内分泌疾患の一種である高プロラクチン血症(けっしょう)とは、血液中のプロラクチンというホルモンの濃度が異常に高くなる状態を指します。

プロラクチンは主に脳の下垂体前葉から分泌されるホルモンで、通常は女性の妊娠・授乳期に大量に分泌され、乳汁の産生を促進します。

しかし様々な要因によってプロラクチンの分泌が過剰になると男女問わず様々な症状が現れることがあります。

この疾患は比較的よく見られる内分泌異常の一つであり、早期発見と適切な対応が重要です。

高プロラクチン血症の主症状

高プロラクチン血症(高PRL血症)は血中プロラクチン濃度の上昇によって様々な症状を引き起こす内分泌疾患です。

その症状は男女で異なる場合が多く、また個人差も大きいため注意深い観察が重要です。

女性における主症状

女性の高プロラクチン血症では生殖機能に関連する症状が顕著に現れることがあります。

以下はその主な症状です。

症状頻度
月経不順70-80%
不妊30-40%
乳汁漏出50-60%

これらの症状はプロラクチンの過剰分泌が卵巣機能に影響を与えることで生じます。

月経不順は高プロラクチン血症の初期症状として現れることが多く、早期発見の手がかりとなる可能性があります。

男性における主症状

男性の高プロラクチン血症では性機能に関する症状が中心で、以下はその主な症状です。

症状頻度
性欲減退60-70%
勃起障害40-50%
精子形成障害30-40%

これらの症状はプロラクチンの上昇がテストステロン産生を抑制することで引き起こされます。

男性の場合、これらの症状が徐々に進行することがあるため早期の気づきが大切です。

共通する症状

男女共通して見られる症状もあります。これらの症状はプロラクチンの直接的な作用や、他のホルモンへの影響によって生じます。

主な共通症状には以下のようなものがあります。

症状男性の頻度女性の頻度
倦怠感40-50%50-60%
頭痛30-40%40-50%
視野障害(腫瘍が大きい場合)5-10%5-10%

これらの症状は高プロラクチン血症以外の疾患でも見られるため、慎重な評価が必要です。

長期的な影響

高プロラクチン血症が長期間続くと、以下のような影響が現れる可能性があります。

  • 骨密度の低下
  • 心血管系リスクの上昇
  • 精神的ストレスの増加

これらの長期的な影響は患者さんのQOL(生活の質)に大きく関わるため、早期発見と適切な対応が重要となります。

高PRL血症の症状は多岐にわたり、個人差も大きいことが特徴です。また、症状の程度は必ずしも血中プロラクチン濃度と相関しないことがあります。

そのため、患者さん一人一人の状況を丁寧に評価することが不可欠です。

原因とメカニズム

高プロラクチン血症(高PRL血症)は様々な要因によって引き起こされる可能性がある複雑な内分泌疾患です。その原因を理解することは適切な診断と管理に不可欠です。

生理的要因

生理的な高プロラクチン血症は正常な生体機能の一部として発生することがあります。主な生理的要因には以下のようなものがあります。

  • 妊娠・授乳
  • 睡眠
  • ストレス
  • 運動

これらの要因による高プロラクチン血症は一時的で、通常は病的な状態ではありません。

生理的要因プロラクチン上昇の程度
妊娠後期基準値の10倍以上
授乳期基準値の2〜3倍
睡眠中基準値の1.5〜2倍

薬剤性要因

多くの薬剤が高プロラクチン血症を引き起こす可能性があります。これは薬剤がドパミンの作用を阻害したり、プロラクチンの分泌を直接刺激したりするためです。

主な原因薬剤には以下のようなものがあります。

薬剤分類代表的な薬剤名
抗精神病薬リスペリドン、ハロペリドール
制吐剤メトクロプラミド、ドンペリドン
降圧剤メチルドパ、ベラパミル

薬剤性の高PRL血症は原因薬剤の中止または変更により改善することが多いですが、医師の指示なく服薬を中断してはいけません。

腫瘍性要因

下垂体腫瘍、特にプロラクチン産生腫瘍(プロラクチノーマ)は高プロラクチン血症の重要な原因の一つで、腫瘍の大きさによって以下のように分類されます。

  • ミクロプロラクチノーマ(直径10mm未満)
  • マクロプロラクチノーマ(直径10mm以上)
腫瘍タイプ頻度プロラクチン値
ミクロプロラクチノーマ60-70%中等度上昇
マクロプロラクチノーマ30-40%著明に上昇

