「喘息かもしれないけれど、どんな検査をするのだろう」「レントゲン検査で喘息はわかるの?」といった疑問をお持ちではありませんか。
気管支喘息の診断や経過観察において胸部レントゲン検査(胸部X線検査)は重要な役割を果たします。しかし、レントゲン検査だけで喘息と確定診断できるわけではありません。
この記事では喘息の診断におけるレントゲン検査の位置づけ、何がわかるのか、他の検査との組み合わせ、そして経過観察での活用法について呼吸器内科の視点から詳しく解説します。
喘息とレントゲン検査の基本
まず、気管支喘息という病気と胸部レントゲン検査の基本的な情報を理解しましょう。
気管支喘息とは
気管支喘息は空気の通り道である気道(気管支)が慢性的に炎症を起こし、様々な刺激に対して過敏になる病気です。
発作的に気道が狭くなり、咳、痰、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)、呼吸困難などの症状が現れます。アレルギーが関与することが多いですが、そうでない場合もあります。
胸部レントゲン検査(胸部X線検査)とは
胸部レントゲン検査はX線を胸部に照射し、体内の組織の透過性の違いを画像として映し出す検査です。肺、心臓、大血管、肋骨などの状態を簡便に確認できます。
放射線を使用しますが、検査1回あたりの被ばく量はごく微量で健康への影響は心配いりません。
喘息診断におけるレントゲン検査の位置づけ
喘息の診断は特徴的な症状の問診、呼吸機能検査、アレルギー検査などを総合的に評価して行います。
胸部レントゲン検査は喘息を直接的に写し出すものではありませんが、他の呼吸器疾患(肺炎、肺結核、肺がん、心不全など喘息と似た症状を呈する病気)を除外したり、喘息の合併症を確認したりするために重要な検査です。
これは喘息の検査の中でも基本的なものの一つと言えます。
喘息診断の主な柱
検査・評価項目 | 主な目的 |
---|---|
問診 | 症状の聴取、既往歴、家族歴、生活環境の確認 |
呼吸機能検査 | 気道の狭窄の程度、可逆性の評価 |
胸部レントゲン検査 | 他の疾患の除外、合併症の確認 |
アレルギー検査 | アレルゲンの特定(アレルギー性喘息の場合) |
喘息診断におけるレントゲン検査の役割
胸部レントゲン検査が喘息の診断においてどのような役割を担うのかを具体的に見ていきましょう。
喘息を直接診断するものではない
重要な点として、胸部レントゲン検査で喘息そのものを「見る」ことはできません。喘息の気道の炎症や狭窄はレントゲン写真にはっきりと写るものではないためです。
したがって、レントゲンで異常がないからといって喘息ではないとは限りません。
他の呼吸器疾患との鑑別
咳や呼吸困難といった症状は喘息以外にも様々な呼吸器疾患でみられます。例えば肺炎、気管支炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺結核、肺がん、間質性肺炎などです。
胸部レントゲン検査はこれらの病気に特徴的な影(浸潤影、腫瘤影など)がないかを確認し、喘息と他の病気とを区別(鑑別診断)するのに役立ちます。
合併症の確認
喘息患者さんが肺炎を合併することがあります。特に重症の喘息発作時や、コントロールが不良な場合に起こりやすいです。
胸部レントゲン検査は肺炎の合併の有無を確認するために行われます。
また、まれに気胸(肺に穴が開いて空気が漏れる状態)を合併することもあり、その診断にもレントゲン検査は有用です。
レントゲン検査で除外・確認する主な疾患や状態
- 肺炎
- 肺結核
- 肺がん
- 心不全
- 気胸
喘息に特徴的とされる間接的な所見
喘息患者さんのレントゲン写真では特徴的な異常所見がないことが多いですが、時に間接的な所見が見られることがあります。
例えば気管支の壁が厚く見える(気管支壁肥厚)、肺が通常より膨らんで見える(肺の過膨張)などです。
ただし、これらの所見は喘息に特有のものではなく、他の疾患でも見られることがあるため、診断の決め手にはなりません。
レントゲン検査で何がわかるのか
胸部レントゲン検査によって具体的にどのような情報が得られるのでしょうか。
正常なレントゲン画像との比較
医師は撮影されたレントゲン画像を正常な画像パターンと比較し、異常な影や変化がないかを確認します。
肺の大きさ、形、血管の走行、心臓の大きさ、横隔膜の位置などを総合的に評価します。
喘息患者さんに見られることがある所見
