近年、人々の健康志向が高まるにつれ、自分の体内で起こっている代謝やホルモンの状態を詳しく知りたいと望む方が増えています。

ホルモンの異常は、疲労感や体重の増減、睡眠障害など、さまざまな不調につながる可能性があります。そこで、内分泌学的検査が注目を集めています。

これは血液や尿などを使ってホルモンの量やその働きを調べるもので、体内のバランスを把握するうえで大切です。

以下では、検査内容やどのような症状で検査を検討するか、さらに検査の流れなどを詳しく解説します。お近くの医療機関を受診するかどうか迷っている方にとって、判断材料になれば幸いです。

内分泌学的検査とは

体内で分泌されるホルモンの異常を見つけるために行う検査が、内分泌学的検査です。ホルモンは体のさまざまな働きを調整する役割を持ち、バランスが崩れると多岐にわたる症状が表れる可能性があります。

検査では血液や尿、あるいは唾液などの検体を用い、特定のホルモンがどの程度分泌されているかを調べます。

内分泌とホルモンの基礎

内分泌系は、体内環境を安定させるためにホルモンを血流に乗せて全身に送る仕組みを指します。

ホルモンは特定の臓器や細胞に作用して、成長、代謝、血圧の維持、体温調整など、さまざまな生理機能をコントロールします。人が健康的に生活するうえで、ホルモンの微妙なバランスを保つことが重要です。

内分泌学的検査の意義

内分泌学的検査は、ホルモンが多すぎる状態や少なすぎる状態など、体内で起こっている異常を発見するために重要です。

例えば、甲状腺ホルモンの異常によって基礎代謝が上がりすぎたり下がりすぎたりする場合がありますし、副腎皮質ホルモンの分泌過多や分泌不足が見つかる場合もあります。

これらの検査結果をもとに、医師が他の検査と組み合わせて総合的に判断します。

対象となる検体

内分泌学的検査で用いる主な検体は血液です。必要に応じて尿や唾液を採取して検査を行う場合もあります。

血液検査は採血時のホルモン値を把握しやすい一方、尿検査は一定期間に排泄されたホルモン代謝産物を測定できる利点があります。

また唾液検査はストレスホルモン(コルチゾールなど)の日内変動を調べる際に用いられることがあります。

一般的な検査方法の概要

血液検査の場合、腕の静脈から採血を行い、その血液を分析装置にかけてホルモン濃度を測定します。検査では複数項目をまとめて測定することもあり、異なるホルモンのバランスを同時に確認できます。

場合によっては、特定の薬剤を投与して反応を見る「負荷試験」が行われることもあります。

結果の読み取りと医師との連携

検査結果では、基準値との比較によってホルモンの過不足を評価します。

ただし、一回の測定値だけで判断することは少なく、再検査やほかの検査方法と照合して総合的に診断するケースも珍しくありません。結果の解釈や今後の方針については、医師とよく相談してください。

内分泌学的検査で調べる主なホルモン機能

さまざまなホルモンが体内で機能しており、それぞれ特定の役割を担っています。どれか1つのホルモンが不足または過剰になると、別のホルモンがそれを補ったり、逆に症状を悪化させたりする場合があります。

複雑に絡み合うホルモンの働きを理解するうえで、各ホルモンがどのように体に影響を与えるか把握することが大切です。

甲状腺ホルモン

甲状腺ホルモンには、甲状腺が分泌するT3(トリヨードサイロニン)やT4(サイロキシン)などがあります。体の代謝率を高める機能を持ち、エネルギーの消費速度や発汗、心拍数などに関係します。

過剰な場合は動悸や体重減少など、不足の場合は体重増加や倦怠感などの症状を引き起こすことがあります。

副腎皮質ホルモン

副腎皮質ホルモンには、コルチゾールやアルドステロンなどがあります。コルチゾールはストレス応答に関与し、血圧や血糖値の維持に影響を与えます。アルドステロンは体内の塩分や水分量を調節します。

過剰分泌や不足があると血圧の異常やむくみ、脱力感などが起こる可能性があります。

性ホルモン

男性ホルモン(テストステロン)や女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)は生殖機能だけでなく、骨や筋肉の状態、精神面など幅広い影響を及ぼします。

