感染症の一種である内臓真菌症とは体内の臓器や組織に真菌(カビ)が侵入して増殖することで引き起こされる深刻な病気です。

この疾患は通常は体の表面に生息する真菌が何らかの理由で体内に侵入し内臓や血液中で増殖することで発症します。

内臓真菌症は免疫系が弱っている方や長期間の抗生物質使用などにより体内の微生物バランスが崩れた方に発症しやすい傾向です。

症状は感染部位によって様々ですが発熱・倦怠感・体重減少などの全身症状に加えて各臓器特有の症状が現れることがあります。

内臓真菌症

内臓真菌症の主症状

内臓真菌症の症状は非特異的で他の疾患と似ていることが多いため診断が困難な場合があります。

ただ、内臓真菌症は深刻な感染症でありその主症状を理解することは患者さんにとって非常に重要です。

身体のどの部位で真菌が増殖しているかによって症状は大きく異なりますがここでは代表的な症状についてご説明します。

以下のような症状が複数組み合わさって現れる場合や通常の治療に反応しない場合は内臓真菌症を疑う必要があります。

全身性の症状

内臓真菌症では全身に影響を及ぼす症状がしばしば見られます。

持続的な発熱は最も一般的な症状のひとつで38度以上の高熱が数日間続くことも少なくありません。

この発熱は抗生物質による治療に反応しないのが特徴です。

また 全身の倦怠感や食欲不振 体重減少なども頻繁に観察されます。

これらの症状は体が感染と闘っている証拠であり見逃してはいけないサインです。

呼吸器系の症状

肺に真菌が感染した場合に呼吸器系の症状が現れることがあります。

症状特徴
乾いた咳や痰を伴う咳
呼吸困難息切れや胸の圧迫感
胸痛深呼吸時に増強

これらの症状は徐々に進行することが多く 初期段階では気づきにくい場合があります。

持続する咳や呼吸の変化には注意が必要です。

消化器系の症状

消化器官に真菌が感染すると以下のような様々な消化器症状が現れます。

  • 腹痛
  • 下痢
  • 吐き気・嘔吐
  • 食欲不振

これらの症状は他の消化器疾患と似ているため診断が難しいでしょう。

特に免疫力が低下している方や長期の抗生物質使用歴がある方は注意深く症状を観察することが大切です。

皮膚症状

内臓真菌症では皮膚に異常が現れることもあります。

症状説明
発疹赤い斑点や盛り上がり
かゆみ全身または局所的な掻痒感
皮膚の変色特定の部位が黒ずむ

これらの皮膚症状は体内の真菌感染が皮膚に波及した結果として生じることが多いです。

皮膚の変化は目に見えるため早期発見のきっかけとなる傾向が強いです。

神経系の症状

真菌が中枢神経系に影響を与えると深刻な神経症状が現れることがあります。

  • 頭痛
  • めまい
  • 意識障害
  • 痙攣

これらの症状は急激に悪化する可能性があるため早急な対応が求められます。特に免疫不全の方は神経系の症状に対して警戒が必要です。

症状の程度対応
軽度経過観察
中等度専門医の診察
重度緊急治療

2019年に発表されたJournal of Fungi誌の研究によると内臓真菌症患者さんの約30%が何らかの神経症状を経験していることが報告されています。

このことからも神経系の症状を見逃さないことの重要性がうかがえます。

内臓真菌症の原因とリスク要因

内臓真菌症の原因は多岐にわたり単一の要因だけでなく複数の要因が組み合わさって発症することが多いのが特徴です。

そのため自身の健康状態・環境・医療処置などを総合的に考慮してリスク評価を行うことが重要となります。

内臓真菌症は重篤な感染症ですがその原因を理解して適切な予防策を講じることでリスクを軽減できる可能性が広がります。

ここからは内臓真菌症の主な原因とリスク要因について詳しく解説します。

真菌の侵入経路

内臓真菌症は体内に侵入した真菌が臓器や組織で増殖することで引き起こされます。

真菌の侵入経路は多岐にわたりますが主に以下のようなものが挙げられます。

  • 呼吸器を通じた吸入
  • 消化管からの侵入
  • 皮膚の傷からの侵入
  • 医療処置に伴う直接的な侵入

これらの経路を通じて体内に入った真菌は通常であれば免疫システムによって排除されます。

しかし何らかの理由で免疫機能が低下している場合に真菌が増殖して内臓真菌症を引き起こす可能性があります。

