運動中や運動後に、咳が止まらなくなってつらい思いをしたことはありませんか。

特に、冬場のマラソンやスキーなど、冷たい空気を吸いながらの運動で症状が出る場合、それは「運動誘発性咳嗽(うんどうゆうはつせいがいそう)」かもしれません。

この状態は、喘息とは少し異なりますが、気道が一時的に敏感になることで起こります。

この記事では、運動誘発性咳嗽がなぜ起こるのか、どのような症状が見られるのか、そして日常生活でできる対処法や医療機関での治療について、詳しく解説していきます。

運動誘発性咳嗽とはどのような状態か

運動誘発性咳嗽は、その名の通り、運動が引き金となって起こる咳を主な症状とする状態です。一般的に健康な人では問題にならない程度の運動でも、咳が頻繁に出たり、一度出始めるとしばらく続いたりします。

喘息の一種である「運動誘発喘息」と症状が似ているため混同されやすいですが、運動誘発性咳嗽は、喘息の特徴である気道の慢性的な炎症や、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)を伴わない点が異なります。

あくまで運動という特定の刺激によって、一時的に気道が過敏に反応する状態を指します。

運動をきっかけに起こる咳

運動誘発性咳嗽の最も中心的な症状は、運動の最中、あるいは運動を終えて数分後から出始める乾いた咳です。特に、運動強度が高いほど、また運動時間が長いほど、症状は現れやすくなる傾向があります。

多くの場合は一過性で、安静にしていると数十分から1時間程度で自然に落ち着きます。

しかし、症状の程度には個人差が大きく、軽い咳が少し出る程度の人から、会話も困難なほど激しい咳が続く人まで様々です。運動時以外には全く症状がないという人も少なくありません。

冷たく乾いた空気も誘因に

運動誘発性咳嗽の症状は、気温や湿度が低い環境で悪化することが知られています。冬の寒い時期の屋外でのランニングや、スケート、スキーといったウィンタースポーツは、代表的な例です。

これは、冷たくて乾燥した空気を口から大量に吸い込むことが、気道への強い刺激となるためです。

暖かい季節や、湿度が高い室内での運動では症状が出にくいという特徴も、この状態を判断する上での一つの手がかりとなります。

逆に言えば、環境を調整することで、症状をある程度コントロールできる可能性があります。

一時的な気道の過敏性が関与

運動誘発性咳嗽の根本には、気道の一時的な過敏性の高まりがあります。運動によって呼吸が速く、深くなると、気道は普段よりも多くの空気にさらされます。

このとき、気道粘膜の水分や熱が奪われることで、気道を構成する細胞が刺激を受け、咳を引き起こす信号が送られます。これは、いわば気道が「びっくり」しているような状態です。

喘息のように常に気道が炎症を起こしているわけではなく、運動という負荷がかかった時に限定して、気道が敏感に反応してしまうのが運動誘発性咳嗽の大きな特徴です。

主な症状とその特徴

運動誘発性咳嗽の症状は、咳が中心ですが、その現れ方や伴う感覚にはいくつかの特徴があります。

どのようなタイミングで、どのくらいの時間咳が続くのか、また咳以外にどのような症状があるのかを把握することは、ご自身の状態を理解し、医師に正確に伝える上で非常に重要です。

子どもと大人での症状の現れ方に違いが見られることもあります。

咳のタイミングと持続時間

咳が現れるタイミングは、多くの場合、運動を開始して数分後から運動終了後10分から15分後にかけてです。

運動のピーク時よりも、少し強度が落ちた時や、運動を終えてクールダウンしている時に症状が強くなることもあります。

咳は「コンコン」といった乾いた性質のものが多く、痰が絡むことは少ないのが一般的です。持続時間は個人差がありますが、通常は30分から60分程度で徐々に軽快します。

しかし、人によっては数時間にわたって咳が続くこともあり、日常生活に支障をきたす場合もあります。

咳以外の症状(息切れ・胸の圧迫感など)

咳が主症状ではありますが、それに付随して他の症状が現れることもあります。特に、激しい咳が続くと、息苦しさや息切れを感じることがあります。

これは、咳自体が体力を消耗する行為であることに加え、気道が狭くなることで空気の通り道が妨げられるために起こります。また、胸のあたりが締め付けられるような圧迫感や、胸の違和感を訴える人もいます。

