健康診断の結果で「eGFR(推算糸球体濾過量)が低い」と指摘されたことはありませんか?

eGFRの低下は腎臓の働きが悪くなっている、つまり「腎機能低下」のサインかもしれません。

腎臓は私たちの体にとって非常に重要な臓器ですが、その機能は静かに低下していくため、気づいたときにはかなり進行していることも少なくありません。

この記事ではeGFRとは何か、腎機能が低下する原因、放置するリスク、そして大切な腎臓を守るために今日からできる予防対策について糖尿病内科の視点も踏まえて詳しく解説します。

目次

EGFR低下とは?腎臓のSOSサインを理解する

まず、eGFRという指標が何を示しているのか、そしてそれがなぜ腎臓からのSOSサインと言えるのかを理解しましょう。

eGFR(推算糸球体濾過量)とは何か

eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate:推算糸球体濾過量)とは、腎臓が血液をどれくらいきれいにろ過できているかを示す指標です。

腎臓の中には糸球体というフィルターのような役割をする小さな組織がたくさんあり、ここで血液中の老廃物や余分な水分をこし取って尿として排泄しています。

eGFRはこの糸球体が1分間にろ過できる血液の量を年齢や性別、血液中のクレアチニン値から計算式で推算したものです。

健康な人のeGFRは90mL/分/1.73m²以上とされています。

腎臓の基本的な働き

腎臓は単に尿を作るだけでなく、私たちの体内で様々な重要な役割を担っています。

腎臓の主な働き

  • 老廃物の排泄(尿の生成)
  • 体内の水分量・電解質バランスの調節
  • 血圧の調節(ホルモンの分泌)
  • 赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)の産生
  • ビタミンDの活性化(骨を丈夫にする)

これらの働きが低下すると体に様々な不調が現れます。

eGFR低下が意味すること

eGFRの値が低いということは腎臓のろ過機能が低下している、つまり腎臓の働きが悪くなっていることを意味します。

一般的にeGFRが60mL/分/1.73m²未満の状態が3ヶ月以上続くと「慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)」と診断されます。

eGFRの値が低いほど、腎機能はより低下していると評価します。

eGFR値による腎機能の目安

eGFR (mL/分/1.73m²)腎機能の評価CKDステージ(目安)
90以上正常または高値G1
60~89正常または軽度低下G2
45~59軽度~中等度低下G3a
30~44中等度~高度低下G3b
15~29高度低下G4
15未満末期腎不全G5

※CKDの診断はeGFRだけでなく、タンパク尿などの腎障害の有無も考慮します。

なぜeGFR低下に気づくことが大切か

腎機能はある程度低下するまで自覚症状が現れにくい「沈黙の臓器」とも言われます。

そのため、eGFRのような客観的な指標で早期に腎機能の低下に気づき、適切な対策を講じることが、将来の深刻な腎臓病への進行を防ぐために非常に重要です。

EGFRの低下は、腎臓からの大切なメッセージなのです。

腎機能低下のサイン eGFR低下以外の症状

eGFRの低下以外にも腎機能が悪化すると体に様々なサインが現れることがあります。

ただし、初期には症状が出にくいことを覚えておきましょう。

初期には自覚症状が乏しい

腎臓は予備能力が高いため、機能が半分程度に低下してもほとんど自覚症状がないことが多いです。

健康診断などで偶然eGFRの低下やタンパク尿を指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。これが腎臓病の発見を遅らせる一因となっています。

進行すると現れる症状

腎機能の低下がさらに進行すると以下のような症状が現れることがあります。

腎機能低下が進行した場合の主な症状

  • むくみ(特に顔や足)
  • 体がだるい、疲れやすい(倦怠感)
  • 食欲不振、吐き気
  • 息切れ、動悸
  • 皮膚のかゆみ
  • 貧血症状(めまい、顔面蒼白など)

尿の変化に注意

腎機能低下のサインは尿にも現れることがあります。

注意したい尿の変化

尿の変化考えられること
尿が泡立つ(特に消えにくい泡)タンパク尿の可能性
血尿(尿が赤い、コーラ色など)腎臓や尿路からの出血の可能性
夜間に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)腎臓の濃縮力低下の可能性
尿量が極端に減る、または増える腎機能異常の可能性