バランスの乱れは生理不順や更年期症状、性機能障害などを引き起こすことがあるため、注意が必要です。

成長ホルモン

成長ホルモンは、成長期の骨や筋肉の発達をサポートし、代謝にも影響を与えます。

成人になっても、たんぱく質合成や脂肪分解の促進などに関与するため、減少しすぎると筋力の低下や体脂肪の増加につながる場合があります。

血中濃度は日内変動があるため、負荷試験などを組み合わせて測定することがよくあります。

インスリン

インスリンは血糖値を調整する重要なホルモンで、膵臓のβ細胞から分泌されます。分泌量が減ると血糖値が上昇しやすくなり、糖尿病のリスクが高まります。

一方で、インスリンの過剰分泌やインスリン抵抗性が生じる場合もあり、代謝異常を引き起こすことがあります。

検査が必要な症状やきっかけ

次は、どのような状態のときに内分泌学的検査を検討するかという点です。

何らかの不調があるときはもちろん、症状がなくても特定のリスク因子がある場合は、早めに検査を受けて把握しておくことが重要になります。

倦怠感や体重の急激な増減

長期間続く倦怠感や急激な体重変動はホルモンバランスの乱れを疑うサインの1つです。

食習慣や生活習慣を大きく変えていないにもかかわらず体重が増加・減少する場合は、甲状腺ホルモンや副腎ホルモンに異常がないか検査を考えることがあります。

血圧や血糖値の異常

高血圧や低血圧、空腹時血糖の著しい異常が続く場合、副腎皮質ホルモンやインスリンなどの分泌異常が関わることがあります。

生活習慣の改善だけではコントロールしづらい血圧や血糖値の変動がある場合は、ホルモン検査で原因を突き止めることが大切です。

月経異常や更年期症状

生理不順や更年期障害は女性ホルモンの分泌バランスが崩れている可能性を示します。

女性ホルモンだけでなく、甲状腺ホルモンや副腎ホルモンとの連携も考慮する必要があるため、血液検査や尿検査などで総合的なホルモン状態を確認することで原因を特定できる場合があります。

睡眠障害や夜間の疲労回復不良

睡眠が浅い、あるいは夜間に十分寝ても疲労が取れにくいと感じる場合は、ストレスホルモンや睡眠ホルモンの異常が原因のこともあります。

ストレスホルモンであるコルチゾールや、体内時計を調整するメラトニンの分泌状態を調べることで、原因の一端が明らかになる可能性があります。

骨密度の低下や筋力の衰え

年齢以上に骨密度が低下している、または筋力低下が顕著なときは、性ホルモンや成長ホルモン、さらには甲状腺ホルモンなどの値を確認することで、その背景を探れるかもしれません。

内分泌学的検査によって、それらの関連性を把握することは重要です。

代表的な検査項目:レニン活性、エリスロポエチン、レプチン、グレリン、メラトニン

ホルモンは数多く存在しますが、特に知っておきたい代表的な検査項目を5つ取り上げます。

レニン活性、エリスロポエチン、レプチン、グレリン、メラトニンの5種類は、それぞれ異なる機能を持ち、別々の疾患リスクや不調と関連する可能性があります。

レニン活性とは

レニンは主に腎臓から分泌され、血圧の維持や電解質バランスの調整に深く関わります。

体内のナトリウム濃度や血圧が下がったとき、腎臓がレニンを放出し、最終的にアンジオテンシンIIやアルドステロンを生成することで血圧を引き上げます。

レニン活性検査によって、血圧異常の原因やアルドステロン症などの可能性を探ることが可能です。

●レニン活性を測定する意義

  • 血圧の高い・低い状態が続く場合に原因を探る手がかり
  • 心血管リスクの評価に役立つ場合がある
  • アルドステロンやアンジオテンシンの濃度と合わせて総合的に診断

下の表は、レニン活性と関連する主な症状と考えられる要因をまとめています

レニン活性が高い場合の例 高血圧(特に腎性高血圧)、ナトリウム摂取量の低下、循環血液量の減少など
レニン活性が低い場合の例低血圧、アルドステロン分泌過多、腎機能低下など

レニン活性だけで確定診断に至ることは少なく、アルドステロン濃度との比率や腎臓の機能検査などを総合して判断することが多いです。

エリスロポエチンとは

エリスロポエチン(EPO)は赤血球の産生を促すホルモンで、主に腎臓で作られます。

酸素が不足する状態で分泌量が増える特徴があり、高地に住む人の体が低酸素環境に適応できるのはEPOの働きによるところが大きいです。

エリスロポエチンが不足すると貧血が進行しやすくなり、逆に過剰になると血栓リスクが高まる可能性があります。

EPO値の測定は、特に原因不明の貧血や多血症を疑うときに行います。下の表は、エリスロポエチンが変動する主なケースをまとめています

エリスロポエチン値が高い例高地暮らし(低酸素状態)、慢性肺疾患、腎臓腫瘍など
エリスロポエチン値が低い例腎不全、再生不良性貧血、慢性的な腎機能障害による産生低下など

EPO値の異常は、単独ではなく赤血球数やヘマトクリット値、血中ヘモグロビン濃度と照合して判断します。

レプチンとは

レプチンは脂肪細胞から分泌され、食欲を抑える働きを持つホルモンです。体脂肪が増えるとレプチンの分泌量が増加し、脳に「これ以上食べなくてもエネルギーが十分ある」というシグナルを送ります。