プロラクチノーマ以外の下垂体腫瘍も下垂体茎を圧迫することで高PRL血症を引き起こすことがあります。

視床下部・下垂体茎の障害

視床下部や下垂体茎の障害も高プロラクチン血症の原因となることがあり、これらの障害には以下のようなものが含まれます。

  • 頭部外傷
  • 放射線照射の既往
  • 肉芽腫性疾患
  • 浸潤性腫瘍

これらの要因はドパミンによるプロラクチン分泌抑制機構を障害することで高プロラクチン血症を引き起こします。

全身性疾患

いくつかの全身性疾患も高プロラクチン血症の原因となることがあります。以下はその主な疾患です。

疾患メカニズム
慢性腎不全プロラクチンのクリアランス低下
甲状腺機能低下症TRHの上昇によるプロラクチン分泌刺激
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)エストロゲンによるプロラクチン分泌促進

これらの疾患の管理においては高プロラクチン血症の可能性を考慮することが大切です。

高PRL血症の診察と診断

高プロラクチン血症の診断は詳細な病歴聴取、身体診察、そして各種検査を組み合わせて行います。正確な診断のためには総合的なアプローチが不可欠です。

問診と病歴聴取

診断の第一歩は丁寧な問診と病歴聴取です。医師は患者さんから以下のような情報を収集します。

  • 月経歴(女性の場合)
  • 性機能の変化
  • 服薬歴
  • 頭部外傷の既往
  • 家族歴

これらの情報は高プロラクチン血症の原因を推測する上で重要な手がかりとなります。

聴取項目注目すべき点
月経歴不順や無月経の有無
性機能性欲低下や勃起障害
服薬歴プロラクチン上昇を引き起こす薬剤の使用

身体診察

身体診察では高プロラクチン血症に関連する身体的特徴を評価します。以下は主な診察項目です。

診察項目確認すべき点
乳房乳汁分泌、腫瘤の有無
視野視野欠損の有無
神経学的所見脳神経障害の有無

乳房からの自然な乳汁分泌(ガラクトレア)は、高プロラクチン血症を示唆する重要な所見です。

血液検査

高プロラクチン血症の診断において血中プロラクチン濃度の測定は中心的な役割を果たします。以下のような点に注意して検査を行います。

  • 早朝空腹時の採血
  • 複数回の測定
  • マクロプロラクチンの評価

また、他の下垂体ホルモンや甲状腺機能の評価も同時に行うことがあります。

検査項目正常値(参考値)
プロラクチン男性 4-15 ng/mL, 女性 4-23 ng/mL
TSH0.4-4.0 μIU/mL
FT40.9-1.7 ng/dL

画像検査

高プロラクチン血症の原因究明のため、下垂体とその周辺の画像検査が行われることがあります。主に以下の検査が用いられます。

  • MRI(磁気共鳴画像法)
  • CT(コンピュータ断層撮影)

MRIは下垂体腫瘍の検出に最も感度が高い検査方法です。

画像所見意義
微小腺腫直径10mm未満の腫瘍
大型腺腫直径10mm以上の腫瘍
Empty sella下垂体の扁平化

負荷試験

一部の患者さんではプロラクチン分泌の動態をより詳細に評価するため、負荷試験が行われることがあります。以下は主な負荷試験です。

  • TRH負荷試験
  • メトクロプラミド負荷試験

これらの試験はプロラクチン分泌の調節機構を評価するのに役立ちます。

高プロラクチン血症の診断には多面的なアプローチが必要です。以下の点に注意して診断を進めることが大切です。

  • 偽高プロラクチン血症の除外
  • 二次性高プロラクチン血症の評価
  • 腫瘍性病変の鑑別

正確な診断は適切な治療方針の決定に不可欠です。患者さんの状態に応じて必要な検査を選択し、総合的に評価することが重要となります。

画像所見

高プロラクチン血症の診断と評価において画像検査は非常に重要な役割を果たします。特にMRI(磁気共鳴画像法)とCT(コンピュータ断層撮影)が主に用いられ、これらの検査により下垂体の異常や腫瘍の存在を詳細に評価することができます。

