補体検査は、血液中に存在する補体と呼ばれるたんぱく質群の状態を調べるために行われます。

補体は体内の免疫反応に大きく関与し、病原体への対抗や炎症反応のコントロールなど、多岐にわたる役割を果たします。体内で何らかの異常が起こると、補体の量や機能にも変化が生じる場合があります。

補体検査によって、免疫系の異常を発見する手がかりを得たり、疑わしい病気の診断を補助したりすることが可能です。

本記事では、補体の基礎的な知識から検査手順、考えられる病気、よくある質問まで幅広く解説します。受検を考えている方が理解を深めやすいよう、表や例を交えながら詳しくお伝えします。

補体検査の概要

体内には多種多様なたんぱく質が存在し、それぞれ異なる機能を持っています。なかでも、補体と呼ばれるたんぱく質群は免疫機能の一部を担い、病原体を排除するメカニズムに深く関わります。

補体検査とはそもそもどういったものなのか、基本的な検査項目や目的を含めて順を追って説明します。

補体とは何か

補体は複数のたんぱく質から構成され、それぞれが連鎖的に働くことで免疫システムを助ける仕組みです。体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を攻撃し、効率よく排除するために機能します。

抗体や白血球だけでなく、この補体が正常に活動することで免疫バランスが保たれています。補体の活性度や濃度に乱れがあると、自己免疫疾患や慢性炎症などが起こりやすくなります。

補体検査の主な目的

補体検査には大きく分けて以下のような目的があります。

  • 免疫系の状態を把握する
  • 慢性炎症や膠原病など特定の疾患を疑う際の参考指標
  • 治療効果や経過観察の指標
  • 不明熱や原因不明の症状の精査

これらは多くの場合、医師が臨床症状や他の検査結果などを踏まえて補体検査を行うかどうかを判断します。

補体関連の数値が通常範囲を超えて低下または上昇しているときは、何かしらの免疫異常が潜んでいる可能性があります。

血液検査の一種としての補体検査

補体検査は血液検査の1つで、採血によって得られた血清や血漿を使って実施します。

抗体検査や血液一般検査などと同様に、ある程度正確な結果を得るために検査前の飲食制限や薬剤調整が必要になる場合があります。

ただし、疾患や検査内容によっては絶食が必須となるわけではなく、医療機関や検査の目的によって異なるため、事前に確認することが大切です。

検査結果が異常だった場合に想定されること

検査結果が正常値から外れている場合、自己免疫疾患や感染症の存在が疑われたり、既存の持病が関与していたりすることがあります。

必ずしも異常値=重篤な病気というわけではありませんが、補体の異常は身体のどこかで炎症や免疫制御の乱れが発生している兆候として注目されます。

医師と相談しながら、ほかの検査も併用して病態を総合的に把握することが重要です。

補体検査のメリットと注意点

補体検査のメリットとしては、比較的簡便に免疫系の状態を把握できる点が挙げられます。採血のみで結果が得られるため、患者さんに大きな負担がかかりにくいことも利点です。

ただし、補体だけの値では原因となる疾患を特定できないことが多いため、他の抗体検査や画像検査などとの総合的な判断が欠かせません。

下の表は、補体検査と他の検査との比較例です。

検査名検査方法主な目的補体検査との関連性
抗核抗体検査血液採取膠原病や自己免疫疾患のスクリーニング補体異常が疑われる場合に併用されることが多い
CRP検査血液採取炎症の有無補体検査で異常が出た際に並行して評価する
免疫グロブリン検査血液採取免疫細胞の抗体産生量の確認補体と抗体機能のバランスを把握するために実施

代表的な補体の種類

補体は多くの成分で構成されますが、とくにC3やC4などは基本的かつ重要な指標となります。加えて、CH50のように補体全体の総合的な活性度を評価する指標も存在します。

代表的な補体の種類と働きを具体的に挙げながら説明します。

C3の特徴

C3は補体システムの要といわれる構成成分です。外因性(細菌やウイルスなどの外からの刺激)および内因性(自己免疫反応など)の両方の経路で活性化される点が特徴です。

補体カスケードの大部分に関与し、C3が足りないまたは過剰に消費される状況では、多くの免疫機能に影響を及ぼします。C3の低下が激しいと、重篤な感染症や免疫複合体の蓄積による疾患が疑われます。

C4の特徴

C4は補体古典経路の初期段階で消費される成分です。主に抗原抗体反応が開始される場面で活性化されることが多いです。

C4が著しく減少していると、全身性エリテマトーデス(SLE)やその他の自己免疫疾患の存在が疑われる場合があります。C3とあわせて評価することで、より正確に免疫反応の状態を推測できます。

