医療機関で実施する性腺・胎盤機能検査では、体内で産生される性腺ホルモンや胎盤ホルモンの濃度を測定し、さまざまな健康状態や生殖にかかわる問題の手がかりを探します。

男性・女性を問わず、ホルモンのバランスは体調や生殖機能の維持に大きく関わるため、必要な場合には検査を受けることが重要です。

性腺・胎盤機能検査の概要

性腺や胎盤から分泌されるホルモンは、性機能の維持だけでなく、体全体の状態を把握するうえでも重要な指標になります。

男性ホルモンとして知られるテストステロン、女性ホルモンのエストラジオールやプロゲステロン、妊娠中に増加するhCG、男性の生殖機能評価に役立つインヒビンBなどを調べることができます。

ホルモン検査から得られる情報は幅広く、内分泌系や生殖器のトラブルを見極める助けになるため、症状や疑いに応じて検討することが大切です。

性腺ホルモンと胎盤ホルモンの関係

性腺ホルモンとは、精巣や卵巣などの性腺でつくられる物質を指します。胎盤ホルモンは、妊娠した際に胎盤が形成された後、胎盤から分泌されるものです。

性腺ホルモンは男性・女性ともに体内で形成され、骨や筋肉、皮膚、神経など全身に働きかけ、成熟や健康状態に深くかかわります。胎盤ホルモンは主に妊娠の維持や胎児の成長に深くかかわります。

なぜ検査が必要になるのか

ホルモンバランスが崩れると、生殖機能への影響だけでなく、体調不良や情緒面の変化、骨密度の低下など、さまざまな影響が出ることがあります。

男女ともに、原因不明の不妊や性機能の低下、生理不順、無月経、思春期発達の遅れなどがある場合、性腺・胎盤機能検査を行って、ホルモンレベルを確認する必要があります。

また、男性においては精子形成や男性更年期症状、女性においては更年期障害などの判断材料として考慮されることもあります。

検査がどのように行われるか

性腺・胎盤機能検査は主に血液検査で行われます。採血によって血中のホルモン濃度を測定し、必要に応じて超音波検査や画像検査で性腺や子宮、卵巣などの状態を確認することもあります。

妊娠中のhCG測定については、妊娠反応を見るための簡易検査(尿検査)が知られていますが、より正確な値を把握するには血液検査が重要な役割を担います。

性別や年齢による検査の違い

男性の場合はテストステロンやインヒビンBが主に着目され、精巣の機能や男性ホルモン分泌量の確認に役立ちます。

女性の場合はエストラジオールやプロゲステロンのほか、時期によってはhCGの測定が必要なことがあります。加えて、更年期前後でホルモン動態が変化し、閉経後はホルモンレベルが大きく変わるため、ライフステージに合わせた検査の意義が高まります。

主な目的詳細内容
不妊原因の評価不妊の原因となるホルモン異常や排卵障害、精子形成不良の把握など
性機能低下の確認男性更年期症状や女性の更年期障害など、更年期に関連する不調の確認
思春期発達評価思春期の発育不良や性成熟の遅れが疑われるケースでの評価
妊娠中の評価胎盤機能や胎児の健康状態の把握、hCGの測定など
内分泌異常の探索甲状腺や副腎など他の内分泌系への影響がないかの確認

性腺・胎盤機能検査の対象となる方

性ホルモンや胎盤ホルモンにかかわる検査は、多岐にわたる状況で検討されます。具体的な症状や目的に合わせて行うことで、原因を追究しやすくなるでしょう。

症状が軽度でも、長期間続く場合は早めの受診が大切です。

生理不順や排卵障害がある場合

女性で月経周期が極端に短いまたは長い、生理がこない、出血が不規則などの症状がある場合、エストラジオールやプロゲステロンの濃度を確認することがよくあります。

排卵障害が潜んでいると、不妊の原因となる可能性があります。血液検査に加え、必要に応じて超音波検査で卵巣の大きさや卵胞の成長具合を調べるケースもあります。

不妊に悩んでいる場合

妊娠を希望しているのに長期間授からない場合、男女ともに性ホルモンの検査を受けることが重要です。

男性はテストステロンやインヒビンB、女性はエストラジオールやプロゲステロンなどの値に注目し、それぞれの生殖機能をチェックします。

結果によっては他の内分泌器官に問題がないか、追加の検査を行うこともあります。

  • パートナー同士で同時に検査を進めると原因を探りやすい
  • 女性側は排卵日付近のホルモン変動を把握する手法を使う場合がある
  • 男性側は生活習慣やストレスでホルモンレベルが変化することがある

