喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療で「レルベア」という吸入薬を処方され、「どんな効果があるの?」「副作用が心配」「使い方が難しそう」といった不安を感じていませんか。
レルベアは気道の炎症を抑え、発作を予防するために毎日続ける大切な薬です。
この記事ではレルベアの効果や副作用、そして効果を最大限に引き出すための正しい使い方について呼吸器内科の専門医が詳しく解説します。安心して治療に取り組むためにお役立てください。
レルベアとは?喘息治療における役割
レルベアは気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療に広く用いられる吸入薬です。
まずはこの薬がどのような役割を担うのか、基本的な特徴から見ていきましょう。
2つの有効成分を配合した吸入薬
レルベアは「吸入ステロイド薬(ICS)」と「長時間作用性β2刺激薬(LABA)」という、働きのことなる2種類の有効成分が一つになった配合薬です。
この2つの成分が協力し合うことで、より高い治療効果を発揮します。
気道の炎症を抑え、気管支を広げる効果
喘息の根本的な原因は気道の慢性的な炎症です。レルベアに含まれるステロイド成分がこの炎症をしっかりと抑え、もう一方のβ2刺激薬成分が狭くなった気管支を長時間にわたって広げます。
この2つの作用により、咳や息切れなどの症状を改善して安定した状態を維持します。
レルベアの主な役割
役割 | 解説 |
---|---|
気道の炎症を抑える | 喘息の根本原因である慢性的な炎症を鎮めます。(ステロイド薬の作用) |
気管支を広げる | 狭くなった空気の通り道を広げ、呼吸を楽にします。(β2刺激薬の作用) |
発作を予防する | 毎日続けることで、喘息発作が起こりにくい状態を維持します。 |
毎日続ける「長期管理薬(コントローラー)」
レルベアは症状がある時だけ使う薬ではありません。
症状がない時も毎日使い続けることで気道の状態を良好に保ち、急な発作(増悪)を防ぐ「長期管理薬(コントローラー)」に分類されます。治療の土台を作る非常に重要な薬です。
発作を止める薬ではないことに注意
重要な注意点として、レルベアはすでに起きてしまった急な喘息発作を速やかに鎮めるための薬(リリーバー)ではありません。
発作が起きた場合は医師から処方されている即効性のある発作治療薬を別途使用する必要があります。この違いを正しく理解しておくことが大切です。
レルベアの2つの有効成分とその働き
レルベアの効果を理解するために配合されている2つの有効成分、「フルチカゾンフランカルボン酸エステル」と「ビランテロールトリフェニル酢酸塩」の働きを詳しく見てみましょう。
フルチカゾンフランカルボン酸エステル(ICS)の働き
これは「吸入ステロイド薬(ICS)」に分類される成分です。喘息の根本原因である気道の慢性的な炎症に対して強力な抗炎症作用を発揮します。
この成分が炎症を鎮めることで気道が刺激に対して過敏に反応するのを防ぎ、咳や発作が起こりにくい状態を作ります。
ビランテロールトリフェニル酢酸塩(LABA)の働き
こちらは「長時間作用性β2刺激薬(LABA)」と呼ばれる成分です。気管支の周りにある筋肉(平滑筋)に作用し、その緊張をほぐすことで狭くなった気管支を効果的に広げます。
その効果は24時間持続するため、1日1回の吸入で安定した気管支拡張効果を維持できます。
2つの有効成分の役割分担
有効成分 | 分類 | 主な働き |
---|---|---|
フルチカゾンフランカルボン酸エステル | ICS(吸入ステロイド薬) | 気道の炎症を抑える(根本治療) |
ビランテロールトリフェニル酢酸塩 | LABA(長時間作用性β2刺激薬) | 気管支を広げ呼吸を楽にする(症状改善) |
2成分を同時に吸入する利点
これら2つの成分を一つの吸入器で同時に吸入することには大きな利点があります。
ICSが炎症を抑え、LABAが気管支を広げるという相乗効果により、それぞれを単独で使うよりも高い治療効果が期待できます。
また、1回の吸入で済むため患者さんの手間が減り、治療の継続しやすさにもつながります。
レルベアの正しい使い方|効果を最大限に引き出す吸入方法