その他の注意すべき体の変化

高血圧も腎機能低下と深く関連しています。腎臓が悪くなると血圧が上がりやすくなり、逆に高血圧が続くと腎臓に負担がかかり機能が悪化するという悪循環に陥ることがあります。

また、骨がもろくなったり(腎性骨症)、電解質バランスが崩れたりすることもあります。

eGFRが低下する主な原因

腎機能が低下し、eGFRが低くなる原因は様々ですが、代表的なものをいくつか紹介します。

糖尿病(糖尿病性腎症)

糖尿病は腎機能低下の最も大きな原因の一つです。長期間高血糖の状態が続くと、腎臓の糸球体の毛細血管が障害され、ろ過機能が徐々に低下していきます。

これを「糖尿病性腎症」と呼び、進行すると末期腎不全に至り、人工透析が必要となることがあります。糖尿病患者さんは定期的な腎機能検査が非常に重要です。

高血圧(腎硬化症)

高血圧も腎機能低下の主要な原因です。血圧が高い状態が続くと腎臓の血管に常に強い圧力がかかり、血管が硬く狭くなる「動脈硬化」が進行します。

このため腎臓への血流が悪くなり、腎機能が低下します。これを「腎硬化症」と呼びます。

慢性糸球体腎炎

糸球体に慢性的な炎症が起こる病気の総称です。IgA腎症などが代表的でタンパク尿や血尿が持続し、徐々に腎機能が低下していくことがあります。

原因不明なものや、免疫系の異常が関与しているものなど様々です。

加齢やその他の要因

加齢とともに生理的に腎機能は徐々に低下していく傾向があります。

その他にも薬剤の副作用(鎮痛薬の長期大量服用など)、多発性嚢胞腎といった遺伝性の病気、膠原病、尿路結石や前立腺肥大による尿路の閉塞なども腎機能低下の原因となることがあります。

eGFR低下の主な原因まとめ

原因簡単な説明
糖尿病性腎症糖尿病による高血糖が原因で腎臓の血管が障害される
腎硬化症高血圧により腎臓の動脈硬化が進行する
慢性糸球体腎炎糸球体に慢性的な炎症が起こる
薬剤性腎障害特定の薬剤の副作用で腎機能が悪化する

eGFR低下を放置するリスク 慢性腎臓病(CKD)とは

eGFRの低下を放置すると慢性腎臓病(CKD)が進行し、様々な深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。

慢性腎臓病(CKD)とは?

CKDは「腎臓の障害(タンパク尿など)」または「eGFR(腎機能)の低下(60mL/分/1.73m²未満)」のいずれか、あるいは両方が3ヶ月以上持続する状態と定義されます。

日本の成人のおよそ8人に1人がCKD患者と推計されており、新たな国民病とも言われています。

末期腎不全と腎代替療法(人工透析・腎移植)

CKDが進行し、腎機能が著しく低下すると(eGFRが15mL/分/1.73m²未満など)、体内に老廃物や余分な水分がたまり、尿毒症の症状(吐き気、食欲不振、呼吸困難、意識障害など)が現れます。

この状態を「末期腎不全」といい、生命を維持するためには失われた腎臓の機能を代替する治療(腎代替療法)が必要になります。

腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植があります。

心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中)のリスク上昇

CKDは心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の強力な危険因子であることがわかっています。腎機能が低下すると動脈硬化が進行しやすくなったり、血圧が上昇しやすくなったりするためです。

CKD患者さんは心血管疾患で亡くなるリスクが健康な人よりも高いことが報告されています。

その他の全身への影響

腎機能の低下は腎臓以外の全身の臓器にも影響を及ぼします。

CKDによる全身への影響例

  • 貧血(エリスロポエチンの産生低下)
  • 骨疾患(ビタミンDの活性化障害、カルシウム・リン代謝異常)
  • 電解質異常(カリウム、ナトリウムなど)
  • 栄養障害
  • 免疫力低下

