内分泌疾患の一種である潜在性甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの血中濃度が正常範囲内にありながら甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値が基準値よりも高い状態を指す病態です。

この状態では多くの方が明確な症状を感じにくいことが特徴となっています。

しかし、長期的には心臓病や高コレステロール血症などのリスクが高まる可能性があるため、医療機関での定期的な検査と経過観察が重要となります。

主症状と日常生活への影響

潜在性甲状腺機能低下症(せんざいせいこうじょうせんきのうていかしょう)の主症状は多くの場合、明確には現れないことが特徴です。

しかしながら一部の患者さんには軽度から中等度の症状が見られることがあり、これらの症状が日常生活に影響を及ぼすケースもあります。

疲労感と倦怠感

潜在性甲状腺機能低下症では全身の代謝が緩やかに低下することにより、持続的な疲労感や倦怠感を感じる方が少なくありません。

この症状は十分な睡眠をとっても改善しないことが多く、日中の活動に支障をきたす可能性があります。

症状特徴
疲労感持続的、休息で改善しにくい
倦怠感全身的な脱力感、やる気の低下

体重増加と代謝の変化

甲状腺ホルモンは体内の代謝を調節する重要な役割を担っているため、その機能が低下すると基礎代謝が落ち、体重が増加しやすくなります。

また、同時に体温調節機能にも影響が出ることがあり、寒さに敏感になったり手足が冷えやすくなったりする症状が現れる場合もでてくるでしょう。

症状影響
体重増加基礎代謝の低下による
寒さへの敏感性体温調節機能の変化

精神症状と認知機能への影響

潜在性甲状腺機能低下症は精神面にも影響を及ぼすことがあります。

具体的には軽度のうつ症状や不安感、集中力の低下、記憶力の減退などが報告されています。

これらの症状は患者さんの生活の質を著しく低下させる場合があるため注意が必要です。

以下は起こりうる主な精神的な症状です。

  • うつ症状(気分の落ち込み、興味や喜びの喪失)
  • 不安感の増大
  • 集中力の低下
  • 記憶力の減退

皮膚や髪の変化

甲状腺ホルモンは皮膚や髪の健康にも関与しているため、潜在性甲状腺機能低下症ではこれらの部位にも変化が現れることがあります。

例えば皮膚が乾燥しやすくなったり、髪の毛が細くなったり抜けやすくなったりする症状が見られることがあるでしょう。

症状詳細
皮膚の変化乾燥、かゆみ、むくみ
髪の変化脆弱化、脱毛の増加

消化器系の症状

潜在性甲状腺機能低下症は消化器系にも影響を与えることがあり、便秘や胃もたれなどの症状が現れる場合があります。

これは甲状腺ホルモンが腸の運動や胃酸の分泌に関与しているためです。

このような症状が長期間続く場合は栄養摂取に影響を及ぼす可能性がでてきます。

症状原因
便秘腸の運動の低下
胃もたれ胃酸分泌の変化

潜在性甲状腺機能低下症の症状は個人差が大きく、また他の疾患でも類似の症状が現れる場合があるため、自己判断難しいです。

潜在性甲状腺機能低下症の症状は個々の患者さんによって異なり、無症状の方もいらっしゃいます。

自覚症状がなくても家族歴や他の健康上の問題がある場合は予防的な検査を検討することをお勧めします。

原因とリスク要因

潜在性甲状腺機能低下症の原因やきっかけは複雑で多岐にわたります。

この疾患は甲状腺の機能が軽度に低下した状態を指し、様々な要因が関与していると考えられているのです。

自己免疫疾患による甲状腺機能低下

潜在性甲状腺機能低下症の最も一般的な原因は自己免疫疾患による甲状腺の慢性的な炎症です。

特に橋本病(慢性甲状腺炎)と呼ばれる自己免疫疾患がこの状態を引き起こすことが多いとされています。

橋本病では体の免疫システムが誤って甲状腺を攻撃し、徐々に甲状腺の機能を低下させていくのです。

自己免疫疾患特徴
橋本病甲状腺の慢性炎症
自己抗体甲状腺組織を攻撃

ヨウ素摂取量の変動

ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に必要不可欠な栄養素ですが、その摂取量が過剰または不足している場合、甲状腺機能に影響を与える可能性があります。

