ジュースや調味料、お菓子など、普段何気なく口にしている加工食品の原材料表示で「果糖ぶどう糖液糖」という文字を見たことはありませんか。
これは血糖値を急上昇させやすく、糖尿病のリスクを高める可能性がある「見えない糖分」です。砂糖よりも安価で使いやすいため多くの食品に利用されていますが、その性質は砂糖以上に注意が必要です。
この記事では果糖ぶどう糖液糖がなぜ体に悪いのか、その血糖値への影響と、知らずに摂取してしまいがちな危険な食品について専門医が詳しく解説します。
果糖ぶどう糖液糖とは?身近に潜む異性化糖の正体
「果糖ぶどう糖液糖」は私たちの食生活のあらゆる場面に登場する甘味料です。その正体と特徴を正しく理解しましょう。
トウモロコシなどから作られる液体の糖
果糖ぶどう糖液糖はトウモロコシやジャガイモ、サツマイモのでんぷんを原料として作られる液状の糖で、「異性化糖」の一種です。
でんぷんを酵素で分解して「ぶどう糖」を作り、さらにその一部を別の酵素で「果糖」に変化させて作ります。この「果糖」と「ぶどう糖」が主成分です。
なぜ多くの食品に使われるのか
果糖ぶどう糖液糖が広く使われる理由は、大きく2つあります。
一つは、砂糖よりも安価に製造できること。もう一つは、液体であるため食品に混ぜやすく、また冷たいものにも溶けやすいという性質を持つことです。
低温でも甘みを強く感じるため、特に清涼飲料水などによく利用されます。
砂糖との主な違い
項目 | 果糖ぶどう糖液糖 | 砂糖(ショ糖) |
---|---|---|
主原料 | トウモロコシ、イモ類など | サトウキビ、てん菜 |
形状 | 液体 | 固体(結晶) |
特徴 | 冷たいと甘みが強い、安価 | コクや風味がある |
果糖とぶどう糖の割合で名称が変わる
異性化糖は、果糖とぶどう糖の含有率によって日本農林規格(JAS)で名称が定められています。
- ぶどう糖果糖液糖:果糖の割合が50%未満のもの
- 果糖ぶどう糖液糖:果糖の割合が50%以上90%未満のもの
- 高果糖液糖:果糖の割合が90%以上のもの
一般的に、果糖の割合が高いほど甘みが強くなります。
なぜ糖尿病に悪い?血糖値を急上昇させる理由
果糖ぶどう糖液糖が糖尿病にとって特に注意が必要なのは、その主成分である「ぶどう糖」と「果糖」が、体内で異なる働きをするためです。
血糖値を直接上げる「ぶどう糖」
成分の一つである「ぶどう糖」は小腸で吸収されるとすぐに血液中に入り、血糖値を直接上昇させます。
液体である果糖ぶどう糖液糖は固形の砂糖よりも体内への吸収が速いため、血糖値の急上昇、いわゆる「血糖値スパイク」を引き起こしやすいのです。
この血糖値の乱高下は血管に大きなダメージを与えます。
肝臓で代謝される「果糖」
一方、もう一つの主成分である「果糖」は、ほとんどが肝臓で代謝されます。ぶどう糖のように直接血糖値を上げることはありませんが、これがかえって問題を複雑にします。
肝臓で代謝された果糖の一部は、中性脂肪として蓄積されやすい性質を持っています。
ぶどう糖と果糖の体内での動き
糖の種類 | 主な吸収・代謝場所 | 血糖値への影響 |
---|---|---|
ぶどう糖 | 小腸で吸収され全身へ | 直接的に、速く上昇させる |
果糖 | 主に肝臓で代謝される | 直接的な影響は小さいが、間接的に悪影響 |
インスリン抵抗性を招く危険性
果糖の過剰摂取が続くと、肝臓に中性脂肪が溜まる「脂肪肝」を引き起こします。
脂肪肝の状態になると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性」という状態に陥りやすくなります。
この状態は、2型糖尿病の発症や悪化に直結する非常に危険なものです。
血糖値だけではない 体に及ぼす様々な影響
