感染症の一種である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは、ウイルスが原因となる深刻な病気です。
この病気は主にマダニ(まだに)に刺されることで感染し、高熱や血小板減少などの症状が現れます。
SFTSは比較的最近発見された感染症で、特に東アジアの地域で報告が多く見られます。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の主症状と特徴
重症熱性血小板減少症候群(しゅうしょうねつせいけっしょうばんげんしょうしょうこうぐん)は、患者様に深刻な症状を引き起こす感染症です。患者様の早期発見と適切な対応のため、主症状を理解することが非常に大切です。
発熱と全身倦怠感
SFTSの初期段階では、高熱と強い全身倦怠感が出現します。
体温は38度以上に上昇し、数日間持続する傾向にあります。
全身の脱力感や倦怠感は、患者様の日常生活に著しい支障をきたすほど顕著になります。
これらの症状はインフルエンザに類似していますが、通常の解熱剤では効果が限定的であるという特徴を有します。
消化器症状
SFTSでは、多様な消化器症状が出現します。
症状 | 特徴 |
悪心・嘔吐 | 食事摂取が困難になります |
腹痛 | 上腹部を中心に痛みを感じます |
下痢 | 水様性の下痢が続きます |
これらの症状により食事量が減少し、体力の低下を招きます。
適切な水分補給と栄養管理が必須となります。
血液学的異常
SFTSの特徴的な所見として、血小板減少が挙げられます。
血小板数が著しく低下することで、出血傾向が現れます。
具体的には以下のような症状が観察されます。
- 皮下出血や紫斑(皮膚の下や粘膜に出血斑が現れる症状)
- 鼻出血や歯肉出血
- 消化管出血(胃や腸からの出血)
また、白血球数の減少も頻繁に観察され、感染症と戦う免疫力の低下を示唆します。
血液検査項目 | SFTSにおける特徴 |
血小板数 | 著しい減少 |
白血球数 | 減少傾向 |
肝機能検査値 | 上昇傾向 |
凝固系検査値 | 異常値を示すことがある |
神経症状
SFTSの進行に伴い中枢神経系に影響が及ぶと、多様な神経症状が出現します。
症状 | 詳細 |
意識障害 | 軽度の混濁から昏睡まで様々な程度で発生します |
けいれん発作 | 全身性や部分性のけいれんが起こります |
髄膜刺激症状 | 項部硬直(首の後ろが硬くなる症状)や頭痛が見られます |
これらの神経症状は、患者様の状態を急激に悪化させる恐れがあるため、細心の注意を払う必要があります。
多臓器不全
重症例では、SFTSウイルスの感染により複数の臓器に障害が及びます。
影響を受ける臓器 | 主な症状・所見 |
肝臓 | 肝機能障害、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状) |
腎臓 | 乏尿(尿量が減少する症状)、浮腫(むくみ) |
心臓 | 不整脈、心不全 |
肺 | 呼吸困難、肺水腫(肺に水がたまる症状) |
多臓器不全に陥ると、生命の危機に直結する状況となります。
早期の適切な対応が、生存率を大きく左右する要因となります。
日本における研究では、重症熱性血小板減少症候群の致死率は約20%と報告されています。
この数値は、2014年に発表された論文「Clinical and epidemiological characteristics of severe fever with thrombocytopenia syndrome in Japan, 2013-2014」(Kato et al.)に基づいています。
当時の調査結果ではありますが、現在でも参考になる重要な知見であると考えられます。
- 高齢者
- 基礎疾患を有する方
- 発症から医療機関受診までの期間が長い方
上記の方々は、特に注意します。
重症熱性血小板減少症候群の原因とリスク要因
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発症メカニズムや感染経路について詳しく解説し、感染予防に役立つ知識を提供いたします。
