食中毒は、私たちが口にした食品に含まれる細菌やウイルスなどの病原体が原因で起こる感染症の一種です。

食中毒には、細菌が作り出す毒素によって起こる「感染毒素型」と、細菌が食品の中で増殖し、その細菌自体が体内に侵入することで起こる「生体内毒素型」の2つのタイプがあります。

「感染毒素型」では、細菌が食品の中で増殖し、毒素を生成します。この毒素を含む食品を摂取することで、食中毒症状を引き起こします。

「生体内毒素型」では、細菌が食品の中で増殖し、その細菌自体が体内に侵入します。体内に侵入した細菌は増殖し、毒素を生成することで食中毒症状を引き起こします。

目次

食中毒の病型:感染毒素型と生体内毒素型

食中毒には、病原体が産生する毒素によって発症する「感染毒素型」と、病原体が体内に入った後に増殖し、その際に産生される毒素によって発症する「生体内毒素型」の2つの病型があります。

感染毒素型

感染毒素型は、病原体が産生する毒素が、食品に含まれた状態で摂取されることで発症します。病原体は食品の中で増殖し、毒素を産生します。この毒素を含んだ食品を摂取することで、食中毒症状が現れます。

病原体毒素食品症状
黄色ブドウ球菌エンテロトキシン肉、魚介類、乳製品嘔吐、腹痛、下痢
腸炎ビブリオ菌腸炎ビブリオ毒素魚介類嘔吐、腹痛、下痢
ボツリヌス菌ボツリヌス毒素肉、魚介類、野菜筋肉麻痺、呼吸困難

生体内毒素型

生体内毒素型は、病原体が体内に入った後に増殖し、その際に産生される毒素によって発症します。病原体は食品に含まれた状態で摂取され、体内に入ると増殖を始めます。増殖した病原体は毒素を産生し、その毒素によって食中毒症状が現れます。

病原体毒素食品症状
大腸菌腸管毒素肉、魚介類、野菜嘔吐、腹痛、下痢
サルモネラ菌サルモネラ毒素卵、鶏肉、豚肉発熱、腹痛、下痢
カンピロバクター菌カンピロバクター毒素鶏肉、豚肉、牛乳発熱、腹痛、下痢
  • 感染毒素型は、毒素が食品に含まれた状態で摂取されるため、食品の加熱が重要です。
  • 生体内毒素型は、病原体が体内に入った後に増殖するため、食品の衛生管理が重要です。

食中毒の予防

食中毒を予防するためには、食品の衛生管理が重要です。食品の購入、保管、調理、喫食の各段階において、適切な衛生管理を行う必要があります。

  • 食品の購入時には、賞味期限や消費期限を確認し、腐敗や変質していないかを確認します。
  • 食品の保管時には、冷蔵庫などの適切な場所で保管します。
  • 食品の調理時には、十分に加熱します。
  • 食品の喫食時には、手を洗い、清潔な食器を使用します。

食中毒は、適切な衛生管理を行うことで予防できます。食中毒の予防には、食品の衛生管理を徹底することが不可欠です。

食中毒の主症状:感染毒素型と生体内毒素型の特徴

食中毒は、感染毒素型と生体内毒素型の2つの病型に分類されます。両者とも消化器症状が主体ですが、その発症メカニズムや症状の特徴に違いがあります。

感染毒素型は毒素が直接作用するため、症状の発現が早く、嘔吐が顕著です。一方、生体内毒素型は体内で毒素が産生されるため、発症までに時間がかかり、下痢や発熱が主な症状となります。

感染毒素型食中毒の主症状

感染毒素型食中毒は、食品中で産生された毒素を摂取することで発症します。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 急激な嘔吐
  • 腹痛
  • 下痢(水様性または軽度の血便)
  • 発熱(軽度)

これらの症状は、毒素摂取後1〜6時間程度で現れることが多く、比較的短時間で回復します。嘔吐が顕著であることが特徴的です。

病原体潜伏期間主な症状持続期間
黄色ブドウ球菌1〜5時間激しい嘔吐、腹痛24〜48時間
セレウス菌(嘔吐型)1〜5時間嘔吐、腹痛24時間以内
腸炎ビブリオ8〜24時間腹痛、水様性下痢、発熱2〜3日