腎機能低下の検査と診断 eGFRの評価方法

腎機能の低下を早期に発見し、適切に評価するためにはどのような検査が行われるのでしょうか。

血液検査 血清クレアチニン値とeGFR

最も基本的な検査は血液検査です。血液中の「クレアチニン」という老廃物の濃度を測定します。

クレアチニンは筋肉で作られ、主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると血液中に蓄積し、血清クレアチニン値が上昇します。

この血清クレアチニン値と年齢、性別を用いてeGFRを計算して腎機能を評価します。

尿検査 タンパク尿や血尿の有無

尿検査も腎機能評価に重要な検査です。健康な人の尿にはタンパク質はごく微量しか含まれませんが、腎臓のフィルター機能が障害されると尿中にタンパク質が漏れ出てきます(タンパク尿)。

タンパク尿は腎機能低下の早期のサインであり、また腎機能悪化の危険因子でもあります。血尿(尿潜血)の有無も確認します。

画像検査(超音波検査、CT検査など)

腎臓の形や大きさ、結石や腫瘍の有無、尿路の閉塞などを調べるために腹部超音波(エコー)検査やCT検査などの画像検査を行うことがあります。

多発性嚢胞腎などの診断にも役立ちます。

腎生検(必要な場合)

慢性糸球体腎炎など腎臓の病気の原因を詳しく調べるために腎臓の組織の一部を採取して顕微鏡で観察する「腎生検」という検査を行うことがあります。

診断を確定し、治療方針を決定する上で重要な情報が得られますが、入院が必要な専門的な検査です。

腎機能評価のための主な検査

検査の種類主な目的・わかること
血液検査血清クレアチニン値、eGFR、尿素窒素(BUN)、電解質など
尿検査タンパク尿、血尿、尿糖、尿比重、尿沈渣など
画像検査腎臓の形態異常、結石、腫瘍、血流評価など

今日からできる!腎機能低下の予防と進行を遅らせる対策

大切な腎臓を守り、腎機能の低下を防ぐためには日頃からの生活習慣が非常に重要です。予防対策を意識しましょう。

生活習慣の改善が基本

腎機能低下の予防や進行抑制にはバランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、禁煙、ストレス管理といった健康的な生活習慣が基本となります。

特に糖尿病や高血圧といった生活習慣病は腎機能低下の大きな原因となるため、これらの病気の予防と管理が重要です。

食事療法のポイント

腎機能に応じた食事療法は腎臓への負担を軽減し、進行を遅らせるために大切です。

腎臓を守る食事の基本

  • 減塩:塩分の摂りすぎは血圧を上昇させ、腎臓に負担をかけます。1日の塩分摂取量は6g未満を目指しましょう。
  • タンパク質の適切な管理:タンパク質の摂りすぎは腎臓で老廃物として処理されるため負担となります。ただし、極端な制限は栄養不足を招くため、医師や管理栄養士の指導のもとで適切な量を摂取することが重要です。
  • カリウムの管理(必要な場合):腎機能が低下するとカリウムが体内にたまりやすくなるため医師の指示によりカリウム制限が必要な場合があります。
  • 適切な水分摂取:脱水は腎臓に負担をかけるため適度な水分補給を心がけましょう。ただし、心不全や高度な腎機能低下がある場合は水分制限が必要なこともあります。

適度な運動と体重管理

適度な運動は血圧や血糖値のコントロールを助けて肥満を予防・改善し、腎機能保護にもつながります。ウォーキングなどの有酸素運動を無理のない範囲で継続しましょう。

肥満は腎臓に負担をかけるため、適正体重の維持も大切です。

禁煙と節度ある飲酒

喫煙は血管を収縮させ、腎臓への血流を悪化させるため、腎機能低下の危険因子です。禁煙は腎臓を守るために非常に重要です。

アルコールの飲み過ぎも血圧上昇や中性脂肪増加の原因となり、間接的に腎臓に負担をかけるため、適量を守りましょう。

血圧・血糖コントロールの重要性

高血圧や糖尿病は腎機能低下の二大原因です。

これらの病気をお持ちの方は医師の指導のもと、血圧や血糖値を良好にコントロールすることが、腎臓を守る上で最も重要です。

定期的な受診と服薬の継続、生活習慣の改善を徹底しましょう。

腎機能保護のための生活習慣目標

項目具体的な目標・行動
食事減塩(1日6g未満)、タンパク質・カリウムは医師の指示に従う
運動週に150分程度の有酸素運動、適正体重の維持
その他禁煙、節酒、十分な睡眠、ストレス管理
基礎疾患管理血圧・血糖値の良好なコントロール

