「風邪でもないのに咳だけが続く」「特定の季節になると咳が出やすい」といった症状に心当たりはありませんか。
その長引く咳、もしかしたらダニや花粉、カビなどが原因で起こる「アレルギー性気管支炎」かもしれません。
この記事ではアレルギー性気管支炎の症状や原因、よく似た病気である喘息との違いについて詳しく解説します。原因となるアレルゲンを特定し、適切な治療と対策を行うことで、つらい咳の症状は改善できます。
アレルギー性気管支炎の基本的な知識
アレルギー性気管支炎はその名の通り、アレルギー反応によって気管支に炎症が起きる病気です。まずは、この病気がどのようなものか、基本的な特徴を理解しましょう。
気管支に起こるアレルギー反応
私たちの体には外部から侵入してきた異物を排除しようとする免疫という仕組みが備わっています。
この免疫が本来は体に害のないはずの特定の物質(アレルゲン)に対して過剰に反応してしまうのがアレルギーです。
アレルギー性気管支炎では、ダニや花粉などのアレルゲンを吸い込むことで空気の通り道である気管支の粘膜に炎症が起こり、咳などの症状を引き起こします。
主な症状は長引く咳
最も代表的な症状は長期間続く乾いた咳(乾性咳嗽)です。
痰が絡むこともありますが、比較的少ないのが特徴です。特に夜間や早朝、アレルゲンに接触した後に咳が出やすくなる傾向があります。
熱や喉の痛みといった、いわゆる風邪の症状は伴わないことがほとんどです。
咳以外の主な症状
- 喉のイガイガ感・かゆみ
- 胸の違和感
- 透明な鼻水・くしゃみ(アレルギー性鼻炎の合併)
ウイルス感染による急性気管支炎との違い
「気管支炎」という名前から、風邪をこじらせて起こる急性気管支炎を想像する方もいるかもしれません。しかし、両者は原因も症状も異なります。
急性気管支炎は主にウイルス感染が原因で発熱や色のついた痰を伴うことが多いですが、アレルギー性気管支炎はアレルゲンが原因であり、発熱はありません。
アレルギー性気管支炎と急性気管支炎の比較
項目 | アレルギー性気管支炎 | 急性気管支炎 |
---|---|---|
原因 | アレルゲン(ダニ、花粉など) | ウイルス・細菌感染 |
主な症状 | 長引く乾いた咳 | 咳、痰、発熱、倦怠感 |
期間 | 慢性的・反復性 | 数週間で治癒することが多い |
咳を引き起こす主な原因アレルゲン
アレルギー性気管支炎の症状を引き起こす原因物質(アレルゲン)は私たちの身の回りに潜んでいます。原因を特定し、対策を立てることが治療の第一歩です。
室内のアレルゲン(ハウスダスト・ダニ)
一年を通して症状が見られる場合、最も疑われるのが室内に存在するアレルゲンです。
ハウスダストはホコリだけでなく、ダニの死骸やフン、人のフケ、繊維くずなどが混じり合ったものです。
特に高温多湿を好むダニは寝具やカーペット、布製のソファなどで繁殖しやすく、アレルギー性気管支炎の主要な原因となります。
主な室内アレルゲンと潜む場所
アレルゲン | 主な潜伏場所 | 対策のポイント |
---|---|---|
ダニ | 布団、枕、マットレス、カーペット、ソファ | こまめな掃除機がけ、寝具の洗濯・乾燥 |
ハウスダスト | 部屋の隅、家具の上、カーテン | 定期的な拭き掃除、換気 |
カビとその発生源
カビの胞子も強力なアレルゲンの一つです。カビは湿気が多い場所を好むため、エアコンの内部や浴室、キッチン、結露しやすい窓際などが主な発生源となります。
特に梅雨の時期や、気密性の高い住宅では注意が必要です。エアコンをつけた途端に咳が出る場合は、内部でカビが繁殖している可能性があります。
季節性のアレルゲン(花粉)
スギやヒノキ、ブタクサ、イネ科の植物など特定の季節にだけ咳の症状が悪化する場合は、花粉が原因である可能性が高いです。
アレルギー性鼻炎(花粉症)と合併していることも多く、目のかゆみや鼻水といった症状を伴うこともあります。
花粉の種類によって飛散する時期が異なるため、症状の出る時期から原因花粉を推測することができます。
代表的な花粉と飛散時期(関東地方の例)
花粉の種類 | 主な飛散時期 |
---|---|
スギ | 2月~4月 |
ヒノキ | 3月~5月 |
イネ科(カモガヤなど) | 5月~8月 |
キク科(ブタクサなど) | 8月~10月 |
その他の原因(ペット・化学物質など)
犬や猫などのペットの毛やフケ、唾液などもアレルゲンとなり得ます。また、頻度は低いですが、特定の化学物質や建材などが原因でアレルギー反応が起こることもあります。
原因がはっきりしない場合は生活環境を詳しく見直すことが大切です。
アレルギー性気管支炎と喘息(ぜんそく)の違い
長引く咳というと、喘息を心配される方も多いでしょう。
アレルギー性気管支炎と気管支喘息はどちらもアレルギーが関与する気道の病気ですが、異なる点もあります。
症状の比較(喘鳴の有無)
最も大きな違いは「喘鳴(ぜんめい)」の有無です。
気管支喘息では気道が狭くなることで、息を吐くときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という特徴的な音が聞こえます。一方、アレルギー性気管支炎ではこのような喘鳴は基本的に見られません。
咳だけが主な症状である点が咳喘息と共通しています。
検査所見の違い
呼吸機能検査を行うと、気管支喘息の患者さんでは気道が狭くなっていることを示す所見(1秒率の低下など)が見られます。
アレルギー性気管支炎では、この検査結果は正常範囲内であることがほとんどです。この違いが両者を鑑別する上での重要なポイントとなります。