しかし、レプチン抵抗性という状態になると、分泌量が増えても脳がその信号を受け取りにくくなり、過食や肥満が進行することがあります。

●レプチンに関連するチェックポイント

  • 食欲増進や肥満傾向が続く場合
  • メタボリックシンドロームの疑い
  • 血糖値やインスリン抵抗性とも関連

下のテーブルは、レプチンと関連が深い要因と、その可能性についてまとめています

レプチン値が高い場合肥満、レプチン抵抗性、慢性炎症
レプチン値が低い場合極度のダイエット、体脂肪の著しい減少、摂食障害など

レプチン値とBMI、インスリンなどの総合的なデータを見比べて、栄養状態や肥満のメカニズムを明らかにすることができます。

グレリンとは

グレリンは胃から分泌され、食欲を増進させる働きを持つホルモンです。レプチンとは逆に、体内のエネルギー不足を感じると脳に「空腹だ」という信号を送ります。

グレリン値が高いと食欲が増し、値が低いと食欲が低下しやすくなります。

●グレリンに注目する理由

  • 摂食行動や肥満のメカニズムを理解するうえで重要
  • ダイエットや食事制限時の空腹感との関連
  • 食欲不振や摂取不足の原因を探る際の手がかり

胃手術後にグレリンの分泌量が減り、食欲不振や体重減少につながるケースもあります。また、過剰なストレスや睡眠不足でグレリン分泌が増え、過食に陥る可能性も報告されています。

下の表は、グレリン値が異常を示す場合に考えられる例です。

グレリン値が高い例ダイエット中(長期のカロリー制限)、ストレス過多、睡眠不足など
グレリン値が低い例胃の部分切除、重度の肥満(レプチンとの相互作用)、悪性腫瘍な

メラトニンとは

メラトニンは松果体から分泌されるホルモンで、睡眠と覚醒のリズム(概日リズム)を調整する役割を持ちます。夜間に分泌量が増加し、自然な眠りへ誘導する働きがあります。

強い光を浴びると分泌が抑制されるため、夜遅くまで明るい環境やスマートフォンの使用習慣などでメラトニン分泌の乱れが生じることがあります。

メラトニン検査は、睡眠障害の原因を調べる際に行うことがあります。体内時計が乱れると、昼間の眠気や夜間の不眠だけでなく、他のホルモン分泌にも影響が及びます。

下記は、メラトニン分泌と生活習慣との関連について整理したものです。

メラトニン分泌の低下要因 深夜までの強い光、ブルーライト、ストレス、シフト勤務など
メラトニン分泌の増加要因規則正しい生活リズム、夜間の照明を落とす、睡眠環境の整備など

メラトニン値を調べる場合は、唾液や尿を使って夜間の分泌量を確認する手法が用いられることがあります。

内分泌学的検査の進め方

実際に内分泌学的検査を受ける際の流れや注意点をまとめます。

医療機関によって細かい違いはありますが、大まかな流れとしては事前準備、検査、結果確認、追加検査の検討というステップを踏むことが多いです。

事前準備

検査項目によっては、検査前の食事や飲水、運動などの条件が指定される場合があります。例えば、血糖に関連するホルモンを調べる際には、前日の夜から絶食が必要になるケースがあります。

事前に医療機関からの指示をよく確認しておくことが大切です。

以下のようなポイントを意識しておくとスムーズに検査を受けやすくなります

  • 検査前日の過度なアルコール摂取や激しい運動を控える
  • 検査当日は必要であれば処方薬の服用状況を医師に伝える
  • 指示された絶食や水分補給のルールを守る

採血・採尿・唾液採取

多くの場合、最初に採血を行って必要なホルモン値を測定します。検査内容によっては、朝一番の尿を採取することや、決まった時間に唾液を採取することがあります。

ホルモン値は日内変動や食事の影響を受けるため、正確なデータを得るためにも時間帯を厳守します。

下記は、主な検査タイプとそれぞれの特徴です。

血液検査幅広いホルモンを同時測定しやすい。採血時のストレスで一部ホルモン値が変動する場合あり。
尿検査ホルモン代謝産物の総量を確認しやすい。日中の採取回数が多い場合は管理に注意が必要。
唾液検査コルチゾールやメラトニンなど日内変動を調べやすい。採取が比較的簡単。

採血や採尿だけで診断に至るわけではなく、医師が複数のデータをもとに総合的に評価します。

負荷試験

ホルモンによっては、通常の採血だけではなく負荷試験を行う場合があります。例えば、成長ホルモンの測定では糖負荷試験を行ったり、副腎皮質ホルモンの評価ではACTH刺激試験を行ったりします。