免疫機能低下による発症リスク

免疫機能の低下は内臓真菌症発症の最も重要なリスク要因です。

免疫低下の原因具体例
疾患HIV/AIDS・血液がん
医療処置臓器移植・化学療法
薬剤使用ステロイド長期使用

これらの状況下では体の防御機構が弱まり、通常は問題とならない真菌でも増殖しやすくなります。

特に造血幹細胞移植や固形臓器移植後の患者さんは高度な免疫抑制状態にあるため内臓真菌症のリスクが非常に高くなります。

抗生物質使用と真菌感染

長期間の抗生物質使用も内臓真菌症発症のリスク要因となり得ます。

抗生物質は細菌感染症の治療に不可欠ですが同時に体内の正常な細菌叢にも影響を与えます。

抗生物質の影響結果
細菌叢の変化真菌の過剰増殖
免疫機能への影響防御力の低下

正常な細菌叢は真菌の増殖を抑制する役割も果たしているためその均衡が崩れると真菌が優勢になりやすくなります。

このことから長期間の抗生物質治療を受けている方は内臓真菌症のリスクに特に注意が必要です。

環境要因と職業リスク

一部の内臓真菌症は特定の環境や職業に関連して発症するリスクが高くなることがあります。

  • 土壌や鳥の糞に含まれる真菌への暴露
  • 建設現場や農業での粉塵吸入
  • 古い建物や湿気の多い環境での生活

これらの環境では病原性真菌の胞子が空気中に浮遊しており吸入によって感染する可能性があります。

特に免疫機能が低下している方がこのような環境に長時間さらされると内臓真菌症のリスクが高まる傾向です。

基礎疾患と内臓真菌症

某医学ジャーナルの2022年の報告によると特定の基礎疾患を持つ患者さんは内臓真菌症を発症するリスクが高いことが示されています。

基礎疾患リスク上昇率
糖尿病2倍
慢性肺疾患3倍
肝硬変4倍

これらの疾患は直接的または間接的に免疫機能に影響を与えたり臓器の防御機能を低下させたりすることで 真菌感染のリスクを高める可能性があります。

基礎疾患の管理は内臓真菌症予防の観点からも大切です。

医療デバイスと真菌感染

現代医療において様々な医療デバイスが患者さんの治療に使用されていますが、これらが真菌感染の経路となることがあります。

  • 中心静脈カテーテル
  • 尿道カテーテル
  • 人工呼吸器

上記のようなデバイスは体内に直接挿入されるため適切な管理が行われない場合に真菌の侵入経路となる可能性があるのです。

特に長期間使用する場合や免疫機能が低下している患者さんでは注意が必要です。

内臓真菌症の診察と診断

内臓真菌症の診断は複雑で時に困難を伴います。

通常単一の検査で確定することは稀で複数の検査結果を総合的に評価することが大切です。

本項では医療機関での診察から確定診断に至るまでの過程を詳しく解説します。

問診と身体診察

内臓真菌症の診断プロセスは詳細な問診から始まります。

医師は患者さんの既往歴・現在の健康状態・生活環境などについて丁寧に聞き取りを行います。

問診項目確認内容
既往歴免疫不全疾患・長期入院歴
薬歴抗生物質・免疫抑制剤使用
環境職業・居住環境・海外渡航歴

これらの情報は内臓真菌症のリスク評価に大切な役割を果たします。

問診に続いて医師は綿密な身体診察を行います。

ここでは体温測定・血圧チェック・聴診器による肺音の確認など一般的な診察に加えて皮膚の状態・神経学的な所見にも注意を払います。

血液検査による評価

血液検査は内臓真菌症の診断において重要な役割を果たします。

一般的な血液検査では白血球数や炎症マーカーの変化を確認して感染の存在や程度を評価します。

  • C反応性タンパク(CRP)値
  • 赤血球沈降速度(ESR)
  • プロカルシトニン値

これらの値が上昇している場合には何らかの炎症や感染が疑われますが内臓真菌症に特異的なものではありません。

より具体的な診断のためには真菌に特異的な血清マーカーの検査が行われることがあります。

血清マーカー検出対象
β-Dグルカン多くの真菌種
ガラクトマンナンアスペルギルス属
マンナン抗原カンジダ属

これらのマーカーが陽性の場合は内臓真菌症の可能性が高まりますが確定診断には至りません。

培養検査と病理診断

内臓真菌症の確定診断には培養検査や病理診断が重要な役割を果たします。

