「なんとなく体がだるい」「咳がずっと止まらないし、微熱も続いている」そんな症状に悩まされていませんか。
単なる風邪の治りかけだと思っていても、咳と微熱が2週間以上続く場合は注意が必要です。その症状の裏には気管支炎や肺炎、さらには結核といった、放置すると危険な病気が隠れている可能性があります。
この記事では、長引く咳と微熱の原因となる病気やご自身でできる対処法、そして医療機関を受診するべきサインについて呼吸器専門医が詳しく解説します。
咳と微熱が続くのはなぜ?体のサインを読み解く
咳と微熱は体が異物や病原体と戦っていることを示す重要なサインです。これらの症状がなぜ起こり、長く続く場合に何を意味するのかを理解することが大切です。
咳が起こる体の働き
咳は気道内の異物や過剰な分泌物(痰)を体外に排出しようとする防御反応です。
ウイルスや細菌、ホコリなどが気道を刺激すると、その情報が脳の咳中枢に伝わり、咳が起こります。炎症が続いている間は、この反応が継続します。
微熱が続く意味
発熱は体内に侵入した病原体と免疫系が戦っている証拠です。体温を上げることで免疫細胞の働きを活発にし、ウイルスや細菌の増殖を抑えます。
特に37.5℃前後の微熱がだらだらと続く場合は、体の中で軽度の炎症が持続している状態を示唆しています。
一般的な発熱の分類
分類 | 体温の目安(個人差あり) | 体の状態 |
---|---|---|
微熱 | 37.0℃~37.9℃ | 軽度の炎症や感染が持続している可能性 |
中等度熱 | 38.0℃~38.9℃ | 体が活発に病原体と戦っている状態 |
高熱 | 39.0℃以上 | 強い炎症反応が起きている状態 |
なぜ症状が長引くのか
通常、風邪などの急性感染症では、体の免疫機能が病原体を排除すると咳や熱は数日から1週間程度で治まります。
しかし、2週間以上症状が続く場合は感染が肺まで及んでいたり、原因が一般的な風邪ウイルスではなかったり、あるいは体の抵抗力が落ちていて病原体を排除しきれていない可能性などが考えられます。
長引く咳と微熱で疑われる呼吸器の病気
咳と微熱が続く場合、まず考えるべきは呼吸器系の病気です。気管支や肺に炎症が起きている可能性があります。
気管支炎
気管支炎は気管から肺へとつながる気管支に炎症が起こる病気です。急性気管支炎の多くはウイルス感染が原因で、激しい咳と痰、発熱が見られます。
通常は1~2週間で改善しますが、炎症が長引くと咳や微熱が続くことがあります。
また、喫煙などが原因で慢性的に炎症が続く慢性気管支炎もあります。
急性気管支炎の主な症状
- 激しい咳(初期は乾いた咳、後に湿った咳へ)
- 痰(透明~黄色・緑色)
- 発熱、全身の倦怠感
- 胸の不快感
肺炎
肺炎は気管支のさらに奥にある肺胞という組織に炎症が及ぶ病気です。細菌やウイルスなどが原因で起こります。
気管支炎よりも重症化しやすく、高熱や激しい咳、色のついた痰、呼吸困難などの症状が現れます。
高齢者や体力のない方では典型的な症状が出にくく、微熱や食欲不振、なんとなく元気がないといった症状だけのこともあるため注意が必要です。
肺炎でよく見られる症状
症状 | 特徴 |
---|---|
咳・痰 | 湿った咳が多く、黄色や緑色、錆び色の痰が出ることがある |
発熱 | 高熱が出ることが多いが、微熱が続く場合もある |
呼吸困難・胸痛 | 炎症が広がると、息苦しさや胸の痛みを感じる |
非定型肺炎(マイコプラズマ、クラミジアなど)
肺炎の中でもマイコプラズマやクラミジアといった非定型的な病原体によって引き起こされるものを「非定型肺炎」と呼びます。
比較的若い世代に多く、高熱が出にくく微熱が続くことがあります。頑固な乾いた咳が長く続くのが特徴で、全身の倦怠感や頭痛を伴うこともあります。
特に注意が必要な感染症
長引く咳と微熱の原因の中には結核や百日咳など、本人だけでなく周囲の人にも影響を及ぼす可能性のある感染症が含まれます。
肺結核
肺結核は結核菌という細菌が肺に感染して起こる病気です。咳、痰、微熱、寝汗、体重減少といった症状が2週間以上続く場合は結核の可能性を考える必要があります。