前述の通り、喘息患者さんのレントゲン写真は正常範囲内であることが多いです。
しかし、慢性的な炎症や気道のリモデリング(構造変化)が進行している場合や、発作時には以下のような所見が認められることがあります。
喘息患者のレントゲンで見られる可能性のある所見
所見 | 説明 | 注意点 |
---|---|---|
肺の過膨張 | 空気が肺の中にたまり、肺が大きく膨らんで見える | COPDなど他の疾患でも見られる |
気管支壁肥厚 | 気管支の壁が厚く見える | 慢性気管支炎などでも見られる |
横隔膜低位 | 肺の過膨張に伴い、横隔膜が下に押し下げられる | COPDなどでも見られる |
これらの所見はあくまで補助的な情報であり、診断を確定するものではありません。
肺炎や気胸、心不全などの除外
喘息と似た症状を引き起こす肺炎、気胸、心不全などはレントゲン検査で特徴的な画像所見を示すことが多いです。
例えば肺炎では肺に白い影(浸潤影)が。気胸では肺がしぼんだ像が、心不全では心臓の拡大や肺うっ血の所見が見られます。
これらの所見がないことを確認することは喘息診断の精度を高める上で重要です。
小児喘息におけるレントゲン所見
小児喘息の場合も基本的な考え方は成人と同様です。レントゲン検査は肺炎や気道異物など他の疾患を除外するために行われます。
特に乳幼児では気道が細いため、ウイルス感染による気管支炎でも喘鳴や呼吸困難を起こしやすく、喘息との鑑別が難しい場合があります。
レントゲン所見はその判断材料の一つとなります。
喘息診断のためのその他の重要な検査
レントゲン検査は喘息診断の一部であり、他の検査と組み合わせて総合的に判断します。
呼吸機能検査(スパイロメトリー)
喘息診断において中心的な役割を果たす検査です。
息を吸ったり吐いたりする能力を測定し、気道が狭くなっているかどうか(閉塞性換気障害)、その狭窄が気管支拡張薬によって改善するかどうか(可逆性)を評価します。
喘息に特徴的なのは気管支拡張薬の吸入後に1秒量(FEV1)や努力肺活量(FVC)が有意に改善することです。
気道過敏性試験
気道がどれだけ刺激に敏感になっているかを調べる検査です。
ヒスタミンやメサコリンといった薬剤を薄い濃度から段階的に吸入し、気道が収縮して呼吸機能が低下するかどうかを見ます。
喘息患者さんでは健常な人に比べて低い濃度の薬剤で気道収縮が誘発されます。呼吸機能検査で明らかな異常がない場合に診断の補助として行うことがあります。
アレルギー検査
喘息の原因としてアレルギーが疑われる場合に行います。
血液検査(特異的IgE抗体検査)や皮膚テスト(プリックテストなど)で、ダニ、ハウスダスト、花粉、ペットのフケ、カビなど、特定のアレルゲンに対する反応を調べます。
アレルゲンを特定できれば、その回避策を講じることが治療に繋がります。
アレルギー検査の種類
検査方法 | 特徴 |
---|---|
血液検査(特異的IgE抗体) | 採血により、複数のアレルゲンに対する抗体を一度に調べられる |
皮膚テスト(プリックテスト) | アレルゲン液を皮膚に垂らし、専用の針で軽く押さえて反応を見る |
喀痰検査や呼気NO(一酸化窒素)検査
喀痰検査では痰の中に含まれる好酸球という種類の白血球の割合を調べます。アレルギー性の炎症があると好酸球が増加するため、喘息の診断や炎症の程度の評価に役立ちます。
呼気NO(一酸化窒素)検査は吐く息の中に含まれる一酸化窒素の濃度を測定する検査です。
気道に好酸球性の炎症があると呼気NO濃度が上昇するため、喘息の診断補助や治療効果のモニタリングに用います。
レントゲン検査の進め方と注意点
実際に胸部レントゲン検査を受ける際の一般的な流れや注意点について説明します。
検査前の準備と服装
特別な食事制限などはありません。
検査着に着替える場合もありますが、金属やプラスチック、厚手のプリントなどがない無地のTシャツなどであれば、そのまま撮影できることもあります。ネックレスや湿布、カイロなどは外す必要があります。
妊娠中またはその可能性がある方は必ず事前に医師や放射線技師に申し出てください。
検査中の体位と息止め
通常、立った状態で胸部を撮影装置の板につけて撮影します(正面像)。必要に応じて体の側面から撮影することもあります(側面像)。
撮影時には放射線技師の指示に従い、息を深く吸い込んで止める必要があります。
息止めが不十分だと画像がぶれて正確な評価が難しくなることがあります。
放射線被ばくについて
