「なんだか息が吸いにくい」「少し動いただけで息が切れる」「胸が苦しくて呼吸がしづらい」。
このような「呼吸がしづらい」という症状は誰にでも起こりうるものですが、時には重大な病気のサインである可能性もあります。
この記事では呼吸がしづらい、苦しいと感じる場合に考えられる原因や、ご自身でできること、そして医療機関を受診すべき適切なタイミングについて詳しく解説します。
不安を解消し、健やかな呼吸を取り戻すためのお手伝いができれば幸いです。
呼吸がしづらいとは?基本的な知識
「呼吸がしづらい」という感覚は主観的なものですが、医学的には「呼吸困難」と呼ばれます。この症状がなぜ起こるのか、基本的な点を理解しましょう。
呼吸困難の定義と種類
呼吸困難とは呼吸をする際に努力を要したり、不快感を伴ったりする状態を指します。息切れ、息苦しさ、息が吸えない・吐けない感じなど表現は様々です。
呼吸困難はその現れ方によって急に症状が出る「急性呼吸困難」と、徐々に進行する「慢性呼吸困難」に分けられます。
呼吸の仕組みと酸素の重要性
私たちは肺を使って空気中から酸素を取り込み、体内で不要になった二酸化炭素を排出しています。この一連の活動が呼吸です。
酸素は私たちが生きていくために必要不可欠なエネルギー源であり、酸素が不足すると体の様々な機能に支障をきたします。
呼吸がしづらいという症状はこの酸素の取り込みや二酸化炭素の排出がうまくいっていないサインの一つと考えられます。
呼吸に関わる主な器官
器官 | 主な役割 | 関連する症状の例 |
---|---|---|
鼻・口・喉頭 | 空気の通り道(上気道) | 鼻詰まり、喉の腫れによる息苦しさ |
気管・気管支 | 肺へ空気を送る管(下気道) | 気管支の狭窄による喘鳴、咳 |
肺(肺胞) | 酸素と二酸化炭素のガス交換 | ガス交換能力低下による息切れ |
呼吸がしづらいと感じる状況
呼吸のしづらさは特定の状況で感じやすいことがあります。例えば運動時、階段を昇り降りするとき、仰向けに寝たとき、あるいは安静にしているときでも現れることがあります。
どのような状況で症状が出るかによって原因疾患を推測する手がかりになることがあります。
呼吸がしづらいときに考えられる呼吸器系の原因疾患
呼吸器系の病気は呼吸がしづらいという症状の代表的な原因です。ここでは主な疾患について解説します。
気管支喘息
気管支喘息は気道が慢性的に炎症を起こし、様々な刺激に対して過敏になる病気です。
発作的に気道が狭くなり、咳や痰、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)、そして呼吸困難が生じます。夜間や早朝に症状が悪化しやすい特徴があります。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
主に長年の喫煙が原因で肺に慢性的な炎症が起こり、気道が狭くなったり、肺胞(酸素交換を行う小さな袋)が壊れたりする病気です。
進行すると体を動かしたときの息切れ(労作時呼吸困難)や慢性的な咳、痰がみられます。呼吸がしづらい状態が徐々に悪化していくのが特徴です。
肺炎・気管支炎
細菌やウイルスなどの感染により、肺や気管支に炎症が起こる病気です。発熱、咳、痰とともに呼吸困難が現れることがあります。
特に高齢者や免疫力が低下している方は重症化しやすいため注意が必要です。
肺炎と気管支炎の主な違い
項目 | 肺炎 | 気管支炎 |
---|---|---|
炎症の主な場所 | 肺胞 | 気管支 |
主な症状 | 高熱、激しい咳、膿性の痰、呼吸困難、胸痛 | 咳、痰、発熱(肺炎より軽度なことが多い) |
重症度 | 重症化しやすい | 肺炎よりは軽症が多いが、慢性化も |
気胸
何らかの原因で肺に穴が開き、空気が胸腔内(肺の外側)に漏れ出て肺がしぼんでしまう状態です。突然の胸痛や乾いた咳とともに、呼吸困難が出現します。
若いやせ型の男性に多い自然気胸や、肺の病気が原因で起こる続発性気胸があります。
呼吸がしづらいときに考えられる心臓・循環器系の原因疾患
心臓の病気も呼吸がしづらいという症状を引き起こすことがあります。肺と心臓は密接に関連しているためです。
