感染症の一種である劇症型溶血性レンサ球菌感染症(劇症型溶連菌)とは、A群溶血性連鎖球菌による非常に重篤な感染症です。

この疾患は急速に進行する軟部組織壊死や多臓器不全を特徴とし、致死率が高いことで知られています。

通常の溶連菌感染症と異なり、劇症型では数時間から数日の間に症状が急激に悪化します。

主に成人に発症し、特に高齢者や基礎疾患を持つ方がハイリスク群となります。

早期診断と迅速な対応が生命予後を左右する重要な因子となるため、疑わしい症状がある場合は直ちに医療機関を受診することが大切です。

本疾患に関する正しい知識を持つことは個人および公衆衛生の観点から非常に意義深いものと言えるでしょう。

目次

STSSの主症状:急速に進行する致命的な徴候

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は急速に進行する重篤な感染症です。

本稿ではSTSSの主要な症状について詳しく説明します。

初期症状から急性期の症状、多臓器不全の徴候まで、幅広い症状の特徴と経過を解説します。

また、症状の重症度や進行速度、年齢による違いなども併せて紹介し、この感染症の危険性と早期発見の重要性について理解を深めていきます。

初期症状:非特異的な前駆症状

劇症型溶連菌の初期症状は一般的な感染症と類似しており、非特異的な場合が多いです。

しかしこれらの症状は急速に悪化する可能性があるため注意が必要です。

主な初期症状には以下のようなものがあります。

  1. 発熱 多くの場合、38.5℃以上の高熱を伴う
  2. 全身倦怠感 急激な体力の低下や疲労感を感じる
  3. 筋肉痛 特に四肢や背中の筋肉に強い痛みを感じることがある
  4. 頭痛 持続的で強い頭痛が現れることがある

これらの症状はインフルエンザなどの一般的な感染症と似ているため初期段階での診断が難しいことがあります。

初期症状特徴
発熱38.5℃以上の高熱
全身倦怠感急激な体力低下
筋肉痛四肢・背部の強い痛み
頭痛持続的で強い痛み

初期症状が現れてから数時間から数日の間に症状が急速に悪化することが特徴です。

急性期症状:急速に進行する重篤な徴候

初期症状から急性期に移行すると症状は急速に悪化して生命を脅かす状態に陥ります。

以下は劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主な急性期症状です。

  • 激しい疼痛 特に感染部位の痛みが顕著
  • 皮膚の変色 感染部位の皮膚が赤紫色や暗紫色に変色することがある
  • 血圧低下 ショック状態に陥り血圧が急激に低下
  • 意識障害 意識レベルの低下や錯乱状態が現れることがある

これらの症状は数時間から24時間以内に急速に進行することがあります。

2018年に発表された大規模研究によるとSTSSの患者さんの約80%が発症から24時間以内にショック状態に陥ったことが報告されています。

急性期症状の特徴

  • 急速な進行(数時間〜24時間)
  • 激しい局所症状
  • 全身状態の急激な悪化
  • ショック症状の出現

急性期症状が現れた場合は直ちに医療機関を受診することが生命予後を左右する重要な要素です。

軟部組織壊死:特徴的な局所症状

STSSの特徴的な症状の一つが軟部組織の壊死です。

これは主に四肢や体幹部に現れて以下のような症状を伴います。

軟部組織壊死の症状特徴
疼痛激しい、触れただけでも耐えがたい痛み
腫脹感染部位が急速に腫れ上がる
皮膚変色赤紫色→暗紫色→黒色へと変化
水疱形成皮膚に水疱やびらんが形成

軟部組織壊死はSTSSの中でも特に致命的な症状の一つです。

早期に適切な処置が行われないと急速に進行して広範囲の組織損傷を引き起こす可能性があります。

これらの症状が現れた場合は緊急の医療介入が必要となります。

多臓器不全:全身に及ぶ重篤な合併症

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の進行に伴い多臓器不全の症状が現れることがあります。

これは感染が全身に波及して様々な臓器の機能が急速に低下する状態を指します。

以下はその主な症状です。

  • 呼吸不全 呼吸困難や酸素飽和度の低下が見られる
  • 腎不全 尿量の減少や浮腫が現れることがある
  • 肝機能障害 黄疸や出血傾向が見られることがある
  • 凝固異常 出血が止まりにくくなったり逆に血栓ができやすくなる