レルベアは正しく吸入できて初めて十分な効果を発揮します。エリプタという専用の吸入器の操作は簡単ですが、いくつか重要なポイントがあります。
1日1回、決まった時間の吸入が基本
レルベアは1日1回、毎日同じ時間帯に吸入します。効果が24時間持続するため1日1回で十分です。
朝食後や就寝前など、ご自身の生活リズムに合わせて最も忘れにくい時間を決め、毎日の習慣にすることが治療継続の鍵です。
吸入器(エリプタ)の操作手順
レルベアの吸入器「エリプタ」は3つの簡単な動作で吸入できます。使用直前にカバーを開け、薬を準備してから吸入します。
エリプタの基本的な使い方
手順 | 操作 | ポイント |
---|---|---|
1. 開ける | カバーを「カチッ」と音がするまでスライドさせる | この操作で1回分の薬が準備される |
2. 吸う | 無理のない範囲で息を吐き出し、吸入口をくわえて深く、強く吸い込む | 「長く、深く、強く」がコツ |
3. 閉じる | 吸入器から口を離し、数秒間息を止めてから、ゆっくりと息を吐き出す。その後カバーを閉じる | 吸入後すぐに息を吐かない |
吸入後の「うがい」が重要な理由
レルベアを吸入した後は、必ずうがいをしてください。これは口の中や喉に残ったステロイド成分による副作用(声がれや口内カンジダ症)を防ぐために非常に重要です。
うがいが難しい場合は水を飲むだけでもかまいません。「吸入したら、うがい」をセットで覚えましょう。
うがいのポイント
- ガラガラうがいとクチュクチュうがいの両方を行う
- 喉の奥までしっかり洗い流すイメージで
- うがいをした水は飲み込まずに吐き出す
カウンターの数字で残量を確認
エリプタには残りの吸入回数を示すカウンターが付いています。カバーを開けるとカウンターの数字が1つ減る仕組みです。
数字が「0」になったら薬は終わりですので、早めに次の薬を処方してもらいましょう。カウンターが赤色になったら残りが少ないサインです。
知っておきたいレルベアの副作用と対処法
レルベアは安全性の高い薬ですが、他の薬と同様に副作用が起こる可能性はゼロではありません。
主な副作用とその対処法を知っておくことで、安心して治療を続けられます。
声がれ(嗄声)とその対策
最もよく見られる副作用の一つが、声がかすれる「嗄声(させい)」です。これは吸入したステロイドの粉末が声帯に付着し、刺激となることで起こります。
この副作用の多くは吸入後のうがいを徹底することで予防・軽減できます。声がれが気になる場合は医師や薬剤師に相談してください。
口内カンジダ症とその予防
口の中に白い苔のようなものが付着する「口内カンジダ症」もステロイド吸入薬にみられる副作用です。口の中に残ったステロイドによって常在菌であるカンジダというカビの一種が増殖することで起こります。
これも吸入後のうがいをしっかり行うことで、ほとんどの場合予防できます。
主な局所性副作用と予防法
副作用 | 症状 | 主な予防法 |
---|---|---|
嗄声(させい) | 声がかすれる | 吸入後のうがい |
口内カンジダ症 | 口の中に白い苔が付着する、ヒリヒリする | 吸入後のうがい |
全身性の副作用はまれ
吸入薬は飲み薬と違って薬が気道に直接作用するため、体全体への影響(全身性の副作用)は非常に少ないのが特徴です。
用法・用量を守って正しく使用している限り、ステロイドの全身性副作用(顔がむくむ、骨がもろくなるなど)を過度に心配する必要はありません。
副作用が疑われるときの対応
うがいをしても声がれが改善しない、口の中の違和感が続く、その他気になる症状が現れた場合は自己判断で薬をやめたりせず、必ず処方した医師や薬剤師に相談してください。
レルベアの効果を実感するために注意すべき点
レルベアによる治療を成功させるためには薬を正しく使うだけでなく、日常生活での注意点もいくつかあります。
症状が良くなっても自己判断で中断しない
治療を始めて症状が改善してくると、「もう治った」と思ってつい薬をやめてしまいがちです。
しかし症状がなくても気道の炎症はまだ残っています。ここで中断すると炎症が再燃し、症状が再発してしまいます。
医師の指示があるまで根気強く治療を続けることが最も重要です。このことが、将来の増悪を防ぐことにつながります。
他の薬との飲み合わせ
