インスリン治療を始めるにあたり、毎日使う注射器(インスリンペン)の選択はとても重要です。
現在主流のペン型注射器にはインスリン製剤が充填済みの「使い捨てタイプ」と、インスリンの入ったカートリッジを交換して本体を繰り返し使う「カートリッジ式」があります。
どちらが自分に合っているのか、迷う方も多いでしょう。
この記事では、それぞれのインスリンペンの特徴やメリット・デメリット、そしてご自身のライフスタイルに合わせた選び方のポイントを詳しく解説します。
あなたに合った一本を見つけ、前向きな治療を続けましょう。
インスリンペン型注射器の基本
インスリンペン型注射器は糖尿病治療における自己注射を、より簡単・安全・正確に行うために開発された器具です。
自己注射をサポートする器具
かつてのインスリン注射はバイアル瓶から注射器でインスリンを吸い出し、注射するという手間のかかるものでした。
ペン型注射器は、あらかじめインスリン製剤がセットされており、ダイヤルを回して単位を合わせてボタンを押すだけで簡単に注射できるのが特徴です。
この手軽さにより、多くの方が負担なく自己注射を行えるようになりました。
ペン型注射器の基本的な構造
インスリンペンは、いくつかの部品から構成されています。どのタイプのペンでも基本的な構造は共通しています。
ペン型注射器の主な構成要素
部分 | 役割 |
---|---|
本体(ペンボディ) | インスリン製剤を保持し、注入の操作を行う部分 |
単位設定ダイヤル | 注射するインスリンの単位数を設定する |
注入ボタン | このボタンを押してインスリンを注入する |
なぜペン型が広く使われているのか
ペン型注射器が普及した最大の理由は、その利便性と正確性です。誰でも簡単に医師から指示された単位数を正確に投与できます。
また、見た目が万年筆のようで、注射器という印象が薄いことも、患者さんの心理的な抵抗感を和らげる一因となっています。
主な2つのタイプ「使い捨て」と「カートリッジ式」
インスリンペンは、大きく「使い捨てタイプ(プレフィルド型)」と「カートリッジ交換式」に分けられます。それぞれの特徴を理解し、比較することが大切です。
プレフィルド型(使い捨てタイプ)の特徴
インスリン製剤があらかじめ本体に充填されているタイプです。
インスリンを使い切ったら注射器本体ごと新しいものに交換します。操作が非常にシンプルで、衛生的なのが最大の利点です。
カートリッジ交換式(繰り返しタイプ)の特徴
注入器本体は繰り返し使用し、中に入れるインスリンの入ったカートリッジだけを交換するタイプです。
使い捨てタイプに比べて廃棄物が少なく、経済的な負担が軽い傾向にあります。
どちらのタイプが自分に合っているか
どちらのタイプが適しているかは、個人のライフスタイルや価値観、手先の器用さなどによって異なります。それぞれの長所と短所を比較検討してみましょう。
使い捨て型とカートリッジ交換式の比較
項目 | 使い捨て(プレフィルド)型 | カートリッジ交換式 |
---|---|---|
操作の手軽さ | 非常に簡単 | カートリッジ交換の手間あり |
経済性 | やや高め | 比較的安価 |
廃棄物 | 本体ごと廃棄するため多い | カートリッジと針のみで少ない |
使い捨て(プレフィルド)型のメリット・デメリット
操作が簡単な使い捨てタイプは初めてインスリンを導入する方や高齢の方に広く選ばれています。
メリット:操作が簡単で衛生的
最大のメリットは、その手軽さです。インスリンをセットする手間がなく、袋から出して針をつければすぐに使えます。
インスリン製剤が密封されているため、衛生面でも安心感があります。
メリット:持ち運びや管理が手軽
旅行や外出の際に予備のカートリッジを持ち運ぶ必要がありません。常に新しい清潔な状態で使えるため、管理が楽という利点もあります。
使い捨て型の主な利点
利点 | 具体的な内容 |
---|---|
簡便性 | インスリンを充填する手間が不要 |
衛生面 | 常に新品の器具で注射できる |
携帯性 | 外出時に予備のカートリッジが不要 |
デメリット:廃棄物が多くなる
インスリンを使い切るたびに本体ごと廃棄するため、カートリッジ式に比べてゴミの量が多くなります。
環境への配慮を重視する方にとっては気になる点かもしれません。
カートリッジ交換式のメリット・デメリット
経済的で環境に優しいカートリッジ交換式はインスリン治療に慣れた方や、長期的に使用する方に支持されています。
メリット:経済的で環境への負担が少ない
本体を繰り返し使うため、1回あたりの費用は使い捨てタイプよりも安価になる傾向があります。
また、廃棄物がカートリッジと針だけなので、環境への負担を軽減できます。
メリット:好みの注入器を選べることも
一部のインスリン製剤では、同じカートリッジに対応した複数の注入器の中からデザインや操作感が好みのものを選べる場合があります。