生体内毒素型食中毒の主症状

生体内毒素型食中毒は、摂取した病原体が体内で増殖し、毒素を産生することで発症します。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 下痢(水様性、粘液性、または血便)
  • 腹痛
  • 発熱
  • 嘔吐(感染毒素型ほど顕著ではない)

これらの症状は、病原体摂取後6〜72時間程度で現れることが多く、回復までに数日を要します。下痢と発熱が主な症状となります。

病原体潜伏期間主な症状持続期間
サルモネラ菌6〜72時間発熱、腹痛、下痢4〜7日
病原性大腸菌12〜72時間水様性下痢、腹痛3〜7日
カンピロバクター2〜5日発熱、腹痛、下痢(血便)1〜2週間

食中毒の症状の個人差

食中毒の症状は、病原体の種類や摂取量、個人の体質や免疫状態によって異なります。一般的に、以下のような要因が症状の程度に影響を与えます。

  • 年齢(高齢者や乳幼児は重症化しやすい)
  • 基礎疾患の有無
  • 摂取した病原体の量
  • 個人の免疫力

例えば、高齢者や免疫力が低下している人は、同じ病原体に感染しても、健康な成人よりも重症化しやすいことが知られています。

特殊な食中毒の症状

一部の食中毒では、消化器症状以外の特徴的な症状が現れます。

病原体特殊な症状備考
ボツリヌス菌神経症状(複視、嚥下困難)致死率が高い
シガテラ毒素温度感覚の逆転魚介類に含まれる毒素
フグ毒しびれ、麻痺適切な処理が重要

これらの特殊な食中毒は、一般的な食中毒と比べて発生頻度は低いものの、重篤な症状を起こす可能性があるため、注意します。

食中毒の症状と他の疾患との鑑別

食中毒の症状は、他の消化器疾患や感染症と類似していることがあります。以下のような疾患との鑑別が重要です。

  • ウイルス性胃腸炎
  • 細菌性腸炎
  • 急性虫垂炎
  • 過敏性腸症候群

食中毒の特徴として、同じ食事をした複数の人が同様の症状を呈することが多いという点があります。しかし、個人で発症した場合は、他の疾患との鑑別が難しいことがあります。

最近の研究では、食中毒の症状が長期化する可能性も指摘されています。

2018年にLancet Gastroenterology & Hepatologyに掲載された研究によると、カンピロバクター感染症の患者の一部で、感染後数ヶ月から数年にわたって腸管症状が持続する「感染後過敏性腸症候群」が発症します。

このような長期的な影響も、食中毒の症状を考える上で重要な視点となっています。

食中毒の原因を解明

食中毒は、病原体に汚染された食品を摂取することで発生する感染症の一種です。

食中毒を引き起こす主な原因物質

食中毒の主な原因物質は、細菌とウイルスです。これらの微生物は、肉眼では確認できないほど微小であるため、食品に付着していても気づきにくいという特徴があります。

細菌は適切な温度や湿度の条件下で、食品中で急速に増殖します。一方、ウイルスは食品中では増殖しませんが、人の腸管内で増殖し、食中毒を発症させます。

原因物質特徴増殖環境
細菌食品中で増殖可能温度や湿度に影響される
ウイルス食品中では増殖しない腸管内で増殖

感染毒素型食中毒のメカニズム

感染毒素型食中毒は、食品中で増殖した細菌を摂取することで発生します。この型の食中毒の特徴は以下の通りです:

  • 食品中で一定以上に増殖した細菌を摂取
  • 腸管内で細菌が感染し、さらに増殖
  • 細菌が産生する毒素により症状が発現

代表的な原因菌としては、サルモネラ属菌や腸炎ビブリオなどが挙げられます。これらの細菌は、適切な温度管理がなされていない食品や、十分に加熱されていない食品に多く存在します。

生体内毒素型食中毒のメカニズム

生体内毒素型食中毒は、摂取された細菌が腸管内で増殖し、毒素を産生することで発生します。この型の食中毒の特徴は次のとおりです:

  • 少量の細菌摂取でも発症
  • 腸管内で細菌が増殖し、毒素を産生
  • 産生された毒素により症状が発現

代表的な原因菌として、腸管出血性大腸菌(O157やO111など)やウエルシュ菌が知られています。これらの細菌は、汚染された水や食品を介して体内に侵入し、腸管内で増殖して毒素を産生します。

