「糖尿病は中高年の病気でしょう?」「まだ若いから自分には関係ない」そう思っていませんか。

しかし近年、食生活の欧米化やライフスタイルの変化に伴い、20代や30代といった若い世代でも糖尿病を発症する「若年性糖尿病」が増加傾向にあります。

若い時期の糖尿病は進行が早く、合併症のリスクも高まることがあり、決して軽視できません。

この記事では若年性糖尿病の知られざる実態、その兆候や原因、そして今日から始められる予防策について詳しく解説します。

目次

若年性糖尿病とは?若い世代に広がる糖尿病のリスク

若いのに糖尿病?と驚く方もいるかもしれません。まずは若年性糖尿病の基本的な知識と、その背景にある問題点を理解しましょう。

若年性糖尿病の定義と現状

一般的に40歳未満で発症する糖尿病を若年性糖尿病と呼ぶことが多いですが、明確な年齢定義があるわけではありません。

主に1型糖尿病と2型糖尿病に分けられますが、若い世代では生活習慣が大きく関わる2型糖尿病の増加が特に懸念されています。

かつては稀とされた若い世代の2型糖尿病ですが、食生活の乱れや運動不足などにより、その数は確実に増えています。

1型糖尿病と2型糖尿病の違い

糖尿病にはいくつかのタイプがありますが、代表的なのは1型と2型です。

1型糖尿病と2型糖尿病の主な違い

項目1型糖尿病2型糖尿病
主な原因自己免疫反応などにより、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊される遺伝的要因に加え、過食、運動不足、肥満などの生活習慣が関与し、インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)またはインスリンの分泌が低下する
発症年齢小児期や思春期に多いが、成人でも発症中高年に多いが、近年は若年層でも増加
体型やせ型が多い肥満型が多いが、やせ型でも発症
治療インスリン注射が必須食事療法、運動療法が基本。必要に応じて薬物療法(内服薬、インスリン注射など)

若年性糖尿病では1型糖尿病の割合が比較的高くなりますが、生活習慣の乱れによる2型糖尿病の若年発症も深刻な問題です。

なぜ若い世代で糖尿病が増えているのか

若い世代で2型糖尿病が増加している背景には現代社会特有の要因があります。

手軽に高カロリーな食事が摂れる環境、清涼飲料水の過剰摂取、運動不足、不規則な生活リズム、ストレスなどが複雑に絡み合い、インスリンの働きを悪くしたり分泌を低下させたりする原因となっています。

若年性糖尿病の気づきにくさと危険性

若い人は体力があるため、多少の体調不良を感じても「疲れているだけ」「寝不足だから」と見過ごしがちです。このため、

若年性糖尿病は発見が遅れ、気づいたときにはある程度進行しているケースも少なくありません。

また、若い時期に発症すると糖尿病と付き合う期間が長くなり、合併症のリスクも高まる傾向があります。

若年性糖尿病の主な原因 生活習慣と遺伝的要因

若いからといって糖尿病と無縁ではありません。若年性糖尿病、特に2型糖尿病の発症には日々の生活習慣が大きく影響します。

食生活の乱れと糖質の過剰摂取

ファストフードやインスタント食品、甘いお菓子やジュースなどの糖質や脂質の多い食事は血糖値を急上昇させやすく、インスリンを分泌する膵臓に大きな負担をかけます。

特に若い世代は手軽さや美味しさからこうした食事に偏りがちで、知らず知らずのうちに糖尿病のリスクを高めていることがあります。

運動不足によるインスリン抵抗性の増大

運動不足は筋肉量の低下や内臓脂肪の蓄積を招きます。筋肉はブドウ糖を消費する主要な組織であり、内臓脂肪はインスリンの働きを妨げる物質を分泌します。

このため、運動不足はインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)を引き起こし、糖尿病の発症リスクを高めます。

運動不足が招く悪影響

  • 消費エネルギーの低下
  • 筋肉量の減少
  • 内臓脂肪の蓄積
  • インスリン抵抗性の亢進

遺伝的素因と家族歴の影響

糖尿病の発症には遺伝的な要因も関わっています。両親や兄弟姉妹に糖尿病の人がいる場合、そうでない人に比べて糖尿病になりやすい傾向があります。

これはインスリンの分泌能力やインスリンの効きやすさに関する体質が遺伝するためと考えられています。

ただし、遺伝的素因があっても生活習慣に気をつけることで発症を予防したり、遅らせたりすることは可能です。

ストレスや不規則な生活の影響

過度なストレスや睡眠不足、不規則な食生活はホルモンバランスを乱し、血糖値を上昇させる方向に働くことがあります。

特に若い世代は学業や仕事、人間関係などでストレスを感じやすく、生活リズムも乱れがちです。

これらの要因が積み重なることで糖尿病の発症リスクが高まる可能性があります。

生活習慣における糖尿病リスク因子

リスク因子具体的な内容
食事高カロリー、高脂肪、高糖質、早食い、欠食
運動運動習慣がない、座っている時間が長い
その他喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、ストレス