培養検査では血液・尿・喀痰などの検体から真菌を分離して同定を試みます。

  • 血液培養
  • 気管支肺胞洗浄液培養
  • 組織培養

培養検査は時間がかかる傾向ですが原因となる真菌の種類を特定して適切な治療方針を立てる上で大切です。

病理診断は感染が疑われる組織の一部を採取して顕微鏡で直接観察する方法です。

組織生検は侵襲的な手法ですが真菌の存在を直接確認できる点で診断的価値が高いとされています。

分子生物学的手法

近年では分子生物学的手法を用いた診断技術の発展が目覚ましく、内臓真菌症の診断にも応用されています。

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法は微量の真菌DNAを検出して増幅することで高感度な診断を可能にします。

PCR法の利点詳細
迅速性数時間で結果判明
高感度微量のDNAでも検出
特異性真菌種の正確な同定

PCR法は従来の培養法と比べて短時間で結果が得られ抗真菌薬使用中でも検出可能であるのが利点です。

しかし偽陽性の可能性や標準化の課題もあり他の診断法と組み合わせて総合的に判断することが望ましいとされています。

内臓真菌症の画像所見

内臓真菌症の画像診断は単一の検査で確定診断を下すことは難しく、複数の画像検査を組み合わせて総合的に評価することが大切です。

適切な画像診断は内臓真菌症の早期発見と効果的な治療につながる重要な要素であり患者さんの予後改善に貢献します。

本項では各種画像検査で観察される特徴的な所見について詳しく解説します。

胸部X線検査における所見

胸部X線検査は内臓真菌症、特に肺真菌症の初期スクリーニングとして広く用いられています。

この検査では肺野の異常陰影を捉えることができ、真菌感染の存在を示唆する重要な手がかりとなります。

所見特徴
結節影単発または多発性の円形陰影
浸潤影びまん性または局所的な濃度上昇
空洞形成内部が透過性の高い円形陰影

これらの所見は必ずしも内臓真菌症に特異的ではありませんが臨床症状や患者さん背景と合わせて評価することで 診断の手がかりとなるのです。

胸部X線検査は簡便で迅速に実施できる利点がありますが病変の詳細な評価には限界があるため、より精密な検査へとつながるきっかけになることが多いです。

Case courtesy of Liz Silverstone, Radiopaedia.org. From the case rID: 170098

所見:「左中肺野に境界不明瞭な円形の陰影が認められる。左側に少量の胸水も確認される。」

胸部CT検査の詳細所見

胸部CT検査は胸部X線検査と比較してはるかに詳細な情報を提供し内臓真菌症の診断精度を高めます。

CTでは肺実質の微細な変化や縦隔リンパ節の腫大など様々な所見を捉えることができます。

  • halo sign(ハロー徴候)
  • air crescent sign(空気三日月徴候)
  • reversed halo sign(逆ハロー徴候)

これらの所見は侵襲性肺アスペルギルス症などの特定の真菌感染症で特徴的に見られ診断の決め手となることがあります。

CT検査では病変の分布や進展範囲も明確に評価することができ、治療効果の判定にも有用です。

CT所見特徴的な真菌症
多発結節影カンジダ症・クリプトコッカス症
空洞形成アスペルギルス症・ムーコル症
すりガラス影ニューモシスチス肺炎

これらの所見を総合的に評価することで感染している真菌の種類を推定して適切な治療方針の決定に役立てることができます。

Figure 2.
Pulmonary Invasive Fungal Disease: Ultrasound and Computed Tomography Scan Findings – PMC

所見:「侵襲性肺真菌感染症患者のHRCT画像。(A) 周辺または中心にすりガラス状陰影を伴う複数の陰影(halo sign 及び reverse halo sig)。(B) すりガラス状陰影を伴う結節性病変(ハローサイン)。(C) 菌球とair crescent signを示す空洞病変。(D) 低密度の中心と高密度の縁を持つ病変(ターゲットサイン)が、造影スライスの縦隔ウィンドウで確認される。」

