腎機能を示す指標として多くの医療機関で計測されるeGFR(推算糸球体ろ過量)は、腎臓の状態を知るうえで大切な数値です。

特に糖尿病を抱える方は血糖値に意識が向きがちですが、同時に腎臓の健康もチェックしておくことが重要です。

ここではeGFRの概要や測定方法、腎機能を守るための生活管理、糖尿病内科での受診ポイントなどをわかりやすく紹介します。

EGFRとは何か

腎機能を把握する指標として医療機関で広く用いられるeGFR(推算糸球体ろ過量)は血清クレアチニン値や年齢、性別から算出する数値です。

腎臓が体内の老廃物を排出する力を評価する目安として位置づけられています。

糖尿病での合併症リスクを考えるうえでも注目されるため、早い段階で正しい知識を得ることが重要です。

EGFRと腎機能の関係

eGFRは腎臓がろ過機能をどの程度発揮しているかを推定する計算式をもとに導き出します。

血液中のクレアチニン濃度が上昇すると腎機能が下がっている可能性が高く、eGFRの値は低下します。

糖尿病が原因で腎臓に負担がかかると数値の変動に注意が必要です。

EGFRの計算方法と注意点

eGFRは血清クレアチニン値を基準とした公式で計算します。

ただし筋肉量の多い方や筋肉量が著しく少ない方など個人差が大きい場合は実際の腎機能と計算値が異なるケースがあるため、医師と相談しながら総合的に判断すると安心です。

また、食事や運動直後の検査では正確な値が得られにくいといわれています。

数値の目安

eGFRはmL/min/1.73㎡という単位で表されます。おおまかな分類は以下のように示されます。

eGFR分類の目安表

分類eGFR値(mL/min/1.73㎡)主な状態
正常または高値90以上腎機能が良好
軽度低下60~89生活習慣の管理で経過観察
中等度低下30~59医療機関での定期的な検査と生活習慣の見直しが必要
高度低下15~29専門医の管理下での検査・治療が望ましい
透析が必要な状態15未満透析治療などを検討

eGFRが低い状態や中等度以下の数値に該当する場合、早めに治療計画を立てることが腎機能の維持にとって大切です。

腎臓が果たす重要な役割

腎臓は血液をろ過して老廃物を尿として排出し、体内の水分や電解質を一定に保つ役割を担います。

eGFRの測定結果を活用するとこれらの働きを維持できているかを確認でき、病気の進行を防ぐための指標として使えます。

ここでは腎臓の生理的役割を詳しくみていきましょう。

老廃物排出と体液バランス

体内の老廃物は主に血液を通じて腎臓に運ばれ、尿として排出されます。

食事や代謝によって生じる不要物を効率よく外に出すことで体内の環境を一定に保っています。

腎臓に負担がかかると老廃物の排出がスムーズに進まず、身体にさまざまな影響を及ぼします。

ホルモンの産生と血圧調整

腎臓は老廃物の排出だけでなく、血圧や赤血球生成を調整するホルモンをつくる機能も備えています。

特に血圧を制御するレニン、電解質バランスを維持するアルドステロンなどは全身の健康に直結する大切なホルモンです。

糖尿病を持つ方の中には高血圧を併発するケースがあり、腎臓の機能低下が血圧の乱れを招くことがあります。

電解質バランスの維持

塩分(ナトリウム)やカリウム、リンなどのミネラルバランスを維持することも腎臓の大切な働きです。

これらのバランスが乱れると心臓や筋肉、神経に影響が及ぶため、健康的な食生活や定期的な血液検査で状態を確認すると安心です。

腎臓の主な機能と影響

機能具体的な役割異常がある場合の影響
老廃物の排出尿を通じてアンモニアや尿素などの排出尿毒症やむくみなど
血圧調整レニン-アンジオテンシン系を通じた血圧コントロール高血圧や血流障害
赤血球生成ホルモンの産生エリスロポエチンの分泌による赤血球増殖促進貧血や虚弱体質
電解質バランスの維持ナトリウム・カリウム・リンなどの管理不整脈、骨量低下など