心不全
心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態を心不全といいます。このことにより、肺に水がたまる(肺うっ血)と呼吸困難が生じます。
特に夜間に横になると息苦しくなり、座ると楽になる(起座呼吸)のが特徴的な症状の一つです。坂道や階段での息切れもよくみられます。
不整脈
心臓の拍動リズムが乱れる病気です。
脈が速すぎたり遅すぎたり、または不規則になったりすることで心臓のポンプ機能が効率よく働かなくなり、動悸やめまい、失神のほか呼吸困難を感じることがあります。
狭心症・心筋梗塞
心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりする病気です。
典型的な症状は胸の圧迫感や痛みですが、息苦しさとして感じることもあります(特に高齢者や糖尿病患者)。
心筋梗塞は命に関わる緊急性の高い状態です。
心臓の病気による呼吸困難の特徴
- 体を動かすと息苦しい
- 夜間、横になると苦しくなる
- 足のむくみを伴うことがある
呼吸がしづらいときに考えられるその他の原因
呼吸器や心臓以外にも呼吸がしづらいと感じる原因は様々です。
精神的な要因(過換気症候群など)
強い不安やストレス、緊張などがきっかけで、無意識のうちに呼吸が速く浅くなり、血液中の二酸化炭素が過度に排出される状態を過換気症候群(過呼吸症候群)といいます。
この結果、息苦しさ、手足のしびれ、めまい、動悸などの症状が現れます。パニック障害に伴って起こることもあります。
貧血
血液中の赤血球やヘモグロビンが減少した状態です。
ヘモグロビンは酸素を全身に運ぶ役割を担っているため貧血になると体が酸素不足に陥りやすく、少し動いただけでも息切れや動悸、倦怠感を感じることがあります。
顔面蒼白も特徴的なサインです。
神経・筋疾患
呼吸に関わる筋肉(横隔膜や肋間筋など)の力が弱まったり、呼吸をコントロールする神経に異常が生じたりする病気でも呼吸がしづらいと感じることがあります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)や重症筋無力症などが代表的です。
呼吸困難を引き起こす可能性のある要因
分類 | 具体的な例 | 主な症状(呼吸困難以外) |
---|---|---|
精神的要因 | 過換気症候群、パニック障害 | 不安感、手足のしびれ、めまい |
血液の異常 | 貧血 | 顔面蒼白、倦怠感、動悸 |
神経・筋疾患 | 重症筋無力症、筋ジストロフィー | 筋力低下、易疲労性 |
アレルギー反応(アナフィラキシー)
特定の食べ物や薬、蜂毒などに対する急激なアレルギー反応であるアナフィラキシーでは気道が腫れて狭くなり、重篤な呼吸困難を引き起こすことがあります。
じんましん、血圧低下、意識障害などを伴うこともあり、命に関わるため迅速な対応が必要です。
呼吸がしづらいときの検査と診断
呼吸がしづらい原因を特定するためには医療機関での詳しい検査が重要です。
問診と身体診察
医師はまず、症状(いつから、どんな時に、どの程度息苦しいか、他の症状はあるかなど)、既往歴、喫煙歴、アレルギーの有無、服用中の薬などを詳しく伺います。
その後、聴診器で胸の音を聞いたり、血圧を測ったり、酸素飽和度(血液中の酸素の量)を測定したりします。
胸部X線検査・CT検査
胸部X線検査(レントゲン)は肺や心臓の異常を調べる基本的な画像検査です。肺炎、気胸、心不全などの診断に役立ちます。
より詳細な情報が必要な場合には胸部CT検査を行い、肺の細かい構造や血管の状態などを確認します。
呼吸機能検査(スパイロメトリー)
息を最大限吸い込んだ後に勢いよく吐き出すことで肺活量や気道の狭さなどを評価する検査です。
気管支喘息やCOPDの診断、重症度評価に用います。
呼吸機能検査で評価する主な項目
検査項目 | 内容 | 異常が見られる代表的な疾患 |
---|---|---|
努力肺活量 (FVC) | 最大限吸い込んだ空気を努力して全て吐き出した量 | 拘束性換気障害(間質性肺炎など)で低下 |