食中毒の型主な原因菌発症メカニズム特徴
感染毒素型サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ食品中で増殖した細菌を摂取食品中での細菌増殖が必要
生体内毒素型腸管出血性大腸菌、ウエルシュ菌腸管内で細菌が増殖し毒素を産生少量の細菌摂取でも発症

食中毒の発生要因と環境条件

食中毒の発生には、様々な要因が関与しています。特に、以下の環境条件が細菌の増殖を促進し、食中毒のリスクを高めます:

  • 適切な温度管理がなされていない食品の保存
  • 高温多湿な環境
  • 調理器具や手指の不十分な洗浄
  • 生肉や生魚の取り扱い不備
  • 長時間室温で放置された食品の摂取

細菌性食中毒は、特に夏季(6月から8月)に多く発生する傾向があります。これは、高温多湿な環境が細菌の増殖に適しているためです。

一方、ウイルス性食中毒は冬季(11月から3月)に流行することが多いです。

季節主な食中毒の種類理由予防のポイント
夏季細菌性食中毒高温多湿環境が細菌増殖に適している食品の温度管理を徹底する
冬季ウイルス性食中毒ウイルスが低温環境で生存しやすい手洗いや調理器具の消毒を徹底する

食中毒の原因となる細菌やウイルスは、自然界に広く存在しています。土壌や水、動物の皮膚や腸内にも存在するため、完全に避けることは困難です。

そのため、食品の取り扱いや調理過程での汚染防止が不可欠となります。

食中毒を引き起こす可能性のある主な食品には、以下のようなものがあります。

  • 生または加熱不十分な肉類(特に鶏肉)
  • 生卵や半熟卵
  • 生魚や貝類
  • 未殺菌の乳製品
  • 洗浄不十分な野菜や果物

これらの食品を適切に取り扱い、十分な加熱や洗浄を行うことが、食中毒予防の基本となります。

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の診察と診断

感染毒素型と生体内毒素型の食中毒は、特殊な診察と診断を要します。

これらは細菌が体内で毒素を産生することで発症するため、通常の食中毒とは異なるアプローチが求められます。

初診時の問診と身体診察

感染毒素型・生体内毒素型食中毒が疑われる患者が来院した際、医師は詳細な問診を行います。食事歴、症状の発現時期、周囲の人の状況などを丁寧に聴取します。

身体診察では、以下の点に注目します。

  • 全身状態の評価
  • バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸数)の確認
  • 腹部の触診
  • 脱水症状の有無

問診と身体診察の結果は、診断の重要な手がかりとなり、その後の検査や治療方針の決定に大きく影響します。

検査による診断

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の診断には、様々な検査が用いられます。これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定します。

検査項目目的特記事項
血液検査炎症反応や電解質異常の確認白血球数、CRP値などを測定
便培養検査原因菌の同定結果が出るまで数日かかる場合あり
毒素検査細菌が産生する毒素の検出特殊な検査機器が必要

画像診断の役割

重症例や合併症が疑われる場合、画像診断を実施します。これにより、食中毒の重症度評価や合併症の早期発見が可能となります。

検査方法主な目的利点
腹部X線検査腸管ガス像の確認簡便で迅速に実施可能
腹部CT検査腸管壁肥厚や腹水の評価詳細な画像情報が得られる
腹部エコー検査腸管浮腫の観察被曝がなく繰り返し検査可能

鑑別診断の重要性

感染毒素型・生体内毒素型食中毒は、他の消化器疾患と症状が類似することがあるため、鑑別診断が重要です。以下の疾患との鑑別が必要となります。

  • 急性胃腸炎(ウイルス性や細菌性)
  • 虫垂炎(盲腸炎とも呼ばれる)
  • 炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)
  • ウイルス性腸炎(ノロウイルスやロタウイルスによるものなど)

鑑別診断を適切に行うことで、誤診を防ぎ、適切な治療につなげることができます。各疾患の特徴的な症状や検査所見を熟知し、総合的に判断することが求められます。

専門医への紹介基準

一般的な医療機関で診断が困難な場合や、重症化が懸念される場合には、感染症専門医への紹介を検討します。

専門医による高度な診断と治療が必要な場合もあるため、適切なタイミングでの紹介が求められます。紹介の判断は、患者の状態や検査結果、医療機関の設備などを考慮して行います。