検査結果は複雑な場合もあるため、単独の検査だけで結論を急がず、必要に応じて複数回の測定を行うと正確な判断がしやすくなります。

更年期症状が疑われる場合

男性更年期(LOH症候群)では、テストステロンの低下による倦怠感や性欲低下、筋力低下などが起こることがあります。

女性の更年期障害はエストラジオールが減少し、ホットフラッシュやイライラ、不眠などの症状が現れます。これらの症状と血中ホルモン値を照合することで、治療の方向性を決めやすくなります。

思春期の発育や性徴に不安がある場合

思春期になっても第二次性徴が進まない、あるいは非常に早く進んでしまう場合、性腺ホルモンの検査が重要です。

男の子の場合はテストステロン値と精巣の大きさを、女の子の場合はエストラジオールの分泌量と卵巣の状態を確認し、必要に応じて専門的な評価を受けます。

妊娠中の胎盤機能を確認したい場合

妊娠中に高くなるhCGや、必要に応じてプロゲステロンの測定が検討されることがあります。

hCG値の上昇度合いは妊娠初期の経過を判断する材料になり、胎盤機能に異常がある場合は値に影響が出ることがあります。担当医と相談しながら経過をモニタリングすると安心です。

下に、検査を検討するきっかけとなる主な症状をまとめています。

主な症状・状況考えられる原因や関連ホルモン
月経不順、無月経エストラジオール、プロゲステロン
性欲低下、勃起不全、倦怠感テストステロン
不妊エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、インヒビンB
更年期障害(男女ともに)エストラジオール、テストステロン
思春期の発育不良・早発テストステロン、エストラジオール
妊娠中の経過観察hCG、プロゲステロン

性腺・胎盤機能検査で調べる代表的なホルモン

性腺・胎盤機能検査のなかで、特に代表的な5つのホルモンを解説します。

テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン、hCG、インヒビンBの5種類は、生殖に深くかかわり、臨床的にしばしば測定が行われます。

性別や妊娠の有無などに応じて、これらの値が示唆する情報は異なるので、きちんと理解しておくことが大切です。

テストステロン(男性ホルモン)

精巣のライディッヒ細胞から主に分泌され、男性らしい体つきや性機能を維持する役割を担います。

筋肉量や骨密度の維持にもかかわるため、低下すると筋力低下、骨粗鬆症、疲労感などの症状が出ることがあります。男性更年期が疑われる際や不妊の原因を調べる際に重要な指標となります。

以下はテストステロンに関する概要です。

項目内容
分泌部位精巣(主にライディッヒ細胞)
主な作用男性二次性徴の維持、筋肉量・骨密度の保持、性欲の維持
測定の目的不妊原因の解明、更年期症状の評価、思春期発育確認など
低下時の症状性欲低下、倦怠感、筋力低下、うつ気分など
上昇時の影響思春期早発症、体毛の濃さ増大、にきびなど(病的高値はまれ)

エストラジオール(女性ホルモンの1つ)

卵巣(主に卵胞)から分泌され、女性の二次性徴や月経周期のコントロールに深くかかわるホルモンです。

骨量の維持やコレステロール代謝にも関与します。数値の異常が見られると更年期障害や骨粗鬆症などにつながる可能性があります。また、妊娠を維持するためにも適度なエストラジオールが必要とされます。

プロゲステロン(黄体ホルモン)

排卵後に形成される黄体や、妊娠中の胎盤などから分泌されます。子宮内膜を妊娠しやすい状態に整えるほか、妊娠中の体内環境を維持するうえで重要です。

黄体機能不全などがあると、着床しにくくなったり妊娠継続が困難になる場合があります。月経周期の後半に測定されることが多く、女性の不妊検査でよく着目されます。

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)

胎盤が形成されると分泌されるホルモンで、妊娠検査薬で測定されることで知られています。妊娠初期の維持に欠かせないホルモンで、流産や異所性妊娠(子宮外妊娠)の有無を推定する手がかりにもなります。

男性や非妊娠女性で高値が出る場合は、腫瘍性疾患との関連が疑われることもあります。

以下に、hCGがどのように変化するかの一例を示します。

妊娠週数目安一般的なhCG濃度(mIU/mL)範囲
3週〜4週頃約5~50
4週〜5週頃約50~500
5週〜6週頃約100~5,000
6週〜7週頃約1,000~50,000
7週〜10週頃約10,000~100,000
10週以降徐々に減少して安定

インヒビンB

主に男性の精巣のセルトリ細胞から分泌され、精子形成の評価に役立ちます。男性不妊の精査としてテストステロンやFSH(卵胞刺激ホルモン)とあわせて測定し、精子形成能力を推定する目安に使われます。