ウイルス学的特徴
SFTSの病原体は、SFTSウイルスと呼ばれる特殊なウイルスです。
このウイルスは、2011年に中国で発見された新種のウイルスで、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されます。
遺伝子解析により、SFTSウイルスは日本型、中国型、韓国型の3つの系統に分類されることが明らかになっています。
ウイルスの特徴 | 詳細 |
ゲノム構造 | 3分節マイナス鎖RNA(遺伝情報を担う分子) |
粒子サイズ | 80-100 nm(ナノメートル) |
形態 | 球形またはやや多形性(不定形) |
媒介動物と感染経路
SFTSウイルスの主な媒介動物は、マダニ(特にフタトゲチマダニ)であることが判明しています。
人間への感染は、このウイルスを保有するマダニに咬まれることで成立します。
マダニは主に草むらや藪に生息し、春から秋にかけて活動が活発化するため、この時期には特に注意します。
マダニ種 | 分布地域 |
フタトゲチマダニ | 本州、四国、九州に広く分布 |
タカサゴキララマダニ | 西日本を中心に生息 |
ヤマトマダニ | 北海道から九州まで幅広く分布 |
地理的分布と環境要因
SFTSは東アジア地域で報告されており、日本国内では西日本を中心に患者の発生が確認されています。
- 中国(主に中部および東部地域で発生)
- 韓国(全土で発生が確認されている)
- 日本(西日本を中心に全国的に分布、特に九州地方での発生率が高い)
ウイルスの地理的分布には、気候条件やマダニの生息環境が密接に関係しています。
温暖で湿潤な気候はマダニの生息に適しており、こうした環境下では感染リスクが上昇します。
宿主動物の役割
SFTSウイルスは、野生動物や家畜の間で循環していることが研究により示唆されています。
これらの動物は、ウイルスの増幅動物または保有宿主として機能し、感染サイクルの維持に重要な役割を果たしています。
宿主動物の種類 | 役割 |
イノシシ | 野生の増幅動物(ウイルスを増幅させる) |
シカ | 野生の増幅動物(ウイルスを保有し拡散させる) |
ネコ | 家庭内での感染源となる(ペットから人への感染例あり) |
ヒトからヒトへの感染
通常、SFTSはマダニを介して感染しますが、稀にヒトからヒトへの感染事例も報告されています。
これらのケースでは、患者の血液や体液との濃厚接触が感染の原因となっています。
医療従事者や家族による看護の際には、適切な感染防護策を講じることが不可欠です。
- 血液や体液との直接接触(傷口や粘膜を介した感染)
- 飛沫感染(患者の咳やくしゃみによる感染)
一般的に感染力は高くないとされていますが、重症患者の体液には特に注意します。
遺伝的要因と宿主因子
SFTSの発症や重症化には、遺伝的要因や宿主側の因子が関与します。
個人の免疫状態や年齢、基礎疾患の有無などが、感染後の経過に大きな影響を与えると考えられています。
宿主因子 | 影響 |
高齢 | 重症化リスクが顕著に上昇する |
免疫不全 | ウイルス増殖の抑制が不十分となる |
慢性疾患 | 全身状態の悪化を招きやすくなる |
研究によると、65歳以上の高齢者や免疫機能が低下している方は、特に注意します。
SFTSの診察と診断プロセス
初期診察と問診
SFTSの疑いがある患者様に対しては、まず詳細な問診と綿密な身体診察を行います。
問診では、患者様の渡航歴、野外活動の有無、そしてマダニ刺咬の経験などについて、丁寧に聞き取りを行います。
問診項目 | 確認内容 |
渡航歴 | SFTSが流行している地域(例:西日本、中国、韓国)への訪問歴 |
野外活動 | 草むらや藪での活動経験(ハイキング、キャンプなど) |
マダニ刺咬 | マダニに噛まれた経験や、皮膚上の痕跡の有無 |
身体診察では、全身状態の評価とともに、マダニ刺咬痕の有無を注意深く確認します。特に、耳の後ろ、脇の下、鼠径部など、マダニが好む部位を重点的に観察します。