糖尿病患者さんの腎機能管理 EGFR低下への特別な注意

糖尿病患者さんにとって腎機能の管理は合併症予防の観点から非常に重要です。

EGFR低下のサインを見逃さず、早期から対策を講じましょう。

糖尿病性腎症の進行段階と特徴

糖尿病性腎症は初期には自覚症状がなく、尿検査で微量のアルブミン尿(タンパク尿の一種)が検出されることから始まります。

進行すると持続的なタンパク尿となり、eGFRが低下していきます。早期の段階で適切な治療介入を行うことで、進行を遅らせることが可能です。

定期的な検査と早期発見の重要性

糖尿病患者さんは自覚症状がなくても定期的に尿検査(アルブミン尿・タンパク尿)と血液検査(血清クレアチニン・eGFR)を受け、腎機能の状態をチェックすることが大切です。

年に1回以上の検査が推奨されます。早期発見・早期治療が、将来の透析導入を防ぐ鍵となります。

血糖コントロールと血圧管理の徹底

糖尿病性腎症の進行を抑えるためには厳格な血糖コントロール(HbA1cの目標値を達成する)と、適切な血圧管理(目標血圧を達成する)が最も重要です。

医師の指示に従い、食事療法、運動療法、薬物療法をしっかりと行いましょう。

薬物療法 SGLT2阻害薬やRAS阻害薬の役割

近年、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬や血圧降下薬であるRAS阻害薬(ACE阻害薬、ARB)には血糖降下作用や血圧降下作用に加えて、腎保護作用があることがわかってきました。

これらの薬剤は糖尿病性腎症の進行抑制や心血管イベントの予防効果が期待され、早期から使用されることが増えています。

ただし、副作用や使用上の注意点もあるため、必ず医師の指示のもとで使用します。

よくある質問

eGFR低下や腎機能に関する疑問についてお答えします。

Q
eGFRが一度低下したら、もう元には戻らないのですか?
A

急性の腎障害(薬剤性、脱水など)であれば原因を取り除くことで腎機能が回復することもあります。

しかし、慢性腎臓病(CKD)のように、長期間かけて徐々に低下した腎機能は、完全に元に戻すことは難しい場合が多いです。

ただし、適切な治療と生活習慣の改善により進行を遅らせたり、現状を維持したりすることは十分に可能です。早期発見と早期対策が重要です。

Q
腎臓に良い食べ物やサプリメントはありますか?
A

特定の食品やサプリメントが腎機能を劇的に改善するという科学的根拠は乏しいのが現状です。

むしろ、腎機能が低下している場合に特定の栄養素(カリウムやリンなど)を過剰に摂取すると、かえって体に悪影響を及ぼすこともあります。

バランスの取れた食事を基本とし、医師や管理栄養士の指導のもとで個々の状態に合わせた食事療法を行うことが大切です。

腎機能低下予防対策としては、まず減塩を心がけましょう。

Q
運動は腎臓に負担をかけますか?
A

適度な運動は血圧や血糖値のコントロールを助け、肥満を改善するなど腎機能保護に良い影響を与えると考えられています。

ただし、非常に激しい運動や脱水状態での運動は腎臓に負担をかける可能性があります。また、重度の腎機能障害がある場合は運動制限が必要なこともあります。

運動を始める前や運動内容については必ず主治医に相談しましょう。

Q
薬の副作用で腎機能が悪くなることはありますか?
A

はい、一部の薬剤には腎機能に影響を与える副作用があるものがあります。

例えば一部の鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)の長期大量服用や、造影剤、一部の抗菌薬などが挙げられます。

複数の医療機関を受診している場合や市販薬を使用する場合は必ず医師や薬剤師に現在服用中の薬を伝え、相談するようにしましょう。お薬手帳の活用も有効です。

以上

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