血糖値のコントロールをサポートする薬のなかでインクレチンの働きに注目が集まっています。

糖尿病と診断された方や予備軍を含め血糖値の変動が気になり始めた方にとってインクレチン関連薬は治療を支える重要な選択肢です。

特にGLP-1製剤は多くの方に使用され、さまざまな特徴を持ちます。

本記事ではインクレチン関連薬のメカニズムや使い分けのポイントをわかりやすくまとめました。糖尿病内科への受診を検討する際の参考としてお役立てください。


目次

インクレチン関連薬とは何かを理解するために

ここではインクレチン関連薬という言葉が具体的にどのような薬を指すのか、その分類や役割を解説します。

糖尿病治療において血糖値を下げるしくみはいくつかありますが、インクレチンというホルモンは食事に応じて身体のなかで分泌される特徴があります。

その特性を活かした薬がインクレチン関連薬です。

インクレチン関連薬の背景

インクレチンとは、食事をとると消化管から分泌されるホルモン群です。

血糖値が上がりすぎないように膵臓に働きかけてインスリン分泌を促進するという特徴があります。

糖尿病治療では以前から注目されていて、GLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬として普及しました。

GLP-1受容体作動薬は一般的にGLP-1製剤と呼ばれます。

主なインクレチン関連薬の種類

  • GLP-1製剤(GLP-1受容体作動薬)
  • DPP-4阻害薬

DPP-4阻害薬は体内のインクレチンを分解する酵素であるDPP-4を阻害することでインクレチンを長持ちさせ、血糖値のコントロールを改善します。

GLP-1製剤は人工的に作られたGLP-1アナログを体内に補い、インスリン分泌の促進や血糖値の低下を導きます。

インクレチン関連薬が持つ重要な特性

インクレチン関連薬は血糖値が高いときにはインスリン分泌をサポートし、血糖値が落ち着くと作用が弱まるしくみを持つため、低血糖が起こりにくい点が特徴です。

そのため、従来の糖尿病薬よりも使いやすいと感じる患者さんも多いです。

インクレチン関連薬の歴史

インクレチン関連薬の歴史はまだ長くありませんが、その有用性から急速に利用が広がりました。

従来はDPP-4阻害薬が中心でしたが、GLP-1製剤の開発が進み、現在ではさまざまな投与方法(皮下注射製剤や経口薬)や作用時間をもつ薬が選択できます。

インクレチン関連薬の代表例と効果の概要

分類代表的な薬剤名投与方法特徴
GLP-1製剤リラグルチドなど皮下注射・経口など血糖値に応じたインスリン分泌促進、体重減少効果が見込める
DPP-4阻害薬シタグリプチンなど経口薬体内のGLP-1分解を抑制する

インクレチンの生理学的役割

インクレチンという言葉は医学用語としては一般化していますが、実際にはどのように身体に働きかけるのでしょうか。

ここではインクレチンの役割やGLP-1とGIPについて整理し、血糖コントロールとの関係を説明します。

インクレチンの基本的な働き

インクレチンにはGLP-1やGIPなどがあり、食事をすると小腸や大腸からこれらのホルモンが分泌されます。

主な機能として膵臓のβ細胞に働きかけインスリンの分泌を活性化させることが挙げられます。

また、膵α細胞から分泌されるグルカゴンの分泌を抑えることでも血糖値の急上昇を防ぎます。

GLP-1とGIPの違いと作用

  • GLP-1:インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出抑制などにより血糖値を改善する働きがある
  • GIP:食事摂取量やカロリー吸収と関連が深く、インスリン分泌を助けるが、肥満やインスリン抵抗性との関係も議論されている

両者はともにインクレチンですが、GLP-1は血糖値低下作用を示しやすく、GIPはインスリン分泌促進のほか脂質代謝にも関与すると考えられています。

GLP-1とGIPの主な機能比較

ホルモン役割特徴
GLP-1インスリン分泌促進、グルカゴン抑制、食欲抑制血糖コントロールを強力にサポート
GIPインスリン分泌促進、脂質代謝との関連体重増加や肥満との関連が議論される

食事とインクレチンの分泌リズム

インクレチンは食事によって分泌量が増えます。特に炭水化物を含む食事を摂取するとGLP-1やGIPが活発に分泌されるため、インスリン分泌が高まり血糖値の上昇を抑えます。

