尿に関するトラブルがあると、生活の質が落ちるだけでなく、日常的な不安やストレスにつながりやすいです。自分自身の症状をきちんと把握するためには、客観的なデータに基づいた評価が大切です。

尿流動態検査(排尿機能検査 / Urodynamic Study / UDS)は、その手がかりを得るために考えられた検査方法です。

本記事では、検査の具体的な内容や受ける前の心構え、検査のメリット・デメリットなどを詳しく解説します。

受診をためらっている場合や、詳しい情報を探している場合は、一度目を通してみてください。長年の悩みを解決する糸口になるかもしれません。

尿流動態検査の基礎知識

尿流動態検査(Urodynamic Study)は、排尿機能を総合的に調べるための方法です。尿の出方や膀胱内圧など、体からのサインを「見える化」することで、さまざまな排尿障害の要因をより深く理解しやすくなります。

検査の概要

医師は尿路の機能を評価するために、複数の手順を組み合わせて尿流動態検査を行います。具体的には、尿の流量・圧力・残尿などを測定し、排尿障害の程度や原因をより客観的に把握します。

過活動膀胱や尿失禁、排尿困難などが気になったときに、この検査が選択肢の一つになります。

排尿の状況を客観的な数値やグラフで示すため、患者自身も自分の状態を把握しやすくなります。自覚症状だけでなく、他の要因との関連を明確に示すうえで重要な検査といえます。

尿流動態検査が必要となる症状

排尿機能に異常が疑われる場合、医師は尿流動態検査を視野に入れます。具体的には、以下のような症状で活用されることが多いです。

  • 尿をする回数が多い(頻尿)
  • 急に尿意を感じ、トイレに間に合わない(尿失禁)
  • 尿が出にくい、出はじめるまでに時間がかかる(排尿遅延)
  • 排尿後もすっきりしない感じが残る(残尿感)

自覚症状だけで判断するのが難しいケースでも、実際のデータを取得することで根本的な原因に近づけます。

排尿トラブルと尿流動態検査の関係をまとめた表

主な症状想定される原因例検査の必要性
頻尿過活動膀胱、尿路感染症など実際の膀胱容量や圧力を確認して原因を探る
尿失禁過活動膀胱、骨盤底筋のゆるみなどどのように尿が漏れているのか把握する
排尿遅延前立腺肥大症、尿道狭窄など尿流速度や尿道抵抗を客観的に測定
残尿感神経因性膀胱など排尿後の残尿量を測って診断を補強

検査の目的

尿流動態検査の目的は、単に「尿が出るかどうか」を測るだけではありません。排尿時の膀胱や尿道の圧力、尿の流れ方、残尿量などを総合的に確認して、正常なパターンとの違いを見いだすことを重視します。

医師は、得られたデータを使って原因を特定し、今後の治療方針を決めるうえで指針を立てやすくします。

多くの排尿障害には、単独の原因だけでなく複数の要因が絡む場合があります。尿路の状態と神経系の連動を多角的に知ることで、薬物療法やリハビリテーションなどを適切に検討できるようになります。

尿流動態検査に含まれる種類

尿流動態検査は複数の測定方法を組み合わせて実施するため、総合的な検査といえます。主なものには以下のような種類があります。

  • 尿流測定(ウロフロメトリー)
  • 膀胱内圧測定(シストメトリー)
  • 尿道内圧測定
  • 残尿測定(超音波やカテーテルを使った方法)

これらを組み合わせることで、より正確なデータを得られます。医師は症状や病歴を踏まえ、必要な測定を選択します。

検査前の準備と注意点

尿流動態検査を受けるにあたっては、事前にいくつかの準備が必要です。服薬の有無や生活習慣によって注意するポイントがあるため、診察の際に医師やスタッフに確認すると安心です。

受診前のヒアリングで重要なポイント

初診時や受診前の聞き取り(問診)は、検査方針を決めるうえで重要です。

症状の経緯や程度、日常生活の中で特に困るタイミングなどを具体的に伝えると、医師は必要な検査の組み合わせを判断しやすくなります。

加えて、既往症や現在の服薬状況も把握しておくと、検査の影響を最小限に抑えられます。

ヒアリング時に伝えやすくなるチェックリスト

  • 尿がどのくらいの頻度で気になるか
  • いつごろから症状を感じるようになったか
  • どのようなときに強い尿意を感じるか
  • 排尿に関連する痛みや違和感の有無
  • 普段から服用している薬やサプリメントの種類