CH50(総補体活性)の意義

CH50は血清中の補体成分が総合的にどれくらい活性を持っているかを示す指標です。C1からC9までの連鎖反応が滞りなく機能しているとき、CH50の値は正常範囲に収まることが多いです。

ある特定の補体成分だけでなく、全体の働きが低下している場合にCH50は低下しやすくなります。

CH50の異常値が出た場合は、各補体成分の詳細な検査をあわせて行うことで、どの部分に問題があるかを突き止めやすくなります。

下の表は、C3・C4・CH50の主な役割と測定のポイントをまとめたものです。

項目主な役割測定のポイント
C3外因性・内因性刺激に対する主要経路の要下がり過ぎている場合は重篤な感染症などに注意
C4古典経路の初期段階で活性化される低値はSLEなど自己免疫疾患を示唆することが多い
CH50全補体成分の総合的活性度を評価異常時には各補体成分を追加で測定して原因を探る

C1インヒビターの役割

C1インヒビターは、補体の中でもC1エステラーゼを制御する阻害分子です。

血管の透過性や炎症反応の制御に関わり、これが欠損または機能不全に陥ると、遺伝性血管性浮腫(HAE)などを引き起こす可能性があります。

C1インヒビターの機能を評価することで、むやみに補体が活性化しすぎないようにする抑制機構がしっかり働いているかを確認できます。

プロペルジン因子Bの意義

プロペルジン因子Bは補体の代替経路(オルタナティブ経路)において重要な働きをする要素です。細菌成分や異物に対して直接補体を活性化する経路をサポートし、病原体の排除を手助けします。

因子Bの量や機能が異常だと、本来の免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があります。また、自己免疫に関連する症状が悪化する場合もあります。

補体検査の流れ

補体検査は一般的な血液検査の一環として行われる場合が多いです。この見出しでは、検査当日までに気をつけるべきことや実際の手順、検査後の経過観察について説明します。

採血を行うだけではありますが、食事や服薬のタイミングなど、正確な結果を得るための準備が必要な場合もあります。

受検前の準備

医療機関によっては補体検査を行う前に、食事制限や服用している薬剤の調整を指示されることがあります。

とくにステロイド系の薬や免疫抑制剤などを使用中の場合、補体の活性に影響を及ぼす可能性があります。検査の前にあらかじめ主治医に相談しておくと安心です。

  • 普段飲んでいる薬がある場合は、医師に事前連絡する
  • 激しい運動は控え、安静を保つように心がける
  • 食事制限があるかどうかは事前に必ず確認する

検査の目的に応じて細かい指示が変わるので、その指示に従うことが重要です。

採血と検査の手順

補体検査は血液検査の一部として行われるため、患者さんが行う作業は基本的には採血だけです。必要な量の血液を採取した後は、検査機関や院内ラボで分析が行われます。

補体は熱に弱い性質があり、採血後すぐに適切な処置や保管が行われることが望ましいです。検査方法としては以下のような手法が挙げられます。

分析手法特徴使用される場面
免疫比濁法抗原抗体反応を用いて補体成分を測定C3、C4などの定量測定に向いている
溶血法(CH50測定)血球の溶血の程度から総補体活性を推定CH50の定量が必要なとき
ELISA法微量の補体成分を測定可能特殊な補体成分(C1インヒビターなど)の測定

検査結果を受け取るまでの期間

補体検査の結果が出るまでの期間は、医療機関や検査会社の設備状況によって異なります。通常は数日から1週間程度かかることが多いです。

急を要する場合は最短で翌日に結果が判明するケースもありますが、余裕を持ったスケジュールで受検しておくと安心です。

結果が出た段階で医師との面談が組まれ、結果の説明や追加検査の必要性などが検討されます。

結果が出た後の過ごし方

検査結果で補体の異常が疑われる場合、医師は問診や身体所見、ほかの検査結果を総合して原因を追究します。

異常値が一定の基準を大きく超える、もしくは大きく下回るケースでは、追加の血液検査や免疫学的な精密検査が行われることもあります。

生活習慣の見直しや、身体の不調を感じたときの受診タイミングなどについて、医師と相談しながら決めていくとよいでしょう。

検査にかかる費用と保険適用

補体検査は、疑われる疾患がある場合には保険適用となることがほとんどです。医師が補体測定を必要と判断した場合は、通常の保険診療として費用負担は3割(または1割・2割)になります。