ただし、糖尿病になりやすい体質や食事の偏りがあると、このメカニズムが乱れる場合があります。

インクレチン分泌不全が及ぼす影響

糖尿病の患者さんや前段階の方ではインクレチンの分泌低下が生じていることがあります。

インクレチンの分泌や作用が十分でないと食後に血糖値が上がりやすくなり、体重管理も難しくなります。

このような背景からインクレチンの働きを補う薬が大切になります。


GLP-1製剤の種類と特徴

近年、GLP-1製剤は多くの種類が開発され、臨床で幅広く利用されています。

ここでは代表的なGLP-1製剤の種類や投与頻度、特徴などを紹介します。

インクレチン関連薬のなかでもGLP-1製剤は血糖コントロールだけでなく体重管理にも役立つというメリットがあります。

GLP-1製剤の基本

GLP-1製剤は人工的に作られたGLP-1アナログやGLP-1受容体への働きを強める薬です。

一般に注射が中心ですが、経口で服用できる薬も登場しています。

血糖値が高い状態ではインスリン分泌を強め、血糖値が正常範囲に近づくとその作用が弱まります。

投与スケジュールとバリエーション

GLP-1製剤には毎日注射するタイプや週に1回でよいタイプ、さらには経口薬までいくつかの選択肢があります。患者さんの生活習慣や血糖値の状態に合わせて使い分けます。

以下は投与スケジュールに関する一般的な例です。

GLP-1製剤の投与スケジュール一覧

製剤タイプ投与頻度特徴
毎日注射タイプ1日1回初期から導入しやすい
週1回注射タイプ週1回通院負担が軽くなりやすい
経口タイプ毎日1回注射に抵抗がある方でも始めやすい

体重への影響

GLP-1は胃腸の動きを緩やかにすることで満腹感を持続させ、過食を抑える効果が報告されています。

そのため、2型糖尿病の患者さんで体重増加が気になる場合、GLP-1製剤を導入することで血糖コントロールと体重管理が同時に見込める場合があります。

代表的なGLP-1製剤の特徴

リラグルチドやエキセナチドなど薬ごとに多少の違いがありますが、いずれも血糖値のコントロールと体重低下に関してメリットを持ちます。

ただし、作用時間や投与方法、作用強度など細かい点が異なるため主治医と相談しながら選ぶことが大切です。

主なGLP-1製剤の特徴比較

薬剤名投与形態作用時間メリット
リラグルチド1日1回注射中間体重減少効果、血糖コントロール
エキセナチド1日2回注射、週1回注射など短〜長用途に応じて投与形態を選択可
セマグルチド週1回注射、経口剤通院負担が比較的少ない

GIPとGLP-1の相乗効果

GIPとGLP-1を同時に活用するインクレチン関連薬が注目されています。

両者はインスリンの分泌を促進する点では共通しますが、それぞれ異なる特性も持っています。

ここではGIPとGLP-1を合わせて利用するメリットと注意点について解説します。

GIPとGLP-1の役割のちがい

GIPは食事によって分泌量が変化しやすく、脂質の代謝にも影響を与えます。

GLP-1は血糖値低下や食欲抑制効果が高いことで知られます。

両者を併用することでインスリン分泌をより効率的にサポートする可能性があります。

併用療法のメリット

  • 血糖コントロールがさらに安定する
  • 食事量の制御がしやすくなる
  • 体重増加リスクを抑えることが期待できる

GIPとGLP-1を同時に活性化させる薬は肥満を伴う2型糖尿病の方の血糖値と体重の両面から管理できる可能性があります。

インクレチン(GIPとGLP-1)の作用比較

ホルモン血糖値への主な作用食欲・体重調節との関連併用時の期待
GIPインスリン分泌促進脂質代謝や体重増加と関連がある血糖コントロールのさらなる安定
GLP-1インスリン分泌促進+グルカゴン抑制食欲抑制や満腹感の維持に寄与血糖と体重の両面管理をさらに効率化できる可能性

併用におけるデメリットや注意点

GIPは一部の人において体重増加を助長する可能性がありますが、GLP-1には体重低下を促す性質があるため併用したときにどちらの効果が優位に働くかを見極める必要があります。