見逃さないで!若年性糖尿病の初期症状とサイン

若年性糖尿病は初期には症状が出にくいこともありますが、注意していれば気づけるサインがあります。

「若いから大丈夫」と油断せず、体の変化に敏感になりましょう。

代表的な初期症状 口渇・多飲・多尿

糖尿病の典型的な初期症状として異常な喉の渇き(口渇)、水分をたくさん飲む(多飲)、尿の回数や量が増える(多尿)があります。

これらは高血糖により、体が余分な糖を尿として排出しようとするために起こります。特に以前より明らかに水分摂取量やトイレの回数が増えた場合は注意が必要です。

体重の変化 食べているのに痩せる?急な体重増加?

1型糖尿病や進行した2型糖尿病ではブドウ糖がエネルギーとして利用できずに体が脂肪や筋肉を分解するため、食事量は変わらないのに体重が減少することがあります。

一方で、2型糖尿病の初期にはインスリンの過剰分泌などにより体重が増加する傾向も見られます。急激な体重変化には注意しましょう。

原因不明の倦怠感や疲労感

十分な睡眠をとっても疲れが取れない、体がだるいといった症状が続く場合も糖尿病のサインかもしれません。

ブドウ糖がエネルギーとして効率よく使えないため、エネルギー不足に陥りやすくなります。

その他の注意すべきサイン

以下のような症状も若年性糖尿病の兆候である可能性があります。

若年性糖尿病のその他のサイン

  • 集中力の低下、イライラしやすい
  • 食後の強い眠気
  • 皮膚の乾燥やかゆみ、できものが治りにくい
  • 手足のしびれや冷え
  • 目のかすみ(一時的な視力変化)

これらの症状が一つでも気になる場合は医療機関への相談を検討しましょう。

若くして糖尿病になることのリスクと合併症

若い時期に糖尿病を発症すると糖尿病と付き合う期間が長くなるため、合併症のリスクが高まります。早期発見・早期治療が何よりも大切です。

若年発症2型糖尿病の注意点

若い時期に発症する2型糖尿病は、中高年で発症するタイプに比べて、進行が早く、合併症も早期から現れやすいという報告があります。自覚症状がなくても、定期的な検査と適切な管理が重要です。

三大合併症(神経障害・網膜症・腎症)の早期発症

糖尿病の三大合併症である神経障害、網膜症、腎症は高血糖の状態が長く続くことで血管や神経が障害されて起こります。

若年で発症するとこれらの合併症が20代や30代といった早い時期から現れる可能性があります。上記のような合併症は生活の質を著しく低下させます。

三大合併症と主な影響

合併症主な影響・症状
糖尿病神経障害手足のしびれ、痛み、感覚鈍麻、立ちくらみ、排尿障害、足の壊疽
糖尿病網膜症視力低下、目のかすみ、飛蚊症、最悪の場合失明
糖尿病腎症むくみ、タンパク尿、腎機能低下、進行すると人工透析

動脈硬化の進行と心血管疾患のリスク

高血糖は心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気の原因となる動脈硬化を若い時期から進行させます。

若年性糖尿病の患者さんは同年代の健康な人と比較して、これらの心血管疾患を発症するリスクが数倍高くなると言われています。

学業や仕事、日常生活への影響

血糖コントロールが不安定だと集中力の低下や倦怠感が生じ、学業や仕事のパフォーマンスに影響が出ることがあります。

また、頻繁な通院や自己管理が必要となるため、日常生活にも様々な制約が生じる可能性があります。

妊娠・出産への影響(特に女性の場合)