果糖ぶどう糖液糖の過剰摂取は血糖値の問題だけでなく、全身に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
中性脂肪の増加と脂肪肝
前述の通り、果糖は肝臓で中性脂肪に変換されやすい性質があります。血液中の中性脂肪が増加すると、動脈硬化のリスクが高まります。
さらに肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝は肝硬変や肝がんへと進行する可能性もある、決して軽視できない病気です。
満腹感を得にくく過剰摂取につながる
果糖は満腹感をもたらすホルモン(レプチン)の分泌を刺激しにくい一方で、食欲を高めるホルモン(グレリン)の分泌を抑制しにくいという研究報告があります。
これらのホルモンバランスの乱れにより満腹感を得にくくなり、無意識のうちに食べ過ぎや飲み過ぎにつながってしまう危険性があります。
糖の摂取と食欲ホルモンの関係
ホルモン | 役割 | 果糖摂取時の反応 |
---|---|---|
レプチン | 満腹感をもたらす | 分泌されにくい |
グレリン | 食欲を高める | 抑制されにくい |
尿酸値の上昇と痛風のリスク
果糖が肝臓で代謝される際に尿酸が産生されます。そのため、果糖を過剰に摂取すると血液中の尿酸値が高くなり、痛風発作のリスクを高めることが知られています。
糖尿病と痛風は合併しやすい病気の一つです。
【要注意】果糖ぶどう糖液糖を多く含む危険な食品
私たちは知らず知らずのうちに多くの加工食品から果糖ぶどう糖液糖を摂取しています。特に注意が必要な食品を確認しましょう。
清涼飲料水・スポーツドリンク・乳酸菌飲料
最も注意したいのが、甘い飲み物です。コーラやサイダーなどの炭酸飲料、果汁飲料、スポーツドリンク、乳酸菌飲料などには大量の果糖ぶどう糖液糖が含まれています。
液体であるため吸収が速く、血糖値を急激に上昇させます。喉が渇いた時の水分補給は、水やお茶を基本としましょう。
飲料に含まれる糖類の例
飲料の種類 | 主な甘味料 |
---|---|
炭酸飲料、ジュース類 | 果糖ぶどう糖液糖 |
スポーツドリンク | 果糖ぶどう糖液糖、砂糖 |
栄養ドリンク | 果糖ぶどう糖液糖、砂糖 |
調味料(焼肉のたれ・めんつゆ・ドレッシング)
意外なところに隠れているのが調味料です。焼肉のたれやケチャップ、ソース類、めんつゆ、ドレッシングなど、甘みやとろみを出すために広く使われています。
良かれと思って使っている調味料が、血糖値を上げる原因になっているかもしれません。
パン・菓子類・アイスクリーム
菓子パンや総菜パン、ケーキやクッキーなどのお菓子、アイスクリームやゼリーといったデザート類にも甘味料として、また食感をしっとりさせる目的などで使用されています。
原材料表示でチェック!賢い食品の選び方
果糖ぶどう糖液糖を避けるためには、食品の裏側にある原材料表示を確認する習慣が大切です。
「異性化糖」の表示を探す
原材料表示は使用されている量が多いものから順番に記載されています。
原材料名の早い段階で「果糖ぶどう糖液糖」や「ぶどう糖果糖液糖」といった表示があれば、それだけ多くの量が含まれていることになります。
「異性化糖」とまとめて表示されることもあります。
栄養成分表示の「炭水化物」もヒントに
栄養成分表示の「炭水化物」または「糖質」の量も確認しましょう。
炭水化物は糖質と食物繊維を合わせたものですが、飲み物など食物繊維がほとんど含まれない食品では「炭水化物」の量がほぼそのまま糖質の量を示します。
食品表示のチェックポイント
表示項目 | 確認する内容 |
---|---|
原材料名 | 「果糖ぶどう糖液糖」などの表示の有無と順番 |
栄養成分表示 | 「炭水化物」または「糖質」の量 |
「糖類ゼロ」の表示に注意
「糖類ゼロ」と表示されていても、血糖値に影響を与える糖質がゼロとは限りません。糖アルコールや人工甘味料などが使われている場合があります。