ただし、喘息でよく見られる「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴は、運動誘発性咳嗽では通常認められません。この点が、運動誘発喘息との大きな違いの一つです。

子どもと大人での症状の違い

基本的な症状は子どもも大人も同じですが、子どもの場合は自分の症状をうまく言葉で表現できないことがあります。

「運動すると疲れる」「走るのが嫌い」といった訴えの背景に、実は運動誘発性咳嗽が隠れている可能性も考えられます。

体育の授業や部活動の後、一人だけ咳き込んでいたり、顔色が悪くなったりしていないか、周りの大人が注意深く観察することが大切です。

大人の場合は、加齢や体力の低下によるものだと思い込み、症状を見過ごしてしまうケースがあります。

運動強度と咳の出やすさ

運動強度代表的な運動例咳の出やすさ
高強度長距離走、サッカー、バスケットボール出やすい
中強度ジョギング、サイクリング、ハイキングやや出やすい
低強度ウォーキング、ストレッチ、ヨガ出にくい

運動誘発性咳嗽が起こる詳しい原因

運動誘発性咳嗽がなぜ起こるのか、その詳細な原因についてはまだ完全には解明されていませんが、いくつかの有力な説が提唱されています。

主に、運動時の呼吸の変化が気道環境に影響を与え、それが刺激となって咳反射を引き起こすと考えられています。

アレルギー体質との関連も指摘されており、複数の要因が複合的に関わっている可能性があります。

気道の水分と熱の喪失

最も有力な説の一つが「熱喪失説」と「水分喪失説」です。運動中は、安静時に比べて呼吸の回数も量も大幅に増加します。

普段、私たちは鼻から呼吸することで、吸い込んだ空気を適度に温め、加湿してから肺に送っています。しかし、運動中は口呼吸が多くなり、大量の冷たくて乾いた空気が直接気道に流れ込みます。

これにより、気道粘膜の表面から急激に熱と水分が奪われます。この急激な温度・湿度の変化が、気道の神経を刺激し、防御反応として咳を引き起こすと考えられています。

浸透圧の変化による刺激

気道からの水分喪失は、気道粘膜を覆っている粘液の浸透圧を変化させます。浸透圧とは、簡単に言うと水を引き寄せようとする力のことです。

気道表面の水分が蒸発すると、粘液中の塩分濃度などが相対的に高くなり、浸透圧が上昇します。この浸透圧の変化を感知して、気道にある肥満細胞(マスト細胞)などの炎症に関わる細胞が活性化します。

活性化した細胞からは、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、これが気道の筋肉(平滑筋)を収縮させたり、知覚神経を刺激したりして咳を誘発します。

これを「高浸透圧説」と呼びます。

炎症細胞の関与

上記の熱や水分の喪失、浸透圧の変化といった物理的な刺激が引き金となり、気道に一時的な炎症反応が起こることも、咳の原因として重要です。

刺激を受けた気道では、好酸球や好中球といった白血球の一種が集まってきます。これらの細胞は、気道の過敏性をさらに高める物質を放出するため、咳が持続しやすくなる一因となります。

ただし、喘息のように常に炎症が続いているわけではなく、あくまで運動後の限定的な反応である点が特徴です。

運動誘発性咳嗽の主な誘因

要因の種類具体的な内容気道への影響
環境要因低温・低湿度の空気、大気汚染物質気道の冷却・乾燥、直接的な刺激
運動要因高強度の持続的な運動(特に口呼吸)熱と水分の急激な喪失
個人要因アレルギー素因、風邪などの感染症後基礎的な気道の過敏性