ただし、任意での検査や検診プランの一部として組み込まれている検査の場合、保険が適用されない可能性もあるため注意が必要です。

下の表は、保険適用の一例を示したものです。

検査項目保険適用の有無目安費用(保険適用時)
補体C3疾患疑いがあれば保険適用数百円程度
補体C4疾患疑いがあれば保険適用数百円程度
CH50(総補体活性)疾患疑いがあれば保険適用数百円から千円程度
C1インヒビター医師が必要と判断すれば適用千円前後

補体検査でわかる病気

補体検査の結果は、単に免疫機能が「正常かどうか」を判断するだけではなく、特定の自己免疫疾患や感染症などの病態を推測するうえで大きな手がかりとなります。

この見出しでは、補体検査によってわかる主な病気について、代表的な例を紹介します。

自己免疫疾患(SLEなど)

補体成分は自己免疫疾患の活動性を評価するための有力な手段です。とくに全身性エリテマトーデス(SLE)は、C3やC4の値が顕著に低下しやすい病気の1つとされています。

病状の悪化時には補体が激しく消費されるため、定期的に補体検査を行うことで病状の推移をモニタリングすることが可能です。

感染症

補体は病原体の排除に直結するメカニズムを担うため、感染症の際にその値が上昇または変化を示す場合があります。

細菌感染などで補体が活性化されると、一時的に上昇することがありますが、慢性化すると逆に低下してしまうケースも考えられます。

数値の推移を追うことで、感染症の進行度や治療効果をおおまかに把握できる場合があります。

血管性浮腫(HAEなど)

C1インヒビターの機能異常による遺伝性血管性浮腫(HAE)は、補体検査によって診断が補助されます。

C1インヒビターの量や活性を測定することで、慢性的な浮腫の原因がこの遺伝性疾患によるものかどうかを判断しやすくなります。

発作時や症状が安定している時期など、複数回の検査を行うことが推奨されるケースもあります。

下の表は、補体検査で異常がみられやすい主な疾患と、その傾向をまとめたものです。

疾患名主な異常所見補体検査でのポイント
全身性エリテマトーデス (SLE)C3、C4ともに低値病気の活動性を評価する指標になる
関節リウマチ (RA)C3、C4がやや低下する場合がある活動期には補体の消費が増える
遺伝性血管性浮腫 (HAE)C1インヒビター活性の低下繰り返す浮腫の原因特定に役立つ
感染症全般C3などが変動(上昇・低下いずれも)重症度や経過観察に応用できる

慢性炎症性疾患

慢性的な炎症が体内で持続しているとき、補体は持続的に消費されることがあり、低値を示す可能性があります。関節リウマチや膠原病の一部などが代表例です。

症状の度合いと補体値を照らし合わせることで、治療の効果や炎症の広がり具合を推定しやすくなることがあります。

免疫不全症

先天性または後天性の免疫不全症では、補体成分の低下がしばしばみられます。

特にプロペルジン因子BやC3などの値が低いと、細菌やウイルスに対する免疫が弱まってしまい、頻繁に感染症を繰り返す恐れがあります。

原因不明の感染症を繰り返す場合、補体検査を含む免疫機能の精査を行うことが大切です。

  • 頻繁にかぜをひく、または治りにくい
  • 特定の菌やウイルスに繰り返し感染しやすい
  • 皮膚や粘膜の症状(発疹や口内炎)が慢性的に続く

上記のような傾向がある人は、医師に相談して補体検査を含む詳細な検査を検討することが望ましいです。

補体異常の治療と注意点

補体の異常が見つかった場合、その原因となっている疾患や症状に応じて治療方針が決まります。ただし、補体の数値だけで病気が特定されるわけではありません。

補体異常が疑われる際の治療アプローチや日常生活での注意点について解説します。

原因疾患の治療が第一

補体異常を放置した状態が続くと、必要以上に免疫が暴走したり、本来外敵から身体を守ってくれるはずのシステムが自己組織を攻撃したりするリスクがあります。

治療の基本は、原因疾患そのものをコントロールすることにあります。

自己免疫疾患がある場合は、ステロイドや免疫調整薬を使って病態を安定させますし、感染症の場合は抗菌薬や抗ウイルス薬を投与して病原体を抑えます。

補体補充療法の可能性

一部の先天的な補体欠損症や深刻な免疫不全を抱える場合、補体成分を補充する治療法が検討されることもあります。補体の一部を代用する薬剤や血漿製剤などを点滴で投与する方法が報告されています。