日本では海藻類を多く摂取する食文化があるためヨウ素の過剰摂取が潜在性甲状腺機能低下症のリスク要因となることもあります。

一方でヨウ素不足の地域では逆にヨウ素欠乏が原因となることもあるのです。

ヨウ素摂取量影響
過剰摂取甲状腺機能抑制
不足ホルモン合成障害

遺伝的要因とファミリーヒストリー

潜在性甲状腺機能低下症には遺伝的な要因も関与していることが分かっています。

家族歴のある方はこの疾患を発症するリスクが高くなる傾向があります。

特定の遺伝子変異や多型が甲状腺機能の調節に影響を与える可能性があるのです。

  • 甲状腺疾患の家族歴
  • 特定の遺伝子変異の存在

加齢による甲状腺機能の変化

年齢を重ねるにつれて甲状腺の機能が徐々に低下していくことがあります。

これは加齢に伴う自然な生理的変化の一部であり、特に女性において顕著に見られる傾向です。

高齢者の方々は潜在性甲状腺機能低下症のリスクが比較的高いとされています。

年齢層リスク
若年層
高齢者

環境要因と生活習慣

環境要因や生活習慣も潜在性甲状腺機能低下症の発症に関与する可能性があります。

例えばストレスの多い生活や不規則な睡眠パターン、不適切な食事習慣などが甲状腺機能に悪影響を及ぼすことがあります。

また、環境中の有害物質への暴露も甲状腺機能を阻害する要因となり得るのです。

環境要因影響
ストレスホルモンバランスの乱れ
有害物質甲状腺機能の阻害

医療処置や薬剤の影響

一部の医療処置や薬剤も潜在性甲状腺機能低下症を引き起こす原因となることがあります。

具体的には甲状腺の手術や放射線治療、特定の薬剤(リチウム製剤、アミオダロンなど)の長期使用が甲状腺機能に影響を与える可能性があるのです。

これらの治療を受けている方は定期的な甲状腺機能のチェックが大切です。

  • 甲状腺関連の手術歴
  • 特定薬剤の長期使用

このように潜在性甲状腺機能低下症の原因は単一ではなく複数の要因が複雑に絡み合っていることが多いのです。

診察と診断

潜在性甲状腺機能低下症の診察と診断は患者さんの状態を正確に把握し、適切な対応を行うために不可欠なプロセスです。

この疾患は明確な症状が現れにくいため、綿密な検査と専門医による総合的な評価が必要となります。

問診と身体診察

診断の第一歩は、詳細な問診と身体診察から始まります。

医師は患者さんの体調の変化や生活習慣、家族歴などについて丁寧に聞き取りを行います。

同時に、甲状腺の触診や全身状態の確認など、身体的な診察も行われます。

問診項目確認内容
体調変化疲労感、体重変動など
家族歴甲状腺疾患の有無

血液検査による甲状腺機能の評価

潜在性甲状腺機能低下症の診断において最も重要な検査は血液検査です。特に甲状腺刺激ホルモン(TSH)と遊離サイロキシン(FT4)の値が診断の鍵となります。

潜在性甲状腺機能低下症ではTSH値が基準値よりも高く、FT4値が正常範囲内にあるという特徴的なパターンを示します。

ホルモン潜在性甲状腺機能低下症での特徴
TSH上昇
FT4正常範囲内

抗甲状腺抗体検査

自己免疫性甲状腺疾患の有無を確認するため、抗甲状腺抗体検査が行われることがあります。

具体的には抗サイログロブリン抗体(TgAb)や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)などが測定されます。

これらの抗体が陽性の場合、自己免疫性甲状腺疾患の存在が示唆されます。

  • 抗サイログロブリン抗体(TgAb)
  • 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)

画像診断

甲状腺の形態や大きさを評価するため、超音波検査が実施されることがあります。

この検査により甲状腺の腫大や結節の有無、内部構造の変化などを詳細に観察することができます。

さらに必要に応じてCT検査やMRI検査などの追加の画像診断が行われる場合もあるでしょう。

画像検査評価内容
超音波甲状腺の形態、内部構造
CT/MRI周辺組織との関係、詳細な構造

甲状腺シンチグラフィ

甲状腺の機能を視覚的に評価するため、甲状腺シンチグラフィが行われることがあります。

この検査では放射性同位元素を用いて甲状腺の活動性を画像化し、機能亢進や低下の部位を特定することが可能です。

ただしこの検査は必ずしも全ての患者さんに必要というわけではなく、医師の判断により実施されます。

シンチグラフィの特徴内容
評価対象甲状腺の機能的活動性
使用物質放射性同位元素

複数回の検査による確認

潜在性甲状腺機能低下症の診断には一度の検査結果だけでなく、複数回の検査結果を比較することが大切です。これは甲状腺機能が日内変動や季節変動を示すことがあるためです。