喘息との違いと見分け方

運動をすると咳が出る、という症状から「自分は喘息ではないか」と心配になる方は少なくありません。

実際に、運動誘発性咳嗽は「咳喘息」や「運動誘発喘息」と症状が非常に似ており、鑑別が難しい場合があります。

しかし、治療方針や長期的な管理方法が異なるため、両者を正しく見分けることはとても重要です。ここでは、喘息との違いや見分け方のポイントについて解説します。

運動誘発性喘息との関係

運動誘発性喘息(EIA: Exercise-Induced Asthma)は、喘息患者さんが運動をきっかけに発作を起こす状態を指します。

運動誘発性咳嗽と症状は似ていますが、根本に気管支喘息という慢性的なアレルギー性の気道炎症が存在する点が決定的に異なります。

運動誘発性喘息では、咳だけでなく、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)や呼吸困難を伴うことが多く、呼吸機能検査で気道の可逆的な狭窄(薬で広がる)が確認されます。

一方、運動誘発性咳嗽は、喘鳴を伴わず、基本的な呼吸機能も正常範囲内であることがほとんどです。

日常生活での症状の有無

見分けるための重要なポイントは、運動時以外の症状の有無です。

典型的な気管支喘息の患者さんは、運動時以外にも、夜間や早朝、季節の変わり目、ホコリやダニなどのアレルゲンに触れた時、風邪をひいた時など、様々な場面で咳や喘鳴、息苦しさを経験します。

一方、運動誘発性咳嗽の患者さんは、基本的に症状が出るのは運動に関連した時のみで、普段の生活では無症状であることが多いのが特徴です。この違いは、問診における重要な情報となります。

運動誘発性咳嗽と喘息の比較

項目運動誘発性咳嗽気管支喘息(運動誘発喘息)
主な症状咳(乾性)咳、喘鳴、呼吸困難
症状の出現時期主に運動中・運動後運動時、夜間、早朝など様々
安静時の呼吸機能正常低下していることがある

放置するリスク

運動誘発性咳嗽は、それ自体が生命に関わるような重篤な状態になることは稀です。

しかし、症状を放置することで、運動に対する苦手意識や恐怖心が生まれ、活動的な生活を避けるようになってしまう可能性があります。

特に子どもの場合、体育や部活動への参加が困難になり、健全な心身の発達に影響を与えることも懸念されます。また、ごく稀に、未診断の軽症な喘息が隠れている場合もあります。

喘息を放置すると、気道のリモデリング(気道の壁が厚く硬くなる変化)が進行し、治療が難しくなることもありますので、気になる症状があれば一度専門の医療機関に相談することが大切です。

医療機関での診断の流れ

運動時の咳が気になる場合、まずは呼吸器内科やアレルギー科を受診することが推奨されます。

医療機関では、症状が本当に運動誘発性咳嗽によるものなのか、あるいは他の病気が隠れていないかを調べるために、問診やいくつかの検査を組み合わせて総合的に診断を進めます。

問診で確認する内容

診断において最も重要な情報源となるのが、患者さんからの詳細な聞き取り(問診)です。医師は、症状に関する具体的な情報を得ることで、病態を推測していきます。

いつから症状があるのか、どのような運動で、どのくらいの時間咳が続くのか、季節や環境による変化はあるか、アレルギー歴や家族歴など、できるだけ詳しく伝えることが正確な診断への近道です。

問診で伝えるべき情報リスト

  • いつから症状が始まったか
  • どのような運動、環境で咳が出るか
  • 咳の性質(乾いているか、痰が絡むか)
  • 症状の持続時間
  • 咳以外の症状(息切れ、胸の痛み、喘鳴など)の有無
  • アレルギー(花粉症、アトピーなど)の有無
  • 家族に喘息の人はいるか

呼吸機能検査

スパイロメトリーと呼ばれる検査で、肺活量や、息を思いきり吐き出した時の空気の量や速さを測定します。これにより、気道が狭くなっていないか、肺の基本的な機能に問題がないかを確認します。

運動誘発性咳嗽の場合、安静時の呼吸機能は正常であることがほとんどです。この検査は、喘息など他の呼吸器疾患との鑑別に役立ちます。

運動負荷試験

運動誘発性咳嗽の診断を確定するために行われることがある重要な検査です。

トレッドミル(ランニングマシン)や自転車エルゴメーターなどを用いて、管理された環境下で実際に運動をしてもらい、運動前後で呼吸機能がどのように変化するか、また咳が誘発されるかを確認します。

