「最近、子どもがやたらと喉が渇く」「急に太ってきた気がする」。そんなお子様の変化に、不安を感じていませんか。

かつては「大人の病気」と考えられていた2型糖尿病が、今、子どもたちの間でも増えています。

この記事では保護者の皆様が知っておくべき子どもの血糖値の正常値から、見逃してはいけない小児2型糖尿病のサイン、そして家庭でできる予防法まで専門的な観点から分かりやすく解説します。

お子様の健やかな未来のために、正しい知識を身につけましょう。

子どもの血糖値 その正常範囲とは

まず、基本となる子どもの血糖値について理解しましょう。

大人と同様に子どもの血糖値も食事や運動によって変動しますが、健康を維持するための一定の範囲が存在します。

血糖値の測定タイミングと意味

血糖値は測定するタイミングによって基準となる数値が異なります。主に「空腹時血糖値」と「食後血糖値」の2つが重要な指標となります。

空腹時血糖値は食事の影響がない状態の基礎的な血糖レベルを示し、食後血糖値は糖質を摂取した後のインスリンの反応能力を示します。

子どもの血糖値の目安

測定タイミング正常値の目安 (mg/dL)注意が必要な値
空腹時(10時間以上絶食)70~109126以上
食後2時間140未満200以上

年齢による大きな差はない

乳幼児期を除き、学童期以降の子どもの血糖値の正常範囲は基本的に大人と大きくは変わりません。

ただし子どもは体格が小さく、成長期でホルモンバランスも変動しやすいため、大人以上に生活習慣の影響を受けやすいという特徴があります。

なぜ血糖値の管理が重要なのか

血糖値が高い状態が続くと血管が傷つき、将来的に様々な合併症を引き起こす原因となります。特に成長期の子どもにとって、高血糖は体の正常な発育を妨げる可能性もあります。

早期に血糖値の異常に気づき、適切な対応をとることが、お子様の長期的な健康を守る上で非常に重要です。

なぜ今、子どもの2型糖尿病が増加しているのか

かつて小児期の糖尿病といえば、インスリンを分泌できなくなる1型糖尿病がほとんどでした。

しかし近年、生活習慣が主な原因となる2型糖尿病と診断される子どもが著しく増加しています。その背景には、現代社会特有の要因があります。

食生活の変化と飽食の時代

高カロリー・高脂肪な食事や甘い清涼飲料水、スナック菓子などが手軽に手に入る環境は、子どもの肥満を増加させる大きな原因です。

特に糖質と脂質を同時に多く摂取する食事はインスリンを分泌する膵臓に大きな負担をかけ、インスリンの効きを悪くする「インスリン抵抗性」という状態を引き起こします。

注意したい食事の傾向

食事の傾向問題点
ファストフードの多用高カロリー、高脂肪、高塩分になりがち。
孤食・個食栄養バランスが偏り、好きなものばかり食べる傾向。
朝食の欠食昼食後の血糖値の急上昇を招きやすい。

運動不足と生活リズムの乱れ

スマートフォンやゲームの普及により、子どもたちが屋外で体を動かして遊ぶ機会は減少しています。運動不足は食事で摂ったエネルギーの消費を妨げ、肥満を助長します。

また、夜更かしなどの不規則な生活リズムは自律神経やホルモンバランスを乱し、血糖コントロールにも悪影響を及ぼします。

遺伝的要因と家族の生活習慣

2型糖尿病は遺伝的ななりやすさも関係します。血縁者に糖尿病の方がいる場合、お子様も体質的に発症しやすい可能性があります。

この遺伝的要因に、肥満や運動不足といった環境要因が加わることで発症のリスクが大きく高まります。

家族が同じような生活習慣を送っている場合、その影響はさらに顕著になります。

見逃さないで 小児2型糖尿病の危険なサイン

子どもの2型糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどないまま進行することが多く、気づいた時にはかなり進行しているケースも少なくありません。

