呼吸をするときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった音が聞こえることはありませんか。

このような音は「喘鳴(ぜんめい)」と呼ばれ、気道が狭くなっているサインかもしれません。特に喘息との関連が深い症状ですが、他の病気が原因である可能性も考えられます。

この記事では呼吸時のヒューヒュー音(喘鳴)がなぜ起こるのか、考えられる原因疾患、ご自身でできる対策、そして医療機関を受診するタイミングについて呼吸器内科の視点から詳しく解説します。

呼吸時のヒューヒュー音(喘鳴)とは?

まず、ヒューヒューという呼吸音がどのような状態を指すのか、基本的な知識を押さえておきましょう。

喘鳴の定義と特徴的な音

喘鳴とは呼吸時に聞こえる異常な呼吸音の一つで、笛のような高い音(ヒューヒュー、ピーピー)や、いびきに似た低い音(ゼーゼー、ゴロゴロ)として表現されます。

主に息を吐くとき(呼気時)に聞こえやすいですが、重症化すると息を吸うとき(吸気時)にも聞こえることがあります。

この音は空気の通り道である気道が狭くなっていることを示唆しています。

なぜヒューヒューという音が鳴るのか

気道が狭くなるとそこを空気が通過する際に乱流が生じ、音が発生します。これは笛や管楽器が音を出す原理と似ています。

気道が狭くなる原因としては気道の炎症による腫れ、気道平滑筋の収縮、痰などの分泌物の貯留、あるいは異物による閉塞などが考えられます。

喘鳴が発生する主な理由

要因気道の状態代表的な疾患例
炎症・腫脹気道粘膜が腫れて内腔が狭くなる気管支炎、喘息
気道収縮気管支平滑筋が収縮して気道が細くなる喘息
分泌物貯留痰などが気道に詰まり狭くなる気管支炎、肺炎

喘鳴が聞こえるタイミング

喘鳴は息を吐くとき(呼気時)に聞こえることが多い「呼気性喘鳴」と、息を吸うとき(吸気時)に聞こえる「吸気性喘鳴」があります。

呼気性喘鳴は主に気管支など肺に近い下気道が狭くなっている場合に多くみられます。

一方、吸気性喘鳴は喉頭や気管など、より中枢側の上気道が狭くなっている場合に特徴的です。両方で聞こえることもあります。

ヒューヒュー音の主な原因疾患(喘息以外)

ヒューヒューという呼吸音は喘息の代表的な症状ですが、喘息以外にも様々な病気が原因で起こりえます。

気管支炎(急性・慢性)

ウイルスや細菌の感染によって気管支に炎症が起こる病気です。

急性の場合は咳や痰、発熱とともに喘鳴が出現することがあります。特に小児では気道が細いため、わずかな炎症でも喘鳴を生じやすい傾向があります。

慢性気管支炎は主に喫煙などが原因で気管支の炎症が長く続く状態で、咳や痰、喘鳴が持続します。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

長年の喫煙などが原因で肺に慢性的な炎症が生じ、気道が狭くなったり肺胞が破壊されたりする病気です。

進行すると労作時の息切れや慢性的な咳、痰に加えて、喘鳴が聞かれることがあります。喘息と合併することもあります(喘息COPDオーバーラップ:ACO)。

アレルギー反応(アナフィラキシーを含む)

特定の物質(食べ物、薬剤、ハウスダスト、花粉など)に対するアレルギー反応として、気道粘膜が腫れて気道が狭くなり、喘鳴が出現することがあります。

重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーでは急激な呼吸困難や血圧低下とともに、著しい喘鳴を伴うことがあり、命に関わるため迅速な対応が必要です。

アレルギー反応による喘鳴の特徴

  • 特定のアレルゲン曝露後に発症
  • 皮膚症状(じんましん、発赤)を伴うことがある
  • 鼻炎症状(くしゃみ、鼻水)を伴うことがある

気道異物

特に小児や高齢者で、食べ物やおもちゃの部品などを誤って気道に吸い込んでしまうことがあります。異物が気道を部分的に塞ぐと喘鳴や激しい咳、呼吸困難が生じます。

突然発症することが多く、窒息の危険もあるため緊急の処置が必要です。

気道異物を疑うサイン

サイン状況
突然の激しい咳き込み食事中や遊んでいる最中など
チアノーゼ(顔面蒼白)酸素不足の兆候
片側性の喘鳴異物が片方の気管支に詰まった場合

喘息とヒューヒュー音の深い関係

ヒューヒューという呼吸音は気管支喘息の最も代表的な症状の一つです。喘息と喘鳴の関連について詳しく見ていきましょう。

喘息発作時の気道の状態

気管支喘息の患者さんの気道は慢性的な炎症により過敏になっています。

アレルゲン(ダニ、ハウスダスト、ペットのフケなど)、ウイルス感染、タバコの煙、運動、ストレスなどの刺激が加わると、気道を取り巻く平滑筋が収縮し、粘膜が腫れ、痰の分泌が増加します。