疫学調査との連携

感染毒素型・生体内毒素型食中毒は、集団発生の可能性があるため、保健所などの公衆衛生機関との連携が重要です。医療機関は、診断結果を速やかに報告し、疫学調査に協力することが求められます。

疫学調査では以下の情報が重要となります。

  • 患者の食事歴
  • 症状の発現時期と経過
  • 検査結果(特に原因菌の同定)
  • 患者の行動履歴

医療機関と公衆衛生機関の緊密な連携により、食中毒の拡大防止と原因究明が可能となります。この連携は、地域全体の健康を守る上で非常に重要な役割を果たします。

診断後のフォローアップ

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の診断後も、患者の経過観察が必要です。症状の改善状況や合併症の有無を確認するため、定期的な診察や検査を実施します。

フォローアップ項目目的頻度
症状の再評価改善状況の確認初期は数日ごと、その後は週単位
血液検査炎症反応や電解質バランスの確認症状に応じて適宜実施
便検査原因菌の消失確認症状改善後に1〜2回

フォローアップを通じて、治療効果の評価や再発防止のための指導を行います。患者の生活環境や食習慣にも注目し、再発リスクの低減に向けたアドバイスを提供します。

画像所見

X線検査による腸管ガス像の評価

X線検査は、感染毒素型・生体内毒素型食中毒の初期評価で広く用いられます。腹部単純X線撮影では、腸管内のガス像を観察できます。

  • 腸管拡張:ガスで膨らんだ腸管が確認される
  • 鏡面像(きょうめんぞう):液体とガスの境界線が見られる
  • 腸管ループの増加:腸管の蠕動運動(ぜんどううんどう)低下を示唆

これらの所見は、腸管の機能障害や炎症の程度を反映します。ただし、X線検査のみでは詳細な評価が困難な場合もあります。

CT検査による腸管壁と周囲組織の評価

CT検査は、腸管壁の状態や周囲組織の変化を詳しく観察できる優れた画像診断法です。感染毒素型・生体内毒素型食中毒では、以下のような特徴的な所見が見られます。

CT所見意味
腸管壁肥厚炎症や浮腫の存在
腸管拡張腸管機能の低下
腹水炎症による体液漏出
腸間膜脂肪織濃度上昇周囲組織への炎症波及

CT検査は、合併症の有無や重症度の評価に特に有用です。腸管穿孔(せんこう)や腹腔内膿瘍(のうよう)形成などの重篤な合併症を早期に発見します。

超音波検査による腸管浮腫の評価

超音波検査は、非侵襲的で繰り返し実施可能な画像診断法です。感染毒素型・生体内毒素型食中毒では、腸管壁の浮腫や肥厚を評価するのに適しています。

  • 腸管壁肥厚:5mm以上の壁厚
  • 層構造の乱れ:粘膜下層の浮腫
  • 腸管蠕動の低下:腸管機能障害
  • 腹水:遊離腹水の存在

超音波検査は、ベッドサイドで実施できる利点があり、経時的な変化の観察に適しています。

MRI検査による詳細な組織評価

MRI検査は、軟部組織のコントラスト分解能に優れ、感染毒素型・生体内毒素型食中毒の詳細な評価に役立ちます。特に、小児や妊婦など放射線被曝を避けたい患者さんに適しています。

MRI撮像法特徴
T2強調画像腸管壁の浮腫や炎症を高信号域として描出
拡散強調画像炎症部位を高信号域として明瞭に描出
造影検査腸管壁の造影効果から炎症の活動性を評価

MRI検査は、CT検査と比較して空間分解能は劣りますが、組織性状の評価に優れています。

画像所見の経時的変化

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の画像所見は、病態の進行や治療効果に応じて変化します。初期には軽度の腸管壁肥厚や浮腫が見られ、重症化すると腸管拡張や腹水貯留が顕著になります。

治療が奏功すると、これらの所見は徐々に改善していきます。

病期主な画像所見
初期軽度の腸管壁肥厚、浮腫
進行期著明な腸管拡張、腹水貯留
回復期所見の改善、正常化

経時的な画像評価は、治療効果の判定や合併症の早期発見に役立ちます。

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療と回復

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療は、主に対症療法と水分・電解質の補給を中心に行います。抗生物質の使用は限定的で、多くの場合は自然経過で回復します。

