「糖尿病だから、大好きなアイスはもう食べられない…」と諦めていませんか。
暑い日や食後のデザートに、冷たくて甘いアイスは格別です。糖尿病の食事療法において糖質の管理はとても重要ですが、正しい知識を持って種類や量、食べるタイミングを工夫すれば、アイスを楽しむことも十分に可能です。
この記事では、血糖値の変動を穏やかにしながら上手にアイスと付き合っていくための具体的な方法を分かりやすく解説します。
ご自身の身体と相談しながら、生活の中に甘い楽しみを取り入れていきましょう。
糖尿病とアイスクリームの関係性
糖尿病を抱える方にとって、食事は日々の血糖コントロールに直結する重要な要素です。中でも砂糖を多く含む甘いお菓子は特に注意が必要な食品群といえます。
アイスクリームもその一つであり、食べる際にはその特性をよく理解しておくことが大切です。
なぜアイスは血糖値を上げやすいのか
アイスクリームが血糖値を上昇させやすい主な理由は、主成分である「糖質」にあります。
特に砂糖や果糖ぶどう糖液糖といった単純糖質は体内で素早く消化吸収され、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)を急激に引き上げます。
また、冷たい食べ物は満腹感を得にくく、つい食べ過ぎてしまう傾向がある点も血糖コントロールを難しくする一因となります。
血糖値スパイクとは何か
食後に血糖値が急上昇し、その後急降下する現象を「血糖値スパイク」と呼びます。
この血糖値の乱高下は血管に大きなダメージを与え、糖尿病の合併症である動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などのリスクを高めることが知られています。
糖質が多いアイスクリームを空腹時に一気に食べると血糖値スパイクを引き起こしやすくなるため、食べ方には十分な配慮が必要です。
糖尿病患者がアイスを食べる上での注意点
糖尿病の方がアイスを食べる際には、まずご自身の血糖値の状態を把握し、主治医や管理栄養士に相談することが重要です。
その上で、「何を」「どれだけ」「いつ」食べるかを計画的に考える習慣をつけましょう。
自己判断で食事制限を緩めたり、逆に厳しくしすぎたりすることは、血糖コントロールの乱れにつながります。
血糖値が上がりにくいアイスの選び方
スーパーやコンビニエンスストアには多種多様なアイスが並んでいますが、成分をよく見て選ぶことで血糖値への影響を抑えることが可能です。
パッケージの裏側にある栄養成分表示を確認する習慣をつけましょう。
栄養成分表示のチェックポイント
アイスを選ぶ際に最も重視したいのが「炭水化物」または「糖質」の量です。炭水化物は糖質と食物繊維を合わせたものなので、両方が記載されている場合は「糖質」の数値を見ます。
1日の間食の糖質量は10g程度が目安とされています。この数値を基準に、ご自身の食事計画に合わせて調整しましょう。
栄養成分表示で確認する項目
項目 | チェックする内容 | 目安 |
---|---|---|
エネルギー(kcal) | 総摂取カロリーの管理 | 100~150kcal以内 |
炭水化物・糖質(g) | 血糖値に直接影響する量 | 10g前後 |
脂質(g) | 糖の吸収を緩やかにするが、カロリーは高い | 種類による |
糖質の少ないアイスの種類
最近では健康志向の高まりから、糖質を抑えたアイスクリームも多く販売されています。
「糖質オフ」「低糖質」と表示のある製品は砂糖の代わりに血糖値を上げにくい甘味料を使用しているため、選択肢の一つとして有効です。
また、乳脂肪分が高い濃厚なアイスクリームは脂質が糖の吸収を遅らせるため、ラクトアイスなどと比較して血糖値の上昇が緩やかになる傾向があります。
脂質や食物繊維を含むアイスの利点
脂質は消化吸収に時間がかかるため、糖質と同時に摂取すると、糖の吸収速度を緩やかにする働きがあります。このことにより、食後の血糖値の急上昇を抑える効果が期待できます。
同様に、ナッツや大豆製品など食物繊維が豊富な素材を使ったアイスも、血糖値の安定に役立ちます。ただし、脂質はカロリーが高いため、食べる量には注意が必要です。
人工甘味料を使ったアイスについて
糖質オフのアイスに使われることが多い人工甘味料は、砂糖の代替品としてカロリーを抑えながら甘みを加えることができます。