運動の種類、強度、時間、そして吸入する空気の温度や湿度をコントロールしながら行うことで、より正確な評価が可能になります。安全管理の下で行う必要があり、実施できる医療機関は限られます。

その他の検査(アレルギー検査など)

アレルギー素因が関与している可能性があるため、血液検査で特定のアレルゲンに対する抗体(特異的IgE抗体)を調べたり、皮膚テストを行ったりすることがあります。

また、気道の炎症の程度を評価するために、呼気中の一酸化窒素(NO)濃度を測定する検査も有用です。この値が高い場合は、喘息に特徴的なアレルギー性の気道炎症が存在することを示唆します。

日常生活でできる対処法と予防策

運動誘発性咳嗽の症状は、日常生活の少しの工夫で軽減できる可能性があります。

医療機関での治療と並行して、セルフケアに取り組むことで、症状のコントロールが容易になり、運動をより快適に楽しめるようになります。

ここでは、ご自身で実践できる具体的な対処法と予防策を紹介します。

運動前のウォーミングアップ

運動を始める前に、十分なウォーミングアップを行うことは非常に重要です。

急に激しい運動を始めると気道への刺激が強くなりますが、軽い運動から徐々に体を慣らしていくことで、気道が運動に適応しやすくなります。

ウォーミングアップにより体温と心拍数が少しずつ上昇し、気道への血流も増加するため、冷たい空気の影響を受けにくくなります。

効果的なウォーミングアップの例

種類時間ポイント
軽いジョギング10〜15分会話ができる程度のゆっくりしたペースで
動的ストレッチ5〜10分腕回しや脚の振り上げなど、関節を動かす
インターバル運動数回30秒間の軽いダッシュと2分間の休憩を繰り返す

環境の調整(マスクや加湿)

症状の誘因となる冷たく乾燥した空気を避けることも有効な対策です。

寒い日にはマスクを着用して運動するだけでも、吸い込む空気が自分の呼気で加温・加湿され、気道への刺激を和らげることができます。スポーツ用の通気性の良いマスクも市販されています。

室内で運動する場合は、加湿器を使用して部屋の湿度を適切に保つことも予防につながります。

環境調整のポイント

対策目的具体的な方法
マスク着用吸気の加温・加湿寒い屋外での運動時に使用
加湿器の使用室内の湿度保持運動する部屋の湿度を40〜60%に保つ
鼻呼吸の意識自然な加温・加湿ウォーミングアップや低強度の運動時に意識する

運動の種類の選択と工夫

運動の種類によって、症状の出やすさは異なります。

一般的に、ランニングやサッカーのように長時間走り続ける運動は症状を誘発しやすく、水泳のように温かく湿った環境で行う運動や、テニスやバレーボールのように運動と休息を繰り返す運動は比較的症状が出にくいとされています。

ご自身の症状に合わせて運動の種類を選んだり、長時間の運動の合間に短い休憩を挟んだりする工夫も有効です。

体調管理の重要性

日頃からの体調管理も、症状の予防には欠かせません。風邪などの呼吸器感染症にかかると、一時的に気道の過敏性が高まり、普段は症状が出ない人でも運動で咳き込むことがあります。

十分な睡眠と栄養バランスの取れた食事を心がけ、体の抵抗力を維持することが大切です。

また、花粉症などのアレルギーがある人は、その季節には症状が悪化することがあるため、アレルギー自体の治療をきちんと行うことも重要になります。

医療機関で行う治療法

セルフケアだけでは症状が十分にコントロールできない場合や、症状が重く日常生活に支障がある場合には、医療機関での薬物療法が検討されます。

治療の目的は、症状を抑えて安全かつ快適に運動を行えるようにすることです。ここでは、代表的な治療法について解説します。

薬物療法の考え方

運動誘発性咳嗽の治療は、喘息治療に準じて行われることが多く、気管支拡張薬や抗アレルギー薬などが用いられます。

治療薬は、症状が起きた時に使う薬(リリーバー)と、症状を予防するために定期的に使う薬(コントローラー)に大別されますが、運動誘発性咳嗽の場合は、主に運動前に症状を予防する目的でリリーバーが使用されることが中心です。