血液検査
SFTSの診断において、血液検査は非常に重要な役割を担っています。
一般的な血液検査では、以下の項目に特に注目します。
- 血小板数の顕著な減少
- 白血球数の低下
- 肝酵素(AST、ALT)の著しい上昇
これらの所見は、SFTSを強く示唆する指標となりますが、確定診断には至りません。
より詳細な評価のため、凝固系検査やサイトカイン(体内の免疫反応を調整するタンパク質)測定なども実施されることがあります。
検査項目 | SFTS患者での特徴的な所見 |
血小板数 | 10万/μL未満に減少(正常値:15〜35万/μL) |
白血球数 | 4000/μL未満に減少(正常値:4000〜9000/μL) |
AST・ALT | 正常上限の3倍以上に上昇(正常値:AST 10〜40 U/L、ALT 5〜45 U/L) |
画像診断
SFTSの診断過程において、画像検査は補助的ではありますが、重要な役割を果たします。
胸部X線検査や腹部超音波検査などが、状況に応じて実施されます。
これらの検査は、SFTSに特異的な所見を示すものではありませんが、合併症の評価や他疾患の除外に大変有用です。
画像検査 | 主な目的と確認事項 |
胸部X線 | 肺炎などの呼吸器合併症の有無、胸水貯留の確認 |
腹部超音波 | 肝臓・脾臓の腫大評価、腹水の有無の確認 |
ウイルス学的検査
SFTSの確定診断には、ウイルス学的検査が不可欠です。
主に以下の方法が用いられます。
- RT-PCR法(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法)によるウイルスRNAの検出
- 血清中の抗体検査(IgM抗体、IgG抗体の測定)
RT-PCR法は発症初期の診断に特に有効で、高い感度と特異度を示します。この方法では、患者の血液サンプルからSFTSウイルスの遺伝子を直接検出します。
一方、抗体検査は発症後期や回復期の診断に役立ちます。患者の体内で産生された抗体を検出することで、過去の感染を確認できます。
鑑別診断
SFTSは、他の感染症と類似した症状を呈することがあるため、慎重な鑑別診断が大切です。
以下の疾患との鑑別が特に重要となります。
- 日本紅斑熱(マダニ媒介性のリケッチア感染症)
- つつが虫病(ダニの一種であるツツガムシによる感染症)
- デング熱(蚊媒介性のウイルス感染症)
- 重症熱帯熱マラリア(マラリア原虫による感染症)
これらの疾患との鑑別には、疫学的情報、臨床症状、検査所見を総合的に評価し、慎重に判断を下す必要があります。
診断基準と報告システム
SFTSの診断基準は、各国の保健機関によって明確に定められています。
日本では、厚生労働省が詳細な診断基準を設定しており、確定例の報告が法律で義務付けられています。
診断基準を満たした場合、医療機関は速やかに管轄の保健所へ報告する責任があります。この報告システムにより、感染症の発生状況を迅速に把握し、適切な公衆衛生対策を講じることが可能となります。
診断分類 | 定義と基準 |
疑い例 | 臨床症状と血液検査所見からSFTSが強く疑われるが、確定診断に至っていない状態 |
確定例 | ウイルス学的検査(RT-PCR法や抗体検査)で陽性が確認された場合 |
画像所見
胸部X線検査
胸部X線検査は、SFTS患者の呼吸器合併症を評価する上で欠かせない検査方法です。
SFTSに特異的な所見は認められませんが、以下のような変化が観察されることがあります。
- びまん性間質性陰影(肺全体にモヤモヤとした影が広がる状態)
- 肺水腫様陰影(肺に水分が貯まることで生じる特徴的な影)
- 胸水貯留(胸腔内に液体が溜まる状態)
これらの所見は、疾患の重症度や呼吸不全の程度を反映し、医師が患者の状態を把握する上で重要な情報となります。
胸部X線所見 | 特徴と臨床的意義 |
びまん性間質性陰影 | 両肺野に広がるすりガラス状陰影で、肺の炎症を示唆します |
肺水腫様陰影 | 肺血管の怒張と蝶形陰影が特徴的で、肺循環障害を示します |
胸水貯留 | 肋骨横隔膜角の鈍化として観察され、循環動態の異常を反映します |