レルベアは他の薬と相互作用を起こすことがあります。特に一部の抗真菌薬や抗不整脈薬などとの併用には注意が必要です。
他の医療機関で薬を処方される場合や市販薬を購入する際には必ずレルベアを使用していることを医師や薬剤師に伝えてください。
アレルゲンの除去など生活習慣の見直し
喘息の背景にアレルギーがある場合、薬物療法と並行して原因となるアレルゲン(ダニ、ハウスダスト、花粉など)を生活環境から遠ざけることも大切です。
こまめな掃除や寝具の管理など生活習慣を見直すことで、より高い治療効果が期待できます。
禁煙の重要性
タバコの煙は気道の炎症を悪化させ、レルベアを含むあらゆる喘息治療薬の効果を弱めてしまいます。
ご自身が吸うことはもちろん、周りの人のタバコの煙(受動喫煙)も避ける必要があります。喘息治療において、禁煙は不可欠な要素です。
レルベア100と200の違いと使い分け
レルベアには「レルベア100エリプタ」と「レルベア200エリプタ」の2種類があります。この違いと、医師がどのように使い分けるのかを解説します。
含有されるステロイド量の違い
100と200の違いは1吸入あたりに含まれる吸入ステロイド薬(フルチカゾンフランカルボン酸エステル)の量です。
「200」には「100」の倍量のステロイドが含まれています。気管支拡張薬(ビランテロール)の量はどちらも同じです。
レルベア100と200の成分量
規格 | ステロイド(ICS)量 | 気管支拡張薬(LABA)量 |
---|---|---|
レルベア100エリプタ | 100μg | 25μg |
レルベア200エリプタ | 200μg | 25μg |
医師はどのように使い分けるのか
医師は患者さんの喘息の重症度や症状のコントロール状態に応じて適切な規格を選択します。
一般的には軽症から中等症の患者さんにはレルベア100から開始し、症状のコントロールが不十分な場合や、重症の患者さんにはレルベア200の使用を検討します。
治療効果を見ながら必要最低限の量でコントロールできるよう調整していきます。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)への適用
レルベアは喘息だけでなくCOPD(主に長年の喫煙が原因で起こる肺の病気)の治療にも用いられます。COPDの患者さんには原則としてレルベア100を使用します。
この疾患の治療においても息切れなどの症状を和らげ、増悪を予防する効果が期待されます。
レルベア吸入に関するよくある質問(Q&A)
最後に、レルベアについて患者さんからよくいただく質問とその回答をまとめました。
- Qレルベアはいつから効果が出ますか?
- A
気管支を広げる効果は比較的速やかに現れますが、喘息の根本原因である気道の炎症を抑える効果が実感できるまでには数日から数週間かかることがあります。
効果がないとすぐに諦めず、医師の指示通りに毎日続けることが大切です。
- Q吸入を忘れた場合はどうすればよいですか?
- A
1日1回の薬ですので、気づいた時点ですぐに1回分を吸入してください。
ただし次の吸入時間が近い場合は忘れた分は飛ばして、次の決まった時間に1回分だけ吸入してください。絶対に2回分を一度に吸入してはいけません。
- Q副作用が怖くて使いたくありません
- A
レルベアの副作用の多くは吸入後のうがいを徹底することで防げる局所的なものです。
治療によって得られる発作予防や症状改善といった利益は副作用のリスクを大きく上回ることがほとんどです。
喘息を治療しないまま放置する方が、体にとってのリスクははるかに大きくなります。不安な点は遠慮なく医師に相談し、納得した上で治療を始めましょう。
- Q妊娠中や授乳中でも使用できますか?
- A
妊娠中や授乳中であっても、喘息のコントロールを良好に保つことは母子双方にとって非常に重要です。
レルベアは治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に医師の監督のもとで使用することがあります。
妊娠を希望する場合や妊娠・授乳が判明した場合は必ずかかりつけの医師に相談してください。
以上
参考にした論文
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