腹部画像検査における所見

内臓真菌症は肺以外の臓器にも影響を及ぼすことがあり腹部の画像検査も診断に重要な役割を果たします。

腹部CT検査やMRI検査では肝臓・脾臓・腎臓などの実質臓器における真菌性病変の評価が可能です。

臓器特徴的所見
肝臓多発性低吸収域・膿瘍形成
脾臓多発性結節影・微小膿瘍
腎臓楔状梗塞像・膿瘍形成

これらの所見は播種性真菌症や全身性真菌感染症の診断に重要な手がかりとなります。

また腹部超音波検査も肝臓や脾臓の病変評価に有用で低侵襲で繰り返し実施できるという利点があります。

Figure 4
Imaging features of fungal infection in immuno-suppressed patients in a local ward outbreak – PMC

所見:「腹腔内臓器の真菌性膿瘍。(a) 白血病およびアスペルギルス敗血症の2歳女児。CTで両側腎臓に複数の低密度病変が確認される。(b) 白血病および真菌敗血症が疑われる6歳女児。CTで肝臓および脾臓に複数の低密度病変が確認され、肝生検から真菌要素が分離されたが、種の特定はできなかった。(c) 白血病および真菌敗血症が疑われる3歳男児。腹部CTで脾臓に複数の低密度病変が確認されたが、生検からは真菌が検出されなかった。」

中枢神経系の画像所見

真菌感染が中枢神経系に及んだ場合では頭部MRI検査が診断に大きな役割を果たします。

MRIは軟部組織のコントラスト分解能に優れており脳実質や髄膜の微細な変化を捉えることができます。

  • 脳膿瘍形成
  • 髄膜の造影増強効果
  • 脳室周囲の浮腫

これらの所見は真菌性髄膜炎や脳膿瘍の診断に重要です。

特にクリプトコッカス髄膜炎では特徴的なゼラチン状偽嚢胞が観察されることがあり診断の決め手となります。

MRI所見特徴
T1強調像低信号病変
T2強調像高信号病変
拡散強調像拡散制限を伴う高信号

これらの画像所見を詳細に評価することで中枢神経系真菌症の診断精度が向上して治療方針の決定に役立ちます。

Figure 3
Fungal Infections of the Central Nervous System: A Pictorial Review – PMC

所見:「25歳男性、過去6ヶ月間にわたる急性の毎日の頭痛の既往と、治療済みの慢性コクシジオイデス性髄膜炎の既往があり、慢性肥厚性基底くも膜炎および二次性水頭症と診断された。(a) 軸位および(b) 冠状断のT1強調造影後MRI画像では、主に基底槽を中心にびまん性の造影効果を伴うくも膜の著明な肥厚が示されている(矢じり)。(c) 液体抑制反転回復(FLAIR)造影後MRIの軸位画像では、側脳室の著しい拡大と脳脊髄液の経室管移行が確認される(矢印)。これらの所見は、慢性肥厚性基底くも膜炎に伴う二次性水頭症と一致する。」

核医学検査の役割

近年医学検査の一種である フルオロデオキシグルコースを用いた陽電子放出断層撮影検査(FDG-PET)が 内臓真菌症の診断に応用されています。

FDG-PETは全身の代謝活性を視覚化する検査で炎症や感染巣を高感度で検出することができます。

PET所見意義
局所的高集積活動性感染巣の存在
多発性集積播種性感染の可能性

PET検査は従来の画像検査で検出困難な微小病変や全身の病変分布を評価するのに有用です。

また治療効果の判定や再発の早期発見にも応用されており内臓真菌症の管理において重要性が増しています。

Potential Role of 18F-FDG PET/CT in Patients With Fungal Infections

所見:「50歳の精巣セミノーマの化学療法中の男性が、発熱、右股関節痛、歩行困難を訴えて受診。骨転移が疑われ、FDG PET/CTを実施。(A, B) 冠状断(A)および軸位(B)のPET/CT画像では、右寛骨臼と隣接する右腸骨の一部に溶骨性および硬化性病変が見られ(実線矢印、AおよびB)、FDG取り込みが増加(最大SUV 7.5)している。また、隣接する筋肉にも影響が見られる。FDG集積性の縦隔リンパ節(破線矢印、A)も確認される。(C, D) 左腋窩および左鎖骨下リンパ節(破線矢印、C)、左鎖骨上リンパ節(破線矢印、D)にもFDG集積が見られる。骨生検によりクリプトコッカス性骨髄炎と診断され、鎖骨上リンパ節の生検でもクリプトコッカス感染が確認された。FDG PET/CTにより、この患者の病変の広がりが明らかになった。」