保護者の方が日頃からお子様の様子を注意深く観察することが早期発見の鍵となります。

喉の渇き、多尿、体重増加

初期症状として最も代表的なのが、「多飲・多尿」です。

高血糖の状態を薄めようと体が水分を欲するため異常に喉が渇き、たくさんの水分を飲みます。その結果、トイレの回数や尿の量が増えます。

また、小児2型糖尿病の場合、初期には体重が減少するよりも肥満を伴って発症することが多いため、「急に太ってきた」というのも重要なサインです。

初期症状のチェックリスト

  • 最近、水を飲む量が急に増えた
  • 夜中に何度もトイレに起きる
  • 食欲が旺盛で、食べてもすぐにお腹が空く
  • 疲れやすくだるそうにしていることが多い

首や脇の下の黒ずみ(黒色表皮腫)

インスリン抵抗性が高まると皮膚に特徴的な変化が現れることがあります。それが「黒色表皮腫(こくしょくひょうひしゅ)」です。

首の後ろや脇の下、肘や膝などの皮膚が、まるで垢が溜まったように黒ずみ、ザラザラと厚くなります。

これは肥満に伴うインスリン抵抗性のサインであり、小児2型糖尿病を疑う重要な所見の一つです。

学校生活での変化

血糖コントロールが乱れると集中力の低下やイライラ、強い眠気などを引き起こすことがあります。

「授業中にぼーっとしている」「成績が急に下がった」といった学校での様子の変化も、体内で起きている異変のサインかもしれません。

お子様本人だけでなく、学校の先生からの情報も参考になります。

放置は危険 小児期発症の2型糖尿病がもたらす影響

「子どものうちから糖尿病なんて…」と、現実を受け止めるのは辛いことかもしれません。しかし、問題を先送りにすると、お子様の心身にさらに深刻な影響を及ぼす可能性があります。

大人よりも早い合併症の進行

小児期に2型糖尿病を発症すると、大人になってから発症した場合に比べて合併症がより早期に、かつ重症化しやすいことが分かっています。

高血糖にさらされる期間が長くなるため、血管へのダメージが蓄積しやすいのです。

若くして発症する可能性のある合併症

合併症の種類主な症状・影響
糖尿病腎症腎機能が低下し、将来的に人工透析が必要になる。
糖尿病網膜症視力が低下し、最悪の場合は失明に至る。
動脈硬化若くして心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まる。

心への影響と学校生活での困難

糖尿病であるという事実がお子様の心に大きな負担をかけることがあります。食事制限や周囲との違いから劣等感を抱いたり、友人関係に悩んだりすることも少なくありません。

また、体調不良による欠席が増え、学業に支障が出ることも考えられます。

生涯にわたる健康管理の必要性

一度2型糖尿病と診断されると、生涯にわたって血糖コントロールを意識した生活を送る必要があります。

これはお子様本人の将来の進学、就職、結婚など、人生のあらゆる場面に影響を与える可能性があります。だからこそ早期に発見し、正しい知識を持って病気と向き合うことが重要なのです。

家庭で始める 予防と改善のための第一歩

小児2型糖尿病の予防と治療の基本は生活習慣の改善です。これはお子様一人だけが頑張るのではなく、家族全員で取り組むことが成功の鍵となります。

今日から始められることを紹介します。

食事の基本を見直す

まずは毎日の食事内容を見直しましょう。特定の食品を禁止するのではなく、バランスの良い食事を心がけることが大切です。

急激な血糖値の上昇を防ぐため野菜から先に食べる「ベジファースト」や、よく噛んでゆっくり食べることも有効です。

バランスの良い食事のポイント

栄養素多く含まれる食品役割
主食(炭水化物)ご飯、パン、麺類エネルギー源。玄米などを取り入れると良い。
主菜(タンパク質)肉、魚、卵、大豆製品体を作る材料。脂肪の少ない部位を選ぶ。
副菜(ビタミン等)野菜、きのこ、海藻体の調子を整える。食物繊維も豊富。