MRI所見

MRIは高プロラクチン血症の画像診断において最も感度が高く、優れた空間分解能を持つ検査方法です。下垂体の微細な構造を評価するのに適しています。

以下はMRIで観察される主な所見です。

  • 下垂体腺腫(プロラクチノーマ)の存在
  • 下垂体の大きさや形状の変化
  • 周囲組織への影響
MRI撮像法特徴
T1強調画像腫瘍は通常低信号
T2強調画像腫瘍は多くの場合高信号
造影T1強調画像腫瘍は多くの場合強い造影効果を示す

プロラクチノーマはその大きさによってミクロプロラクチノーマ(直径10mm未満)とマクロプロラクチノーマ(直径10mm以上)に分類されます。

Case courtesy of Bruno Di Muzio, Radiopaedia.org. From the case rID: 43481

所見:下垂体は正常なサイズだが、その前下部の左側に遅延造影呈する結節状領域があり、最大5.5mmである。下垂体柄は中心にあり、厚さも正常である。視交叉および鞍上槽に特記すべき異常は認められない。

CT所見

CTは骨構造の評価に優れており、特にトルコ鞍の形態変化や骨破壊の有無を確認するのに役立ちます。また、石灰化の検出にも優れています。

CT[で観察される主な所見は次の通りです。

    CT所見意義
    トルコ鞍の拡大長期間の腫瘍成長を示唆
    骨破壊腫瘍の浸潤性成長を示唆
    石灰化腫瘍の性状や経過を反映
    Figure 1. . A 34-year-old patient with amenorrhea and hyperprolactinemia (PRL 1630 ng/ml) had a sella CT imaging depicting a pituitary mass on the left (A).
    Hyperprolactinemia – Endotext – NCBI Bookshelf (nih.gov)

    所見:無月経および高プロラクチン血症(PRL 1630 ng/ml)の34歳患者。鞍部左側の下垂体腫瘤が描出された(A)。ブロモクリプチンを導入し、1日7.5mgを30日間投与した結果、PRLは32 ng/mLに低下し、月経が回復した。再度のCT検査では、腫瘍サイズの縮小が確認された(B)。

    Empty sellaの評価

    Empty sellaはトルコ鞍内が部分的または完全に脳脊髄液で満たされている状態を指します。この所見は高プロラクチン血症と関連することがあるのです。

    Empty sellaの画像所見には以下のような特徴があります。

    • トルコ鞍の拡大
    • 下垂体の扁平化
    • トルコ鞍内の脳脊髄液貯留
    Empty sellaの分類特徴
    完全型トルコ鞍の75%以上が脳脊髄液で満たされている
    部分型トルコ鞍の50-75%が脳脊髄液で満たされている
    Case courtesy of Sandeep Bhuta, Radiopaedia.org. From the case rID: 5484

    所見:Empty Sellaの症例。T1矢状断画像では、鞍区内に脳脊髄液(CSF)信号強度が認められる。正常な下垂体が鞍底に押し下げられていることに注目。

    周囲組織への影響の評価

    大きな下垂体腫瘍の場合、周囲の重要な構造物に影響を与えることがあります。画像検査ではこれらの影響を詳細に評価することが可能です。

    主に以下の点に注目して評価を行います。

    • 視交叉の圧排
    • 海綿静脈洞への浸潤
    • 第3脳室底の挙上

    これらの所見は治療方針の決定に大きな影響を与えます。

    経時的変化の評価

    高PRL血症の管理において経時的な画像評価は大切です。定期的な画像検査により、以下のような点を評価することができます。

    • 腫瘍サイズの変化
    • 治療効果の判定
    • 再発の早期発見
    経過観察の間隔推奨される状況
    3-6ヶ月治療開始直後や急速な変化が予想される場合
    1年安定している場合の標準的な間隔

    高プロラクチン血症の画像所見は、疾患の診断、重症度の評価、治療方針の決定において不可欠な情報を提供します。

    MRIとCTを組み合わせることで下垂体の異常や腫瘍の詳細な構造、周囲組織への影響を総合的に評価することが可能です。

    Figure 3. . 26 yrs-old man complaining of visual disturbance was submitted to a sellar MRI (A): sellar mass with 5 cm in the maximal diameter with supra, infra and left parasellar invasion.
    Hyperprolactinemia – Endotext – NCBI Bookshelf (nih.gov)

