糖尿病の治療で「SU剤」という薬を処方された、あるいはこれから処方される可能性のある方へ。

SU剤は長い歴史を持つ信頼性の高い血糖降下薬ですが、いくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。

この記事では、SU剤(スルホニル尿素薬)とはどのような薬なのか、その基本的な働きから種類ごとの作用時間や強さの違い、そして注意すべき副作用まで、一覧表を交えながら分かりやすく解説します。

ご自身の治療への理解を深める一助となれば幸いです。

SU剤(スルホニル尿素薬)とは?基本的な働き

SU剤は、2型糖尿病の治療で広く用いられてきた経口血糖降下薬です。その基本的な働きと、治療における位置づけを理解しましょう。

インスリン分泌を促す薬

SU剤の最も重要な働きは、膵臓にあるβ細胞に直接作用し、インスリンの分泌を強力に促すことです。

インスリンは血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませてエネルギーとして利用させたり、肝臓や筋肉に蓄えたりすることで血糖値を下げる唯一のホルモンです。

SU剤は、このインスリンの分泌量を増やすことで血糖値を下げます。

2型糖尿病治療における位置づけ

SU剤は、インスリンを分泌する能力がまだ残っている2型糖尿病の患者さんに対して効果を発揮します。

長い使用実績があり、血糖値を下げる効果が確実であるため、多くの患者さんの治療に用いられてきました。

ただし、後述する低血糖などの副作用もあるため、現在は他の新しい薬と組み合わせて、より安全な治療を目指すことが多くなっています。

SU剤が効果を発揮する条件

項目内容
対象となる糖尿病2型糖尿病
膵臓の状態インスリンを分泌する能力が残っていること
期待される効果インスリン分泌を促進し、血糖値を下げる

なぜ血糖値が下がるのか

SU剤が膵臓のβ細胞にある「SU受容体」という部分に結合するとそれがスイッチとなり、細胞内に蓄えられていたインスリンが一斉に放出されます。

この放出されたインスリンの働きにより、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれ、結果として血糖値が低下します。この作用は血糖値の高さに関わらず起こるのが特徴です。

SU剤の種類と世代による違い

SU剤は、開発された時期によって第一世代、第二世代、第三世代に分類されます。世代が進むにつれて、薬の強さや副作用の現れ方に違いが見られます。

第一世代から第三世代までの変遷

第一世代のSU剤は、現在ではほとんど使用されていません。

その後、より少ない量で強い効果を発揮する第二世代が登場し、主流となりました。そしてさらに改良が加えられ、膵臓以外への作用も考慮された第三世代が開発されました。

新しい世代の薬は、一般的に低血糖のリスクがより低くなるように工夫されています。

作用時間による分類

SU剤は薬の効果が持続する時間によっても分類できます。作用時間が長い薬は1日1回の服用で済みますが、効果が切れにくいために低血糖のリスクが高まる傾向があります。

一方、作用時間が短い薬は効果の持続が短いため、そのリスクは比較的低いと考えられます。

世代ごとの主なSU剤

世代主な薬剤特徴
第一世代トルブタミド、アセトヘキサミド効果が弱く、現在はほとんど使用されない
第二世代グリベンクラミド、グリクラジド強力な血糖降下作用を持つ
第三世代グリメピリドマイルドな作用で、低血糖のリスクが軽減されている

なぜ新しい世代の薬が開発されたのか

新しい世代の薬が開発された背景には、より安全で効果的な治療を目指す目的があります。

特にSU剤の最も注意すべき副作用である「重症低血糖」のリスクをいかに減らすかが大きな課題でした。

第三世代のグリメピリドはインスリン分泌を促す作用が比較的マイルドで、血糖値に応じて分泌を調整するような働きも持つため、従来の薬よりも低血糖を起こしにくいとされています。

【一覧】主なSU剤の種類と特徴を比較

現在、日本で主に使用されている第二世代および第三世代のSU剤について、それぞれの特徴を比較してみましょう。

グリメピリド(商品名:アマリール)

第三世代のSU剤で、現在の主流となっています。1日1回の服用で、安定した効果が持続します。

血糖降下作用は強力ですが、他のSU剤に比べて低血糖、特に重症低血糖を起こす頻度が低いと報告されています。

また、心臓への負担が少ない可能性も示唆されています。

グリクラジド(商品名:グリミクロン)

第二世代のSU剤です。血糖降下作用は比較的穏やかで、作用時間もそれほど長くないため、SU剤の中では低血糖のリスクが低いとされています。特に高齢の患者様にも使いやすい薬の一つです。

1日の服用回数が2~3回になることがあります。

グリベンクラミド(商品名:オイグルコン、ダオニール)

第二世代のSU剤で、非常に強力な血糖降下作用と長い作用時間を持ちます。

その強力さゆえに重症で遷延性の低血糖を起こすリスクが他のSU剤よりも高いことが知られています。このため、特に高齢者や腎機能が低下している方への使用は、慎重な判断が必要です。

主なSU剤の特徴比較

一般名(商品名)世代強さ・作用時間の特徴
グリメピリド(アマリール)第三世代作用は強力だが比較的マイルド。1日1回。低血糖リスクは他に比べ低い。
グリクラジド(グリミクロン)第二世代作用は穏やか。作用時間は比較的短い。低血糖リスクは低い。
グリベンクラミド(オイグルコン)第二世代作用は非常に強力。作用時間が長く、重症低血糖のリスクが高い。