アレルギー性気管支炎と気管支喘息の鑑別ポイント
項目 | アレルギー性気管支炎 | 気管支喘息 |
---|---|---|
喘鳴(ゼーゼー音) | なし | あり |
呼吸困難 | まれ | あり(発作時) |
呼吸機能検査 | 正常 | 気道閉塞の所見あり |
治療法の共通点と相違点
どちらの病気も原因となるアレルゲンの回避が基本となります。
薬物療法としては、アレルギー反応を抑える抗アレルギー薬や気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬が中心となる点も共通しています。
ただし、気管支喘息で用いる気管支拡張薬は、アレルギー性気管支炎には通常効果を示しません。
喘息へ移行する可能性
アレルギー性気管支炎の状態を放置していると気道の炎症が慢性化し、気管支喘息へと移行する可能性があります。
咳が長く続く場合は喘息への進行を防ぐためにも、早期に適切な診断と治療を受けることが重要です。
診断のために呼吸器内科で行う検査
アレルギー性気管支炎を正確に診断し、原因アレルゲンを特定するためには、いくつかの検査を組み合わせて行います。
詳細な問診の重要性
診断の第一歩は患者さんから詳しくお話を聞くことです。
どのような時に咳が出るか、特定の場所や季節で悪化するか、ペットの有無や住環境、アレルギー歴など、生活背景に関する詳細な情報が、原因を突き止めるための大きなヒントになります。
胸部X線(レントゲン)検査
咳の原因となる他の重大な病気(肺炎、肺がん、結核など)がないかを確認するために行います。
アレルギー性気管支炎の場合、X線写真に異常な影が映ることは通常ありません。
アレルギー検査(血液検査など)
原因アレルゲンを特定するために、アレルギー検査を行います。最も一般的なのは血液検査で、特定のアレルゲンに対するIgE抗体という物質の量を測定します。
この検査により、ダニやスギ花粉、カビなど何に対してアレルギー反応を起こしているのかを知ることができます。
アレルギー検査で調べられる主な項目
- ハウスダスト、ダニ
- スギ、ヒノキなどの各種花粉
- 犬、猫などのペット関連
- カンジダ、アルテルナリアなどのカビ類
その他の検査
必要に応じて呼吸機能検査を行い、喘息との鑑別をします。
また、痰が出る場合は喀痰検査で痰の中の細胞(好酸球など)を調べることもアレルギー性の炎症を確認する上で役立ちます。
アレルギー性気管支炎の治療法
アレルギー性気管支炎の治療は「原因の除去」「薬物療法」「症状のコントロール」の三本柱で進めます。
原因アレルゲンの回避と除去(環境整備)
最も基本的で重要な治療は原因となっているアレルゲンを生活環境からできるだけ取り除くことです。アレルギー検査で原因が特定できれば、より効果的な対策が可能になります。
例えば原因がダニであれば寝具のケアや掃除を徹底し、花粉であれば飛散時期の対策を行います。
薬物療法(抗アレルギー薬・吸入薬)
環境整備だけでは症状が十分にコントロールできない場合は薬物療法を併用します。
アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬などの抗アレルギー薬の内服や、気管支の炎症を直接抑える吸入ステロイド薬の使用が治療の中心となります。
主な治療薬の種類と役割
薬の種類 | 主な役割 | 使用方法 |
---|---|---|
抗アレルギー薬 | アレルギー反応を抑え、咳や鼻炎症状を緩和 | 内服 |
吸入ステロイド薬 | 気管支の炎症を直接抑え、咳を根本から治療 | 吸入 |
鎮咳薬(咳止め) | つらい咳の症状を一時的に緩和 | 内服 |
症状を和らげる対症療法
咳がひどくて日常生活に支障が出る場合には、一時的に咳を鎮めるための対症療法として咳止め薬(鎮咳薬)を処方することもあります。
ただしこれはあくまで補助的な治療であり、根本的な解決にはアレルゲンの回避と炎症を抑える治療が必要です。
日常生活でできるセルフケアと予防策
薬による治療と並行して日々の生活の中でセルフケアを実践することが、症状の改善と再発予防につながります。
掃除と換気の徹底
ハウスダストやダニを減らすため、こまめな掃除が基本です。特に寝室は週に1〜2回は掃除機をかけ、床や家具の拭き掃除も行いましょう。
また、1日に1〜2回は窓を開けて換気し、室内の空気を入れ替えることも大切です。
湿度管理とカビ対策
カビの繁殖を防ぐためには湿度をコントロールすることが重要です。除湿機やエアコンのドライ機能を活用し、室内の湿度を50%前後に保つよう心がけましょう。
浴室やキッチンなどの水回りは使用後に換気扇を回したり、水分を拭き取ったりして乾燥させることがカビ予防になります。
外出時の花粉対策
花粉が原因の場合は飛散シーズン中の対策が症状を左右します。外出時にはマスクやメガネを着用し、花粉の吸入を物理的に防ぎましょう。
帰宅時には玄関先で衣服や髪についた花粉を払い落としてから室内に入ることが、花粉の持ち込みを減らす上で効果的です。
花粉シーズンを乗り切る工夫
対策 | 具体的な方法 |
---|---|
花粉情報の活用 | テレビやインターネットで飛散情報を確認し、多い日は外出を控える |
外出時の服装 | 表面がツルツルした素材の上着を選ぶ |
帰宅後のケア | うがい、洗顔、鼻うがいを習慣にする |
アレルギー性気管支炎に関するよくある質問(Q&A)
最後に、アレルギー性気管支炎について患者さんからよくいただく質問にお答えします。