ヒアリングで上記の点を整理しておくと、検査当日もスムーズです。

事前に控えることや気をつけること

検査前は、カフェインやアルコールの摂取量に注意した方がよい場合があります。

カフェインやアルコールは利尿作用があるため、検査結果に影響する可能性があるからです。医師から特別な指示がある場合は、その指示に従ってください。

また、検査日は膀胱に尿をためておく必要があることも多いです。検査直前に排尿をしないよう指示を受けることがあります。指示を守ることで、より正確な測定が期待できます。

持参が推奨されるもの

病院へ行くときは、下着の替えや、状況によってはナプキンなどを持参すると安心です。

検査内容によっては、少量の水分摂取を行いながら実施することもあり、急な尿意で下着が濡れる可能性があるためです。心配な場合は、気兼ねなく医療スタッフに相談してください。

検査日当日にあると便利な持ち物をまとめた表

持参物理由・役立つ場面
替えの下着万一下着が濡れた場合にすぐ着替えられる
タオルやティッシュちょっとした汚れや水分を拭き取るために使いやすい
生理用品女性の場合、いざというときに気持ちの面で安心できる
服用中の薬の情報医師が正確に検査方針を立てるうえで参考になる
メモ帳・ペン気づいたことをすぐにメモできる

気になる点を医師に伝えるタイミング

検査前にわからないことや不安があれば、遠慮なく医師に質問してみてください。

とくに「検査に痛みがあるのか」「どのくらい時間がかかるのか」「検査当日の食事や水分摂取はどうすればいいのか」などは、よくある疑問です。

直接確認しながら進めると、検査当日に落ち着いて臨めます。

検査の実際の流れ

尿流動態検査は、いくつかのステップを組み合わせて行います。症状や疑われる疾患によって組み合わせは異なりますが、ここでは代表的な流れを紹介します。

尿流測定(ウロフロメトリー)

ウロフロメトリーは、尿を排出するときの速度や量をグラフ化する検査です。専用の計測器(尿流測定装置)に排尿し、その際の最大尿流速度や排尿量を記録します。

測定中は普段と同じように排尿を行うだけなので、比較的負担が軽い手順として位置づけられています。

  • 尿流速度(ml/秒)
  • 最大尿流速度(Qmax)
  • 総排尿量(ml)
  • 排尿時間(秒)

これらの数値を総合的に見ると、尿道や膀胱の状態を推察できます。医師は、このデータをほかの検査結果と組み合わせて原因を分析します。

ウロフロメトリーに適したタイミングを整理した表

タイミング主なポイント
膀胱に尿が十分にたまった状態正確な最大尿流速度と排尿量を測定しやすい
強い尿意を感じる瞬間患者の実際の排尿パターンを捉えやすい
無理やり尿をため過ぎない程度過度の我慢は膀胱機能を逆に誤解させる可能性がある

膀胱内圧測定(シストメトリー)

膀胱内圧測定では、カテーテルを使って膀胱に生理食塩水を注入しながら膀胱内の圧力変化を調べます。

どの段階で尿意を感じるか、最大容量はどれくらいかなどがわかるため、過活動膀胱や神経因性膀胱などの診断に役立ちます。

実際には、カテーテルを挿入する際に多少の違和感を覚えることがありますが、医師や看護師が声をかけながら進めます。

シストメトリーによって得られたデータは、ほかの検査結果と合わせて総合的に判断します。

膀胱壁の状態や反射的に起こる収縮のタイミングなどもわかるため、治療方針を決めるうえで医師が参考にしやすくなります。

尿道内圧測定

尿道内圧測定は、尿道内の圧力を確認する検査です。カテーテルをゆっくり引き抜きながら、尿道の圧力分布を調べます。

尿失禁の一因として尿道の締まり具合が足りないケースが考えられるため、この検査で尿道括約筋の機能を客観的に見極めることができます。尿漏れの重症度や原因をより精密に評価する助けになります。

残尿測定

排尿後の残尿量を調べる方法です。カテーテルや超音波検査を用いることが多く、排尿直後に尿がどれくらい膀胱に残っているかを把握します。

残尿量が多いと、感染や腎機能障害などを引き起こすリスクが高まると考えられます。残尿測定によって、そのリスクの程度を捉えられるので、治療方針の見直しに役立ちます。

尿流動態検査の各ステップを一覧化した表

検査名称内容所要時間の目安
尿流測定(ウロフロ)尿の速度や量を測定し、排尿パターンを分析数分~10分前後
膀胱内圧測定(シストメトリー)カテーテルで膀胱内に液体を入れ、圧力の変化を調べる15分~30分程度
尿道内圧測定カテーテルを引き抜きながら尿道の圧力を計測10分~15分程度
残尿測定超音波やカテーテルで膀胱内の尿の残量を調査数分~10分前後