SU剤の主な副作用と注意点

SU剤は効果的な薬ですが、その働きを正しく理解し、副作用に注意することが安全な治療には重要です。

最も注意すべき「低血糖」

SU剤の副作用として最も頻度が高く、注意が必要なのが低血糖です。

SU剤は血糖値に関わらずインスリン分泌を促すため、食事を抜いたり食事量が少なかったり、激しい運動をしたりすると、血糖値が下がりすぎてしまいます。

動悸、冷や汗、手の震えなどが初期症状です。

体重増加の可能性

SU剤によって分泌が促されたインスリンには、血液中のブドウ糖を脂肪として蓄える働きもあります。このため、SU剤の服用によって体重が増加することがあります。

食事療法や運動療法をきちんと並行して行い、過食を避けることが大切です。

その他の副作用

頻度は低いですが、その他にも副作用が見られることがあります。

主なものとして、発疹などの皮膚症状、吐き気や食欲不振といった胃腸症状、肝機能の異常などが報告されています。

何か気になる症状が現れた場合は自己判断で服用を中止せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。

低血糖が起きた時の正しい対処法

万が一、低血糖の症状が現れた場合に備えて、正しい対処法を知っておくことは非常に重要です。ご家族や周りの方にも伝えておきましょう。

低血糖の初期症状

低血糖になると、体は警告サインとして様々な症状を出します。これらの初期症状に早く気づき、すぐに対処することが大切です。

低血糖の主な初期症状

  • 強い空腹感
  • 冷や汗
  • 動悸(心臓がドキドキする)
  • 手や指の震え

これらの症状を感じたら、我慢せずにすぐに行動してください。

すぐに摂取すべきブドウ糖

低血糖の症状が出たら、速やかに糖分を補給する必要があります。吸収の速いブドウ糖が最も適しており、通常は10g程度を摂取します。

ブドウ糖がない場合は砂糖20gや、糖分を含むジュース(150~200ml)でも代用できます。

人工甘味料を使った「ゼロカロリー」の飲料や食品では効果がないため注意が必要です。

無自覚性低血糖の危険性

低血糖を頻繁に繰り返していると体が低血糖状態に慣れてしまい、初期の警告サインが出にくくなることがあります。これを「無自覚性低血糖」と呼びます。

自覚症状がないまま突然意識障害や昏睡といった重篤な状態に陥る可能性があり、非常に危険です。

定期的な血糖測定で、気づかないうちに低血糖が起きていないかを確認することが重要です。

SU剤を服用する上での重要なポイント

薬の効果を最大限に引き出し、安全に治療を続けるために、日常生活で守っていただきたい点があります。

食事の時間と量を守る

SU剤を服用している場合、食事を抜くことは低血糖の大きな原因となります。毎日決まった時間に、バランスの取れた食事を適切な量摂ることが基本です。特に、薬を飲んだ後に食事を摂らないのは非常に危険です。

薬の飲み忘れ・二重服用の禁止

薬を飲み忘れると血糖値が上昇してしまいます。

飲み忘れに気づいた時の対応は、薬の種類や気づいた時間によって異なるため、事前に医師や薬剤師に確認しておきましょう。

逆に飲み忘れたからといって2回分を一度に飲むことは、重症低血糖を引き起こす可能性があるため絶対にやめてください。

他の薬との飲み合わせ(併用注意)

他の病気の治療で薬を服用している場合、その薬がSU剤の効果に影響を与えることがあります。効果を強めて低血糖のリスクを高める薬もあれば、効果を弱めてしまう薬もあります。

他の医療機関を受診する際は必ずSU剤を服用していることを伝え、お薬手帳を活用しましょう。

SU剤の効果に影響を与える薬の例

影響薬剤の例
効果を強める薬一部の抗菌薬、解熱鎮痛薬、抗不整脈薬など
効果を弱める薬ステロイド薬、甲状腺ホルモン薬、一部の利尿薬など

高齢者や腎機能が低下している方の注意点

高齢の方は、一般的に生理機能が低下しており、薬が体内に長く留まりやすいため、低血糖のリスクが高まります。

また、腎臓は薬の排泄に重要な役割を担っているため、腎機能が低下している方も同様に注意が必要です。これらの患者さんには、より慎重な薬剤選択と用量設定が求められます。

よくある質問

SU剤について、患者さんからよくいただくご質問にお答えします。

Q
SU剤はいつまで飲み続ける必要がありますか?
A

2型糖尿病は生活習慣の改善で状態が良くなることもありますが、基本的には長く付き合っていく病気です。多くの場合、薬の服用も継続する必要があります。

血糖コントロールの状態や体重の変化、合併症の状況などを見ながら、医師が定期的に薬の種類や量を見直していきます。

自己判断で中断しないことが重要です。

Q
薬を飲むのをやめるとどうなりますか?
A

SU剤の服用を自己判断でやめてしまうとインスリンの分泌が不足し、再び血糖値が上昇します。

高血糖の状態が続くと喉の渇きや多尿といった症状が現れるだけでなく、長期的には合併症が進行するリスクが高まります。

必ず医師の指示に従って服用を続けてください。

Q
お酒を飲んでも大丈夫ですか?
A

アルコール、特に空腹時や多量の飲酒は低血糖を引き起こす大きな原因となります。

また、アルコール自体が肝臓での糖の産生を抑えるため、低血糖からの回復を遅らせることもあります。

飲酒についてはリスクを十分に理解した上で必ず主治医に相談し、許可された範囲で楽しむようにしてください。

Q
副作用が心配です
A

どんな薬にも副作用の可能性はありますが、医師は患者さん一人ひとりの年齢や体格、腎機能、ライフスタイルなどを総合的に考慮し、最もメリットが大きいと考えられる薬を選択しています。

SU剤についても、現在はより安全性の高い第三世代の薬が中心となっています。

副作用について不安な点があれば遠慮なく医師や薬剤師に相談し、正しい知識を持つことが不安の解消につながります。

以上

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