値が低い場合は造精機能の障害が疑われることがあります。女性の卵巣機能を評価する目的で測定されるケースもあり、生殖医療分野では注目されています。

主な5ホルモンと関連する検査目的をまとめます。

ホルモン主な検査目的低下や異常値の例
テストステロン男性の性機能、不妊、更年期症状確認男性更年期症状、性欲減退、骨密度低下など
エストラジオール月経周期の評価、更年期障害の確認更年期障害、骨粗鬆症、無月経など
プロゲステロン黄体機能不全や着床不良、不妊の確認黄体期不全、着床障害など
hCG妊娠継続の評価、腫瘍性疾患のスクリーニング流産・子宮外妊娠のリスク、奇形腫などの腫瘍性疾患
インヒビンB男性の造精機能、不妊、卵巣機能などの評価造精機能障害、卵巣機能不全など

性腺・胎盤機能検査の流れと注意点

実際に性腺・胎盤機能検査を受ける際は、事前の問診から検査後の説明までの流れを知っておくと安心です。

男性・女性、また妊娠の有無によって検査内容が変わるため、医師の指示に従って検査計画を立てます。事前準備や検査当日の注意点を理解しておくことで、検査結果の精度を高めることにつながります。

問診とカウンセリング

はじめに、現在の症状や月経周期、性周期(男性の場合は勃起や射精に関するトラブルなど)を確認します。

不妊が疑われる場合は、パートナーとの生活習慣や性交渉の頻度、過去の妊娠歴なども問診に含まれます。

生活習慣病の有無、服用中の薬剤などがホルモン値に影響を及ぼすこともあるため、医師には詳しく情報を伝えることが大切です。

検査前の準備

基本的には採血による検査が中心ですが、女性の場合は月経周期の特定の時期に合わせて検査日を設定することがあります。

妊娠の可能性がある場合は、hCGの変化を追うために複数回の採血を行うこともあります。男性の場合は、テストステロンやインヒビンBの測定のために前日の過度な運動や飲酒を控えるよう指示されることがあります。

飲酒や運動は一時的にホルモン値に影響を与える可能性があるため、極力安静な状態で検査に臨むとよいでしょう。

  • 検査前の激しい運動は控える
  • 検査当日の朝食や服薬について指示を受ける
  • 採血の回数やタイミングを確認する

採血や追加検査

問診と指示に基づいて採血を行います。量は一般的な血液検査と変わりませんが、複数のホルモンを測定する場合は少し多めの量を取ることがあります。

また、超音波検査や子宮・卵巣、精巣の画像検査が併用されることも珍しくありません。腫瘍性疾患の疑いがある場合は、CTやMRIなどの検査が組み込まれることがあります。

結果の説明と相談

検査結果は数日から数週間かかることがあります。結果をもとに、ホルモン異常があるかどうかを確認し、今後の対応を決定します。

生活習慣の見直しや、必要に応じて薬物療法を提案されるケースもあります。状態によっては内分泌科や婦人科、泌尿器科などの専門医と連携しながら、治療を続けていくことになります。

検査当日の流れをまとめたものは以下となります。

ステップ内容
受付・問診症状や生活習慣、既往歴の確認
検査前の説明検査項目や方法、注意点などの説明
採血・必要な画像検査血液採取によるホルモン測定、超音波検査などを実施
待機・帰宅当日の結果が出る検査以外は結果待ちとなり、その日の診察が終われば帰宅可
後日の結果説明数日~数週間後に結果を説明。異常値の場合は追加検査や治療方針を相談

検査結果が示す意味を理解するために

血中ホルモン値は、基準範囲内であっても個人差が大きいです。また、測定した時点での一時的な値であることも留意点の1つです。

単発の測定結果だけでは結論を出しにくいケースも多いため、医師の指示のもと再検や、ほかの検査と組み合わせて判断することが重要です。

結果を自己判断せず、適宜相談しながら次のステップを考えていくと安心です。

日常生活における留意点

ホルモンバランスは生活習慣やストレス、食事など多方面の影響を受けます。検査後の生活指導やセルフケアを取り入れることで、ホルモンバランスの維持に役立つ場合があります。

ただし、症状が重い場合は医療機関の受診が必要です。

食生活と栄養管理

栄養バランスの良い食事は、ホルモン合成に必要なビタミンやミネラルを効率よく摂取できるため、重要度が高いです。タンパク質や鉄分、亜鉛などは男性ホルモンや女性ホルモンの生成に関わります。