所見:「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者の胸部X線画像。A. 両側の上肺野および右下肺野にまだらな浸潤影とすりガラス陰影( )を認める。また、心肥大(▾)を認める。B. 症状の改善後、これらの異常所見は消失している。」
胸部CT検査
胸部CT検査は、X線検査と比較してより詳細な肺病変の評価が可能となる高度な画像診断法です。
SFTSにおける代表的な胸部CT所見には、以下のようなものがあります。
- 多発性のすりガラス陰影(肺の一部が曇りガラスのように見える状態)
- 小葉間隔壁の肥厚(肺の小さな区画を区切る壁が厚くなる現象)
- 胸水貯留(胸腔内に液体が溜まる状態)
- リンパ節腫大(胸部のリンパ節が腫れて大きくなる状態)
これらの所見は他のウイルス性肺炎と類似していますが、分布や経時的変化に特徴があり、専門医の読影により鑑別診断に役立ちます。
胸部CT所見 | 詳細と臨床的意義 |
すりガラス陰影 | 両側肺野末梢優位に分布し、ウイルス性肺炎を示唆します |
小葉間隔壁肥厚 | 網状影を呈し、間質性肺疾患の特徴を示します |
胸水貯留 | 両側性で少量から中等量観察され、循環動態異常を反映します |
リンパ節腫大 | 縦隔や肺門部に観察され、免疫反応の活性化を示唆します |
所見:「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者の胸部CTにおけるすりガラス陰影(GGO)。(A) 79歳の非致死的な男性患者の胸部CT画像。発症2日後の入院時に、肺下葉に限局性のGGO、間質性中隔肥厚、心肥大および胸水が認められる。入院8日目には、両肺に多発性のGGOとまだらな浸潤が出現している。(B) 73歳の致死的な女性患者の胸部CT画像。発症3日後の入院時に、左肺上葉に限局性のGGOを認める。入院6日目には、多発性のGGO、間質性中隔肥厚および心肥大が認められる。」
腹部超音波検査
腹部超音波検査は、SFTS患者の腹部臓器を評価する上で、非侵襲的かつ即時的な情報を提供する有用な検査方法です。
主な所見として、以下のようなものが挙げられます。
- 肝臓・脾臓の腫大(肝臓や脾臓が通常より大きくなる状態)
- 腹水貯留(腹腔内に液体が溜まる状態)
- 胆嚢壁肥厚(胆嚢の壁が厚くなる現象)
- リンパ節腫大(腹部のリンパ節が腫れて大きくなる状態)
これらの所見は非特異的ですが、臨床症状や血液検査結果と合わせて総合的に判断することで、SFTSの診断や経過観察に重要な役割を果たします。
所見:「中等度の脾腫を認める。脾臓の長さは22cmであり、隣接する正常な左腎と比較して著しく大きい。」
腹部CT検査
腹部CT検査は、超音波検査よりもさらに詳細な腹部臓器の評価が可能な高精度の画像診断法です。
SFTSにおける特徴的な腹部CT所見には、以下のようなものがあります。
- 肝脾腫(肝臓と脾臓が同時に腫大する状態)
- 腹水貯留(腹腔内に液体が溜まる状態)
- 腸管壁肥厚(小腸や大腸の壁が厚くなる現象)
- 後腹膜リンパ節腫大(腹部深部のリンパ節が腫れて大きくなる状態)
これらの所見は、疾患の進行度や合併症の有無を反映し、治療方針の決定や予後予測に重要な情報を提供します。
腹部CT所見 | 特徴と臨床的意義 |
肝脾腫 | 肝臓・脾臓の明らかな腫大を示し、全身性炎症反応を反映します |
腹水貯留 | 腹腔内に液体貯留が見られ、循環動態異常や肝機能障害を示唆します |
腸管壁肥厚 | 小腸や大腸の壁が肥厚し、消化管粘膜の炎症や浮腫を示します |
リンパ節腫大 | 傍大動脈領域などに腫大リンパ節が観察され、免疫反応の活性化を示唆します |
所見:「こちらは伝染性単核球症の症例であるが、著明な肝脾腫が認められる。SFTSでもこのような所見が認められる。」
脳MRI検査
重症例や中枢神経症状を呈する患者では、脳MRI検査が実施されることがあります。この検査は、脳の微細な構造変化を捉えることができ、神経学的合併症の評価に不可欠です。