通常は3〜6ヶ月の間隔を空けて再検査を行い、結果の安定性を確認します。

潜在性甲状腺機能低下症の診断はこれらの検査結果と臨床所見を総合的に評価して行われます。

画像所見

潜在性甲状腺機能低下症の画像所見は疾患の初期段階や軽度の状態を正確に把握するために非常に重要な役割を果たします。

この疾患では甲状腺の構造や機能に微妙な変化が生じることがあり、それらを適切な画像診断技術を用いて評価することが診断や経過観察において大切です。

潜在性甲状腺機能低下症における主な画像診断法とその特徴的な所見は以下の通りです。

超音波検査(エコー)

超音波検査は潜在性甲状腺機能低下症の診断において最も一般的に用いられる画像診断法です。

この検査は非侵襲的で放射線被曝がなく、甲状腺の形態や内部構造を詳細に観察することができます。

潜在性甲状腺機能低下症では以下のような所見が認められることがあります。

超音波所見特徴
エコー輝度びまん性の低下
甲状腺サイズ軽度〜中等度の腫大
  • 甲状腺実質のエコーレベルの低下(甲状腺組織が周囲の筋肉と比べて低エコーになる)
  • 甲状腺実質の不均一性の増加
Case courtesy of Fakhry Mahmoud Ebouda, Radiopaedia.org. From the case rID: 37691

所見:晩期の橋本甲状腺炎を呈する59歳女性、体重増加、広範な筋力低下、および眠気を訴える。身体検査では、患者の甲状腺は非常に硬く感じられた。検査値は以下の通り:T4 = 2.8 μg/dL、TSH = 98 μIU/mL。24時間RAIUは7%。(a) 遠位(左)およびクローズアップ(右)の前方画像では、背景活性と比較して不均一で比較的低い甲状腺活性が示されている。

カラードプラ法

カラードプラ法は超音波検査の一種で、甲状腺内部の血流を評価することができます。

潜在性甲状腺機能低下症では甲状腺内部の血流が変化することがあり、この検査法によってそれを視覚化することが可能です。

血流評価潜在性甲状腺機能低下症での特徴
血流量軽度〜中等度の増加
血流パターン不均一な分布
Case courtesy of Fakhry Mahmoud Ebouda, Radiopaedia.org. From the case rID: 37691

所見:晩期の橋本甲状腺炎を呈する59歳女性、体重増加、広範な筋力低下、および眠気を訴える。身体検査では、患者の甲状腺は非常に硬く感じられた。検査値は以下の通り:T4 = 2.8 μg/dL、TSH = 98 μIU/mL。24時間RAIUは7%。(a) 遠位(左)およびクローズアップ(右)の前方画像では、背景活性と比較して不均一で比較的低い甲状腺活性が示されている。

CT(コンピュータ断層撮影)

CTは甲状腺の形態や周囲の構造との関係を詳細に評価するために用いられます。

潜在性甲状腺機能低下症ではCTによって以下のような所見が観察されることがあります。

  • 甲状腺のサイズの軽度増大
  • 甲状腺実質の密度の軽度低下

CTは放射線被曝を伴うため、超音波検査で十分な情報が得られない際に補助的に用いられることが多いです。

CT所見潜在性甲状腺機能低下症での特徴
甲状腺密度軽度の低下
周囲組織との関係圧排所見なし
Is visual assessment of thyroid attenuation on unenhanced CT of the chest useful for detecting hypothyroidism? – Clinical Radiology

所見:
低吸収および高吸収の甲状腺を示す造影なしCTの例。(a) 74歳の女性で、低吸収の甲状腺を示す。甲状腺(矢印)が周囲の筋肉と同等の吸収度を示していることに注意。この患者は甲状腺機能低下症で、TSHが高く、遊離サイロキシンのレベルが低かった。(b) 65歳の甲状腺機能正常の男性で、高吸収の甲状腺を示す。甲状腺(矢印)は周囲の筋肉と比較して吸収度がわずかに増加している。(c) 64歳の甲状腺機能正常の男性で、高吸収の甲状腺を示す。甲状腺(矢印)は周囲の筋肉と比較して吸収度が著しく増加している。

