽い刺激、アレルギー初期、ウイルス感染初期 黄色・緑色、粘り気が強い 細菌感染(気管支炎、肺炎など) 赤色・ピンク色、泡状 肺水腫(心不全など)、肺からの出血(早急な受診が必要) 錆色(さびいろ) 古い血液の混入(肺炎球菌性肺炎など) ただし、痰の色だけで自己判断するのは危険です。特に血痰や色の濃い痰が続く場合は、早めに医療機関を受診してください。
医師は痰の状態だけでなく、他の症状や検査結果と合わせて総合的に診断します。
- Q市販の咳止めや去痰薬を使ってもいい?
- A
症状が軽い場合や一時的な場合は、市販薬で様子を見ることも一つの方法です。しかし、市販薬を使用する際にはいくつかの注意点があります。
まず、咳は異物を排出しようとする体の防御反応でもあるため、痰が絡む咳を無理に咳止めで抑えると、痰が気道に溜まって症状を悪化させる可能性があります。
去痰薬は痰を出しやすくする効果がありますが、原因そのものを治療するわけではありません。
症状が長引く場合や、発熱など他の症状がある場合、あるいはどの薬を選べばよいか分からない場合は、自己判断せずに薬剤師や医師に相談することが大切です。
特に、持病がある方や他に薬を服用している方は、薬の飲み合わせにも注意が必要です。
- Qむせや痰絡みは予防できるの?
- A
すべてのむせや痰絡みを完全に予防することは難しいかもしれませんが、日常生活での工夫によってリスクを減らすことは可能です。
具体的には、こまめな水分補給、バランスの取れた食事、十分な睡眠、禁煙、口腔ケアの徹底、室内の加湿などが挙げられます。
また、飲み込む力を維持するための嚥下体操や、ゆっくりよく噛んで食べる習慣も予防に役立ちます。
特に高齢者や嚥下機能が低下している方は、食事の形態を工夫したり、食事中の姿勢に気をつけたりすることが重要です。
日頃からこれらの点に注意することで、むせや痰絡みの頻度を減らし、誤嚥性肺炎などの合併症を防ぐことにつながります。
以上