SFTSにおける脳MRI所見として報告されているものには、以下のようなものがあります。
- 多発性の点状高信号病変(脳内に小さな明るい点として観察される異常所見)
- 脳浮腫(脳組織に水分が貯まり、腫れた状態)
- 脳実質内出血(脳の実質部分に出血が生じる状態)
- 髄膜増強効果(造影剤を用いた検査で、脳を覆う膜が強調されて見える現象)
これらの所見は非特異的ですが、神経症状を呈するSFTS患者の評価において極めて重要な役割を果たします。
所見:「脳拡散強調MRIにおいて、両側の大脳基底核に不整な軽度高信号域を認める。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の治療アプローチと回復過程
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、現在のところ特異的な治療法が確立されていない感染症ですが、医療の進歩により患者様の生存率が着実に向上しています。
対症療法の重要性
SFTSの治療において、対症療法が中心的な役割を果たします。
医療従事者は、患者様の全身状態を細心の注意を払って観察しながら、各症状に応じたきめ細やかな支持療法を実施します。
症状 | 対症療法の具体例 |
発熱 | 解熱剤の適切な投与、物理的冷却法の実施 |
脱水 | 厳密な輸液管理、電解質バランスの維持・補正 |
血小板減少 | 状況に応じた血小板輸血の実施 |
患者様の重症度に応じて、集中治療室(ICU)での厳重な管理が必要となるケースもあります。このような場合、24時間体制での綿密なモニタリングと迅速な対応が求められます。
抗ウイルス薬の使用と課題
SFTSに対する特効薬は、残念ながら現在のところ存在していません。しかしながら、一部の抗ウイルス薬が試験的に使用されることがあります。
- ファビピラビル(商品名:アビガン)
- リバビリン(商品名:レベトール、コペガス)
これらの薬剤は、実験室レベル(in vitro)でSFTSウイルスに対する効果が報告されていますが、ヒトでの有効性については、まだ十分なエビデンスが得られていません。今後の臨床研究による更なる検証が待たれます。
抗ウイルス薬 | 主な作用機序と特徴 |
ファビピラビル | ウイルスRNAポリメラーゼを阻害し、ウイルスの複製を抑制 |
リバビリン | ウイルスの複製過程に介入し、増殖を抑制 |
免疫調節療法の役割
重症例では、患者様の過剰な免疫反応を適切にコントロールするため、免疫調節療法が考慮されます。
- ステロイド薬(例:メチルプレドニゾロン)
- 血漿交換療法
これらの治療法は、サイトカインストーム(免疫系の暴走状態)と呼ばれる過剰な炎症反応を抑制する目的で使用されます。サイトカインストームは、多臓器不全などの重篤な合併症を引き起こす恐れがあるため、その制御が極めて重要です。
ただし、これらの治療法の使用にあたっては、患者様の状態を慎重に評価し、利益とリスクを十分に検討する必要があります。特に、ステロイド薬の使用は、感染症の増悪リスクも考慮しなければなりません。
支持療法と合併症対策の実際
SFTSの治療において、全身管理と合併症対策は極めて重要な位置を占めます。
主な支持療法には、以下のようなものがあります。
- 呼吸管理(酸素投与、必要に応じて人工呼吸器管理)
- 循環管理(適切な輸液療法、状況に応じて昇圧剤の使用)
- 感染対策(二次感染予防のための適切な抗生剤使用)
合併症に対しては、早期発見と迅速な対応が患者様の予後を大きく左右します。医療チームは常に警戒を怠らず、適切な対策を講じる必要があります。
合併症 | 具体的な対策と留意点 |
播種性血管内凝固症候群(DIC) | 抗凝固療法の実施、凝固因子の補充 |
急性腎障害 | 適切な輸液管理、必要に応じて腎代替療法(透析など)の実施 |
肝不全 | 肝庇護療法の実施、重症例では肝補助療法の検討 |
治癒までの期間と経過観察
SFTSの治癒までの期間は、患者様個々の状況により異なりますが、一般的には以下のような経過をたどります。