MRI(磁気共鳴画像)

MRIは軟部組織の描出に優れており、甲状腺の詳細な構造を評価するのに適しています。

潜在性甲状腺機能低下症ではMRIにおいて以下のような所見が認められることがあります。

MRI所見特徴
T1強調画像軽度の信号強度低下
T2強調画像軽度の信号強度上昇
Frontiers | Magnetic Resonance Imaging Features of Normal Thyroid Parenchyma and Incidental Diffuse Thyroid Disease: A Single-Center Study

所見:非造影軸位T1強調画像(A)およびT2強調画像(B)では、甲状腺(矢印)はそれぞれ隣接する筋肉と比較して均一な等信号強度および不均一な高信号強度を示している。両画像において、甲状腺(矢印)は正常な腺サイズと滑らかな境界を示している。造影軸位脂肪抑制T1強調画像(C)では、甲状腺(矢印)は隣接する筋肉と比較して均一に増強されている。

甲状腺シンチグラフィ

甲状腺シンチグラフィは放射性同位元素を用いて甲状腺の機能を視覚化する検査法です。

潜在性甲状腺機能低下症では以下のような所見が観察されることがあります。

  • 甲状腺全体の放射性同位元素の取り込みの軽度低下
  • 取り込みの不均一性の増加

この検査は甲状腺の機能的な変化を評価するのに有用ですが、放射線被曝を伴うため必要性を慎重に判断して実施されなければなりません。

潜在性甲状腺機能低下症の画像所見は多くの場合、微妙な変化にとどまることが特徴です。

そのため単一の画像検査だけでなく、複数の検査法を組み合わせて総合的に評価することが不可欠です。

さらに画像所見だけでなく、臨床症状や血液検査結果と合わせて総合的に診断を行うことが重要となります。

Intenzo, C M et al. “Scintigraphic features of autoimmune thyroiditis.” Radiographics : a review publication of the Radiological Society of North America, Inc vol. 21,4 (2001): 957-64.

所見:初期段階の橋本甲状腺炎を呈する42歳女性、甲状腺腫および右甲状腺葉の硬さを訴える。検査値は以下の通り:T4 = 7.6 μg/dL、T3 = 121 ng/dL、TSH = 5.5 μIU/mL。24時間RAIUは39%と軽度に上昇。(a) 前方シンチグラムでは、びまん性に増加した放射性トレーサーの取り込み(高いターゲット対背景活性)を示す拡大した甲状腺が見られ、びまん性毒性甲状腺腫に類似した所見が見られる。唾液腺の低い放射性トレーサー濃度によって示される背景活性の減少に注意(細い矢印)。フォトペニックエリア(太い矢印)は集積ない胸骨マーカーを示している。