ただし、一般的な治療ではなく、特定の症例や研究段階で用いられることが多いため、医療機関で主治医と十分に相談することが重要です。

下の表に、原因疾患別の主な治療アプローチを示します。

原因疾患主な治療法補体との関連
自己免疫疾患 (SLE など)ステロイド、免疫抑制剤、免疫調整薬補体消費の激しい炎症を抑える
重症感染症抗菌薬、抗ウイルス薬過剰な補体活性化を抑制する場合もある
遺伝性血管性浮腫 (HAE)C1インヒビター濃縮製剤、アンドロゲン製剤などC1インヒビター欠損を補う治療
免疫不全症免疫グロブリン製剤や感染防御強化補体を含む免疫全体の強化が必要になる場合がある

生活習慣と補体の関係

補体の活動はストレスや栄養状態にも少なからず影響を受けると考えられています。

急激なダイエットや睡眠不足、過度な飲酒などは、免疫バランスを崩す要因となり得ます。したがって、規則正しい生活リズムとバランスのよい食事、適度な運動を心がけることが補体の安定的な働きを支えるうえで大切です。

  • 日常的に野菜や果物、タンパク質を十分に摂取する
  • 過労やストレスを溜めすぎないように工夫する
  • 定期的に適度な運動を行い、体力を維持する

これらは免疫全体の調整にも役立つとされる基本的なポイントです。

補体異常が疑われる場合の受診タイミング

原因不明の発熱や発疹、倦怠感などが持続し、一般的な検査では異常が見つからない場合は、補体を含む免疫検査を検討してもよいかもしれません。

早期発見ができれば、適切な治療アプローチをとることが可能になります。必要に応じてお近くの医療機関を受診し、専門の医師に相談してみてください。

補体検査に関するよくある質問

補体検査という言葉自体にあまり馴染みがない方も多いと思います。最後に、患者さんからよくある質問とその回答例を挙げます。

検査を受ける際の不安を軽減し、正しい情報を得るための一助となれば幸いです。

補体検査は痛いですか?

補体検査は基本的に採血のみです。採血時の針を刺す痛みは多少ありますが、それ以外に特別な処置は行いません。

大がかりな装置に入ることもなく、時間も短時間で終わります。採血が苦手な人は、医療スタッフに一言伝えておくと、なるべく痛みが軽減されるよう配慮してもらえるでしょう。

食事制限は必要ですか?

検査の種類や目的によっては、食事制限が指示されることがありますが、必ずしも全ての補体検査で絶食が必要というわけではありません。

とくにCH50やC3、C4などを調べる場合は、通常の食事制限を課さないことも多いです。服薬や既往症によっては注意が必要な場合もあるので、事前に医師へ確認することをおすすめします。

状況食事制限の有無理由・注意点
一般的なC3、C4、CH50検査制限なしの場合が多い食事の影響は比較的少ないと考えられている
ステロイド内服中場合によってあり薬の代謝や体内動態に影響が出る可能性がある
空腹時血糖や脂質検査と同時に受ける場合制限が必要な場合がある総合的な検査のため、一括して絶食を指示されることがある

妊娠中や授乳中でも受けられますか?

妊娠中や授乳中でも、採血を伴う検査なので基本的に受けられます。ただし、妊娠中はホルモンバランスの変化から一部の補体成分が上昇傾向を示すことがあり、結果の解釈に注意が必要です。

医師に妊娠していること、あるいは授乳中であることを事前に伝えたうえで検査を受けると安心です。

補体検査の数値は毎回変化しやすい?

補体は感染や炎症の状態によって変動しやすい性質があります。1回の検査だけでは不十分な場合もあり、複数回の検査を行って変化の傾向を追うことが推奨されるケースもあります。

慢性的な自己免疫疾患がある人は、定期的に補体検査を含む免疫系のモニタリングを実施することが多いです。

  • 一時的な風邪や軽い炎症でも変動する可能性がある
  • 治療中の場合、薬剤の影響で数値が変化する場合がある
  • 定期的に測定することで、安定しているのか悪化しているのかを確認できる

補体の異常が見つかったらどうすればいい?

数値の異常だけで病名が確定するわけではありません。

検査結果を踏まえて、医師が追加検査や診察を行い、最終的な診断に至ります。状況によっては、自己免疫疾患や慢性炎症などの可能性を探るために専門科への紹介が行われることもあります。

大切なのは、異常が出たからといって過度に心配しすぎず、医師と相談しながら次のステップを踏むことです。

採血のみで実施できる補体検査は、簡便でありながら免疫の大切な指標を教えてくれます。何らかの不安や症状がある場合は、必要に応じてお近くの医療機関を受診してみてください。

以上

参考にした論文