「砂糖もブドウ糖も、どちらも甘いものだから同じでは?」「血糖値を上げるのはどっち?」そんな風に思ったことはありませんか。
どちらも私たちの体にとって重要なエネルギー源である「糖質」の仲間ですが、その正体や体の中での働き、血糖値への影響は大きく異なります。
この違いを正しく理解することは日々の健康管理や糖尿病のコントロールにおいて非常に重要です。
この記事では砂糖とブドウ糖の根本的な違いから上手な付き合い方まで、専門医が分かりやすく解説します。
砂糖とブドウ糖の基本的な違い
砂糖とブドウ糖はどちらも「糖質」に分類されますが、その構造の大きさに根本的な違いがあります。
糖質の分類とそれぞれの役割
糖質はその構造の複雑さによって「単糖類」「二糖類」「多糖類」に分けられます。
単糖類は糖質の最も基本的な単位で、これ以上分解できません。二糖類は単糖類が2つ、多糖類は単糖類が多数つながってできています。
糖質の分類
分類 | 特徴 | 主な例 |
---|---|---|
単糖類 | 糖質の最小単位 | ブドウ糖、果糖 |
二糖類 | 単糖類が2つ結合したもの | 砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖 |
多糖類 | 単糖類が多数結合したもの | でんぷん(ごはん、パン)、グリコーゲン |
砂糖は「二糖類」、ブドウ糖は「単糖類」
この分類に当てはめると、ブドウ糖は糖質の最小単位である「単糖類」です。
一方、私たちが普段使う砂糖(ショ糖)は、ブドウ糖と果糖(フルクトース)という2つの単糖類が結合した「二糖類」です。
つまり、砂糖はブドウ糖と果糖がセットになったもの、とイメージすると分かりやすいでしょう。
料理で使う砂糖の正体
料理やお菓子作りに使うグラニュー糖や上白糖はサトウキビやテンサイを原料として作られた、純度の高いショ糖(砂糖)です。
黒糖やきび砂糖なども基本的な成分はショ糖ですが、精製度が異なり、ミネラル分などが含まれている点が異なります。
体の中での消化・吸収の仕組み
構造が違う砂糖とブドウ糖は体の中に入ってからエネルギーになるまでの道のりも異なります。
ブドウ糖の吸収とエネルギー利用
ブドウ糖は単糖類なので、これ以上分解する必要がありません。小腸から速やかに吸収されて血液中に入り、血糖値を直接上昇させます。
そしてインスリンの働きによって全身の細胞に取り込まれ、脳や筋肉を動かすための主要なエネルギー源として利用されます。
砂糖がブドウ糖と果糖に分解される流れ
一方、二糖類である砂糖はそのままでは体に吸収できません。小腸にある消化酵素によって構成成分であるブドウ糖と果糖に分解されてから、それぞれ吸収されます。
つまり、砂糖を摂ると体の中ではブドウ糖と果糖という2種類の糖質を摂ったことになるのです。
砂糖の消化吸収
摂取 | 分解 | 吸収 |
---|---|---|
砂糖(ショ糖) | 小腸でブドウ糖と果糖に分解 | ブドウ糖と果糖として吸収される |
消化時間の違いと血糖値への影響
ブドウ糖は分解の必要がないため、摂取後すぐに吸収が始まります。一方、砂糖は分解という一手間がかかるため、ブドウ糖に比べると吸収開始がわずかに遅れます。
しかしこの差はごくわずかであり、砂糖も血糖値を速やかに上げる糖質であることに変わりはありません。
血糖値への影響とGI値
糖尿病の管理において最も気になるのが、血糖値への影響です。砂糖とブドウ糖では血糖値の上がり方に違いがあるのでしょうか。
血糖値を直接上げるのはブドウ糖
血液中の糖の濃度を示す「血糖値」とは、正しくは「血中ブドウ糖濃度」のことです。つまり、血糖値を直接的に変動させるのはブドウ糖です。
砂糖を摂って血糖値が上がるのも、砂糖が分解されてできたブドウ糖が血液中に入るためです。