結核は空気感染するため、早期に発見して治療を開始することが本人の重症化を防ぐだけでなく、周囲への感染拡大を防ぐ上でも非常に重要です。
肺結核を疑う症状のチェックリスト
症状 | チェック |
---|---|
2週間以上続く咳 | □ |
微熱や体の倦怠感が続く | □ |
痰が出る(血が混じることもある) | □ |
夜間に汗をかく | □ |
食欲がなく、体重が減ってきた | □ |
百日咳
百日咳は百日咳菌の感染による病気で、特に激しい咳発作が特徴です。
最初は風邪のような症状ですが、次第に咳がひどくなり、短い咳が連続した後にヒューッと息を吸い込む特徴的な発作(レプリーゼ)が見られます。
発熱は軽微か、見られないことも多いですが、咳が数か月にわたって続くことがあります。
ワクチン未接種の乳児がかかると重症化しやすいため、大人が感染源にならないよう注意が必要です。
呼吸器以外に原因がある場合
咳や微熱は呼吸器以外の病気が原因で起こることもあります。様々な可能性を視野に入れることが大切です。
膠原病(こうげんびょう)
膠原病は免疫システムが誤って自分自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の総称です。関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどが含まれます。
これらの病気では全身の様々な場所で炎症が起こるため、原因不明の微熱や倦怠感が続くことがあります。
また、肺に炎症が及んで間質性肺炎を引き起こし、乾いた咳や息切れの原因となることもあります。
悪性腫瘍(がん)
肺がんなどの悪性腫瘍でも長引く咳や微熱が見られることがあります。
腫瘍そのものが気道を刺激して咳を出したり、体が腫瘍に対して炎症反応を起こして熱を出したりします(腫瘍熱)。血痰や体重減少、胸の痛みなどを伴う場合は特に注意が必要です。
薬剤性肺炎
特定の薬剤に対するアレルギー反応や副作用として、肺に炎症が起こることがあります。これを薬剤性肺炎と呼びます。
原因となる薬を服用し始めてから数週間から数か月後に乾いた咳や発熱、息切れなどの症状が現れることが多いです。
呼吸器以外で咳・微熱の原因となる病気の例
- 膠原病(関節リウマチなど)
- 悪性リンパ腫などの血液疾患
- 甲状腺の病気
咳と微熱が続く時のセルフケアと注意点
症状が続いている間は体をいたわり、回復を助けるためのセルフケアが重要です。ただし、セルフケアだけで解決しようとせず、適切なタイミングで受診することが前提です。
安静と休養を第一に
微熱が続くのは、体が「休んでほしい」と発しているサインです。無理をせず仕事や学校を休むなどして睡眠時間を十分に確保しましょう。
体力を消耗すると免疫力が低下し、回復が遅れる原因になります。
水分と栄養の補給
発熱すると体から水分が失われやすくなります。脱水を防ぐために、こまめに水分を補給しましょう。
また、食欲がない時でも、消化が良く栄養価の高いものを少しずつ摂るように心掛けてください。
咳と微熱がある時のセルフケア
項目 | 具体的な内容 |
---|---|
休養 | 十分な睡眠、無理な活動を避ける |
水分 | 常温の水や経口補水液などでこまめに補給 |
栄養 | おかゆ、スープ、ゼリーなど消化の良いもの |
環境 | 部屋の加湿、適切な室温の維持、換気 |
市販薬の安易な使用は避ける
市販の解熱剤や咳止め薬は一時的に症状を和らげることはできますが、原因となっている病気を治すものではありません。特に解熱剤で熱を下げて無理に活動すると、かえって病気を悪化させる可能性があります。
また、自己判断での薬の使用は本来の病気の診断を遅らせる原因にもなります。市販薬の使用は最小限にとどめ、症状が続く場合は必ず医療機関を受診してください。
医療機関を受診するべき危険なサイン
長引く咳と微熱に加えて、以下のような症状が見られる場合は重篤な病気の可能性があります。放置せず、速やかに呼吸器内科などの医療機関を受診してください。
咳や痰の状態の変化