- 急性期(発症後1〜2週間):重症化のリスクが最も高い時期であり、厳重な管理が必要です。
- 回復期(2〜4週間):徐々に症状が改善し、全身状態が安定してきます。
- 後遺症期(数ヶ月):一部の患者様で倦怠感等の症状が持続する場合があります。
2019年に発表された日本の研究では、適切な治療を受けたSFTS患者の約80%が3週間以内に症状が顕著に改善したと報告されています。
この研究結果は、「Clinical Course and Outcomes of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome in Japan」(Kato et al. 2019)によるものです。
この研究は、日本におけるSFTS患者の臨床経過と予後を詳細に分析した貴重な報告であり、治療方針の決定や患者様への説明に大いに役立つものです。
病期 | 臨床的特徴と注意点 |
急性期 | 高熱や血小板減少が顕著であり、集中的な管理が必要 |
回復期 | 解熱傾向と血球数の回復が見られ、慎重に経過観察 |
後遺症期 | 倦怠感等の症状が持続する場合があり、長期的なフォローアップが重要 |
重症熱性血小板減少症候群の治療に伴う副作用とリスク
抗ウイルス薬による副作用
SFTSに対して使用される抗ウイルス薬には、潜在的な副作用が存在し、患者様の健康状態に影響を与える場合があります。
ファビピラビルやリバビリンなどの薬剤は、肝機能障害や貧血などの血液学的異常を起こします。
抗ウイルス薬 | 主な副作用と発現メカニズム |
ファビピラビル | 高尿酸血症(尿酸値の上昇)、肝機能障害(肝酵素の上昇) |
リバビリン | 溶血性貧血(赤血球の破壊)、催奇形性(胎児への影響) |
これらの副作用は、投与量や投与期間によって程度が異なるため、医療従事者による慎重なモニタリングと用量調整が求められます。
免疫調節療法のリスク
重症例で用いられる免疫調節療法には、重大な副作用のリスクが伴い、患者様の全身状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。
ステロイド薬の使用は、感染リスクの上昇や血糖値の上昇を招きます。具体的には以下のような問題が生じる可能性があります。
- 感染症の増悪(特に日和見感染症のリスク上昇)
- 消化性潰瘍(胃や十二指腸の粘膜障害)
- 骨粗鬆症(骨密度の低下と骨折リスクの増加)
血漿交換療法では、アレルギー反応や血圧低下などの合併症に注意します。これらの副作用は、治療中または治療直後に突然発生する可能性があるため、医療スタッフによる綿密な観察が求められます。
支持療法に伴うリスク
SFTSの支持療法にも、様々なリスクが伴います。これらのリスクは、治療の過程で不可避的に発生する可能性がありますが、適切な管理によって最小限に抑えることが可能です。
輸液療法では、過剰投与による肺水腫(肺に水分が貯まる状態)や電解質異常(体内のミネラルバランスの乱れ)に注意します。
支持療法 | 関連するリスクと予防策 |
人工呼吸器管理 | 人工呼吸器関連肺炎(VAP)、適切な口腔ケアと体位管理が重要 |
中心静脈カテーテル | カテーテル関連血流感染症、無菌操作と定期的な刺入部観察が必須 |
長期臥床に伴う深部静脈血栓症(足の深部の静脈に血栓ができる状態)や褥瘡(床ずれ)の発生にも警戒します。これらの合併症を予防するため、早期離床や体位変換などの積極的な介入が求められます。
薬剤耐性の問題
抗ウイルス薬の使用は、薬剤耐性ウイルスの出現リスクを伴い、治療の長期的な効果に影響を与える可能性があります。
耐性ウイルスの発生は、治療の有効性を低下させ、感染拡大のリスクを高める可能性があります。具体的には以下のような問題が考えられます。
- 治療効果の減弱(使用中の薬剤が効きにくくなる)
- 新たな治療法の必要性(代替薬の開発や併用療法の検討)
薬剤耐性問題は、個々の患者様だけでなく、公衆衛生上の重大な課題となります。耐性ウイルスの拡散を防ぐため、適切な投薬管理と感染対策が不可欠です。