    所見:26歳の男性が視覚障害を訴え、鞍区MRI検査(A)を受けた結果、最大径5cmの鞍区腫瘤が確認され、上方、下方および左傍鞍区への侵襲が認められた。血清プロラクチン(PRL)レベルは1000 ng/mLを超えていた。1年間、カベルゴリン0.5 mg/日を投与したが、腫瘍の縮小は見られず、PRLレベルは約800 ng/mLであった。その後、別の医療機関で経蝶形骨手術および放射線治療を受けた。術後2か月の鞍区MRI(B)では、最大径3.1cmの下垂体腫瘤が確認された。視交叉の減圧にもかかわらず、視覚機能障害は回復せず、フォローアップ中に前下垂体機能が失われた。カベルゴリン1.5 mg/週の投与でPRLレベルは250 ng/mLであった。その後2年間の鞍区MRIでは、最大径2.9cmの病変が描出された(C)。カベルゴリンの増量(0.5 mg/日)にもかかわらず、PRLレベルの上昇が続き、さらに2年後の鞍区MRI(D)では、最大径3.1cmの病変が描出され、再手術が推奨された。

    治療方法と薬、治癒までの期間

    高プロラクチン血症の治療は原因や患者さんの状態に応じて個別化されます。治療の主な目的はプロラクチン値を正常化し、関連する症状を改善することです。

    薬物療法

    薬物療法は多くの高プロラクチン血症患者さんにとって第一選択の治療法となります。主に使用される薬剤はドパミン作動薬です。

    代表的なドパミン作動薬には以下のようなものがあります。

    薬剤名投与頻度
    カベルゴリン週1-2回
    ブロモクリプチン1日2-3回

    これらの薬剤は下垂体のドパミン受容体を刺激し、プロラクチンの分泌を抑制します。

    薬物療法の効果は個人差がありますが、多くの場合に治療開始後数週間でプロラクチン値の低下が見られます「。

    外科的治療

    外科的治療は主に大きな下垂体腫瘍がある場合や薬物療法が効果的でない場合に考慮されます。経蝶形骨洞手術が行われるのが一般的です。

    手術の主な目的は以下の通りです。

    • 腫瘍の除去
    • 視神経の圧迫解除
    • プロラクチン値の正常化
    手術方法特徴回復期間
    経蝶形骨洞手術低侵襲、鼻腔からアプローチ1-2週間
    開頭手術大型腫瘍に対応、侵襲性が高い4-6週間

    手術後は数日から数週間でプロラクチン値が正常化することがあります。

    放射線治療

    放射線治療は手術や薬物療法が効果的でない場合の選択肢となります。主に以下の方法があります。

    放射線治療法特徴効果発現までの期間
    分割照射低線量を複数回に分けて照射1-2年
    定位放射線治療高線量を1回で照射6ヶ月-1年

    放射線治療の効果は緩徐に現れるため、効果が最大になるまでには数年かかることがあります。

    治癒までの期間

    高PRL血症の「治癒」は、プロラクチン値の正常化と症状の改善と定義されることが多いです。治癒までの期間は治療法や個々の患者さんの状態によって大きく異なります。

    一般的な目安は以下の通りです。

    • 薬物療法 数週間から数ヶ月で効果が現れ、長期的な服用が必要な場合もある
    • 手術治療 即時的な効果が得られることもあるが、完全な効果の判定には3-6ヶ月程度必要
    • 放射線治療 効果が最大になるまで2-5年程度かかることがある
    治療法効果発現までの期間治療期間
    薬物療法数週間-数ヶ月数ヶ月-数年
    手術治療数日-数週間1回の手術で完了
    放射線治療6ヶ月-数年1回または数回の治療で完了