人工甘味料の中には、腸内環境に影響を与える可能性が指摘されているものもあります。
糖分との上手な付き合い方と生活習慣
果糖ぶどう糖液糖を完全に避けるのは難しいかもしれませんが、意識して減らすことは可能です。
まずは飲み物から見直す
最も手軽で効果的なのは、普段飲んでいる甘い飲み物を水やお茶、無糖のコーヒーなどに変えることです。これだけで、一日の糖質摂取量を大幅に減らすことができます。
加工食品を減らし、素材の味を活かす
加工度が高い食品ほど、多くの添加物や糖分が使われる傾向にあります。できるだけ野菜や肉、魚といった素材そのものを購入し、自分で調理する機会を増やしましょう。
調味料も、だしや香辛料をうまく使うことで糖分に頼らなくても美味しく仕上げることができます。
間食は果物やナッツなどを選ぶ
お菓子や菓子パンの代わりに食物繊維やビタミンが豊富な果物や、良質な脂質を含むナッツ類を間食に選ぶのがおすすめです。
ただし、果物に含まれる果糖も摂りすぎは禁物です。適量を心がけましょう。
- 甘い飲み物をやめる
- 加工食品を控える
- 間食を見直す
- 食物繊維を摂る
不安な方は糖尿病の専門医へ相談を
ご自身の食生活に不安を感じたり、健康診断で血糖値の高さを指摘されたりした場合は、専門医に相談することが大切です。
糖尿病内科での診断と検査
糖尿病内科では、血液検査や尿検査で血糖値やHbA1c(過去1〜2ヶ月の血糖の平均値)などを調べ、糖尿病の状態を正確に診断します。
必要に応じて、ブドウ糖を飲んだ後の血糖値の変動を調べる「経口ブドウ糖負荷試験」なども行います。
糖尿病診断の主な検査
検査名 | わかること |
---|---|
血糖値測定 | 採血時点での血糖の高さ |
HbA1c測定 | 過去1~2ヶ月の血糖コントロール状態 |
経口ブドウ糖負荷試験 | インスリンの分泌能力や効き具合 |
管理栄養士による食事指導
糖尿病の治療において、食事療法は薬物療法と並ぶ重要な柱です。
クリニックでは管理栄養士が患者さん一人ひとりのライフスタイルや食の好みに合わせ、無理なく続けられる具体的な食事プランを提案します。
果糖ぶどう糖液糖を避けるための具体的な食品の選び方なども、専門的な視点からアドバイスします。
よくある質問
最後に、果糖ぶどう糖液糖と糖尿病に関するよくある質問にお答えします。
- Q果物に含まれる「果糖」も体に悪いのですか?
- A
果物にも果糖は含まれますが、果糖ぶどう糖液糖とは性質が異なります。果物には食物繊維やビタミン、ミネラル、ポリフェノールといった体に良い成分も豊富に含まれています。
食物繊維は糖の吸収を穏やかにする働きがあります。そのため、適量の果物を食べることは健康にとって有益です。
ただし、食べ過ぎやジュースでの摂取は糖質の過剰摂取につながるため注意が必要です。
- Q「ぶどう糖果糖液糖」なら大丈夫ですか?
- A
「ぶどう糖果糖液糖」は、「果糖ぶどう糖液糖」よりも果糖の割合が低いものですが、主成分がぶどう糖と果糖であることに変わりはありません。
同様に血糖値を急上昇させやすく、過剰摂取は避けるべきです。名称の違いに惑わされず、異性化糖全体を控える意識が大切です。
- Q糖尿病の薬を飲んでいれば、気にしなくても良いですか?
- A
いいえ、それは大きな間違いです。薬はあくまで血糖コントロールを補助するものであり、食事療法が基本です。
果糖ぶどう糖液糖を多く含む食品を摂り続ければ薬の効果が追いつかなくなり、血糖コントロールは悪化します。
また、インスリン抵抗性が進めば、より多くの薬が必要になるという悪循環に陥ります。
薬を飲んでいるからこそ、食事への配慮がより一層重要になります。
以上
参考にした論文
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