女性の場合、血糖コントロールが不良な状態での妊娠は母体や胎児に様々なリスクをもたらします(妊娠高血圧症候群、巨大児、先天奇形など)。

計画的な妊娠と、妊娠前からの良好な血糖コントロールが非常に重要です。

もしかして?若年性糖尿病セルフチェック

気になる症状や生活習慣がある方は以下の項目でセルフチェックをしてみましょう。当てはまるものが多い場合は一度医療機関で相談することをお勧めします。

生活習慣に関するチェック項目

  • 甘い飲み物(ジュース、炭酸飲料など)を毎日飲む
  • 外食やコンビニ食が多い
  • 野菜をあまり食べない
  • 運動習慣がほとんどない(週1回未満)
  • 睡眠時間が不規則、または短い(6時間未満の日が多い)
  • 喫煙習慣がある

自覚症状に関するチェック項目

  • 最近、急に喉が渇くようになった
  • 水分をたくさん摂るようになった
  • トイレの回数が増えた(特に夜間)
  • しっかり食べているのに体重が減った、または急に太った
  • 疲れやすく、体がだるい感じが続く
  • 食後に強い眠気を感じることが多い

これらのチェックはあくまで目安です。正確な診断は医療機関で行います。

健康診断結果の確認ポイント

学校や職場の健康診断の結果も重要な手がかりです。特に以下の項目に注意しましょう。

健康診断で確認したい項目

検査項目注意すべき値の目安
空腹時血糖値100mg/dL以上(126mg/dL以上で糖尿病型)
HbA1c (NGSP値)5.6%以上(6.5%以上で糖尿病型)
尿糖陽性(+)
BMI (体格指数)25以上(肥満)

※基準値や判定は検査機関により異なる場合があります。異常を指摘された場合は必ず医療機関を受診してください。

今日からできる!若年性糖尿病の予防と対策

若年性糖尿病は生活習慣の見直しによって予防できる可能性が高い病気です。若いからこそ早めの対策が将来の健康を守ります。

バランスの取れた食生活を心がける

特定の食品に偏らず、主食・主菜・副菜をそろえたバランスの良い食事を心がけましょう。野菜やきのこ、海藻などの食物繊維を多く含む食品は血糖値の急上昇を抑える効果があります。

甘いお菓子やジュース、脂質の多い食事は控えめにし、ゆっくりよく噛んで食べることも大切です。

適度な運動を習慣にする

ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動は血糖コントロールの改善やインスリン抵抗性の軽減に効果的です。週に150分以上を目安に、少し汗ばむ程度の運動を継続しましょう。

筋力トレーニングも組み合わせるとさらに効果的です。

日常生活の中ではエレベーターではなく階段を使う、一駅分歩くなど、こまめに体を動かすことも意識しましょう。

質の高い睡眠とストレス管理

十分な睡眠時間を確保し、規則正しい生活を送ることはホルモンバランスを整え、血糖コントロールにも良い影響を与えます。

自分なりのストレス解消法を見つけて心身の健康を保つことも重要です。趣味の時間を持つ、リラックスできる環境を作るなど、ストレスを溜め込まない工夫をしましょう。

禁煙と節度ある飲酒

喫煙はインスリンの働きを悪くし、糖尿病の発症リスクを高めるだけでなく合併症の進行も早めます。禁煙は糖尿病予防において非常に重要です。

アルコールの飲み過ぎも血糖コントロールを乱す原因となるため適量を守ることが大切です。

予防のための生活習慣改善ポイント

項目具体的な実践例
食事野菜から食べる(ベジファースト)、間食を控える、清涼飲料水を水やお茶に
運動通学・通勤時に歩く距離を増やす、週に数回は運動する時間を設ける
生活リズム毎日同じ時間に寝起きする、十分な睡眠時間をとる

若年性糖尿病と診断されたら 治療と向き合い方

もし若年性糖尿病と診断されても悲観的になる必要はありません。

早期から適切な治療と自己管理を行えば合併症を防ぎ、健康な人と変わらない生活を送ることが可能です。

専門医による適切な診断と治療計画

まずは糖尿病専門医の診察を受け、正確な診断と個々の状態に合わせた治療計画を立ててもらうことが大切です。

1型糖尿病か2型糖尿病か、病状の進行度、合併症の有無などによって治療法は異なります。医師や医療スタッフとよく相談し、納得のいく治療を進めましょう。

食事療法・運動療法の継続

若年性糖尿病の治療においても食事療法と運動療法は基本となります。管理栄養士から具体的な食事指導を受け、自分に合った運動プログラムを医師や理学療法士と相談しながら実践します。

これらは血糖コントロールだけでなく、長期的な健康維持にも繋がります。

薬物療法(必要な場合)

食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが不十分な場合や1型糖尿病の場合は、薬物療法を行います。2型糖尿病では経口血糖降下薬が、1型糖尿病ではインスリン注射が中心となります。