多臓器不全はSTSSの中でも特に予後不良な状態です。

早期に適切な集中治療が行われないと致命的な結果につながる可能性があります。

多臓器不全の主な症状

  • 呼吸困難
  • 尿量減少
  • 黄疸
  • 出血傾向
  • 意識レベルの低下

これらの症状が複合的に現れた場合は生命の危険が極めて高い状態であることを示しています。

非典型的な症状:診断を困難にする要因

劇症型溶連菌の症状は典型的なものばかりではありません。

時に非典型的な症状を呈することがあり、これが診断を困難にする要因となっています。

以下は主な非典型的症状です。

消化器症状 腹痛や嘔吐、下痢などが初期症状として現れることがある

咽頭痛 通常の溶連菌感染症と似た症状で始まることがある

関節痛 リウマチ性疾患と間違われることがある

皮膚症状 蕁麻疹様の発疹が全身に現れることがある

これらの非典型的症状は他の疾患との鑑別を困難にして診断の遅れにつながる可能性があります。

したがって症状が急速に悪化する場合や通常の治療に反応しない場合はSTSSの可能性を考慮することが重要です。

以上、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主要な症状について詳しく解説しました。

この感染症は症状の進行が極めて急速であり、早期発見と迅速な対応が生命予後を大きく左右します。

非特異的な初期症状から致命的な多臓器不全まで幅広い症状を理解し、疑わしい場合は直ちに医療機関を受診することが大切です。

STSSの原因とメカニズム:致命的な感染の引き金

劇症型溶血性レンサ球菌感染症はA群溶血性連鎖球菌による重篤な感染症です。

本稿ではSTSSの原因となる細菌の特徴や感染経路、体内での増殖メカニズムについて詳しく説明します。

また、発症リスクを高める要因や細菌の毒素産生能力についても触れ、なぜこの感染症が急速に進行し致命的となり得るのかを理解する情報を提供します。

A群溶血性連鎖球菌の特徴

STSSの原因菌であるA群溶血性連鎖球菌(Group A Streptococcus, GAS)はグラム陽性の球菌で連鎖状に配列する特徴を持ちます。

この細菌は通常の溶連菌感染症の原因菌と同じですが、STSSを引き起こす株は特に強力な毒素を産生する能力を持っています。

A群溶血性連鎖球菌には多くの血清型が存在し、主にM蛋白の違いによって分類されます。

M蛋白は細菌の表面に存在し、宿主の免疫系からの防御や組織への付着に重要な役割を果たします。

特徴詳細
形態グラム陽性球菌、連鎖状
主要抗原M蛋白
溶血性β溶血

STSSを引き起こすA群溶血性連鎖球菌は特に強力な外毒素を産生する能力を持っており、これが急速な病態の進行につながります。

感染経路と侵入メカニズム

STSSの感染経路は通常の溶連菌感染症と同様ですが、菌が体内に侵入した後の経過が大きく異なります。

主な感染経路には以下の通りです。

感染経路特徴
皮膚の傷小さな傷でも侵入の可能性あり
粘膜咽頭、膣などから侵入
手術部位稀だが手術後の創部から感染し重篤化しやすい
既存感染巣皮膚感染症や咽頭炎が重症化してSTSSに進展

これらの経路から侵入したA群溶血性連鎖球菌は急速に増殖して強力な毒素を産生します。

侵入後に菌は急速に増殖して全身に広がっていきます。

この過程で産生される毒素がSTSSの重篤な症状を引き起こします。

毒素産生と病態進行メカニズム

STSSの急速な進行と重篤な症状の背景にはA群溶血性連鎖球菌が産生する強力な毒素が関与しています。

以下は主な毒素です。

  • 発熱性外毒素(スーパー抗原)
  • ストレプトリジンO
  • ストレプトキナーゼ
  • DNase

これらの毒素は複合的に作用して急激な病態の悪化を引き起こします。

特に発熱性外毒素はスーパー抗原として作用して大量のサイトカイン放出を誘導します。

これにより全身性炎症反応症候群(SIRS)や多臓器不全が引き起こされます。

毒素の作用メカニズム

  1. 発熱性外毒素によるサイトカインストーム
  2. 血管内皮細胞の障害による血管透過性亢進
  3. 凝固系の活性化による微小血栓形成
  4. 組織破壊酵素による直接的な組織障害