EGFRと糖尿病

糖尿病を持つ方にとって血糖値の管理だけでなく腎機能の管理も重要です。

血糖値が高い状態が続くと血管に負担がかかりやすく、腎臓へ向かう細小血管にも影響が及びます。

定期的なeGFRの確認は腎機能の変化を早期に把握して治療につなげるうえで役立ちます。

糖尿病が腎臓に与える負担

血糖値が高止まりすると血管が硬くなりやすく、腎臓内部のろ過機能を担う糸球体へ負荷がかかります。

微量アルブミン尿が見られる段階ではまだ自覚症状が乏しいため見過ごされがちですが、ここで気づくことができれば腎機能を保ちやすいです。

糖尿病と腎機能の負担要因

要因詳細
血糖値の持続的上昇糸球体が過度に働き続ける
血圧上昇腎臓の細小血管にダメージが蓄積
高タンパク質の食事を過度に摂取ろ過機能への過剰な負担
体液量の増加むくみや高血圧につながる

糖尿病性腎症とEGFR

糖尿病性腎症は糖尿病が原因で腎機能が低下する症状で合併症の中でも重篤化しやすいといわれています。

初期段階での変化は尿検査や血液検査で見つけにくいこともあるため、eGFRを定期的に確認して腎機能が低下していないかチェックすることが大切です。

早期発見と管理の大切さ

eGFRの低下が続くと最終的には人工透析の導入が必要となる可能性があります。

しかし、早い段階から糖尿病内科で適切な血糖値のコントロールや血圧管理、食事の見直しなどを行うことで腎機能をできるだけ維持することが期待できます。

  • 血糖値が高い状態が続くと腎臓に大きな負担がかかりやすい
  • 定期的にeGFRや尿検査をチェックすると変化を捉えやすい
  • 早期の食事指導・投薬調整は進行を遅らせるうえで役立つ
  • 小さな体調変化やむくみにも注意すると安心

EGFRが低い場合の原因とリスク

eGFRが低い状態は腎臓に何らかの負担がかかっている可能性を意味します。

糖尿病が関与しているケースもあれば、ほかの要因で腎機能が低下している場合もあるため原因を確認して適切な管理を行う必要があります。

腎臓への慢性の負荷

高血糖や高血圧などが慢性的に持続すると腎臓の血管にダメージが蓄積して糸球体ろ過機能が衰えやすくなります。

塩分やタンパク質の摂り過ぎ、喫煙なども腎臓への負担を高める要因となります。

EGFRが低下しやすい要素

要素具体例
長期的な高血糖糸球体の過剰労働
高血圧の放置血管の損傷が進行しやすい
過度の塩分摂取むくみや血圧上昇に直結
タンパク質の過剰摂取腎臓にとって過酷なろ過作業の継続
喫煙習慣血流が悪くなりやすい

血圧と食習慣の影響

食生活が乱れると高カロリー・高脂肪の食事や塩分の多い食事が増え、血圧や体重が上がりやすくなります。

高血圧は腎臓の血管を傷つける重大な要因となり、eGFRの値にも直結しやすいです。

また、外食や加工食品に含まれる塩分量が多い点にも注意が必要です。

生活習慣全般の見直し

運動不足や喫煙、過度の飲酒などの生活習慣も腎臓に負担をかけます。

特に肥満はインスリン抵抗性を高めて糖尿病のコントロールを乱しやすく、結果的にeGFR低下の要因となるケースが見られます。

健康診断や血液検査の数値が気になるときは一度トータルで生活習慣を振り返ることが必要です。

  • 塩分のとり過ぎは血圧を上げ腎臓に負担をかける
  • 喫煙は血管を傷つけ、ろ過機能の衰えを早める
  • 運動不足は体重増加や高血圧、糖尿病の悪化につながりやすい
  • 規則正しい生活リズムで腎臓への負担をやわらげられる