治癒までの期間は原因菌や状態により異なりますが、通常1週間程度です。重症例では入院治療が必要となります。

症状緩和のための対症療法

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療では、患者の苦痛軽減を第一に考えます。嘔吐や下痢による脱水を防ぐため、十分な水分補給を行います。経口補水液や電解質を含むスポーツドリンクなどが効果的です。

症状に応じて、以下の薬剤を使用することがあります。

  • 制吐剤:メトクロプラミド、ドンペリドンなど
  • 整腸剤:ビフィズス菌製剤、乳酸菌製剤など
  • 止痢剤:ロペラミド(使用には慎重な判断が必要)

ただし、下痢は体内から毒素を排出する防御反応でもあるため、安易に止痢剤を使用することは控えます。

症状対症療法
嘔吐制吐剤、水分補給
下痢整腸剤、水分・電解質補給
腹痛鎮痙剤(必要に応じて)

水分・電解質補給の重要性

嘔吐や下痢による脱水は、感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療において最も注意を払うべき点です。特に高齢者や小児では脱水のリスクが高まります。

経口摂取が可能な場合は、少量ずつ頻回に水分を摂取します。経口補水液は電解質のバランスが整えられているため、特に有用性が高いです。

経口摂取が困難な場合や重度の脱水では、点滴による水分・電解質の補給が不可欠となります。

脱水の程度補給方法
軽度経口補水液、スポーツドリンク
中等度経口補水液、必要に応じて点滴
重度点滴による補液

抗生物質の使用と留意点

感染毒素型・生体内毒素型食中毒では、抗生物質の使用は慎重に検討する必要があります。多くの場合、抗生物質は不要であり、むしろ腸内細菌叢のバランスを崩す可能性があります。

しかし、以下のような状況では抗生物質の使用を考慮します。

  • 重症例(高熱が続く、血便がある等)
  • 免疫不全患者
  • 菌血症や敗血症の疑いがある場合

抗生物質を使用する際は、原因菌の感受性を考慮して選択します。例えば、腸管出血性大腸菌(O157等)の場合、抗生物質の使用により毒素の産生が増加する可能性があるため、特に注意します。

原因菌抗生物質の使用
サルモネラ重症例のみ考慮
カンピロバクター重症例や遷延例で考慮
腸管出血性大腸菌原則使用しない

治癒までの期間と経過観察

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治癒までの期間は、原因菌や状態により異なりますが、多くの場合1週間程度で回復します。ただし、完全に体調が戻るまでにはさらに時間を要します。

経過観察のポイントは以下の通りです。

  • 脱水症状の有無(尿量、皮膚の張り等)
  • 発熱の持続期間
  • 下痢や嘔吐の頻度と性状の変化
  • 腹痛の程度

重症化のサインとしては、高熱の持続、血便、強い腹痛、意識レベルの低下などがあります。これらの症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診します。

2011年に発表された研究では、感染毒素型食中毒の一種であるカンピロバクター腸炎において、発症後早期(72時間以内)にアジスロマイシンを投与することで、症状の持続期間が大幅に短縮されたことが報告されています。

ただし、この結果を全ての症例に一般化することはできず、個々の状況に応じた判断が欠かせません。

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療において、患者の全身状態を注意深く観察し、必要な治療を適切なタイミングで行うことが、早期回復への鍵となります。

重症化のリスクがある場合は、躊躇せず医療機関を受診し、専門医の診断を受けることが重要です。

治療の副作用やデメリット(リスク)

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療には、様々な副作用やデメリットが存在します。抗生物質の使用による腸内細菌叢の乱れや、止痢薬による毒素排出の遅延などが挙げられます。

水分・電解質補給の過不足や、重症化のリスクを見逃す可能性も考えられます。これらのリスクを理解し、慎重な対応が求められます。

抗生物質使用のリスク

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療において、抗生物質の使用には慎重な判断が必要です。抗生物質は腸内細菌叢のバランスを崩し、二次的な問題を引き起こします。