治療戦略と回復への道のり

内臓真菌症の治療は複雑で長期に渡ることがありますが適切な薬物療法と全身管理により回復が期待できます。

本稿では内臓真菌症の主な治療方法・使用される薬剤・治癒までの期間について詳しく解説します。

抗真菌薬による治療

内臓真菌症の治療の中心となるのが抗真菌薬です。

抗真菌薬は真菌の細胞壁や細胞膜に作用して真菌の増殖を抑制したり殺菌したりする効果があります。

抗真菌薬の種類主な使用例
アゾール系カンジダ症・アスペルギルス症
ポリエン系重症真菌感染症
キャンディン系カンジダ症
ピリミジン系クリプトコッカス症

これらの薬剤は感染している真菌の種類や患者さんの状態に応じて選択されます。

多くの場合複数の薬剤を組み合わせて使用することでより効果的な治療が可能となります。

投与経路と治療期間

抗真菌薬の投与経路は患者さんの状態や感染の重症度によって異なります。

  • 経口投与
  • 静脈内投与
  • 局所投与(髄腔内投与など)

重症例ではまず静脈内投与から開始し、症状の改善に伴って経口投与に切り替えることが一般的です。

治療期間は感染の部位・程度・患者さんの免疫状態などによって大きく異なりますが、多くの場合では数週間から数か月に及びます。

感染部位一般的な治療期間
6~12週間
中枢神経系数か月~1年以上
播種性感染数週間~数か月

2022年に発表されたある研究によると侵襲性アスペルギルス症患者さんの約60%が6週間以上の抗真菌薬治療を必要としたというデータがあります。

このことからも内臓真菌症の治療には長期的な取り組みが必要であることがわかります。

免疫機能の改善

内臓真菌症の治療において抗真菌薬の使用と並んで重要なのが患者さんの免疫機能の改善です。

多くの場合内臓真菌症は免疫機能が低下した状態で発症するため根本的な治療には免疫力の回復が不可欠です。

  • 基礎疾患の管理
  • 栄養状態の改善
  • 免疫抑制剤の調整

これらの取り組みにより体の防御機能を高めて真菌感染に対する抵抗力を強化することができます。

免疫機能の回復には時間がかかることもあり患者さんの全身状態を総合的に評価しながら長期的な視点で治療を進めていくことが重要です。

外科的治療の役割

一部の内臓真菌症では薬物療法だけでなく外科的治療が必要となることがあります。

特に肺アスペルギローマや脳膿瘍などでは病変部の切除が有効な治療選択肢となるでしょう。

外科的治療の適応目的
難治性病変感染巣の除去
大血管近接病変出血予防
診断目的組織生検

外科的治療は侵襲的であるためその必要性と患者さんの全身状態を慎重に検討した上で実施されます。

手術後も抗真菌薬による治療は継続されて再発防止に努めます。

治癒判定と経過観察

内臓真菌症の治癒判定は慎重に行われる必要があります。

臨床症状の改善・画像所見の変化・血液検査結果などを総合的に評価して治療の終了時期を決定します。

  • 発熱や全身症状の消失
  • 画像上の病変の縮小または消失
  • 血清マーカー(β-Dグルカンなど)の陰性化

これらの基準を満たした後も内臓真菌症は再発のリスクがあるため定期的な検査と慎重な経過観察が行われるのが一般的です。

治癒までの期間は個々の患者さんによって大きく異なりますが軽症例で数か月、重症例では1年以上かかることもあります。

患者さんの生活の質を考慮しつつ長期的な視点で治療を継続することが内臓真菌症の完治につながる近道です。

副作用とリスクを知る

内臓真菌症の治療は患者さんの命を守る上で不可欠ですが、同時に様々な副作用やリスクを伴う可能性があります。

本稿では治療に伴う副作用やデメリットについて詳しく解説し、患者さんやご家族の理解を深めることを目指します。

抗真菌薬による副作用

内臓真菌症の治療の中心となる抗真菌薬は強力な効果を持つ一方で様々な副作用を引き起こす可能性があります。

以下のような副作用は患者さんの生活の質に大きな影響を与えることがあるため注意深い観察と管理が必要です。

抗真菌薬主な副作用
アムホテリシンB腎機能障害・発熱・悪寒
フルコナゾール肝機能障害・消化器症状
ボリコナゾール視覚障害・皮膚発疹

特にアムホテリシンBは強力な抗真菌作用を持つ反面で腎機能障害のリスクが高いことが知られています。

腎機能障害は時に不可逆的なものとなる可能性があり長期的な健康への影響が懸念されます。