EGFRを保つための生活習慣

eGFRを安定させるには日々の生活習慣が非常に大切です。

血糖値や血圧を管理するだけでなく、食事のバランスや適度な運動などを意識すると腎機能の維持に役立ちます。

食事の工夫

糖尿病を抱える方は血糖値と腎臓双方に優しい食事内容を心がけると良いです。

具体的には以下のような点に注意すると腎臓への負担を減らせます。

血糖値と腎臓に配慮した食事

ポイント詳細
野菜を多めに摂取食物繊維が豊富で血糖値上昇を緩やかにする
適度なタンパク質過不足のない量を意識し、腎臓のろ過負担を抑える
塩分量を控える高血圧を防ぎ、腎機能への悪影響を軽減
良質な油脂の活用オリーブオイルや青魚の脂など、体によい脂質を選ぶ
水分摂取のバランスむくみ防止や排出促進に適度な水分補給

高タンパク食が流行する場合もありますが腎機能の指標であるeGFRが低下傾向にある人が過度のタンパク質を摂ると腎臓に大きな負荷がかかります。

医師や管理栄養士に相談しながら適切な量の摂取を意識してください。

運動習慣と身体活動

適度な運動は血糖値を安定させ、血液循環を改善して腎臓にも良い影響をもたらします。

週に数回、ウォーキングや軽い筋力トレーニングを行うだけでも違います。

ただし、無理をすると血糖値の変動が大きくなる可能性があるため体調や年齢に応じて運動強度を調節してください。

  • 1日30分程度のウォーキング
  • 筋力トレーニングは中負荷で10回程度を数セット
  • 水中ウォーキングやヨガなど関節に負担が少ない運動も良い
  • 血糖値の変動を把握しながら無理なく継続

水分摂取と休養

腎臓は血液中の老廃物をろ過して尿として排出するため一定量の水分が必要です。

体に負担がない範囲でこまめな水分補給を意識すると腎機能を維持しやすくなります。

一方、過度な水分摂取は心臓に負荷がかかる場合もあるため医療者の指示に従ってバランスを考えることが大切です。

毎日の生活習慣

項目理想的な目安注意点
睡眠時間6~7時間程度寝不足や睡眠の質の低下は血圧にも影響
水分補給1.2~1.5リットル/日(個人差あり)過度な摂取は浮腫や心臓への負担につながる
アルコール適量(ビール350ml/日程度)飲み過ぎは血圧や血糖値の制御を乱しやすい
ストレス対策趣味やマインドフルネスなどストレスホルモンが血圧・血糖値を上昇させやすい

糖尿病内科で行う検査と治療の流れ

糖尿病内科を受診すると血糖値だけでなく腎機能の状態を総合的に判断し、必要に応じて治療や生活指導を行います。

eGFRの経過を見ながら適切な薬剤の選択や合併症のチェックなどが行われるため、定期的な受診が予防や進行抑制に有効です。

定期的な血液検査とEGFR

糖尿病内科ではHbA1cや血糖値だけでなく定期的に血液検査を行い、クレアチニン値や尿タンパクなどからeGFRを算出します。

腎機能の変動を継続的に追うことで悪化の兆候を早めにつかみ、治療の方向性を調整できます。

合併症の検査

糖尿病による腎機能低下だけでなく、網膜症や神経障害など他の合併症の有無をチェックすることも重要です。

特に腎臓と目の病気(糖尿病性網膜症)は並行して進行するケースが多く、総合的な検査で早期発見を目指します。

  • 糖尿病性網膜症の検査:眼底検査や視力検査
  • 神経障害の検査:振動覚や触覚のテスト
  • 足病変のチェック:フットケア指導と定期観察

治療方針の立て方

eGFRが低下している場合は腎臓への負担を抑えるために降圧薬や血糖降下薬の選択を見直します。

糖尿病の治療薬にもさまざまな種類があり、腎機能に配慮した選び方が求められます。

また、食事指導や運動指導も合わせて行い、総合的に腎機能を守る体制を整えます。

糖尿病と腎臓に配慮した薬剤の例

薬剤の種類特徴注意点
SGLT2阻害薬尿中に余分な糖を排出し血糖値を下げる脱水に注意が必要なため水分バランスに配慮
ARB・ACE阻害薬血圧をコントロールし、糸球体の負担を軽減する低血圧や高カリウム血症になりやすい場合は要注意
DPP-4阻害薬血糖値上昇をゆるやかにする腎機能によって用量調整が必要な場合がある