これらの作用が複合的に働くことで劇症型溶連菌の特徴的な急速進行と重篤な症状が引き起こされます。

宿主要因:発症リスクを高める条件

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症には菌側の要因だけでなく宿主側の要因も大きく関与します。

特に以下のような条件が発症リスクを高めることが知られています。

  1. 高齢
  2. 糖尿病
  3. 慢性肝疾患
  4. 悪性腫瘍
  5. 免疫抑制状態
  6. 外傷や手術後の状態

これらの要因は宿主の免疫機能を低下させたり菌の侵入や増殖を容易にしたりすることでSTSSの発症リスクを高めます。

リスク要因影響
高齢免疫機能の低下
糖尿病血管障害、免疫機能低下
慢性肝疾患代謝機能低下、免疫機能低下
悪性腫瘍全身状態の悪化、免疫機能低下

これらのリスク要因を持つ方は小さな傷や感染でもSTSSに進展する可能性があるため特に注意が必要です。

遺伝的要因:感受性を決定する因子

STSSの発症には遺伝的要因も関与していることが近年の研究で明らかになってきました。

特にHLA(ヒト白血球抗原)の特定のタイプがSTSSの感受性に関与していることが示唆されています。

HLAは免疫系において重要な役割を果たすタンパク質で個人によって異なるタイプを持っています。

特定のHLAタイプを持つ個人はA群溶血性連鎖球菌の毒素に対してより強い免疫反応を示し、結果としてSTSSを発症しやすくなる可能性があります。

これらの遺伝的要因は劇症型溶連菌の発症リスクを予測したり個別化された予防策を講じたりする上で将来的に重要な役割を果たす可能性があります。

診察と診断:迅速な判断が生死を分ける

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診察と診断は患者さんの症状や経過、疫学的情報、そして各種検査結果を総合的に評価して行われます。

本稿では医療機関での診察の流れや使用される主な診断方法について詳しく説明します。

診断プロセスの各段階を解説して正確かつ迅速な診断に至るまでの過程を明らかにします。

初診時の問診:重要な情報収集

STSSの診断において問診は非常に重要な役割を果たします。

医師は患者さんやご家族から次のような情報を丁寧に聴取します。

  • 症状の発症時期と経過
  • 症状の急速な進行の有無
  • 最近の外傷や手術の有無
  • 基礎疾患(糖尿病、肝疾患など)の有無
  • 最近の感染症罹患歴

これらの情報はSTSSの可能性を評価する上で大切です。

特に症状の急速な進行や皮膚の変化、激しい痛みなどはSTSSを強く疑う根拠となります。

問診項目重要性
症状の急速進行
皮膚の変化
激しい痛み
基礎疾患
最近の外傷歴

問診で得られた情報はその後の身体診察や検査の方向性を決定する上で不可欠です。

医師はこれらの情報を基に劇症型溶連菌の可能性を評価して他の疾患との鑑別を行います。

身体診察:全身状態の評価

問診に続いて行われる身体診察では患者さんの全身状態を詳細に評価します。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断において特に注目される点は以下の通りです。

  • バイタルサインの確認 血圧低下、頻脈、頻呼吸などのショック徴候を評価
  • 皮膚所見の観察 発赤、腫脹、水疱形成、壊死性変化などを確認
  • 筋肉の触診 筋肉の圧痛や硬結の有無を評価
  • 意識状態の確認 意識レベルの低下や錯乱の有無を確認

身体診察では特に皮膚所見と全身状態の評価が重要です。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症では急速に進行する皮膚の変化やショック状態が特徴的です。