潜在性甲状腺機能低下症の治療アプローチ

潜在性甲状腺機能低下症の治療は患者さん一人ひとりの状態に応じて慎重に計画され、長期的な視点に立って実施されます。

この疾患の治療方法、使用される薬剤、そして治癒までの期間は個々の患者さんの状況によって大きく異なることがあります。

治療の開始基準

潜在性甲状腺機能低下症の治療開始については個々の患者さんの状態を総合的に評価して判断されます。

以下のような要因が考慮されるのが一般的です。

要因治療開始の判断基準
TSH値10 mIU/L以上
年齢65歳未満
  • 甲状腺機能低下症の症状の有無
  • 甲状腺自己抗体の存在

ホルモン補充療法

潜在性甲状腺機能低下症の主な治療法は甲状腺ホルモン補充療法です。

一般的に使用される薬剤はレボチロキシンナトリウム(L-T4)で、これは体内で不足している甲状腺ホルモンを補う働きがあります。

薬剤特徴
レボチロキシン合成甲状腺ホルモン
投与方法経口、朝食前に服用

治療の開始は低用量から始まり、患者さんの状態を見ながら徐々に調整されていくのが基本です。

この慎重なアプローチによって副作用のリスクを最小限に抑えつつ、最適な効果を得ることを目指します。

投薬量の調整と経過観察

レボチロキシンの投与量は定期的な血液検査の結果に基づいて調整されます。主に TSH 値を指標として用いて正常範囲内に維持することを目標とします。

検査項目目標値
TSH0.4〜4.0 mIU/L
FT4基準範囲内

投薬開始後は6〜8週間ごとに血液検査を行い、適切な用量に調整していきます。

状態が安定したら検査間隔を徐々に延ばし、最終的には年1〜2回の検査で経過を見守るという過程です。

治療期間と予後

潜在性甲状腺機能低下症の治療期間は個々の患者さんによって大きく異なります。

一部の患者さんでは数か月から数年の治療で症状が改善し、薬剤の減量や中止が可能となることがあるでしょう。

一方で生涯にわたってホルモン補充療法を継続する必要がある患者さんも少なくありません。

治療期間特徴
短期(数か月〜数年)一時的な機能低下の場合
長期(生涯)永続的な機能低下の場合

治療の効果は、定期的な血液検査と症状の評価によって判断されます。

TSH値が正常化し、症状が改善すれば治療が効果を上げていると考えられます。

生活習慣の改善

薬物療法と並行して以下のような生活習慣の改善も治療の一環として重要です。

  • バランスの取れた食事(特にヨウ素の適切な摂取)
  • 規則正しい睡眠
  • 適度な運動
  • ストレス管理

これらの生活習慣の改善は薬物療法の効果を高め、全体的な健康状態の向上につながる可能性があります。

潜在性甲状腺機能低下症の治療は個々の患者さんの状態に応じて柔軟に調整することが必要があります。

治療開始の判断、薬物療法の調整、生活習慣の改善など多面的なアプローチが求められます。

また治療効果の判定には時間がかかることがあり、根気強く継続することが大切です。

治療の副作用とリスク

潜在性甲状腺機能低下症の治療は多くの患者さんにとって有益である一方で、副作用やデメリットが生じる可能性もあります。

これらのリスクを理解し適切に管理することが、安全で効果的な治療を続ける上で大切です。

以下は潜在性甲状腺機能低下症の治療に伴う主な副作用やリスクになります。

甲状腺ホルモン過剰症状

甲状腺ホルモン補充療法において最も注意すべき点は、過剰投与によって引き起こされる甲状腺機能亢進症様の症状です。

これは投与量が患者さんの必要量を上回った際に生じる可能性があります。

過剰症状特徴
動悸心拍数の増加
発汗体温調節の乱れ
  • 不安感や落ち着きのなさ
  • 体重減少
  • 手の震え

これらの症状が現れた際は速やかに医師に相談し、投与量の調整を検討することが必要です。

骨密度への影響

長期的な甲状腺ホルモン補充療法は特に閉経後の女性や高齢者において、骨密度の低下を引き起こす可能性があります。

これは甲状腺ホルモンが骨代謝に影響を与えるためです。

影響リスク因子
骨密度低下高齢
骨折リスク増加閉経後

骨密度への影響を最小限に抑えるため、定期的な骨密度検査やカルシウムとビタミンDの適切な摂取が推奨されることがあります。

心血管系への影響

甲状腺ホルモンは心臓の機能にも大きく関与しています。

過剰な甲状腺ホルモン補充は特に高齢者や心疾患の既往がある患者さんにおいて、心血管系のリスクを高める傾向が高まるのです。

心血管系リスク影響
心房細動不整脈の増加
狭心症心筋酸素需要の増加

これらのリスクを軽減するためには心機能の定期的な評価や、必要に応じて心臓専門医との連携が重要となります。

薬物相互作用

レボチロキシンは他の薬剤と相互作用を起こす可能性があります。特に以下のような薬剤との併用には注意が必要です。

薬剤群相互作用
鉄剤レボチロキシンの吸収阻害
制酸剤レボチロキシンの吸収低下
  • ワルファリン(抗凝固薬)との相互作用による出血リスクの増加
  • コレステロール低下薬との相互作用による効果の変化

