糖尿病の治療で、「リブレ」や「CGM」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。
「どちらも24時間の血糖値を測るものみたいだけど、何が違うの?」「自分にはどちらが合っているのだろう?」と、疑問に思っている方も多いでしょう。
FreeStyleリブレとリアルタイムCGMはどちらも血糖管理を大きく変える画期的な血糖測定器ですが、その仕組みや特徴は異なります。
この記事では両者の違いを特徴、価格、精度の面から徹底的に比較し、あなたに合った機器の選び方を専門医が解説します。
血糖測定の新しいかたち「FGM」と「CGM」
リブレやCGMを理解するために、まずはこれらの血糖測定器がどのようなものなのか、基本的な定義から見ていきましょう。
従来の血糖測定(SMBG)との違い
これまでの血糖測定は指先などを針で穿刺して血液を採取し、その時々の血糖値を測定するSMBG(自己血糖測定)が主流でした。これは特定の「点」での情報しか得られません。
一方、リブレやCGMは皮下に留置したセンサーで24時間持続的にグルコース濃度を測定し、血糖変動を「線」として捉えることができるのが最大の違いです。
FGM(フラッシュグルコースモニタリング)とは
FGMはセンサーにリーダー(読み取り機)やスマートフォンをかざす(スキャンする)ことで、その時点のグルコース値と過去の変動データを読み取る方式です。
代表的な製品が「FreeStyleリブレ」であるため、「FGM=リブレ」として認識されていることがほとんどです。
CGM(持続血糖モニタリング)とは
CGMはセンサーが測定したグルコース値が、リーダーやスマートフォンに自動的に送信され続ける方式です。
常に最新のデータが表示され、血糖値が危険な領域に入るとアラートで知らせてくれる機能を持つものを、特に「リアルタイムCGM」と呼びます。「デクスコムG6」などがこれにあたります。
測定方式の基本的な違い
方式 | 代表製品 | データの取得方法 |
---|---|---|
FGM | FreeStyleリブレ | 能動的(スキャンが必要) |
リアルタイムCGM | デクスコムG6など | 受動的(自動で送信される) |
FreeStyleリブレ(FGM)の特徴と使い方
日本で最も広く普及している持続グルコース測定器である「FreeStyleリブレ」の特徴を詳しく見ていきましょう。
「スキャン」して血糖値を確認
リブレの使い方は非常にシンプルです。上腕の後ろ側に装着した円形のセンサーに専用のリーダーかスマートフォンのアプリをかざすだけです。
この「スキャン」という簡単な動作で、いつでも現在のグルコース値と過去8時間の変動がグラフで表示されます。指先の穿刺が不要なため、痛みを伴わずに何度でも測定できます。
センサーの装着と期間
センサーは専用の器具を使って自分で簡単に装着できます。痛みはほとんどありません。
一度装着したセンサーは最長14日間使用可能で、その間は入浴やシャワーも可能です。
14日経つとセンサーの機能が停止するため、新しいものに交換します。
アラート機能がないことの注意点
リブレの基本的なモデルには血糖値が設定した範囲を外れた時に自動で知らせてくれるアラート機能はありません(リブレ2、リブレ3には搭載)。
そのため夜間の低血糖や、自覚症状のない低血糖に気づくためには定期的にスキャンする習慣が必要です。あくまで能動的に情報を得るツールであると理解することが大切です。
FreeStyleリブレが向いている人
- 指先穿刺の痛みが苦手な方
- まずはお試しで持続測定を始めてみたい方
- 低血糖のリスクが比較的低い方
- 能動的にスキャンする習慣が苦にならない方
リアルタイムCGMの特徴と使い方
リアルタイムCGMは、より高度で安全な血糖管理をサポートする機能が充実しています。
血糖値を「自動送信」する仕組み
リアルタイムCGMは腹部などに装着したセンサーが測定したグルコース値を5分ごとなど短い間隔でBluetoothを通じてスマートフォンアプリなどに自動で送信し続けます。
何もしなくても常に最新の血糖データと変動のグラフが表示されるため、血糖値の「今」をリアルタイムで把握できます。
主なリアルタイムCGMの種類
日本で利用できる代表的なリアルタイムCGMには、「デクスコムG6」や、インスリンポンプと連動する「ガーディアンコネクト」などがあります。
これらの機器は、より詳細なデータ分析や家族などとデータを共有する機能も備えています。
高血糖・低血糖を知らせるアラート機能
リアルタイムCGMの最大の利点は強力なアラート機能です。血糖値が設定した上限値や下限値を外れた時だけでなく、下限値に達すると予測された場合にも事前に警告音で知らせてくれます。
この機能により、重症低血糖などを未然に防ぐことができ、特にインスリン治療を行っている患者様の安全性を大きく高めます。
リアルタイムCGMが向いている人
- 1型糖尿病の方、頻回インスリン注射やインスリンポンプを使用中の方
- 無自覚性低血糖や夜間低血糖のリスクが高い方
- 厳格な血糖コントロールを目指す方
- 妊娠中または妊娠を計画している方
【徹底比較】リブレとリアルタイムCGMの違い
両者の違いを表にまとめて、より詳しく比較してみましょう。
リブレとリアルタイムCGMの機能比較
機能 | FreeStyleリブレ(FGM) | リアルタイムCGM |
---|---|---|
データ取得 | スキャン時に取得 | 常時、自動で受信 |
アラート機能 | なし(一部モデルを除く) | あり(高/低血糖、予測アラート) |
データ共有 | 可能(LibreLinkUpアプリ) | 可能(専用アプリ) |
主な装着部位 | 上腕後部 | 腹部、臀部など |
測定方法の違い(スキャン vs 自動送信)