これらの変化が複合的に作用して気道が急激に狭くなることで喘息発作が起こり、喘鳴や咳、呼吸困難が生じます。

喘息における喘鳴の特徴

喘息による喘鳴は主に息を吐くときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」と聞こえます。夜間や早朝に症状が悪化しやすい傾向があります。

季節の変わり目や特定の環境(ホコリっぽい場所など)で症状が出やすい人もいます。

喘鳴の程度は発作の重症度によって異なり、軽い場合は聴診器でようやく聞こえる程度ですが、重い発作では周囲の人にも聞こえるほど大きくなることがあります。

咳喘息との違い

咳喘息は喘鳴や呼吸困難を伴わず、慢性的な空咳だけが続くタイプの喘息です。気道の炎症や過敏性は喘息と共通していますが、気道の狭窄の程度が軽いため典型的な喘鳴は通常聞かれません。

ただし、咳喘息から本格的な気管支喘息に移行することもあるため注意が必要です。

小児喘息と成人喘息の喘鳴

小児は成人に比べて気道が細く未熟なため、わずかな気道の変化でも喘鳴を生じやすい特徴があります。風邪をひいたときにゼーゼーしやすい「乳幼児喘息」もその一つです。

成人喘息は小児期からの持ち上がりのほか、成人になってから初めて発症するケースもあります。アレルギーが関与する場合と、そうでない場合があります。

小児と成人の喘息における喘鳴のポイント

項目小児喘息成人喘息
気道の太さ細い比較的太い
喘鳴の起こりやすさ軽微な刺激でも生じやすいある程度の気道狭窄で生じる
主な誘因ウイルス感染、アレルゲンアレルゲン、ストレス、薬剤など多様

ヒューヒュー音がするときの検査と診断

ヒューヒューという呼吸音が続く場合、その原因を特定するための検査が必要です。

問診と聴診の重要性

医師はまず、症状(いつから音がするか、どんな時に悪化するか、他の症状はあるかなど)、既往歴(特にアレルギー歴や喘息の既往)、家族歴、生活環境、喫煙歴などを詳しく伺います。

その後、聴診器を使って胸の音を注意深く聞き、喘鳴の有無、種類、強さ、聞こえる部位などを確認します。

これらの情報は診断の重要な手がかりとなります。

呼吸機能検査(スパイロメトリー)

息を吸ったり吐いたりする能力を測定する検査で、気道の狭さの程度を客観的に評価できます。特に1秒量(FEV1)や1秒率(FEV1/FVC)は、気道閉塞の指標となります。

この呼吸機能検査は喘息の診断や重症度評価、治療効果の判定に有用です。

気管支拡張薬を吸入した後に再度検査を行い、気道の可逆性(薬によって気道が広がるか)を見ることもあります。

画像検査(胸部X線、CT)

胸部X線検査は肺炎や気管支炎、心不全、気胸など喘鳴の原因となりうる他の疾患を除外したり、合併症の有無を確認したりするために行います。

必要に応じて、より詳細な情報を得るために胸部CT検査を行うこともあります。CT検査は気管支拡張症や間質性肺炎などの診断にも役立ちます。

アレルギー検査やその他の検査

喘息やアレルギー性鼻炎などが疑われる場合には血液検査や皮膚テストでアレルギーの原因物質(アレルゲン)を特定する検査を行うことがあります。

また、喀痰検査で痰の中の細胞を調べること(好酸球の確認など)も喘息の診断や病態把握に役立つ場合があります。

必要に応じて気道過敏性試験(気道を刺激する薬剤を吸入し、気道がどれだけ収縮しやすいかを調べる検査)を行うこともあります。

喘鳴の診断に用いられる主な検査

検査名主な目的対象疾患の例
聴診喘鳴の有無、性状の確認喘息、気管支炎など
呼吸機能検査気道狭窄の程度の評価喘息、COPD
胸部X線検査他の肺疾患や心疾患の除外肺炎、心不全
アレルギー検査アレルゲンの特定アレルギー性喘息

ヒューヒュー音への対処法と日常生活での注意点

ヒューヒューという呼吸音がする場合、原因に応じた治療とともに日常生活での注意も大切です。

医療機関での治療(薬物療法など)

喘鳴の原因疾患に応じて適切な治療を行います。気管支喘息の場合は気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬や、気管支を広げる気管支拡張薬などが中心となります。

細菌感染による気管支炎であれば抗菌薬を使用することもあります。医師の指示に従い、正しく薬物療法を継続することが重要です。

発作時のセルフケア

喘息発作などで急にヒューヒューという音が強くなり息苦しくなった場合はまず安静にし、楽な姿勢(座って少し前かがみになるなど)をとります。

処方されている発作治療薬(短時間作用性β2刺激薬の吸入など)があれば、指示通りに使用します。窓を開けて換気するのも良いでしょう。

症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、ためらわずに医療機関を受診するか救急車を要請してください。

生活環境の整備

アレルギーが原因で喘鳴が起こる場合はアレルゲンを避けるための環境整備が大切です。こまめな掃除(特に寝室)、布団の天日干しや掃除機がけ、空気清浄機の使用などが有効です。