  • 腸内細菌叢の乱れによる消化器症状の悪化
  • 抗生物質耐性菌の出現
  • カンジダ症(真菌による感染症)などの誘発

特に、腸管出血性大腸菌(O157等)による食中毒の場合、抗生物質の使用により毒素の産生が増加します。これは重篤な合併症を起こすため、使用には細心の注意を払います。

抗生物質主なリスク
ペニシリン系アレルギー反応、下痢
セフェム系偽膜性大腸炎、肝機能障害
キノロン系光線過敏症、腱障害

止痢薬使用の問題点

下痢は体内から毒素を排出する防御反応でもあるため、安易な止痢薬の使用は避けます。止痢薬を使用することで、以下のようなリスクが生じます。

  • 毒素の体内滞留時間の延長
  • 腸管内での細菌増殖の促進
  • 症状の遷延化や重症化

特に、ロペラミドなどの止痢薬は、腸管の蠕動運動(腸の動き)を抑制することで毒素の排出を遅らせます。本来なら自然に排出されるはずの毒素が体内に留まり、症状を悪化させる危険性が高まります。

水分・電解質補給のリスク

脱水症状の改善のために行う水分・電解質補給にも、細心の注意を払います。過剰な補給や不適切な電解質バランスは、新たな問題を引き起こします。

  • 水分過剰摂取による低ナトリウム血症(血液中のナトリウム濃度が低下する状態)
  • 電解質バランスの乱れによる不整脈
  • 急速な補液による循環器系への負担

特に高齢者や心疾患を持つ患者では、水分・電解質補給の速度や量に注意します。過剰な補給は肺水腫や心不全を起こすため、慎重なモニタリングが不可欠です。

補液の種類主な注意点
生理食塩水高ナトリウム血症のリスク
5%ブドウ糖液低ナトリウム血症のリスク
乳酸リンゲル液乳酸アシドーシスのリスク

重症化のリスクと見逃し

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療において、重症化のリスクを見逃すことは深刻な結果を招きます。以下のような状況では、特別な配慮が必要となります。

  • 高齢者や基礎疾患を持つ患者
  • 免疫不全状態にある患者
  • 小児や妊婦

これらの患者群では、症状が急速に悪化します。適切なタイミングでの入院治療や集中治療が必要となることがあります。

重症化のサインを見逃すと、敗血症(全身性炎症反応症候群)や多臓器不全などの生命を脅かす合併症につながります。

患者群特に注意すべき点
高齢者脱水のリスク増大
免疫不全者感染の重症化
小児電解質バランスの崩れやすさ

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療には、多岐にわたるリスクや注意点が存在します。

抗生物質や止痢薬の使用、水分・電解質補給、重症化のリスク評価など、多角的な視点から患者の状態を慎重に評価し、最適な治療方針を選択することが重要です。

また、患者の年齢や基礎疾患などの個別の要因を考慮し、きめ細やかな対応を心がけます。

食中毒(感染毒素型・生体内毒素型)の治療費に関する重要事項

処方薬の薬価

感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療に用いられる薬剤の価格は、種類によって異なります。抗生物質、制吐剤、止痢薬などが処方されることが多く、これらの薬価は薬価基準に基づいて決定されます。

一般的な抗生物質の薬価は1錠あたり100円から1000円程度まで幅広く、症状や使用する薬剤の種類によって変動します。制吐剤や止痢薬は比較的安価で、1錠あたり50円から200円程度のものが多いです。

  • 抗生物質:100円~1000円/錠
  • 制吐剤:50円~150円/錠
  • 止痢薬:50円~200円/錠

1週間の治療費

外来治療の場合、1週間の治療費は薬代と診察料を合わせて5000円から2万円程度になります。ただし、重症度や検査の必要性によってはこれ以上の費用がかかります。

入院が必要な場合は、1日あたりの入院費用が2万円から3万円程度かかるため、1週間の治療費は15万円から20万円程度になります。

治療形態1週間の治療費(概算)
外来5,000円~20,000円
入院150,000円~200,000円

1か月の治療費

通常、感染毒素型・生体内毒素型食中毒の治療期間は1週間程度で終わりますが、合併症や重症化により1か月以上の治療が必要になります。

この場合、外来治療では2万円から5万円程度、入院治療では50万円から100万円程度の費用がかかります。

以上

参考にした論文