最大の違いはデータの取得方法です。リブレは「知りたい時に知る」ツールであるのに対し、リアルタイムCGMは「常に知らせてくれる」ツールと言えます。
この違いがアラート機能の有無に直結します。
アラート機能の重要性
特に夜間や無自覚の低血糖を防ぐ上で自動で知らせてくれるアラート機能は非常に重要です。
低血糖のリスクが高い患者さんにとっては、リアルタイムCGMがもたらす安心感は大きなメリットとなります。
データの共有機能
どちらの機器も測定データを家族や主治医と共有する機能を備えています。
離れて暮らす家族がお子様や高齢のご両親の血糖状態を見守ったり、診察時に医師がより詳細な生活データを確認したりするのに役立ちます。
精度やキャリブレーション(較正)の違い
測定器を選ぶ上で、その数値がどれだけ正確なのかは重要なポイントです。
測定精度の指標「MARD」とは
CGMやFGMの精度を示す指標として「MARD(マード)値」が用いられます。
これはセンサーの測定値と実際の血糖値との平均的な誤差の割合(%)を示したものです。この数値が小さいほど誤差が少なく、精度が高いことを意味します。
キャリブレーション(較正)の必要性
キャリブレーションとは、センサーの測定値をSMBGで測定した実際の血糖値に合わせて補正する作業のことです。
以前のCGMではこの作業が必須でしたが、技術の進歩により、現在のリブレやデクスコムG6では原則としてキャリブレーションは不要となり、利便性が大幅に向上しました。
精度とキャリブレーションの比較
項目 | FreeStyleリブレ | デクスコムG6 |
---|---|---|
MARD値(精度) | 9%台 | 9%台 |
キャリブレーション | 不要 | 原則不要 |
現在の主要な機器では精度に大きな差はなく、どちらも高いレベルにあると言えます。
費用と保険適用の違い
治療を続ける上で費用は重要な要素です。保険が適用される条件や自己負担額の目安を見ていきましょう。
保険が適用される条件
リブレやCGMの保険適用は1型糖尿病の患者様や、インスリン製剤を1日に1回以上使用している2型糖尿病の患者様などが対象となります。
詳細な条件は改定されることもあるため、ご自身が対象になるかは主治医にご確認ください。
リブレの費用目安
保険適用の場合、3割負担の患者さんでセンサー(14日分)1個あたり約1,500円~2,000円、これに月2回の指導管理料などが加わり、月額でおおよそ5,000円~7,000円程度が目安となります。
自費の場合は医療機関によって異なりますが、センサー1個が7,000円前後です。
リアルタイムCGMの費用目安
リアルタイムCGMはセンサーや送信機など複数の部品が必要なため、リブレに比べて費用は高くなる傾向があります。
保険適用(3割負担)の場合、月額で10,000円~15,000円程度が目安となります。こちらも自費診療で利用することも可能です。
あなたに合う血糖測定器の選び方
これまで見てきた違いを踏まえ、ご自身に合った機器を選ぶためのポイントをまとめます。
ライフスタイルから考える
日中の活動が多く、アラート音が頻繁に鳴ると困る方や、まずは手軽に始めてみたい方はリブレが向いているかもしれません。
一方、夜勤がある方や運転など集中力が必要な仕事をしている方にとっては、リアルタイムCGMの安全機能が大きな助けになります。
治療の目的を明確にする
「まずは自分の血糖変動の癖を知りたい」「指先穿刺の回数を減らしたい」という目的であれば、リブレで十分な情報を得られます。
「無自覚低血糖を防ぎたい」「妊娠に向けて厳格な血糖管理をしたい」といった、より高度で安全な管理を目指す場合は、リアルタイムCGMが強力な選択肢となります。
主治医との相談が最も重要
最終的にどの機器がご自身に合っているかは病状や治療内容、ライフスタイルなどを総合的に判断して決める必要があります。
ご自身の希望を伝えた上で専門家である主治医とよく相談し、納得のいく選択をすることが何よりも大切です。
当院ではそれぞれの機器の特徴を詳しくご説明し、患者さん一人ひとりに合った血糖測定器の選択をサポートします。
よくある質問
リブレやCGMについて、患者さんからよくいただくご質問にお答えします。
- QリブレとCGM、どちらが新しいのですか?
- A
どちらの技術もここ10年ほどで急速に進歩・普及してきました。
特定のどちらかが新しいというよりは、FGM(リブレ)とリアルタイムCGMという異なるアプローチの測定器がそれぞれ進化していると捉えるのが正確です。
最近ではリブレにもアラート機能が付いたモデルが登場するなど、両者の差は縮まりつつあります。
- Qセンサーの装着は自分でできますか?
- A
はい、できます。
最初の装着はクリニックで医師や看護師が指導しますが、2回目以降はご自身で交換・装着します。
専用のアプリケーター(装着器具)を使えば、簡単かつほとんど痛みなく装着できるように設計されています。
- Qスマートフォンがないと使えませんか?
- A
リブレもリアルタイムCGMも専用の受信機(リーダー)が用意されているため、スマートフォンがなくても使用可能です。
しかし、スマートフォンアプリを利用する方がデータの管理や共有がしやすく、より多くの機能を活用できるため便利です。
- Q実際の血糖値と少しずれるのはなぜですか?
- A
これらの機器は血液中の糖(血糖)ではなく、皮下の間質液という組織液の中のグルコース濃度を測定しています。
血液中の糖が間質液に移動するまでには5~10分程度の時間差があるため、特に血糖値が急激に変動している時には実際の血糖値とセンサーの測定値にずれが生じます。
この特性を理解した上で、数値の「流れ」や「傾向」を見ることが重要です。
以上
参考にした論文
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