胸部レントゲン検査1回あたりの放射線被ばく量は自然界から1年間に受ける自然放射線量よりも少ないごく微量です。
検査による利益が被ばくによるリスクをはるかに上回ると考えられる場合にのみ実施しますので、過度な心配は不要です。ただし、不必要な検査を繰り返すことは避けるべきです。
検査結果の説明と理解
撮影されたレントゲン画像は放射線科医または担当医が読影(画像を解釈して診断すること)し、その結果を患者さんに説明します。
画像を見ながら異常所見の有無やその内容、今後の対応などについて話し合います。疑問点があれば遠慮なく質問しましょう。
レントゲン検査の流れ
- 受付・問診
- 必要に応じて更衣
- 撮影室へ移動
- 撮影(息止めなど技師の指示に従う)
- 検査終了・着替え
- 後日または当日に結果説明
喘息の経過観察におけるレントゲン検査の活用
喘息と診断された後も治療の経過や状態の変化を把握するためにレントゲン検査を行うことがあります。
定期的な検査の必要性
喘息のコントロールが安定している場合、必ずしも定期的にレントゲン検査を行うわけではありません。
しかし、症状の変化や他の合併症が疑われる場合には必要に応じて検査を検討します。医師が患者さんの状態を総合的に判断し、検査の必要性を決定します。
症状悪化時のレントゲン検査
喘息の症状が急に悪化した場合や普段と違う症状(例えば、高熱や膿性の痰、胸痛など)が出現した場合には肺炎や気胸などの合併症を疑い、胸部レントゲン検査を行うことがあります。
このときの所見は治療方針を決定する上で重要な情報となります。
治療効果の判定(間接的に)
喘息治療によって、例えば合併していた肺炎が改善したかどうかなどをレントゲンで確認することがあります。
喘息自体の気道の炎症がレントゲンで直接評価できるわけではありませんが、合併症の改善は治療がうまくいっている一つの指標となります。
長期管理におけるレントゲンの役割
長期間にわたる喘息の管理において胸部レントゲン検査は主に他の疾患のスクリーニングや合併症の早期発見という点で役割を果たします。
特に喫煙歴のある方や高齢者では肺がんなど他の呼吸器疾患のリスクも考慮する必要があるため、定期的な健康診断の一環としてレントゲン検査を受けることが推奨される場合もあります。
経過観察でのレントゲン検査の主な目的
目的 | 具体的な状況 |
---|---|
合併症の確認 | 症状悪化時、発熱時など |
他の疾患のスクリーニング | 定期健診、長期間のフォローアップ時 |
治療効果の確認(合併症に対して) | 肺炎治療後など |
よくある質問
喘息とレントゲン検査に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Qレントゲンだけで喘息と診断できますか?
- A
いいえ、胸部レントゲン検査だけで喘息と診断することはできません。
レントゲン検査は喘息と似た症状を引き起こす他の病気がないかを確認したり、合併症の有無を調べたりするために行います。
喘息の診断は詳しい問診、呼吸機能検査、アレルギー検査などの結果を総合的に判断して行います。
- Q喘息の治療中にレントゲンは何度も撮るのですか?
- A
喘息のコントロールが良好で、特に症状に変化がなければ頻繁にレントゲン検査を行う必要はありません。
しかし、喘息の症状が悪化した場合、発熱や胸痛など新たな症状が出た場合、あるいは肺炎などの合併症が疑われる場合には状態を評価するためにレントゲン検査を行います。
医師が必要と判断した場合に実施します。
- Q子供がレントゲン検査を受けても大丈夫ですか?
- A
はい、医師が必要と判断した場合にはお子さんでも胸部レントゲン検査を受けることがあります。
検査による放射線被ばく量はごくわずかで、診断によって得られる利益の方が大きいと考えられます。
撮影時にはお子さんが動かないように保護者の方に協力をお願いすることもあります。
妊娠中の可能性のある女性技師は撮影を控えるなど、医療機関側も配慮しています。
- Qレントゲンで異常がなければ喘息ではないのですか?
- A
いいえ、そうとは限りません。喘息患者さんの胸部レントゲン写真は多くの場合、正常範囲内です。
レントゲンで異常がないからといって喘息を否定することはできません。喘息の診断には症状の経過や呼吸機能検査など他の情報がより重要になります。
以上
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