1秒量 (FEV1) | 努力肺活量のうち最初の1秒間に吐き出せる量 | 閉塞性換気障害(喘息、COPD)で低下 |
1秒率 (FEV1/FVC比) | 1秒量が努力肺活量に占める割合 | 閉塞性換気障害で低下 (70%未満が目安) |
心電図・心エコー検査
心臓の電気的な活動を記録する心電図検査や超音波で心臓の形や動き、血液の流れを観察する心エコー検査は心不全や不整脈、狭心症などの心臓疾患の診断に役立ちます。
呼吸がしづらいときの対処法と日常生活での注意点
医療機関での治療とともに日常生活での工夫も症状の緩和につながります。
安静と楽な姿勢
呼吸が苦しいと感じたら、まずは無理をせず安静にしましょう。
座って少し前かがみになったり、壁にもたれかかったりするなど自分が楽だと感じる姿勢をとることが大切です。衣服を緩めるのも効果的です。
禁煙と受動喫煙の回避
喫煙はCOPDや肺がんなど多くの呼吸器疾患の最大の原因であり、喘息などの症状を悪化させます。
禁煙は呼吸がしづらい症状の改善と予防において非常に重要です。また、他人のタバコの煙(受動喫煙)を避けることも大切です。
環境整備と感染予防
室内の空気を清潔に保つために、こまめな換気や掃除を心がけましょう。加湿器などで適切な湿度を保つことも気道の乾燥を防ぎます。
また、風邪やインフルエンザなどの感染症は呼吸器症状を悪化させるため、手洗いやうがい、マスクの着用など基本的な感染予防策を徹底しましょう。
呼吸を楽にするための生活上の工夫
工夫 | 具体的な方法 | 期待できること |
---|---|---|
呼吸法 | 口すぼめ呼吸、腹式呼吸 | 息切れの軽減、リラックス効果 |
適度な運動 | 医師の指導のもとウォーキングなど | 呼吸筋の維持、体力向上 |
栄養バランス | バランスの取れた食事、十分な水分摂取 | 免疫力維持、体力維持 |
医師の指示に従った薬物療法
原因疾患に応じた薬物療法は呼吸困難のコントロールに重要です。気管支拡張薬、吸入ステロイド薬、利尿薬、抗不整脈薬など医師から処方された薬は、指示通りに正しく使用しましょう。
自己判断で中断したり、量を変更したりしないことが大切です。
緊急性の高い呼吸困難と受診のタイミング
呼吸がしづらいという症状の中にはすぐに医療機関を受診する必要がある危険なサインも含まれます。
救急車を呼ぶべき危険なサイン
以下のような症状が一つでも見られる場合は、ためらわずに救急車(119番)を呼んでください。
- 突然発症した、我慢できないほどの強い息苦しさ
- 唇や顔色、手足の指先が紫色になる(チアノーゼ)
- 意識がもうろうとする、呼びかけに反応が鈍い
- 呼吸が速く浅い、または呼吸が止まりそう
- 胸に激しい痛みや圧迫感を伴う
- 冷や汗が出る、脈が極端に速いまたは遅い
医療機関を受診すべき目安
上記のような緊急性の高い症状でなくても、以下のような場合は早めに呼吸器内科などの医療機関を受診しましょう。
早めの受診を検討する症状
- 安静にしていても息苦しさが続く
- 徐々に息切れが悪化している
- 夜間、息苦しさで目が覚めることがある
- 咳や痰、発熱、胸痛などを伴う
- 以前よりも軽い動作で息切れするようになった
「呼吸がしづらい」という症状は体の異常を知らせる重要なサインです。放置せずに原因を特定し、適切な対応をとることが大切です。
受診時に医師に伝えること
診察を受ける際には以下の情報を医師に伝えると診断や治療がスムーズに進みます。
医師への伝達事項リスト
情報カテゴリ | 伝える内容の例 |
---|---|
症状の始まりと経過 | いつから、どんな時に、どの程度息苦しいか、急にか徐々にか |
伴う症状 | 咳、痰(色や量)、発熱、胸痛、動悸、むくみなど |
既往歴・アレルギー | 喘息、心臓病、糖尿病、アレルギーの有無など |
生活習慣 | 喫煙歴、飲酒歴、職業、ペットの有無など |
服用中の薬 | お薬手帳を持参(サプリメントも含む) |
よくある質問
呼吸がしづらいという症状に関して、よくお受けする質問にお答えします。
- Qストレスで呼吸が苦しくなることはありますか?