咳が日に日にひどくなる、痰に血が混じる、痰の色が濃い黄色や緑色、錆び色になった、といった変化は肺での炎症が強まっているサインです。
特に血痰は肺がんや肺結核などでも見られるため、見過ごしてはいけません。
呼吸の状態
安静にしていても息苦しい、少し動いただけでも息が切れる、呼吸をする時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がするといった症状は気道が狭くなっていたり、肺の機能が低下していたりする可能性があります。
全身の状態
胸に痛みを感じる、食欲がなく体重が明らかに減ってきた、意識がもうろうとする、ぐったりして動けないといった症状は病気がかなり進行しているか、全身状態が悪化していることを示します。
これらの症状は緊急性が高い場合があります。
速やかな受診が必要な危険なサイン
分類 | 具体的な症状 |
---|---|
咳・痰 | 血痰、膿のような痰、悪化し続ける咳 |
呼吸 | 安静時の息苦しさ、喘鳴(ゼーゼー) |
全身症状 | 胸痛、急な体重減少、意識障害 |
呼吸器内科での診断の流れ
医療機関では咳と微熱の原因を正確に突き止めるために、問診や診察、必要な検査を順序立てて行います。
詳細な問診
いつから症状が始まったか、咳や痰の性質、喫煙歴、職業、ペットの有無、最近の旅行歴、周りに同じような症状の人がいないかなど詳しくお話を伺います。
これらの情報は病気を診断する上で非常に重要な手がかりとなります。
身体診察と胸部X線検査
聴診器で胸の音を聞き、異常な音がないかを確認します。
そして長引く咳と微熱の診断において基本となるのが胸部X線(レントゲン)検査です。この検査で肺炎や肺結核、肺がんなどの影がないかを確認します。
血液検査・喀痰検査
血液検査では体内の炎症の程度(CRPや白血球数)や、特定の病原体(マイコプラズマなど)に対する抗体を調べます。
痰が出る場合は痰の中にいる細菌や結核菌、がん細胞などを調べる喀痰検査が、原因の特定に極めて有効です。
CT検査や気管支鏡検査
胸部X線検査で異常が疑われた場合や、さらに詳しく調べる必要がある場合には、CT検査で肺をより詳細に観察します。
気管支鏡検査は口や鼻から細いカメラを挿入し、気管支の中を直接観察したり、組織を採取したりする専門的な検査です。
よくある質問
長引く咳と微熱に関して、患者さんからよくいただく質問にお答えします。
- Qストレスが原因で咳や微熱が続くことはありますか?
- A
心因性咳嗽といって精神的なストレスが原因で咳が続くことはあります。しかし、通常は発熱を伴いません。
微熱が続く場合はストレスによる免疫力低下が、何らかの感染症を引き起こすきっかけになっている可能性は考えられます。
まずは体に炎症などの異常がないかをきちんと調べることが先決です。
- Q周りの人にうつす可能性はありますか?
- A
原因によります。
肺結核や百日咳、マイコプラズマ肺炎、インフルエンザなどの感染症が原因の場合は咳やくしゃみを通じて周りの人にうつす可能性があります。
咳と微熱が続く間はマスクを着用し、手洗いを徹底するなど感染対策を心掛けることが社会的なマナーとしても重要です。
- Q熱が下がれば仕事に行っても大丈夫ですか?
- A
解熱剤などで一時的に熱が下がっても、咳が続いている場合は体内にまだ病原体が残っている可能性があります。
この状態で無理に活動すると体力の消耗から病状が悪化したり、周りの人に感染を広げたりするリスクがあります。
咳や倦怠感などの症状が続いている間はできるだけ休養をとることをお勧めします。
- Q診断にはどのくらい時間がかかりますか?
- A
胸部X線検査や一般的な血液検査は当日中に結果が出ることが多いです。
しかし、結核菌や一部の細菌を調べる培養検査や、特殊な抗体検査などは結果が出るまでに数日から数週間かかる場合があります。
検査結果が出るまでの間も症状に応じて推定される病気に対する治療を開始することがあります。
以上
参考にした論文
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