診察項目評価ポイント
バイタルサインショック徴候
皮膚所見発赤、腫脹、壊死性変化
筋肉触診圧痛、硬結
意識状態意識レベル、錯乱

医師はこれらの身体所見を総合的に判断してSTSSの可能性や重症度を評価します。また、他の感染性疾患との鑑別も同時に行います。

検査:確定診断への道筋

劇症型溶連菌の確定診断には様々な検査方法が用いられます。

以下は主な検査方法です。

  • 血液培養 A群溶血性連鎖球菌の検出
  • 創部培養 感染部位からの菌の検出
  • 血液検査 白血球数、CRP、肝機能、腎機能、凝固機能などの評価
  • 画像検査 CT、MRIなどによる軟部組織の評価

これらの中で血液培養と創部培養は特に重要です。

A群溶血性連鎖球菌が検出されればSTSSの診断に大きく近づきます。

STSSの診断に重要な検査

  • 血液培養
  • 創部培養
  • 血液検査(白血球数、CRP、肝機能、腎機能、凝固機能)
  • 毒素遺伝子検査

検査の選択は患者さんの状態や医療機関の設備などによって異なります。

また、検査結果の解釈には臨床症状や疫学的情報との整合性を考慮することが大切です。

診断基準:STSSの確定

劇症型溶連菌の診断は特定の診断基準に基づいて行われます。

一般的に用いられる診断基準は以下のような項目です。

  1. A群溶血性連鎖球菌の分離(血液、組織、通常無菌部位から)
  2. 低血圧の存在
  3. 多臓器不全の存在(2つ以上の臓器系統の障害)

これらの基準を満たす場合に劇症型溶血性レンサ球菌感染症(劇症型溶連菌)と診断されます。

ただし、臨床的に強く疑われる場合は全ての基準を満たさなくても暫定的にSTSSとして対応することがあります。

診断基準詳細
菌の分離血液、組織、無菌部位から
低血圧成人で収縮期血圧90mmHg未満
多臓器不全2つ以上の臓器系統の障害

これらの診断基準は劇症型溶連菌の迅速かつ正確な診断を支援するためのものです。

しかし診断基準を満たすまでに時間がかかる場合もあるため臨床的な判断が非常に重要です。

鑑別診断:他の重症感染症との区別

STSSの診断において他の重症感染症との鑑別は重要です。

主な鑑別疾患には以下のようなものがあります。

  1. 壊死性筋膜炎(他の細菌によるもの)
  2. ブドウ球菌性毒素性ショック症候群
  3. 重症敗血症
  4. ガス壊疽
  5. 重症熱傷

鑑別診断では症状の特徴や経過、培養結果、画像所見などを総合的に考慮します。

必要に応じて他の病原体の検査も行われることがあります。

STSSは急速に進行して致命的となる可能性が高いため迅速な診断と対応が求められます。

そのため鑑別診断を行いつつもSTSSを強く疑う場合は確定診断を待たずに早期から積極的な対応を開始することが大切です。

画像所見:診断と経過観察の鍵となる視覚的情報

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の画像所見は診断の補助や病態の把握に重要な役割を果たします。

本稿では画像診断で見られる特徴的な所見について詳しく説明します。

各検査方法の特徴や得られる情報の意義、そして画像所見の経時的変化についても触れ、STSSの診断と経過観察における画像診断の重要性を明らかにします。

X線検査:初期評価と合併症の検出

X線検査はSTSSの初期評価や合併症の検出に用いられる基本的な画像診断法です。

主に胸部X線と軟部組織X線が実施されます。

胸部X線では以下のような所見が観察されることがあります。

  • 肺水腫 両側肺野のびまん性陰影として現れる
  • 胸水 肋骨横隔膜角の鈍化や肺野の透過性低下として観察される
  • 縦隔拡大 重症例では縦隔の拡大が見られることがある

軟部組織X線では、感染部位の腫脹や気腫性変化が観察されることがあります。

X線所見臨床的意義
肺水腫呼吸不全の評価
胸水全身状態の悪化
軟部組織腫脹局所感染の程度

X線検査は迅速に全身状態を評価できる利点がありますが、詳細な軟部組織の評価には限界があります。

CT検査:軟部組織の詳細評価

CT検査はSTSSにおける軟部組織の変化を詳細に評価するのに非常に有用です。

特に以下のような所見が観察されます。

  1. 筋膜の肥厚 感染部位の筋膜が肥厚し造影効果を示します。
  2. 筋肉の腫脹 感染部位の筋肉が腫脹し低吸収域として観察されます。
  3. 気腫性変化 感染部位に気泡が形成されることがあります。
  4. 液体貯留 筋膜間や筋肉内に液体貯留が見られることがあります。