どの薬を選択するかは、症状の頻度や重症度、年齢、合併症などを考慮して、医師が総合的に判断します。

主な治療薬の種類と役割

薬の種類主な役割使用タイミング
短時間作用性β2刺激薬狭くなった気管支を速やかに広げる運動の10〜15分前、または症状出現時
ロイコトリエン受容体拮抗薬気道のアレルギー反応や炎症を抑える毎日定時に内服
吸入ステロイド薬気道の炎症を根本から抑える毎日定時に吸入(重症例で検討)

運動前の吸入薬の使用

最も一般的な治療法は、運動の10分から15分前に、短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入薬を使用する方法です。

この薬は、気管支の周りの筋肉(平滑筋)に作用して気道を広げる効果があり、運動による気道収縮を予防します。効果は速やかに現れ、数時間持続するため、運動中の咳を効果的に抑えることが期待できます。

医師の指示に従い、正しい吸入方法を習得することが重要です。この薬を適切に使用することで、多くの人が症状を気にすることなく運動できるようになります。

長期的な管理と治療目標

症状が週に何回も起こる場合や、SABAの予防的吸入だけでは効果が不十分な場合には、長期管理薬の使用が検討されます。代表的なのは、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)の内服薬です。

この薬は、気道のアレルギー反応に関わるロイコトリエンという物質の働きをブロックすることで、気道の過敏性を改善します。毎日服用することで、運動時の症状を起きにくくする効果が期待できます。

さらに重症で、喘息への移行が懸念されるような場合には、吸入ステロイド薬(ICS)を定期的に使用することもあります。

治療における注意点

薬物療法は非常に有効ですが、薬に頼るだけでなく、前述したウォーミングアップや環境調整といったセルフケアを併せて行うことが大切です。

また、運動前に使用するSABAを使いすぎる(例えば週に3回以上)場合は、コントロールがうまくいっていないサインかもしれません。

その際は自己判断で薬の量を増やすのではなく、必ず主治医に相談し、治療計画を見直す必要があります。

よくある質問

ここでは、運動誘発性咳嗽に関して、患者さんから寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。

Q
この咳は他の人にうつりますか?
A

いいえ、うつりません。運動誘発性咳嗽は、ウイルスや細菌などの病原体による感染症ではありません。

あくまで個人の気道が、運動や冷気といった特定の刺激に過敏に反応することで起こる症状です。そのため、咳をしていても、周囲の人に感染させる心配は全くありません。

Q
成長すれば自然に治りますか?
A

個人差が大きいため、一概には言えません。子どもの頃に症状があった人が、成長とともに気道が発達し、症状が軽快したり消失したりすることはあります。

しかし、一方で成人になっても症状が続く人や、大人になってから発症する人もいます。症状が続く場合は、年齢のせいと自己判断せず、適切な対処や治療を続けることが大切です。

Q
どのような診療科を受診すればよいですか?
A

A咳や呼吸に関する症状が専門である「呼吸器内科」の受診が第一選択となります。また、アレルギーの関与が疑われるため、「アレルギー科」でも対応が可能です。

小児の場合は、「小児科」で相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらうのが良いでしょう。喘息との鑑別が重要なため、呼吸機能検査などが実施できる医療機関を選ぶことが望ましいです。

Q
市販の咳止め薬は効きますか?
A

一般的な市販の咳止め薬(鎮咳薬)は、風邪などで中枢性の咳反射が亢進している場合には効果があるかもしれませんが、運動誘発性咳嗽の根本原因である気道の過敏性や収縮に対しては、効果が期待できないことが多いです。

むしろ、原因に合わない薬を使用することで、適切な診断や治療の機会を逃す可能性もあります。

症状が続く場合は、自己判断で市販薬を使い続けるのではなく、医療機関を受診してください。

受診の目安

症状のレベル状態推奨される対応
軽度特定の運動で時々軽い咳が出る程度ウォーミングアップや環境調整を試す
中等度運動のたびに咳が出て、しばらく続く一度、医療機関の受診を検討する
重度激しい咳で運動が中断する、息苦しさを伴う速やかに呼吸器内科やアレルギー科を受診する

以上

参考にした論文

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