薬剤や糖分を摂取して、身体がどのように反応し、ホルモン分泌がどの程度変化するかを調べることで、より正確な診断につなげます。

結果の解釈と追加検査

検査結果が出た段階で数値が基準値から外れている場合、すぐに異常と決まるわけではありません。日内変動や体質、他の検査結果との兼ね合いをみて総合的に判断します。

必要に応じて追加の画像検査や別のホルモン測定を行い、原因を突き止めることがあります。

経過観察と生活習慣

内分泌学的検査の結果が境界域だった場合、生活習慣の見直しで改善しないか様子を見るケースもあります。特に軽度のホルモン異常には、食事や運動、睡眠などが大きく影響します。

定期的に検査を繰り返して変化を追うことで、病状の進行を防いだり、早期に対応したりすることが可能です。

受診を迷う方へのヒント

最後に、内分泌学的検査を受けるかどうか迷う方が確認すると役立つポイントをまとめます。

症状が気になる方だけでなく、リスクの高い状態にある方も、早めに検査を受けることで自分の体を把握できるかもしれません。

日頃の体調管理の重要性

ホルモンの乱れは、生活習慣と密接に関係しています。

睡眠不足やストレス、過度なダイエットや偏った食生活が続くと、甲状腺ホルモンや副腎ホルモン、さらにはレプチンやグレリン、メラトニンなど、さまざまなホルモンに影響を及ぼします。

日常的に体調を観察し、気になる変化があれば記録しておくと医師への相談がスムーズです。

検査のタイミングと頻度

血圧の高止まりが気になる時期や、体重変動が続く時期、さらには疲労感の強い時期など、特定の症状がある場合に検査を受けるケースが多いです。

年齢や基礎疾患の有無などによっても異なりますが、気になる症状がないときでも定期的な検査を受けるメリットがあります。特に甲状腺ホルモンや女性ホルモンは、年齢とともに変動しやすい傾向があります。

以下は、検査受診を検討しやすいきっかけの例です。

きっかけの例検討する主なホルモン
体重が急激に増加または減少している甲状腺ホルモン、レプチン、グレリン、副腎ホルモン
慢性的な疲労感ややる気の低下副腎ホルモン、甲状腺ホルモン、成長ホルモンなど
血圧が高い、または低すぎるレニン活性、アルドステロン、コルチゾールなど
睡眠の質が悪く、昼夜逆転のリズムが乱れているメラトニン、コルチゾール
明らかな理由がない貧血または多血症が続いているエリスロポエチン、赤血球系の詳細検査

これらのきっかけを感じたら、一度医師に相談したうえでホルモン検査を行うか検討する価値があるでしょう。

検査結果に一喜一憂しない

ホルモン値は1回の検査だけで確定診断に至るものではありません。食事や睡眠状態、精神的ストレスなどによっても変動します。

検査結果を正確に捉えるには、2回以上の検査やほかの検査項目との相関を見て総合的に判断する必要があります。過度に心配するのではなく、定期的に状態を追跡する姿勢が大切です。

以下は、検査結果との向き合い方で心がけたいポイントです。

  • 数値が基準範囲を外れていても、再検査で正常化する場合がある
  • 他の症状や検査結果との整合性を見る必要がある
  • 医師と相談して長期的な視点で経過を観察する

自己判断によるサプリメントの注意

ホルモンに関連するサプリメントや健康食品は多数出回っていますが、自己判断で過剰摂取するとかえってホルモンバランスを乱すリスクがあります。

検査結果や医師のアドバイスを確認しながら、必要性を慎重に見極めることが大切です。むやみに摂取するよりも、生活習慣の改善が優先されるケースが多い点を理解しておきましょう。

医療機関を受診するメリット

何らかの症状が長期化している場合は、専門的な評価を受けることが望ましいです。内分泌学的検査によって異常がはっきりすれば、早期に適切な治療や生活習慣の指導を受けることができます。

結果的に、将来的な重篤化を回避できる可能性があるため、症状の軽重や検査結果を踏まえて、医師とよく相談することが大事です。

受診先については、内科や内分泌代謝科など、専門分野を持つ医療機関に問い合わせてみるとよいでしょう。

以下は、医療機関の選択基準として考慮できるポイントの一例です。

選択基準の例内容
内分泌科または内科の専門医ホルモンに関する検査経験が豊富で総合的な診断が可能
検査設備血液検査や負荷試験、必要な画像検査をスムーズに行えるか
通院のしやすさ続けて受診する際のアクセス、待ち時間、診療時間帯など
他の診療科との連携必要に応じて腎臓内科や循環器内科など、関連する診療科と連携可能か

症状や通院の条件を考慮しながら、自分に合った医療機関を選ぶとよいでしょう。

以上

参考にした論文

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