医師は患者さんの体質や合併症の有無を考慮し、適切な薬を提案します。

GIPとGLP-1を活用した治療

糖尿病治療の現場では単独でのGLP-1製剤使用に加え、複数のインクレチンホルモンを同時に活かせる治療法が検討されています。

作用機序や副作用を正しく理解し、自分に合った治療を選ぶことが大切です。


具体的なGLP-1製剤の使い分け

GLP-1製剤にはさまざまな種類がありますが、どのように選び分ければよいのでしょうか。

ここでは個々の薬剤特性や患者さんの状態に合わせた使い分けのポイントを整理します。

血糖コントロールの度合いに応じた選択

血糖値のコントロールがどの程度必要か、またすでに他の糖尿病薬を使用しているかによって使うGLP-1製剤が異なります。

GLP-1製剤選択のポイントリスト

  • HbA1cがどの程度高いか
  • 他の糖尿病薬を使用しているか
  • 体重管理の必要性
  • 週1回注射などの利便性を重視したいか

生活背景や血糖コントロールの目標値なども踏まえ、主治医が総合的に判断します。

注射の頻度を考えた使い分け

1日1回注射タイプはこまめに調整しやすいメリットがありますが、注射の回数が多いと煩わしく感じる方もいます。

週1回注射タイプは手軽さがあるものの、途中で血糖値が上昇しやすいタイミングが出る場合もあり、個人差があります。

経口GLP-1製剤の特徴

経口GLP-1製剤は注射に抵抗がある方にも受け入れられやすいというメリットがあります。

胃の酸や消化酵素による分解の影響を受けやすいため、一定の条件下で飲む必要があります。飲み方やタイミングを守ることで効果を発揮します。

経口と注射GLP-1製剤の比較

項目注射タイプ経口タイプ
投与のしやすさ注射が苦でない方には簡便注射が苦手な方に有用
血中濃度の安定性安定しやすい胃腸環境に影響されやすい
用量調節比較的柔軟にできる一定量の内服に依存

ライフスタイルや合併症への配慮

高血圧や腎機能障害、肥満など合併症がある場合はGLP-1製剤を選ぶ基準も変わります。

GLP-1製剤の中には腎機能に配慮が必要な薬もあるため、主治医と十分に相談すると安心です。


GLP-1製剤の副作用と注意点

GLP-1製剤は血糖値を安定させ、体重管理にもつながりやすい一方で、胃腸障害などの副作用が起こる場合があります。

ここではよくある副作用や対処方法、使用時の注意点をまとめます。

代表的な副作用

  • 吐き気や嘔吐
  • 腹部膨満感や下痢
  • 便秘
  • 食欲低下

これらは胃腸運動を抑制する作用と関係があると考えられます。

多くの場合、薬の使用開始直後に強く出やすく、徐々に軽減することが多いです。

GLP-1製剤でみられやすい胃腸症状一覧

症状原因緩和のコツ
吐き気・嘔吐胃排出の遅れ食事量を少なめにゆっくり食事をとる
下痢・腹部膨満感腸管の動きの変化食物繊維を摂りすぎない、油分の多い食事を避ける
便秘胃腸の動きの調節水分補給や適度な運動

低血糖への注意

GLP-1製剤は低血糖が起こりにくいと言われますが、他の血糖降下薬と併用する場合には低血糖を起こすリスクが高まることがあります。

特にスルホニル尿素薬やインスリン製剤などと一緒に使う場合は血糖値のモニタリングをこまめに行うことが大切です。

GLP-1製剤と他薬との併用時に気を付けたいリスト

  • スルホニル尿素薬の種類
  • インスリン製剤の量
  • 低血糖の兆候(手の震え、冷や汗、動悸など)