禁煙は必須であり、受動喫煙も避けるようにしましょう。室内の適切な温度・湿度管理も、気道への刺激を減らすのに役立ちます。

アレルゲン対策のポイント

  • こまめな室内清掃
  • 防ダニ寝具の使用
  • ペットとの生活空間の分離(該当する場合)

体調管理と予防策

バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動は免疫力を高め、体調を整える基本です。

風邪やインフルエンザなどの感染症は喘息発作の引き金になることが多いため、手洗いやうがい、マスクの着用、予防接種などで感染予防に努めましょう。

ストレスを上手にコントロールすることも症状の安定化につながります。

喘鳴の悪化を防ぐための日常生活の注意点

注意点具体的な行動
禁煙・受動喫煙防止喫煙しない、喫煙場所に近づかない
感染予防手洗い、うがい、マスク着用、予防接種
刺激物の回避冷気、香水、化学物質の煙などを避ける
適切な服薬管理医師の指示通りに薬を使用する

緊急性の高いヒューヒュー音と受診のタイミング

ヒューヒューという呼吸音は時に緊急の対応が必要なサインとなります。

救急車を呼ぶべき危険なサイン

以下のような症状が一つでも見られる場合は命に関わる可能性があるため、すぐに救急車(119番)を呼んでください。

  • ヒューヒューという音が非常に強く、我慢できないほどの息苦しさ
  • 唇や顔色、爪が紫色になる(チアノーゼ)
  • 意識がもうろうとする、呼びかけに反応が鈍い
  • 呼吸が速く浅い、または肩で息をしている、呼吸が止まりそう
  • 話すのが困難、横になれない
  • 処方された発作治療薬を使用しても症状が改善しない、または悪化する

早めに医療機関を受診すべき目安

上記の緊急性の高い症状でなくても、以下のような場合は早めに呼吸器内科などの医療機関を受診しましょう。

受診を検討する目安

  • 初めてヒューヒューという呼吸音に気づいた
  • ヒューヒューという音が徐々に悪化している、または頻繁に起こる
  • 咳や痰、発熱、胸痛など他の症状を伴う
  • 夜間や早朝に症状が出やすく、睡眠が妨げられる
  • 日常生活(運動、会話など)で息切れやヒューヒュー音を感じる

ヒューヒューという呼吸音症状は体の異常を知らせるサインです。自己判断せずに原因を特定し、適切な治療を受けることが大切です。

受診時に医師に伝えること

診察を受ける際には以下の情報を医師に伝えると、診断や治療がスムーズに進みます。

医師に伝えるべき情報リスト

情報カテゴリ伝える内容の例
喘鳴の状況いつから、どんな時に音がするか、音の大きさや種類、持続時間
伴う症状咳、痰(色や量)、息苦しさ、発熱、鼻水、じんましんなど
既往歴・アレルギー喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の有無、過去の大きな病気
生活習慣・環境喫煙歴、ペットの有無、住環境(ホコリ、カビなど)、職業
服用中の薬お薬手帳を持参(市販薬、サプリメントも含む)

よくある質問

呼吸時のヒューヒュー音(喘鳴)に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
ヒューヒュー音がしても元気なら大丈夫ですか?
A

一時的な軽い気管支炎などでヒューヒュー音がすることがあり、自然に治ることもあります。

しかし、特に喘息の場合は症状がないときでも気道の炎症は続いています。

元気そうに見えてもヒューヒュー音が続く場合は気道が狭くなっているサインですので、一度医療機関で相談することをお勧めします。

適切な治療でコントロールすることが大切です。

Q
子供のヒューヒュー音で特に気をつけることは何ですか?
A

子供は気道が狭いため、大人よりも喘鳴を起こしやすいです。特に乳幼児期は風邪をひくとゼーゼーしやすいことがあります(乳幼児喘息)。

喘鳴とともに呼吸が速い、肩で息をしている、顔色が悪い、機嫌が悪い、食欲がないなどの症状が見られる場合は速やかに小児科を受診してください。

気道異物の可能性も念頭に置く必要があります。

Q
市販薬でヒューヒュー音は治りますか?
A

市販の咳止め薬や去痰薬で一時的に症状が和らぐことはあるかもしれませんが、ヒューヒュー音の根本的な原因(気道の炎症や狭窄)を治療するものではありません。

特に喘息が原因の場合、適切な治療薬(吸入ステロイド薬など)が必要です。

自己判断で市販薬を使い続けると診断や適切な治療が遅れる可能性があるため、症状が続く場合は医療機関を受診しましょう。

Q
喘息以外でヒューヒュー音が続くことはありますか?
A

はい、あります。

慢性気管支炎、COPD、気管支拡張症、心不全(心臓喘息とも呼ばれる症状が出ることがあります)、まれに気道腫瘍などが原因でヒューヒュー音が続くことがあります。

喘息と決めつけずに、正確な診断を受けることが重要です。特に喫煙歴のある方や高齢者で症状が続く場合は詳しい検査をお勧めします。

以上

参考にした論文

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