GI値とは何か
GI(グリセミック・インデックス)とは、食品を摂取した後の血糖値の上昇度合いを示す指標です。
ブドウ糖を100とした場合に、それぞれの食品がどのくらい血糖値を上げやすいかを相対的に数値化しています。
GI値が高い食品ほど、食後の血糖値が急激に上昇しやすくなります。
砂糖とブドウ糖のGI値比較
ブドウ糖のGI値は基準であるため100です。一方、砂糖(ショ糖)のGI値は109と、ブドウ糖よりも高いという報告があります。
これは、砂糖のもう一つの成分である果糖がブドウ糖の代謝に影響を与え、結果として血糖値を上げやすくするためではないかと考えられています。
主な糖類のGI値の目安
糖類 | GI値 | 分類 |
---|---|---|
ブドウ糖 | 100 | 高GI |
砂糖(ショ糖) | 109 | 高GI |
果糖 | 23 | 低GI |
果糖(フルクトース)の働きと注意点
砂糖の半分を構成する「果糖」。ブドウ糖とは異なる性質を持ち、摂りすぎには注意が必要です。
血糖値を直接上げにくい糖
果糖はブドウ糖のようにインスリンを直接必要とせず、主に肝臓で代謝されます。そのため果糖そのものは血糖値を直接的には上げにくく、GI値も低いのが特徴です。
この性質だけを見ると、体に良いように思えるかもしれません。
肝臓での代謝と中性脂肪への影響
しかし、果糖の摂りすぎは大きな問題を引き起こします。肝臓で代謝された果糖はエネルギーとして使われなかった分が、中性脂肪として合成されやすい性質を持っています。
果糖の過剰摂取は肥満や脂肪肝、脂質異常症の直接的な原因となります。
果物の果糖と加工食品の果糖
果物にも果糖は含まれますが、同時に食物繊維も豊富に含まれています。この食物繊維が糖の吸収を穏やかにするため、適量であれば過度に心配する必要はありません。
問題なのは、清涼飲料水やお菓子などに添加されている「ブドウ糖果糖液糖」のような形で、食物繊維なしに大量の果糖を摂取してしまうことです。
「ブドウ糖果糖液糖」の正体と危険性
市販の加工食品の原材料名でよく見かけるこの表示。その正体と体への影響を知っておきましょう。
清涼飲料水やお菓子に潜む異性化糖
ブドウ糖果糖液糖は「異性化糖」とも呼ばれ、トウモロコシなどのでんぷんを原料に作られます。
安価で甘みが強いため、ジュース、スポーツドリンク、ドレッシング、お菓子など非常に多くの加工食品に使用されています。
なぜ血糖値を急激に上げるのか
ブドウ糖果糖液糖は、その名の通りブドウ糖と果糖が混ざった液体です。液体であるため消化吸収が非常に速く、血糖値を急激に上昇させます。
この急激な血糖上昇はインスリンの過剰分泌(インスリンスパイク)を引き起こし、体に大きな負担をかけます。
肥満や脂肪肝との関連
ブドウ糖による血糖値の急上昇と果糖による中性脂肪の合成促進という二重の影響があります。
日常的にブドウ糖果糖液糖を多く含む製品を摂取していると、肥満や脂肪肝、糖尿病、脂質異常症のリスクが著しく高まることが指摘されています。
異性化糖を含む食品の例
- 炭酸飲料、ジュース類
- スポーツドリンク
- ドレッシング、焼肉のたれ
- 菓子パン、アイスクリーム
上手な糖質との付き合い方
糖質は重要なエネルギー源ですが、その種類と摂り方を工夫することが健康の鍵です。
糖質の種類を選ぶ
血糖値を穏やかに上げる「多糖類」であるでんぷんを主食としてしっかり摂ることが基本です。ごはんやパン、芋類などを選びましょう。
その際も白米より玄米、白いパンより全粒粉パンのように、精製度の低いものを選ぶと食物繊維が糖の吸収を緩やかにしてくれます。
砂糖の摂取量を減らす工夫
日常生活の中で知らず知らずのうちに多くの砂糖を摂取しています。