おやつの選び方と時間

子どもにとっておやつは楽しみの一つですが、選び方と与え方には工夫が必要です。スナック菓子やジュースは血糖値を急激に上げやすいため、できるだけ避けましょう。

おやつは時間を決めて、食事に影響しない範囲で与えることが大切です。

おすすめのおやつと控えたいおやつ

種類おすすめのおやつ控えたいおやつ
飲み物水、お茶、牛乳ジュース、スポーツドリンク
食べ物果物、ヨーグルト、小魚スナック菓子、菓子パン、ケーキ

家族みんなで体を動かす習慣を

運動は血糖値を下げるだけでなく、肥満の解消やストレス発散にもつながります。

お子様に運動を強制するのではなく、休日に公園で一緒に遊んだり、散歩やサイクリングに出かけたりと、家族が一緒に楽しめる機会を作りましょう。

日常生活の中では階段を使う、少し遠くのスーパーまで歩くといった小さな工夫も効果的です。

心配な時は専門医へ 検査と治療の流れ

「もしかして…」と不安に思ったら自己判断で悩まずに、まずは専門の医療機関に相談することが最も重要です。

小児科や糖尿病内科が専門となります。

医療機関を受診するタイミング

前述したようなサインが見られた場合はもちろん、「肥満が気になる」「家族に糖尿病の人がいる」といった場合も、一度相談してみることをお勧めします。

何もなければ安心できますし、もし何か問題が見つかっても早く始めるほど良い結果につながります。

クリニックで行う主な検査

クリニックでは、まず詳しい問診と身体測定(身長、体重、血圧測定、黒色表皮腫の有無など)を行います。

その上で診断のために必要な検査を実施します。

診断のために行われる主な検査

検査名内容
血液検査空腹時血糖値やHbA1c(過去1~2ヶ月の血糖平均)を測定。
尿検査尿中の糖やケトン体の有無を調べる。
経口ブドウ糖負荷試験糖分を含んだ液体を飲み、血糖値の変動を詳しく調べる。

診断後の治療方針

小児2型糖尿病と診断された場合、治療の基本は「食事療法」と「運動療法」です。

専門の管理栄養士や医師がお子様の成長に必要なエネルギーを確保しながら、血糖コントロールを改善するための具体的な方法を指導します。

生活習慣の改善だけでは血糖値が十分に下がらない場合には、飲み薬による「薬物療法」を検討することもあります。

よくある質問

Q
1型糖尿病との違いは何ですか?
A

子どもの糖尿病には1型と2型があり、原因や治療法が全く異なります。

1型は自己免疫などによりインスリンを分泌する膵臓の細胞が壊れてしまう病気で、生活習慣とは関係なく発症し、治療にはインスリン注射が必須です。

一方、2型は遺伝的要因に生活習慣が加わって発症し、インスリンの効きが悪くなることが主な原因です。

1型糖尿病と2型糖尿病の主な違い

項目1型糖尿病2型糖尿病
主な原因自己免疫など遺伝要因+生活習慣
体型やせ型が多い肥満傾向が多い
治療インスリン注射食事・運動療法、薬物療法
Q
子どもに薬を飲ませることに抵抗があります
A

お気持ちはよく分かります。しかし、食事療法や運動療法を続けても高血糖の状態が改善しない場合、その状態を放置することはお子様の体を傷つけ、合併症のリスクを高めてしまいます。

薬物療法はお子様の体を守るために必要な治療です。薬の必要性や安全性について医師が丁寧に説明しますので、不安な点は何でもご相談ください。

Q
学校生活で気をつけることは何ですか?
A

学校の先生(特に担任や養護教諭)に、お子様の病状について説明し、理解と協力を得ることが大切です。

給食の対応や体育の授業での注意点、体調不良時の対応などをまとめた連絡ノートを作成するなど医療機関と学校、家庭が連携してサポートする体制を整えます。

以上

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