- A
はい、あります。
強いストレスや不安を感じると自律神経のバランスが乱れ、過換気症候群(過呼吸)を引き起こし、息苦しさや手足のしびれ、めまいなどを感じることがあります。
ただし、他の病気が隠れている可能性もあるため、症状が続く場合は一度ご相談ください。
- Q高齢者の息切れは年のせいでしょうか?
- A
加齢とともに体力や呼吸機能が低下することはありますが、全ての息切れが年のせいとは限りません。
心不全やCOPD、肺炎など、治療が必要な病気が原因であることも少なくありません。
「年のせいだから」と自己判断せず、症状が気になる場合は医療機関を受診することをお勧めします。
- Q呼吸がしづらいとき、自分でできる応急処置は?
- A
まずは安静にし、楽な姿勢をとってください。衣服を緩め、ゆっくりと深呼吸を試みましょう。
窓を開けて換気するのも良いでしょう。喘息発作の場合は処方されている発作治療薬(吸入薬など)を使用してください。
ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は速やかに医療機関を受診するか、救急車を呼んでください。
呼吸困難時の初期対応
対応 ポイント 安静にする 無理な動作を避ける 楽な姿勢をとる 前傾姿勢、座位など 衣服を緩める 首元、胸元、腹部など 換気する 新鮮な空気を取り込む
- Qどの診療科を受診すればよいですか?
- A
呼吸がしづらいという症状の場合、まずは呼吸器内科の受診を検討してください。咳や痰、喘鳴など呼吸器系の症状が強い場合は特にそうです。
胸痛や動悸、むくみなど心臓に関連する症状がある場合は循環器内科も選択肢となります。
どちらを受診すべきか迷う場合は、かかりつけ医に相談するか総合内科を受診して適切な診療科を紹介してもらうのも良いでしょう。
以上
参考にした論文
FUJIMURA, Masaki. Frequency of persistent cough and trends in seeking medical care and treatment—Results of an internet survey. Allergology international, 2012, 61.4: 573-581.
KIKUCHI, Yoshihiro, et al. Chemosensitivity and perception of dyspnea in patients with a history of near-fatal asthma. New England Journal of Medicine, 1994, 330.19: 1329-1334.
BURNEY, P. G., et al. Validity and repeatability of the IUATLD (1984) Bronchial Symptoms Questionnaire: an international comparison. European respiratory journal, 1989, 2.10: 940-945.
MAISEL, Alan, et al. Primary results of the Rapid Emergency Department Heart Failure Outpatient Trial (REDHOT) A multicenter study of B-type natriuretic peptide levels, emergency department decision making, and outcomes in patients presenting with shortness of breath. Journal of the American College of Cardiology, 2004, 44.6: 1328-1333.
JIN, Ying-Hui, et al. A rapid advice guideline for the diagnosis and treatment of 2019 novel coronavirus (2019-nCoV) infected pneumonia (standard version). Military medical research, 2020, 7.1: 1-23.
KIDA, Kozui, et al. Long-term oxygen therapy in Japan: history, present status, and current problems. Advances in Respiratory Medicine, 2013, 81.5: 468-478.
HALE, Zachariah E.; SINGHAL, Astha; HSIA, Renee Y. Causes of shortness of breath in the acute patient: a national study. Academic Emergency Medicine, 2018, 25.11: 1227-1234.
MUKAE, Hiroshi, et al. The Japanese respiratory society guidelines for the management of cough and sputum (digest edition). Respiratory Investigation, 2021, 59.3: 270-290.
NISHIMURA, Koichi, et al. Dyspnea is a better predictor of 5-year survival than airway obstruction in patients with COPD. Chest, 2002, 121.5: 1434-1440.
KUDOH, Shoji, et al. Interstitial lung disease in Japanese patients with lung cancer: a cohort and nested case-control study. American journal of respiratory and critical care medicine, 2008, 177.12: 1348-1357.