愛着のある器具を長く使える点も魅力です。
カートリッジ交換式の主な利点
利点 | 具体的な内容 |
---|---|
経済性 | 長期的に見ると費用を抑えられる |
環境配慮 | 廃棄物の量を減らせる |
選択肢 | 対応する注入器を選べる場合がある |
デメリット:カートリッジ交換の手間がかかる
インスリンがなくなったら自分で使用済みのカートリッジを取り出し、新しいものを正しくセットする必要があります。このひと手間を面倒に感じる方もいます。
また、操作を誤ると正しく注射できないリスクもゼロではありません。
インスリンペンの選び方のポイント
自分に合ったペンを選ぶことは治療を快適に続ける上で重要です。いくつかの視点から検討しましょう。
ライフスタイルに合わせた選択
仕事で出張が多い方や、手軽さを最優先したい方は使い捨てタイプが便利です。
一方で、在宅での使用が中心で、少しでも経済的な負担を減らしたい方はカートリッジ式が向いているでしょう。
- 手軽さ・衛生面を重視するなら:使い捨てタイプ
- 経済性・環境配慮を重視するなら:カートリッジ交換式
- 手先の器用さに自信がないなら:使い捨てタイプ
操作性や握りやすさ
毎日使うものだからこそ、自分の手に馴染むかどうかが大切です。ペンの太さや長さ、注入ボタンの押しやすさなどは製品によって微妙に異なります。
医療機関でサンプルに触れさせてもらい、実際に操作感を確かめることをお勧めします。
単位設定の細かさと最大投与量
インスリンペンには、0.5単位刻みで設定できるものと、1単位刻みのものがあります。少量のインスリン調整が必要な方やお子さんの場合は、0.5単位刻みのペンが重要になります。
また、一度に注射できる最大単位数もペンによって異なるため、ご自身の1回あたりの注射量も考慮して選びます。
インスリンペンが持つ便利な機能
近年、患者さんの負担を軽減し、より安全な治療をサポートするための様々な機能を持つインスリンペンが登場しています。
メモリ機能付きペン(スマートペン)
注射した時刻と単位数を自動で記録してくれる機能を持つペンです。
「スマートペン」とも呼ばれ、専用のスマートフォンアプリと連携することで日々の注射履歴を簡単に管理できます。打ち忘れや二重打ちの防止に役立ちます。
スマートペンの主な機能
機能 | 利点 |
---|---|
注射履歴の自動記録 | いつ、何単位注射したかを後から確認できる |
アプリ連携 | 血糖値など他のデータと合わせて管理できる |
打ち忘れ防止アラーム | 設定した時間に通知してくれる |
電動アシスト機能
ボタンを押すと電動でインスリンが注入されるタイプもあります。
握力が弱い方や指の関節に痛みがある方でも、軽い力でスムーズに注射することができます。
誤操作を防ぐ安全機能
設定した単位以上にダイヤルが回らないようにする機能や、注入完了を音や表示で知らせる機能など、誤操作を防ぎ、安全性を高めるための工夫が凝らされています。
これらの機能は患者さんの心理的な安心にもつながります。
よくある質問(Q&A)
最後に、インスリンペンに関してよくいただく質問にお答えします。
- Qペン型注射器の費用はどのくらいですか?
- A
インスリン治療は健康保険が適用されます。自己負担額は加入している保険の種類や所得、処方されるインスリンの量によって異なります。
使い捨てタイプとカートリッジ式では、一般的にカートリッジ式の方が自己負担額は軽くなる傾向にあります。詳しくは医療機関の窓口や薬局でご確認ください。
- Q違う種類のインスリンに同じペンを使えますか?
- A
絶対に使用できません。インスリンペンは対応する特定のインスリン製剤専用に作られています。
違う種類のインスリンのカートリッジを無理にセットしようとすると故障の原因になるだけでなく、正しい単位数が注入できず大変危険です。
インスリンの種類ごとに指定されたペンを使用してください。
- Qペンが故障した場合はどうすれば良いですか?
- A
注入ボタンが押せない、ダイヤルが回らないなどの不具合が生じた場合は無理に使い続けず、すぐに新しいペンに交換してください。
万が一の事態に備え、常に予備のペンやインスリン製剤を手元に置いておくことが重要です。
また、故障した器具は処方された薬局や医療機関に持参し、状況を説明してください。
- Q注射針は毎回交換する必要がありますか?
- A
はい、必ず毎回新しい針に交換してください。
一度使用した針は先端が変形したり、コーティングが剥がれたりして痛みの増加や感染症のリスク、皮下硬結の原因となります。
安全で快適な治療のために、針の再利用は絶対にしないでください。
以上
参考にした論文
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