重篤な副作用の可能性

稀ですが、胆のう系のトラブル(胆のう炎や胆石など)や急性膵炎の報告があるため腹痛が長引く場合や症状が重い場合は医療機関を受診してください。

自分の症状をこまめに記録し、異常があれば主治医に相談しましょう。

注意点や安全に使用するためのポイント

GLP-1製剤を安全に使用するためには定期的な血液検査と主治医とのコミュニケーションが欠かせません。

副作用が出た場合でも投与量の調整や食事内容の見直しによって症状が軽くなることが多いです。


インクレチン関連薬を使用する際の生活習慣の重要性

インクレチン関連薬を使えば血糖値が安定するからといって生活習慣の改善を怠ると十分な効果を期待しにくくなります。

薬とともに食事・運動・睡眠などの生活習慣を見直すことが血糖コントロールを保つうえで大切です。

食事管理とインクレチンの働き

インクレチンは食事で刺激され、分泌が高まります。糖質の多い食事ばかり摂ると急激に血糖値が上がりやすく、血糖値の乱高下を招きます

。野菜やタンパク質をバランスよく取り入れながら、血糖値の上昇を緩やかにする工夫が重要です。

食事管理のヒント

  • 野菜を先に食べる
  • タンパク質と炭水化物のバランスを意識する
  • 間食や甘い飲み物の摂取を控える

運動習慣がもたらす恩恵

身体を動かすと筋肉が血糖を取り込みやすくなり、インスリン抵抗性の改善が期待できます。

運動とインクレチン関連薬を併用すると、さらに血糖コントロールをサポートしやすくなります。

日常生活でのウォーキングや簡単なストレッチなど自分に合った運動を継続することが大切です。

睡眠とストレス管理

睡眠不足や慢性的なストレスはインスリン抵抗性を悪化させ、血糖値が上昇しやすくなる要因になります。

十分な睡眠時間を確保し、ストレス解消のためのリラックス法を取り入れるとインクレチン関連薬の効果をより発揮しやすくなります。

睡眠の質向上をめざすために

悪影響の要因対策
不規則な就寝・起床時間就寝時刻と起床時刻を一定に保つ
寝る直前までのスマホ利用就寝1時間前はスマホ・PC画面を見ない工夫
就寝前の大量飲酒アルコール量を控え、ぬるめの入浴でリラックス

生活習慣全体を見直す意義

インクレチン関連薬は薬効が高く、比較的使いやすい部類に入りますが、根本的な血糖コントロールの改善には日々の食事・運動・睡眠を通した全体的な生活習慣の最適化が欠かせません。

薬との相乗効果を高めるためにもライフスタイルを整える必要があります。


糖尿病内科を受診するメリットと次の一歩

インクレチン関連薬について学んだ方のなかには具体的な治療への疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃると思います。

糖尿病内科で専門医に相談することで、より自分に合った治療プランを見つけやすくなります。

ここでは糖尿病内科を受診することによるメリットや、次に踏み出すための情報を解説します。

糖尿病内科で受けられるサポート

糖尿病内科では血液検査や合併症のチェックなど専門的な視点から患者さんの状態を多角的に評価します。

インクレチン関連薬が適切かどうかを見極められるため、治療薬の選択で悩んでいる方にとって強い味方になります。

糖尿病内科で受けられる主なサポート内容

サポート内容詳細
血糖コントロールの評価HbA1cや血糖値変動パターンを評価し、薬や生活習慣を調整
合併症の予防・管理網膜症や腎機能、神経障害などの早期発見・対処
栄養指導と運動療法の提案管理栄養士や理学療法士と連携して生活習慣を改善

専門医がいるクリニックの選び方

糖尿病内科を専門とする医師が在籍するクリニックを選ぶと食事療法やインクレチン関連薬の導入を含む複合的なケアを受けやすいです。

アクセスしやすい立地やスタッフとの相性なども考慮しながら、長く通えるクリニックを見つけると安心です。

受診前に準備しておきたいこと

  • これまでの血糖値やHbA1cの記録
  • 服用している薬の情報
  • 日常的な食事や運動の状況
  • 気になっている症状や疑問点

スムーズに診察を受けるため、これらの情報を整理してから受診すると、より的確なアドバイスをもらいやすくなります。

受診の前にチェックしておくリスト

  • 直近の検査結果(血液検査票など)
  • 現在飲んでいる薬(名称と用量)
  • 1日の食事内容と食事時間
  • 運動頻度と内容

自分の健康を守るための次の行動

「血糖値が気になる」「インクレチン関連薬について詳しく知りたい」と感じたら、早めに糖尿病内科へ問い合わせてみると安心です。

適切な検査と診断を受ければ自分に合った治療と生活習慣の改善方法が具体的にわかります。

症状の進行を抑えられる可能性が高まるため、迷っている方は一度相談してみてはいかがでしょうか。

以上


参考にした論文