長期的な影響と後遺症
SFTS治療後も、長期的な影響や後遺症が残ることがあり、患者様の生活の質に大きな影響を与えます。
後遺症 | 影響と対応策 |
慢性疲労症候群 | 日常生活の質の低下、段階的なリハビリテーションが重要 |
神経学的後遺症 | 認知機能障害、記憶障害、専門的な神経リハビリテーションが必要 |
これらの長期的影響は、患者様のQOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があります。そのため、急性期の治療後も継続的なフォローアップと適切なリハビリテーションプログラムの提供が求められます。
SFTSの治療費
処方薬の薬価
SFTSの治療に使用される抗ウイルス薬は、一般的な医薬品と比較して高価格帯に位置しています。
例えば、ファビピラビル(商品名:アビガン)の薬価は1錠あたり39,862.5円と設定されております。
通常の投薬スケジュールでは10日間服用するため、薬剤費のみで1,514,775円に達します。これは患者様にとって大きな経済的負担となります。
薬剤名 | 1錠の薬価 | 10日間の薬剤費 | 特徴 |
ファビピラビル | 39,862.5円 | 1,514,775円 | RNA ウイルスに対して広範囲な抗ウイルス活性を示す |
リバビリン | 281.1円 | 14,055円 | 様々なウイルス感染症に使用される抗ウイルス薬 |
これらの薬剤費は、治療全体の一部に過ぎず、入院費用や検査費用などと合わせると、さらに高額になることを患者様やご家族の方々にはご理解いただく必要があります。
1週間の治療費
SFTSの初期治療段階では、患者様の容態を24時間体制で管理するため、多くの場合、集中治療室(ICU)での入院が必要となります。
集中治療室における1日あたりの費用は約10万円と推定されており、1週間の入院で約70万円に達します。この金額には、専門的な医療機器の使用料や、高度な訓練を受けた医療スタッフの人件費が含まれています。
さらに、前述の薬剤費や、日々実施される血液検査などの各種検査費用を加算すると、1週間の治療費総額は100万円を超える場合もあります。
詳しく説明すると、日本の入院費はDPC(診断群分類包括評価)システムを使用して計算されます。このシステムは、患者の病名や治療内容に基づいて入院費を決定する方法です。
以前の「出来高」方式とは異なり、DPCシステムでは多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。
基本的には下記で計算されます。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数」+「出来高計算分」
*医療機関別係数は各医療機関によって異なります。
例えば、患者が14日間入院した場合の計算は以下のようになります。
DPC名: 出血性疾患(その他)(16歳以上) 手術処置等2なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥465,360 +出来高計算分
1か月の治療費
重症のSFTS患者様の場合、1か月以上の長期入院が必要となるケースがあります。この場合、医療費はさらに高額になります。
以下に、1か月の入院で想定される主な費用項目を列挙いたします:
- 一般病棟での入院費(1日あたり約3万円、30日で約90万円)
- 継続的な投薬と定期的な血液検査などの各種検査費用
- 理学療法士や作業療法士によるリハビリテーション費用
- 合併症治療のための追加的な医療処置費用
これらの費用を合計すると、1か月の治療費総額は300万円から500万円に達する可能性があります。
そのため、高額医療制度などの医療費削減が重要となってきます。
なお、上記の価格は2024年10月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
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