過度なダイエットや高カロリー食の偏りはホルモンバランスを乱すことがあるため注意が必要です。

以下に、ホルモンの合成に関係する主な栄養素を簡単にまとめます。

栄養素期待される役割主な含有食品
タンパク質ホルモンや酵素、筋肉組織の材料肉、魚、大豆製品、卵など
鉄分血液の酸素運搬やエネルギー代謝レバー、赤身肉、ほうれん草など
亜鉛性ホルモン合成、免疫機能牡蠣、牛肉、ナッツ類など
ビタミンD骨形成や免疫調整、テストステロン合成補助魚類、きのこ類、日光浴でも体内合成
ビタミンE抗酸化作用、細胞膜保護ナッツ、植物油、魚介類など

適度な運動と休養

適度に体を動かすことは血液循環を促し、ホルモンバランスにも影響があります。筋力が維持されるとテストステロンの分泌がサポートされやすくなるともいわれます。

一方、過度なトレーニングや睡眠不足は逆にホルモンの乱れを招く恐れがあります。継続できる有酸素運動や適度な筋トレ、十分な睡眠を組み合わせると良いでしょう。

ストレスとの向き合い方

ストレスを感じると、コルチゾールなどのホルモンが分泌され、性ホルモンの分泌が抑制されることがあります。

慢性的なストレス状態は自律神経系の乱れや卵巣・精巣機能の低下につながる可能性があるため、リラクゼーションや趣味の時間を確保するなどの対策が大切です。

心身のバランスが崩れると、ホルモン値の変動が大きくなる場合があります。

サプリメントや漢方への考え方

足りない栄養素を補う目的でサプリメントや漢方薬などを検討する人もいます。栄養不足を補ううえでは有用性がありますが、薬との相互作用やホルモンに対する影響などを考慮する必要があります。

自己判断で過度に摂取せず、医療従事者に相談しながら使用するようにすると安心です。

  • どの成分がどれくらい含まれているかを確認する
  • 既存の治療や投薬との組み合わせを考慮する
  • 一時的に改善が見られても、根本原因を見逃さないように気をつける

疑問・不安への対応と受診の考え方

ホルモン検査やそれに伴う治療は、受ける側にとって不安がつきものです。

疑問点を整理したり、医療機関を受診すべきタイミングを見極めたりするためには、ホルモンの役割や検査の手順、生活習慣との関連などを知っておくと安心感が増します。

よくある疑問

「ホルモン検査は痛いのか」「どのくらい費用がかかるのか」「どれくらいの頻度で受ける必要があるのか」などの疑問が多く寄せられます。

採血が苦手な方は、医療スタッフにあらかじめ伝えておくとスムーズに検査を受けやすくなります。

また、費用や頻度は検査項目や診療報酬の適用範囲によって異なります。保険適用か自由診療かで自己負担額が変わる可能性もあります。

過去の検査結果との比較

過去に同様の検査を受けた場合、比較することで変化の経過を把握できます。特に不妊治療の現場や更年期の経過観察においては、一定期間おきにホルモン値をモニタリングすることで治療効果を評価できます。

検査結果は一度の数値に一喜一憂するよりも、経時的な変化に注目することが大切です。

下記に、ホルモン値を追跡するときのポイントをまとめます。

見るべきポイント理由
同一項目の経時変化変化の傾向を捉え、治療や対策の効果を客観的に判断しやすい
検査日や測定時刻ホルモン値は日内変動や月経周期などの影響を受ける場合がある
生活習慣や体調のメモ食事や運動、睡眠、ストレスなどによりホルモンが変動しやすい

相談先や専門科の選択

性腺・胎盤機能検査に関する不安や疑問は、婦人科、泌尿器科、内分泌科などの専門科で相談するのが一般的です。必要に応じて連携して診療を行うこともあります。

不妊治療や更年期外来など、目的に応じた専門外来がある施設も存在します。早期に相談することで、日々の生活における不安が軽減しやすくなります。

受診をためらわずに前向きに考える

ホルモンに関する悩みは、周囲に相談しにくいと感じる人も多いですが、きちんと検査を受ければ対処の糸口が見えやすくなることがあります。

性腺・胎盤機能検査は幅広い年代や性別の方が対象となるので、必要に応じて利用することを前向きに検討してみてください。少しでも気になる症状や疑問が続く場合は、お近くの医療機関で相談すると安心です。

  • 恥ずかしさや抵抗感を持たずに正直に症状を伝える
  • 長引く体調不良や情緒不安定はホルモン異常の可能性がある
  • 早期発見・早期対処のためにも定期的なチェックを考慮する

以上

参考にした論文