これらの薬剤を使用する際は医師や薬剤師に必ず相談し、服用のタイミングや用量の調整を検討する必要があります。

過剰診断・過剰治療のリスク

潜在性甲状腺機能低下症は症状がない、または軽微な場合も多く、過剰診断や過剰治療のリスクがあります。

不必要な治療は副作用のリスクを増加させる一方で、明確な利益をもたらさない可能性があります。

リスク影響
過剰診断不要な不安や検査
過剰治療副作用リスクの増加

治療開始の判断はTSH値だけでなく、年齢や全身状態、患者さんの希望などを総合的に考慮して慎重に行う必要があります。

潜在性甲状腺機能低下症の治療に伴う副作用やリスクは個々の患者さんによって異なります。年齢、既往歴、併存疾患、服用中の他の薬剤など様々な要因が影響します。

そのため治療開始前に医師と十分に相談し、利益とリスクのバランスを慎重に検討することが大切です。

再発リスクと予防戦略

潜在性甲状腺機能低下症は一度改善しても再発する可能性がある疾患です。

再発のリスクと予防法を理解し、適切な対策を講じることが長期的な健康維持において大切になってきます。

再発のリスク要因

潜在性甲状腺機能低下症の再発リスクは個々の患者さんの状態や背景によって異なります。

以下のような要因が再発のリスクを高めるとされています。

リスク要因影響
自己免疫性疾患再発リスク増加
年齢高齢ほどリスク上昇
  • 甲状腺機能低下症の家族歴
  • 過去の放射線治療歴

これらのリスク要因を持つ患者さんは特に注意深い経過観察が必要です。

定期的な検査と経過観察

再発を早期に発見して適切に対応するためには定期的な検査と経過観察が不可欠です。特に治療終了後の一定期間は慎重なフォローアップが重要となります。

検査項目推奨頻度
TSH検査3〜6ヶ月ごと
甲状腺機能検査6〜12ヶ月ごと

医師と相談のうえ個々の状況に応じた検査スケジュールを設定することが大切です。

生活習慣の改善

潜在性甲状腺機能低下症の再発予防において健康的な生活習慣の維持は重要な役割を果たします。

以下のような生活習慣の改善が再発リスクの低減に寄与する可能性が高まるのです。

生活習慣効果
バランスの良い食事甲状腺機能サポート
適度な運動代謝機能改善
  • ストレス管理
  • 十分な睡眠

これらの生活習慣を日常的に実践することで全身の健康状態を向上させ、再発のリスクを軽減できる可能性があります。

ヨウ素摂取量の管理

ヨウ素は甲状腺機能に直接関わる重要な栄養素ですが、その摂取量のバランスが大切です。

過剰摂取も不足も甲状腺機能に悪影響を及ぼす可能性があります。

ヨウ素摂取推奨
1日の摂取量100〜150μg
主な食品源海藻類、魚介類

医師や栄養士と相談しながら適切なヨウ素摂取量を維持することが再発予防に役立つ可能性があります。

環境因子への注意

環境中の特定の物質が、甲状腺機能に影響を与える可能性があることが知られています。

これらの物質への過剰な曝露を避けることも再発予防の一環として重要です。

  • 特定の化学物質(PCBやプラスチック添加剤など)
  • 過度の放射線被曝

職業や生活環境に応じて、これらの因子への曝露を最小限に抑える努力が必要となる場合があります。

治療費

潜在性甲状腺機能低下症の治療費は個々の状況や治療方針によって大きく異なります。

初診料は2,910円、再診料は750円ですが、検査や薬剤費用が加わります。血液検査は1回あたり4,200円~7,280円、甲状腺超音波検査は1,500円程度です。

レボチロキシン製剤の薬剤費は月額1,000〜3,000円程度です。長期的な管理が必要なため年間の総額は10万円前後になる可能性があります。

初診・再診料

初診時は詳細な問診と検査が行われるため、費用が高くなります。

検査費用

定期的な血液検査や画像診断が必要です。

検査項目費用
血液検査4,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合)
 +TSH検査1,010円+FT4検査1,080円+FT3検査990円=7,280円
超音波検査7,000円

薬剤費

レボチロキシン製剤の価格は症状の程度により変動します。

用量月額費用
25μgチラーヂンS錠25μg 9.8円/錠 × 1~16錠 ×30日 = 294~4,704円
100μgチラーヂンS錠50μg 9.8円/錠 × 1~8錠 ×30日 = 588~4,704円

長期管理の費用

定期的な通院と検査が必要なため年間の総額は変動します。患者さんの状態や治療方針により費用は大きく異なるため、個別の相談が大切です。

以上

参考にした論文