これらの所見は劇症型溶連菌の進行度や範囲を評価する上で重要な情報を提供します。

CT検査の主な利点

  • 高い空間分解能
  • 軟部組織の詳細な評価が可能
  • 感染の範囲や深さの把握
  • 合併症の検出

CT検査は被曝を伴いますが、STSSの診断と経過観察において非常に重要な役割を果たします。

MRI検査:高コントラストでの軟部組織評価

MRI検査は放射線被曝がなく、軟部組織のコントラスト分解能に優れているという特徴があります。

STSSの評価において次のような所見が観察されます。

  • T2強調画像での高信号:感染部位の浮腫や炎症を反映
  • 造影T1強調画像での増強効果:活動性の炎症を示す
  • 拡散強調画像での高信号:膿瘍形成を示唆

MRI検査は特に深部の軟部組織感染の評価に優れており、筋膜や筋肉の変化を詳細に観察することができます。

MRI所見臨床的意義
T2高信号浮腫・炎症の範囲
造影増強効果活動性炎症の程度
拡散制限膿瘍形成の可能性

MRI検査は高い組織コントラストと多様な撮像法により、STSSの病態を多角的に評価できる利点があります。

一方で検査時間が長いことや急性期の患者には実施が困難な場合があるなどの制約もあります。

超音波検査:ベッドサイドでの迅速評価

超音波検査はベッドサイドで実施可能な非侵襲的検査法として劇症型溶連菌の評価に活用されます。

主に以下のような所見が観察されます。

  1. 軟部組織の肥厚:感染部位の皮下組織や筋膜の肥厚が観察されます
  2. 液体貯留:筋膜間や筋肉内の液体貯留が低エコー域として観察されます
  3. 血流増加:カラードプラ法で感染部位の血流増加が確認できます

超音波検査はリアルタイムで病変の評価が可能であり、経時的な変化の観察にも適しています。

超音波所見意義
軟部組織肥厚感染の程度を反映
液体貯留膿瘍形成の可能性
血流増加活動性炎症の指標

超音波検査は放射線被曝がなく繰り返し実施できる利点がありますが深部の評価には限界があります。

画像所見の経時的変化

STSSの画像所見は病態の進行や治療効果に応じて経時的に変化します。

典型的な経過では次のような変化が観察されます。

  1. 急性期 軟部組織の腫脹や浮腫が顕著で造影効果も強く現れます。
  2. 回復期 腫脹や浮腫が徐々に改善し造影効果も減弱していきます。
  3. 治癒期 軟部組織の所見がほぼ正常化します。ただし瘢痕化が残ることもあります。