自宅でできる腎機能の管理

医療機関での診察だけでなく、日常生活での取り組みも腎機能を守るうえで不可欠です。

特に高血糖や高血圧の管理をこまめに行うことでeGFRが低い状態への進行を遅らせやすくなります。

血圧測定と血糖測定の活用

自宅で血圧や血糖を測定する習慣をつけると数値の変動をリアルタイムに把握できます。

血圧計や血糖値測定器を活用して数値を記録すると医師との相談がスムーズに進み、治療方針を立てやすくなります。

  • 朝起きてすぐの血圧測定
  • 食前・食後の血糖値測定
  • 測定値を手帳やアプリで管理
  • 変動があれば食事や運動量を再確認

食事管理ツールの利用

カロリー計算や栄養素のバランスを手軽に管理できるスマートフォンアプリやサイトがあります。

面倒に感じやすい食事管理もこうしたツールを活用すると続けやすいです。

塩分やタンパク質量の把握にも役立つため腎機能の維持に直結します。

食事管理や数値管理に便利なツール

ツール名機能メリット
カロリー計算アプリバーコード読み取りや検索機能で簡単記録毎日の食事負担を軽減する
血糖値管理アプリ食事前後の血糖値や体重、運動量を記録可能数値の推移をグラフ化できる
栄養管理ソフトタンパク質・脂質・炭水化物の割合を確認食事内容の見直しに役立つ

早めの受診と医師とのコミュニケーション

腎機能の低下は自覚症状が出にくく、検査ではじめて発覚する場合が多いです。

少しでもむくみや倦怠感など気になる症状があるときは早めに医療機関を受診すると腎機能を損ないにくくなります。

医師に疑問をこまめに伝える姿勢も重要です。

病院・クリニックとの上手な連携

糖尿病内科など専門的な診療科で定期的に検査を受けながら普段の生活習慣を改善していく流れは腎機能を維持するうえで効果的です。

相談しやすい医療機関を見つけておくと何かあったときに安心できます。

専門医への相談タイミング

eGFRの値が下がりはじめた段階で腎臓内科や糖尿病内科に相談すると早期から具体的な治療を開始しやすいです。

血圧のコントロールや食事療法など、ひとりで管理しきれない部分をサポートしてもらえます。

専門医に相談を考えるタイミング

タイミング具体例
血圧が安定しない薬を飲んでいても高血圧が続く
血糖値が変動大食事制限や運動を行っても血糖値が乱れやすい
尿検査で異常発見微量アルブミン尿や血尿などの所見が出た
eGFRが低い値まで低下60未満に下がった、または急激に下がりつつある

クリニック受診のメリット

大きな総合病院だけでなく、地域のクリニックや糖尿病内科でもeGFRや血糖のチェックを定期的に行えます。

予約が取りやすく、気軽に通院できる点はストレスを減らすメリットです。主治医に細かい質問をしやすい環境も治療を円滑に進めるために大切です。

  • 通院間隔を柔軟に調整しやすい
  • こまめな検査で腎機能の変化を早めに捉えられる
  • 生活指導や投薬調整を気軽に相談できる
  • 総合病院と連携しているクリニックも多く安心

受診前に準備したいポイント

医療機関を受診する際に普段の食事内容や血圧・血糖値の測定記録を持参すると医師が具体的なアドバイスをしやすくなります。

薬の内服状況や運動習慣なども詳細に伝えると診察がスムーズに進みやすいです。

受診時に持っていくと便利な持ち物

持ち物利点
血糖値・血圧記録帳変動のパターンを把握してもらいやすい
食事記録や写真塩分やカロリーなどの改善点が明確になる
内服薬の一覧表重複処方や相互作用の確認が可能
検査結果・紹介状連携している医療機関なら情報共有が容易

以上

参考にした論文