医師の指示通りに正しく薬を使用し、自己判断で中断したり量を変更したりしないことが重要です。

定期的な検査と自己血糖測定

治療効果の確認や合併症の早期発見のために、定期的な通院と検査(血糖値、HbA1c、血圧、脂質、眼底検査、尿検査など)が欠かせません。

また、インスリン治療中の患者さんや一部の経口薬治療中の患者さんには、血糖自己測定(SMBG)が推奨されます。日々の血糖値の変動を把握し、治療に役立てます。

よくある質問

若年性糖尿病に関して若い方やそのご家族からよく寄せられる質問にお答えします。

Q
若いと糖尿病の進行は早いのですか?
A

一般的に若年で発症する2型糖尿病は中高年で発症するタイプと比較して診断時の血糖値が高く、インスリンの分泌能力の低下が早く進む傾向があると言われています。

このため、合併症も早期から現れやすいと考えられています。

早期発見と積極的な治療介入がより重要になります。

Q
学校生活や仕事との両立は可能ですか?
A

はい、適切に血糖コントロールを行い、自己管理の知識と技術を身につければ学校生活や仕事との両立は十分に可能です。

食事の時間や内容、運動の機会、シックデイ(体調の悪い日)の対応などについて主治医や医療スタッフとよく相談し、周囲の理解と協力を得ながら無理のない範囲で生活を送ることが大切です。

Q
遺伝するなら子供も糖尿病になりますか?
A

糖尿病には遺伝的な要因が関与しますが、必ずしも親から子へ遺伝するわけではありません。

2型糖尿病の場合では複数の遺伝子が関与し、そこに生活習慣などの環境要因が加わって発症すると考えられています。

お子さんが健康的な生活習慣を送れるようにサポートすることが将来の糖尿病予防につながります。

Q
治療はずっと続けなければいけませんか?
A

1型糖尿病の場合は生涯にわたるインスリン治療が必要です。

2型糖尿病の場合は早期に発見され、食事療法や運動療法によって良好な血糖コントロールが得られれば薬物療法が不要になることもあります。

しかし、糖尿病の体質そのものが治るわけではないため、良好な状態を維持するためには継続的な生活習慣の管理と定期的な検査が重要です。

以上

参考にした論文

ARAKI, Eiichi, et al. Diagnosis, Prevention, and Treatment of Cardiovascular Diseases in People With Type 2 Diabetes and Prediabetes―A Consensus Statement Jointly From the Japanese Circulation Society and the Japan Diabetes Society―. Circulation Journal, 2020, 85.1: 82-125.

MIZUNO, Suguru, et al. Risk factors and early signs of pancreatic cancer in diabetes: screening strategy based on diabetes onset age. Journal of gastroenterology, 2013, 48: 238-246.

TERAMOTO, Tamio, et al. Executive summary of Japan Atherosclerosis Society (JAS) guideline for diagnosis and prevention of atherosclerotic cardiovascular diseases for Japanese. Journal of atherosclerosis and thrombosis, 2007, 14.2: 45-50.

KUDO, Akihiro, et al. Fast eating is a strong risk factor for new-onset diabetes among the Japanese general population. Scientific Reports, 2019, 9.1: 8210.

YOKOYAMA, Hiroki, et al. Higher incidence of diabetic nephropathy in type 2 than in type 1 diabetes in early-onset diabetes in Japan. Kidney international, 2000, 58.1: 302-311.

SUZUKI, Ken, et al. Identification of 28 new susceptibility loci for type 2 diabetes in the Japanese population. Nature genetics, 2019, 51.3: 379-386.

YOKOYAMA, Hiroki, et al. Existence of early-onset NIDDM Japanese demonstrating severe diabetic complications. Diabetes care, 1997, 20.5: 844-847.

URAKAMI, Tatsuhiko, et al. Annual incidence and clinical characteristics of type 2 diabetes in children as detected by urine glucose screening in the Tokyo metropolitan area. Diabetes care, 2005, 28.8: 1876-1881.

ALBERTI, George, et al. Type 2 diabetes in the young: the evolving epidemic: the international diabetes federation consensus workshop. Diabetes care, 2004, 27.7: 1798-1811.

KINOSHITA, Makoto, et al. Japan Atherosclerosis Society (JAS) guidelines for prevention of atherosclerotic cardiovascular diseases 2017. Journal of atherosclerosis and thrombosis, 2018, 25.9: 846-984.