甘い飲み物を水やお茶に変える、お菓子を食べる回数や量を減らす、料理に使う砂糖を減らして出汁の旨味を活かすなど少しの工夫で摂取量を減らすことができます。
食物繊維と一緒に摂る効果
食物繊維は糖の吸収を遅らせ、食後の血糖値の急上昇を抑える働きがあります。
野菜やきのこ、海藻類などを食事の最初に食べる「ベジファースト」を心掛けることで、同じ量の糖質を摂っても血糖値の変動を小さくできます。
血糖値を上げにくくする食べ方の工夫
工夫 | 具体的な方法 |
---|---|
ベジファースト | 野菜や海藻など食物繊維から先に食べる |
ゆっくりよく噛む | 満腹感を得やすくし、消化吸収を穏やかにする |
主食の選択 | 精製度の低い玄米や全粒粉パンを選ぶ |
糖尿病治療におけるブドウ糖の役割
普段は摂りすぎに注意が必要なブドウ糖ですが、糖尿病の治療においては命を救う重要な役割も担っています。
低血糖時の補食としてのブドウ糖
インスリン治療中や一部の血糖降下薬を服用中に、血糖値が下がりすぎてしまった状態が「低血糖」です。
低血糖は放置すると意識障害や昏睡に至る危険な状態であり、速やかな糖分の補給が必要です。この時に最も適しているのが、吸収の速いブドウ糖です。
なぜ砂糖ではなくブドウ糖なのか
一刻も早く血糖値を上げる必要がある低血糖時には、分解の必要がなく最も速やかに吸収されるブドウ糖が最適です。
砂糖でも代用はできますが、分解にわずかな時間がかかるため、ブドウ糖の方がより確実で迅速な対応が可能です。
このため、糖尿病患者さんには緊急時用にブドウ糖を携帯することを推奨しています。
普段の食事でブドウ糖を摂る必要性
低血糖時以外に、あえてブドウ糖そのものを摂取する必要は通常ありません。
私たちはごはんなどの主食(でんぷん)から、体内でゆっくりと分解されたブドウ糖をエネルギー源として得ています。
この形での摂取が血糖コントロールの観点からは最も望ましいです。
よくある質問
砂糖とブドウ糖に関して、患者さんからよくいただくご質問にお答えします。
- Q黒糖やはちみつは白い砂糖より体に良いですか?
- A
黒糖やはちみつにはミネラルやビタミンがわずかに含まれていますが、主成分は砂糖(ショ糖)や果糖・ブドウ糖であり、血糖値を上げる作用は白い砂糖と大きくは変わりません。
「体に良いから」と安心して使いすぎると、カロリーや糖質の過剰摂取につながります。風味付けとして少量を楽しむ程度にしましょう。
- Q人工甘味料なら安心ですか?
- A
カロリーゼロや低カロリーの人工甘味料は、直接血糖値を上げることはありません。
しかし、その強い甘みに慣れることで、より甘いものを欲するようになったり、腸内環境に影響を与えたりする可能性も指摘されています。
頼りすぎず、甘みそのものに慣れない食生活を目指すことが基本です。
- Q脳の栄養にはブドウ糖が必要と聞きました
- A
はい、その通りです。
脳は通常ブドウ糖だけをエネルギー源として利用する非常に重要な臓器です。しかし、だからといってブドウ糖を直接摂取する必要はありません。
ごはんなどの炭水化物を食べれば体内で分解されてブドウ糖が作られ、脳に安定して供給されます。
バランスの良い食事を摂ることが、脳の健康にもつながります。
- Q運動前の糖分補給には何が良いですか?
- A
運動の直前にエネルギーを補給したい場合は速やかに吸収されるバナナやおにぎり、エネルギーゼリーなどが適しています。
運動の種類や時間、運動前の血糖値によっても必要な補食は異なりますので、特に糖尿病の治療中の方は主治医や管理栄養士に相談することをお勧めします。
以上
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