検査結果の読み方と解釈

尿流動態検査の結果は、多数の数字やグラフが並ぶため、一見複雑に感じるかもしれません。

医師はそれらを総合的に見て診断を行います。患者本人も、どの部分に異常や特徴があるのかを簡単に知ると、病気や症状への理解が深まります。

尿流パターンのタイプ

ウロフロメトリーで得られる排尿パターンには、いくつか代表的なタイプがあります。

急激に尿が出はじめるタイプ、ゆるやかに持続するタイプ、波を打つようなタイプなどです。これらの形状から、尿道抵抗や膀胱機能の傾向を推察します。

ウロフロメトリーで示される代表的な尿流パターンの例

  • 「鐘型(ベル型)」:勢いよく始まり、なだらかに減少して終わる
  • 「平坦型」:一定の速度で排尿が続く
  • 「不安定型」:波打つように速度が変動し、途切れがちになる

パターンに応じて、前立腺肥大や尿道狭窄、神経因性膀胱などが疑われることもあります。

圧と容量の関係

シストメトリーでわかるのは、膀胱に液体がたまる時の圧力変化や、どの時点で尿意を感じるかです。

通常、膀胱はゆっくりとしたペースで拡張し、ある程度の量で尿意を感じ始めますが、過活動膀胱などの状態だと少ない量でも強い尿意が生じる場合があります。

圧と容量の関係から、膀胱の感受性の異常や壁の硬さの変化などを推測します。

残尿量の意味

残尿量が多いと、膀胱に常に尿がたまっている状態になりやすいです。排尿困難や高齢者の場合、残尿が増えて感染リスクや腎機能への負担が高まるケースがあります。

逆に残尿量が少ない場合は、膀胱収縮力が十分に働いている可能性があり、他の要因に着目すべきかもしれません。

総合的な診断と次のステップ

単一の検査結果だけで結論を出すのではなく、問診やほかの検査と組み合わせて総合的に診断します。

医師は得られたデータから、薬物療法の選択、骨盤底筋トレーニングの導入、必要であれば手術などを検討します。

患者としても自分の状態を理解することで、治療や生活習慣の改善に主体的に取り組みやすくなります。

総合診断とその後の対応をまとめたリスト

  • 症状の重症度や種類を総合評価
  • 薬物療法の候補を検討(抗コリン薬、β3作動薬など)
  • 骨盤底筋のリハビリや生活習慣の見直し
  • 追加検査の実施(画像検査や血液検査など)
  • 手術の必要性を含む長期的な治療計画

検査を受けるメリットとデメリット

尿流動態検査は排尿機能を詳しく調べるうえで意義がありますが、検査特有の負担やリスクも存在します。メリットとデメリットを知ることで、検査に対する理解が深まります。

メリット:客観的な評価

尿流量や膀胱内圧などの数値は、自覚症状だけでは見えにくい部分を明確にしてくれます。これにより、医師は原因を突き止めやすくなり、患者は自分の状況を把握しやすくなります。

漠然とした不安をデータに置き換えることで、今後の治療方針を冷静に考えやすくなる点も利点のひとつです。

メリット:治療方針の明確化

検査結果によっては、薬物療法だけでなくリハビリテーションなどの物理的アプローチが必要かもしれません。尿失禁でも、腹圧性失禁と切迫性失禁では治療アプローチが異なります。

尿流動態検査を受けると、どちらのタイプに近いかを客観的に知るきっかけになります。

尿失禁タイプ別の主な特徴をまとめた表

尿失禁タイプ主な特徴治療アプローチの例
腹圧性失禁くしゃみ・咳・運動時など、腹圧上昇時に尿が漏れる骨盤底筋トレーニング、外科的手術など
切迫性失禁突然の強い尿意が起こり、トイレが間に合わないことが多い抗コリン薬、β3作動薬などの薬物療法、行動療法
混合性失禁腹圧性失禁と切迫性失禁の両方の特徴がある両方の治療を組み合わせた総合的アプローチ

デメリット:検査への負担やリスク

カテーテルを使用する検査が含まれる場合、尿道や膀胱に軽度の違和感や痛みを伴うことがあります。検査後に一時的な血尿が出ることもまれにありますが、多くの場合は経過を観察すると自然に治まります。