これらの経時的変化を追跡することで治療効果の判定や予後の推定に役立てることができます。

ただし画像所見の改善は臨床症状の改善よりも遅れることがあるため総合的な評価が必要です。

STSSの治療法と回復までの道のり

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の治療は迅速かつ包括的なアプローチが必要です。

本稿ではSTSSの主要な治療方法、使用される薬剤、そして治癒までの期間について詳しく説明します。

抗菌薬療法、外科的処置、集中治療など多角的な治療アプローチの重要性を解説して患者さんやご家族が理解しやすい形で治療の全体像を提示します。

抗菌薬療法:STSSの治療の要

劇症型溶連菌の治療において最も重要なのが抗菌薬療法です。

A群溶血性連鎖球菌に対して効果的な抗菌薬を大量に投与することで細菌の増殖を抑制して毒素の産生を抑えます。

主に使用される抗菌薬には以下のようなものがあります。

  1. ペニシリン系抗菌薬(ベンジルペニシリンなど)
  2. セフェム系抗菌薬(セフトリアキソンなど)
  3. クリンダマイシン

これらの抗菌薬は単独または併用で使用されます。

特にペニシリン系抗菌薬とクリンダマイシンの併用が効果的とされています。

抗菌薬特徴
ペニシリン系第一選択薬、高用量投与
セフェム系広域スペクトル、高用量投与
クリンダマイシン毒素産生抑制効果あり

抗菌薬治療は通常2〜3週間程度継続されます。

この期間を守ることが再発や合併症の予防に大切です。

外科的処置:感染巣の除去

STSSではしばしば感染巣の外科的除去が必要となります。

主な外科的処置には以下のようなものがあります。

  1. デブリードメント 壊死組織の除去
  2. 筋膜切開 圧迫による循環障害の改善
  3. 切断 重度の壊死が進行した場合の最終手段

これらの処置は感染の進行を食い止め抗菌薬の効果を高めるために重要です。

時には複数回の手術が必要となることもあります。

外科的処置の目的

  • 感染巣の除去
  • 循環障害の改善
  • 毒素の除去
  • 二次感染の予防

外科的処置の時期や範囲は患者さんの状態や感染の進行度によって慎重に判断されます。

集中治療:全身管理の重要性

STSSは全身性の重篤な感染症であるため集中治療室(ICU)での全身管理が必要となります。

主な集中治療の内容は次の通りです。

  1. 循環管理 大量輸液、昇圧剤の使用
  2. 呼吸管理 人工呼吸器の使用
  3. 腎機能管理 透析の実施
  4. 凝固異常の管理 血液製剤の投与

これらの集中治療はSTSSによる多臓器不全を防ぎ生命維持に不可欠です。

集中治療目的
循環管理ショックの改善
呼吸管理酸素化の維持
腎機能管理代謝異常の是正
凝固管理出血傾向の改善

集中治療の期間は患者さんの状態によって異なりますが、通常1〜2週間程度を要します。

免疫グロブリン療法:補助的治療法

STSSの治療では静注用免疫グロブリン(IVIG)が補助的に使用されることがあります。

IVIGは以下のような効果が期待されます。

  1. 毒素の中和
  2. 免疫調節作用
  3. 抗炎症作用

IVIGの使用は特に重症例や通常の治療に反応が乏しい場合に検討されます。

2018年に発表された大規模研究によるとIVIG療法を受けたSTSS患者の死亡率が受けなかった患者と比較して有意に低かったことが報告されています。

この結果はIVIG療法のSTSS治療における有効性を示唆しています。

治癒までの期間と経過

STSSの治癒までの期間は患者さんの年齢や全身状態、治療開始のタイミングなどによって大きく異なりますが、一般的には以下のような経過をたどります。

  1. 急性期(1〜2週間) 集中治療と抗菌薬治療が中心
  2. 回復期(2〜4週間) 全身状態の改善、リハビリテーションの開始
  3. 治癒期(1〜3ヶ月) 後遺症の管理、社会復帰への準備

適切な治療が行われた場合でも完全な回復までには数ヶ月を要することがあります。

また、重度の後遺症が残る場合もあります。

時期主な特徴
急性期生命維持が最優先
回復期全身状態の改善
治癒期後遺症管理、社会復帰

治癒の判断は、臨床症状の消失や全身状態の改善、検査値の正常化などを総合的に評価して行われます。

[リハビリテーション:機能回復への道

STSSからの回復過程では適切なリハビリテーションが重要です。

主なリハビリテーションの内容には以下のようなものがあります。

  1. 理学療法 筋力低下や関節拘縮の改善
  2. 作業療法 日常生活動作の再獲得
  3. 言語療法 嚥下機能の改善(人工呼吸器管理後)

リハビリテーションは患者さんの状態に応じて段階的に進められます。

早期からのリハビリテーション開始が機能回復と社会復帰の促進につながります。

以上、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の治療法と回復までの経過について詳しく解説しました。