    経過観察と長期管理

    高プロラクチン血症の治療後は定期的な経過観察が重要です。以下のような項目を定期的に評価します。

    • 血中プロラクチン値
    • 関連症状の改善度
    • MRIなどの画像検査

    長期的な管理においては再発のリスクを考慮し、注意深いフォローアップが必要となります。

    高プロラクチン血症の治療は個々の患者さんの状況に応じて選択されます。

    治療法の選択や治癒までの期間は原因となる病態、腫瘍の有無やサイズ、患者さんの年齢や希望など様々な要因を考慮して決定されます。

    また、治療効果は個人差が大きいため定期的な評価と必要に応じた治療方針の調整が大切です。

    多くの場合、適切な治療により症状の改善とプロラクチン値の正常化が期待できますが、長期的な管理が必要となることがあります。

    治療に伴う副作用とリスク

    高プロラクチン血症の治療は患者さんの生活の質を向上させる一方で、様々な副作用やリスクを伴う場合があります。

    これらの副作用やリスクを理解し、適切に対処することが、治療を成功させる上で重要です。

    薬物療法の副作用

    ドパミン作動薬による治療は高PRL血症の主要な治療法ですが、いくつかの副作用が報告されています。

    主な副作用には以下のようなものがあります。

    • 悪心・嘔吐
    • めまい
    • 頭痛
    • 鼻づまり

    これらの副作用は多くの場合、治療開始初期に現れ、時間とともに軽減していくでしょう。

    薬剤名主な副作用頻度
    カベルゴリン悪心、めまい10-20%
    ブロモクリプチン悪心、頭痛20-30%

    薬物療法の副作用管理には用量調整や服用方法の工夫が有効な場合があります。

    外科的治療のリスク

    下垂体腫瘍に対する手術は高度な技術を要する処置であり、次のようなリスクが存在します。

    合併症発生頻度管理方法
    髄液漏1-5%保存的治療または再手術
    視力障害<1%緊急再手術が必要な場合あり
    下垂体機能低下症5-20%ホルモン補充療法

    これらのリスクは手術の複雑さや腫瘍の大きさによって変動する可能性があります。手術後は慎重な経過観察と適切なフォローアップが不可欠です。

    放射線治療の長期的リスク

    放射線治療は以下のような長期的な副作用のリスクがあります。

    • 下垂体機能低下症
    • 視力・視野障害
    • 脳の二次性腫瘍

    放射線治療後の下垂体機能低下症は時間の経過とともにリスクが上昇する傾向です。

    経過年数下垂体機能低下症のリスク
    5年30-50%
    10年50-80%

    これらのリスクは照射方法や線量によって異なる可能性があります。

    薬物療法中断のリスク

    高プロラクチン血症の薬物療法を突然中断すると以下のようなリスクが生じます。

    • プロラクチン値の急激な上昇
    • 症状の再燃
    • 腫瘍の増大(腫瘍性高プロラクチン血症の場合)

    そのため薬物療法の中断や変更は必ず医師の指示のもとで行う必要があります。

    妊娠・授乳への影響

    高プロラクチン血症の治療薬は妊娠や授乳に影響を与える可能性もでてきます。妊娠中の薬物療法については以下の点に注意が必要です。

    • 胎児への影響
    • 妊娠維持への影響
    薬剤妊娠中の使用授乳中の使用
    カベルゴリン慎重投与原則禁止
    ブロモクリプチン比較的安全慎重投与