感染を防ぐために抗生剤を処方されることもあり、注意が必要です。

検査自体にかかる時間や精神的負担も無視できません。何度も排尿を求められたり、カテーテルの出し入れがあったりと慣れないことが続くため、検査当日はややストレスを感じるかもしれません。

デメリット:精密機器の扱い

尿流動態検査で使う機器は医療現場では広く利用されますが、測定に際して準備が必要です。計測装置やカテーテルの取り扱いに時間や手間がかかります。実施する側の熟練度も結果の精度に影響しやすいです。

しかし、信頼できる医療スタッフがそろっていれば、適切に手技を行ってくれます。

検査前後で気をつけるポイントを整理したリスト

  • カテーテル挿入時に痛みや違和感を覚えたら、すぐ申し出る
  • 終了後は水分をしっかり摂取して、排尿を促す
  • 熱感や痛みが続く場合は、お近くの医療機関に相談
  • 当日は激しい運動や長湯などを控える
  • 処方された抗生剤がある場合は指示に沿って飲み切る

よくある質問と疑問点

尿流動態検査に興味があっても、不安や疑問があると検査を受ける決心がつきにくいかもしれません。

ここでは、患者がよく抱く質問や悩みに対して解説します。疑問を一つひとつ解消することで、検査への理解が深まります。

検査の痛みと対処法

カテーテルを挿入する際に、尿道や膀胱に違和感やわずかな痛みを感じることがあります。ゼリー状の潤滑剤で痛みを軽減したり、丁寧に挿入手順をとることで負担を抑えられます。

痛みが強いときは、遠慮せず医師や看護師に伝えましょう。痛みの感じ方は個人差がありますが、不安な場合は事前に相談すると安心です。

検査後の日常生活での注意

検査直後は、軽い血尿や違和感が生じる場合があります。多くは一時的で問題にならないことが多いですが、痛みが増したり血尿が長引く場合は受診した医療機関に連絡してください。

検査当日は無理をせずに、激しい運動や飲酒などは控えたほうがトラブルを避けやすくなります。

検査後によくある症状と対処方法をまとめた表

症状対処方法
軽度の血尿・ピンク色の尿水分を多めに摂取して、様子を見る。悪化する場合は早めに受診。
尿道や膀胱の違和感おだやかに過ごして安静を保ち、温かい飲み物でリラックスを試みる。
軽い痛み・ヒリヒリ感痛み止めの使用の可否を医師に確認し、トイレ後にしっかり拭き取りを行う。
発熱早めにお近くの医療機関に相談し、感染の有無を確認してもらう。

費用や保険適用の範囲

尿流動態検査は保険診療の対象となることが多いです。ただし、どの検査が組み合わされるか、また初診料や再診料、追加検査の有無によって自己負担額が変わります。

医療機関の窓口で保険証を提示すれば、詳細な費用を説明してもらえます。納得いくまで確認すると、後で戸惑うことを減らせます。

不安がある場合の対処策

検査に対して漠然とした不安がある場合は、主治医や看護師に「どの部分が具体的に心配なのか」を伝えてみてください。

痛みなのか、結果なのか、費用なのかなど、心配している内容によって対処法が異なります。納得するまで話を聞いてもらうことが大切です。

他の検査との併用

尿流動態検査だけでは判断がつきにくい場合、超音波検査やCT、MRI、血液検査などを併用することがあります。

たとえば結石や腫瘍などが疑われるケースや、神経因性膀胱を診断する際には画像検査なども組み合わせると診断精度が高まります。複数の検査結果をもとに総合的に判断することが大切です。

尿流動態検査と併用されることが多い検査

  • 腹部超音波(エコー)検査
  • レントゲン検査(KUB撮影など)
  • 血液検査(腎機能・感染症の有無)
  • 尿検査(一般尿検査、尿培養など)
  • MRI・CTなどの画像検査

上記のように、多角的なアプローチを行うと排尿障害の原因特定に役立ちます。


以上が尿流動態検査(排尿機能検査 / Urodynamic Study / UDS)の概要や流れ、注意点、メリットとデメリット、そして疑問に対する解答です。

排尿に関する不調はデリケートな悩みですが、客観的に原因を把握することが大切です。尿流動態検査は、治療方針の検討に役立つ多くの情報をもたらします。

ただし、検査に伴う負担やリスクもあるため、検査の必要性を医師と相談しながら慎重に決めることが大切です。もし少しでも気になる症状があれば、無理をせずお近くの医療機関に相談するとよいでしょう。

以上

参考にした論文