薬物相互作用のリスク

多くの抗真菌薬は他の薬剤と相互作用を起こす可能性が高く、このことが治療をより複雑にする要因となっています。

特に免疫抑制剤や抗凝固薬などと併用する際には慎重な用量調整が必要です。

  • 免疫抑制剤の血中濃度上昇
  • 抗凝固作用の増強
  • 他の薬剤の代謝阻害

これらの相互作用により予期せぬ副作用や治療効果の減弱が生じる可能性があります。

そのため患者さんが服用中の全ての薬剤について詳細な確認と調整が求められます。

長期治療に伴う身体的負担

内臓真菌症の治療は長期に及ぶことが多く、その間の継続的な薬物療法は患者さんの身体に大きな負担をかけることがあります。

長期治療の影響具体例
臓器機能への影響肝腎機能の低下
栄養状態の変化食欲不振・体重減少
骨髄抑制貧血・白血球減少

特に高齢の患者さんや基礎疾患をお持ちの方ではこれらの影響がより顕著に現れる傾向です。

長期治療中は定期的な血液検査や臓器機能評価が欠かせず患者さんの負担となることがあります。

耐性菌出現のリスク

抗真菌薬の長期使用に伴い薬剤耐性を持つ真菌が出現するリスクがあります。

耐性菌の出現は治療の難渋化につながり、より強力な薬剤の使用や治療期間の延長を余儀なくされることがあるでしょう。

  • 既存薬への反応性低下
  • 新規薬剤開発の必要性
  • 治療オプションの制限

耐性菌対策として 適切な薬剤選択と用量設定 そして治療期間の最適化が重要となりますが これらの判断は非常に難しい場合があります。

免疫機能への影響

一部の抗真菌薬は患者さんの免疫機能に影響を与える可能性があります。

免疫機能の変調は他の感染症のリスクを高めたり既存の疾患の管理を難しくしたりすることがあります。

免疫への影響結果
T細胞機能低下ウイルス感染リスク上昇
好中球減少細菌感染リスク上昇
サイトカイン産生変化炎症反応の変調

特に移植後の患者さんやHIV感染症の患者さんでは免疫機能への影響をより慎重に評価する必要があります。

免疫機能の変化は目に見えにくいため定期的な血液検査や感染症スクリーニングが重要です。

精神的・社会的影響

内臓真菌症の長期治療は患者さんに大きな精神的負担をもたらすことがあります。

治療の副作用や長期入院 社会生活の制限などが患者さんの心理状態や生活の質に影響を与える可能性があります。

  • うつ状態や不安の増大
  • 社会的孤立感
  • 経済的負担

これらの問題は直接的な身体症状ではありませんが、治療の継続や回復過程に大きな影響を与えるのです。

心理的サポートや社会資源の活用が治療を成功に導く上で大切な要素となることがあります。

内臓真菌症の治療に伴う副作用やリスクは患者さん一人一人で異なり個別の対応が必要です。

内臓真菌症治療の経済的側面

内臓真菌症の治療には高額な費用がかかることがあります。

薬価や入院期間によって大きく変動するため経済的な準備が重要です。

処方薬の薬価

抗真菌薬は一般的に高価であり特に新しい薬剤ほど高額になる傾向です。

薬剤名1日あたりの薬価
ボリコナゾール(ブイフェンド錠200mg)2,477.2円
ミカファンギン(ファンガード点滴用75mg)9,150円

これらの薬価は投与量や剤形によって変動します。

1週間の治療費

入院治療を要する場合は薬剤費に加えて入院費や検査費用が発生します。

  • 薬剤費 17,340.4円〜64,050円
  • 入院基本料 2万円〜4万円
  • 検査・処置費 2万円〜4万円

1か月の治療費

長期治療を要する内臓真菌症では1か月の治療費が100万円を超えることもあります。

詳しく説明すると、日本の入院費はDPC(診断群分類包括評価)システムを使用して計算されます。

このシステムは、患者の病名や治療内容に基づいて入院費を決定する方法です。以前の「出来高」方式とは異なり、DPCシステムでは多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。

DPC名: その他の真菌感染症
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥500,080 +出来高計算分

なお、上記の価格は2024年10月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文