    妊娠を希望する場合や妊娠が判明した場合は速やかに医師に相談することが大切です。

    高PRL血症の治療に伴う副作用やリスクは患者さんごとに異なる可能性があります。そのため個々の患者さんの状態に応じたきめ細かな対応が求められます。

    再発の可能性と予防法

    高プロラクチン血症は一度改善しても再発のリスクが存在する疾患です。再発を防ぐためには長期的な経過観察と適切な予防策が不可欠です。

    再発のリスク因子

    再発のリスクは初回治療の方法や効果、原因となった病態などによって異なります。主なリスク因子には以下のようなものがあります。

    • 腫瘍の完全切除が困難だった場合
    • 初回治療後のプロラクチン値の正常化が不十分だった場合
    • 薬物療法の急激な中断

    これらの因子を持つ患者さんでは、より慎重な経過観察が求められます。

    リスク因子再発率
    腫瘍残存20-30%
    不十分なホルモン抑制15-25%
    薬物療法の急激な中断30-40%

    定期的なフォローアップの重要性

    再発を早期に発見して適切に対応するためには、定期的なフォローアップが大切です。フォローアップでは以下の項目を評価します。

    • 血中プロラクチン値
    • 関連する症状の有無
    • MRIによる腫瘍サイズの評価

    これらの検査を定期的に行うことで再発の兆候を早期に捉えることができるでしょう。

    フォローアップ項目推奨頻度
    プロラクチン値測定3-6ヶ月ごと
    MRI検査6-12ヶ月ごと

    生活習慣の改善

    再発のリスクを低減するためには健康的な生活習慣を維持することが重要です。特に以下のような点に注意を払うことが推奨されます。

    • バランスの取れた食事
    • 適度な運動
    • ストレス管理
    • 十分な睡眠

    これらの生活習慣の改善は全身の健康状態を向上させて再発のリスクを低減する可能性があります。

    薬物療法の適切な継続

    薬物療法を受けている患者さんでは医師の指示に従って適切に服薬を継続することが再発予防に重要です。

    薬物療法の継続に関する注意点は以下の通りです。

    • 定期的な受診と服薬状況の報告
    • 副作用の早期発見と対応
    • 自己判断での中断を避ける
    薬剤名推奨される服用方法
    カベルゴリン週1-2回の定期的な服用
    ブロモクリプチン1日2-3回の定期的な服用

    妊娠・出産後の管理

    高プロラクチン血症の既往がある女性では妊娠・出産後に再発のリスクが高まることがあります。そのため以下のような対応が推奨されます。

    • 妊娠前の十分なコントロール
    • 妊娠中の慎重な経過観察
    • 出産後の早期フォローアップ

    高PRL血症の再発予防には患者さん自身の積極的な関与が不可欠です。医療従事者と協力しながら以下のような点に注意を払うことが推奨されます。

    • 定期検査の遵守
    • 症状の変化への注意
    • 健康的な生活習慣の維持
    • 処方薬の適切な服用

    これらの取り組みを継続することで再発のリスクを最小限に抑えることができる可能性が上昇するのです。

    予防策期待される効果
    定期的なフォローアップ早期発見・早期対応
    生活習慣の改善全身状態の向上
    適切な薬物療法の継続ホルモン値の安定化

    高PRL血症の治療費について

    高プロラクチン血症の治療費は診断方法や治療法によって大きく異なります。長期的な管理が必要なため、総費用は高額になることがあります。

    初診・再診料

    初診料は2,910円、再診料は750円です。専門医による診察ではこれらの費用が若干高くなることがあります。

    検査費用

    検査項目概算費用
    血液検査4,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合)+プロラクチン980円
    MRI19,000円~30,200円

    薬物療法費用

    薬剤名月額費用
    カベルゴリンカバサール錠0.25mg 41.2円/錠×1~3錠/日×30日
     =1,236円~3,708円
    ブロモクリプチンブロモクリプチン錠2.5mg 12.4円/錠×1~3錠/日×30日
     =372円~1,116円

    手術費用

    手術が必要な場合、多くは経鼻的下垂体腫瘍摘出術 872,000円となります。

    また、それに加えて、日本の入院費はDPC(診断群分類包括評価)システムを使用して計算されます。このシステムは、患者の病名や治療内容に基づいて入院費を決定する方法です。以前の「出来高」方式とは異なり、DPCシステムでは多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。

    DPCシステムの主な特徴

    1. 約1,400の診断群に分類される
    2. 1日あたりの定額制
    3. 一部の治療は従来通りの出来高計算が適用される

    DPCシステムと出来高計算の比較表

    DPC(1日あたりの定額に含まれる項目)出来高計算項目
    投薬手術
    注射リハビリ
    検査特定の処置
    画像診断
    入院基本料

    DPCシステムの計算方法

    計算式は以下の通りです:

    「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数」+「出来高計算分」

    *医療機関別係数は各医療機関によって異なります。

    例えば、患者が14日間入院した場合の計算は以下のようになります。

    DPC名: 下垂体機能亢進症 手術あり 手術処置等1なし 手術処置等2なし
    日数: 14
    医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
    入院費: ¥398,860 +出来高計算分

    保険が適用されると、自己負担額は1割から3割になります。また、高額医療制度の対象となる場合、実際の自己負担額はさらに低くなります。
    なお、上記の価格は2024年7月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

    以上

    参考にした論文