- Qこの病気は大人になってからでも発症しますか?
- A
はい、発症します。
子供の頃にアレルギーがなくても、大人になってから生活環境の変化やストレスなどをきっかけにアレルギー体質が現れて発症することは珍しくありません。
これまで平気だったスギ花粉やハウスダストが、ある年から急に咳の原因になることもあります。
- Q市販の咳止め薬は効きますか?
- A
市販の咳止め薬で一時的に症状が和らぐことはありますが、アレルギー性気管支炎の原因である気道の炎症そのものを治すことはできません。
根本的な治療を行わずにいると、症状が慢性化したり喘息に移行したりするリスクがあります。
咳が2週間以上続く場合は自己判断で市販薬を使い続けず、呼吸器内科を受診してください。
- Q治るまでにどのくらいの期間がかかりますか?
- A
治療期間は原因アレルゲンの種類や、生活環境の改善度合いによって大きく異なります。
花粉のように原因が季節性の場合はそのシーズンが終われば症状は治まりますが、ダニのように通年性の場合は継続的な環境整備と治療が必要になることが多いです。
根気強く治療と対策を続けることが大切です。
- Qアレルギー検査を受けないと治療できませんか?
- A
症状や問診の内容からアレルギー性気管支炎が強く疑われる場合は検査の前に治療を開始することもあります。
しかし原因アレルゲンを特定することで、より効果的で具体的な対策(アレルゲンの除去)が可能になり、治療のゴールが見えやすくなります。
長期的な観点からはアレルギー検査を受けることを強くお勧めします。
以上
参考にした論文
NAKAJIMA, Takeo, et al. Characteristics of patients with chronic cough who developed classic asthma during the course of cough variant asthma: a longitudinal study. Respiration, 2005, 72.6: 606-611.
NAKAJIMA, Takeo, et al. Characteristics of patients with chronic cough who developed classic asthma during the course of cough variant asthma: a longitudinal study. Respiration, 2005, 72.6: 606-611.
TOCHINO, Yoshihiro, et al. Asthma‐COPD overlap syndrome—Coexistence of chronic obstructive pulmonary disease and asthma in elderly patients and parameters for their differentiation. Journal of general and family medicine, 2017, 18.1: 5-11.
HIGASHI, Tomomi, et al. Exacerbation of daily cough and allergic symptoms in adult patients with chronic cough by Asian dust: A hospital-based study in Kanazawa. Atmospheric Environment, 2014, 97: 537-543.
EBISAWA, Motohiro, et al. Japanese guidelines for food allergy 2017. Allergology International, 2017, 66.2: 248-264.
OGAWA, Haruhiko, et al. Atopic cough and fungal allergy. Journal of Thoracic Disease, 2014, 6.Suppl 7: S689.
TAJIRI, Tomoko, et al. The causes of acute cough: a tertiary-care hospital study in Japan. Journal of Asthma, 2021, 58.11: 1495-1501.
HAMASAKI, Yuhei, et al. Japanese guideline for childhood asthma 2014. Allergology International, 2014, 63.3: 335-356.
YAMASAKI, Akira, et al. Cough and asthma diagnosis: physicians’ diagnosis and treatment of patients complaining of acute, subacute and chronic cough in rural areas of Japan. International journal of general medicine, 2010, 101-107.
ARAKAWA, Hirokazu, et al. Japanese guidelines for childhood asthma 2020. Allergology International, 2020, 69.3: 314-330.