STSSは極めて重篤な疾患ですが、迅速かつ適切な治療によって多くの患者さんが回復に向かうことができます。

ただし、治療には長期間を要し患者さんとご家族の強い意志と忍耐が必要となります。

医療チームと密接に連携して一歩ずつ回復への道を歩んでいくことが大切です。

治療におけるリスクと副作用

劇症型溶連菌感染症(STSS)の治療は迅速かつ集中的に行うことが不可欠です。

しかし治療に伴うリスクや副作用も存在するため患者さんはそれらを理解しておくことが重要です。

この記事では治療に伴うリスクや副作用について患者さんにとって分かりやすい言葉で説明いたします。

抗菌薬療法のリスクと副作用

抗菌薬は劇症型溶連菌感染症の治療に欠かせませんが様々な副作用が生じる可能性があります。

例えば吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状が現れることがあります。

副作用説明
吐き気・嘔吐抗菌薬の服用により、胃腸が刺激され、吐き気や嘔吐が生じることがあります。
下痢抗菌薬によって腸内細菌叢のバランスが崩れ、下痢が生じることがあります。
発疹薬剤に対するアレルギー反応として、皮膚に発疹が現れる場合があります。

これらの副作用は一時的なものが多いですが、症状が重い場合や長引く場合は速やかに医師に相談してください。

集中治療に伴うリスクと副作用

重症化した劇症型溶連菌感染症の場合には集中治療が必要となることがあります。

集中治療は生命維持に不可欠ではありますが合併症のリスクも伴います。

  • 人工呼吸器関連肺炎
  • 血栓症
  • 腎機能障害

集中治療に伴う合併症は患者様の状態や治療内容によって様々です。

医療スタッフは合併症の予防に努めるとともに、早期発見・早期治療に最善を尽くします。

その他の治療におけるリスクと副作用

劇症型溶連菌感染症の治療では抗菌薬療法や集中治療以外にも様々な治療法が用いられます。

治療法リスクと副作用
免疫グロブリン療法アレルギー反応、頭痛、発熱など
血漿交換療法血圧低下、アレルギー反応、出血傾向など

それぞれの治療法には固有のリスクと副作用が存在しますので治療を受ける前に医師から十分な説明を受けて理解しておくことが大切です。

治療における合併症

劇症型溶連菌感染症の治療中に稀ではありますが重篤な合併症が発生するケースがあります。

ショックや多臓器不全といった生命に関わる合併症も起こりえます。

  • ショック
  • 多臓器不全
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)

これらの合併症は迅速な対応が必要となるため、医療スタッフは常に注意深く観察して適切な処置を行います。

治療効果と副作用のバランス

劇症型溶連菌感染症の治療は感染症の重症度や患者さんの状態に応じて適切な方法を選択することが大切です。

治療による効果と副作用のバランスを考慮して患者さんにとって最良の治療を提供できるよう、医療チームは尽力します。

以下は治療の選択における重要なポイントです。

  • 患者さんの年齢や基礎疾患
  • 感染症の重症度
  • 使用する薬剤に対するアレルギーの有無

上記のような要素を総合的に判断して個々の患者さんに最適な治療法を選択します。

劇症型溶連菌感染症の治療費について

劇症型溶連菌感染症の治療には抗菌薬や免疫グロブリン製剤などを使用します。

治療にかかる費用は薬の種類や使用量、入院期間などによって大きく変動します。

このため患者さんは治療費用の概要を把握しておくことが重要です。

処方薬の薬価

劇症型溶連菌感染症の治療ではペニシリン系の抗菌薬やセフェム系の抗菌薬を使用することがあります。

薬価は薬剤の種類や投与量によって異なります。

薬剤の種類薬価(目安)
ペニシリン系1日あたり数百円
セフェム系1日あたり数百円~数千円

1週間の治療費

入院が必要な場合での1週間の治療費は数万円から数十万円程度かかることがあります。

治療費には薬剤費だけでなく入院費、検査費、手術費などが含まれます。

例えば集中治療室での管理が必要な場合は費用がさらに高額になる可能性があります。

1か月の治療費

劇症型溶連菌感染症の治療期間は症状の重さによって異なります。

入院期間が長引く場合での1か月の治療費は数十万円から数百万円に達することもあります。

  • 薬剤費
  • 入院費
  • 検査費
  • 手術費(場合により)

治療費は患者様の病状や治療内容により変動するため医療機関にご確認ください。

以上

参考にした論文