血糖値にほとんど影響を与えないものが多いため、糖尿病の食事療法では有用な選択肢です。
ただし、製品によっては特有の風味があるものや、一度に多量に摂取するとお腹が緩くなるものもあるため、ご自身に合ったものを見つけることが大切です。
アイスの種類別 血糖値への影響比較
アイスは「乳及び乳製品の成分規格に関する省令」に基づき、含まれる乳固形分と乳脂肪分の割合で分類されます。この分類によっても、血糖値への影響は変わってきます。
ラクトアイス・アイスミルク・アイスクリームの違い
一般的に、乳脂肪分が高いほど価格も高くなりますが、脂質が糖の吸収を緩やかにするため、血糖値の観点からは「アイスクリーム」に分類されるものが比較的おすすめです。
「ラクトアイス」は乳脂肪分が少なく、植物性脂肪で補っていることが多く、さっぱりした口当たりですが、製品によっては糖質が高めの場合があるので成分表示を確認しましょう。
アイスの種類別 乳成分の規格
種類別 | 乳固形分 | うち乳脂肪分 |
---|---|---|
アイスクリーム | 15.0%以上 | 8.0%以上 |
アイスミルク | 10.0%以上 | 3.0%以上 |
ラクトアイス | 3.0%以上 | 規定なし |
シャーベットやかき氷は本当にヘルシーか
乳脂肪分を含まないシャーベットやかき氷は、一見カロリーが低く健康的に思えるかもしれません。しかし、その甘さの主成分は砂糖や果糖などの糖質です。
特にシロップがたっぷりかかったかき氷は吸収の速い糖質のかたまりであり、血糖値を急激に上昇させるリスクが非常に高い食品です。
果汁100%のシャーベットも果物に含まれる果糖が多いため、注意が必要です。
氷菓の糖質量に注意
氷菓の例 | 主な糖質源 | 血糖値への影響 |
---|---|---|
かき氷(シロップ) | 砂糖、果糖ぶどう糖液糖 | 非常に上がりやすい |
フルーツシャーベット | 果糖、砂糖 | 上がりやすい |
シンプルな氷菓 | 砂糖 | 製品による |
ソフトクリームとカップアイスの比較
ソフトクリームはカップアイスと比較して、空気を多く含んでいるため口当たりが軽く、同じ量でも満腹感を得やすいかもしれません。しかし、コーンの部分も糖質であるため、総糖質量は多くなりがちです。
カップアイスであれば量を調整しやすく、残りを保存することも可能です。血糖コントロールの観点からは、食べる量を正確に把握できるカップアイスの方が管理しやすいでしょう。
食べるタイミングと量の工夫
血糖値への影響を最小限にするためには、何を食べるかだけでなく、「いつ」「どれだけ」食べるかも極めて重要です。
ここでは、アイスを食べる際の具体的な工夫について見ていきましょう。
1日に食べてよい量の目安
糖尿病の食事療法では、間食による摂取エネルギーは1日の指示エネルギーの10%以内、糖質量は10g程度が望ましいとされています。これは、市販のミニカップアイスであれば半分から1個程度に相当します。
商品の栄養成分表示を必ず確認し、食べ過ぎないように注意しましょう。「少しだけ」と決めて、小さな器に取り分けて食べるのがおすすめです。
食べる量の目安
種類 | 1回の目安量 | 糖質量の目安 |
---|---|---|
ミニカップアイス | 半分~1個 | 10g前後 |
箱入りマルチパック | 1本 | 10g前後 |
通常サイズのカップ | 1/3~半分 | 量を調整 |
食べるのに適した時間帯
アイスを食べる時間帯として推奨されるのは、日中の活動量が多い時間帯、特に午後2時から3時頃です。
この時間帯は体温が最も高く、代謝が活発であるため、摂取したエネルギーが消費されやすいと考えられています。
逆に活動量が少なくなる夜遅い時間帯に食べると、エネルギーとして消費されずに脂肪として蓄積されやすく、翌朝の血糖値にも影響を与える可能性があるため避けましょう。
食後すぐに食べるのは避けるべきか
食後すぐにデザートとしてアイスを食べると、食事で上昇した血糖値にさらに糖質が上乗せされ、著しい高血糖を招く恐れがあります。
食事とアイスの間は少なくとも2〜3時間あけるのが理想です。食後の血糖値が落ち着いた頃に間食として摂ることで、血糖値の急激な変動を避けることができます。
運動との組み合わせ方
もしアイスを食べるのであれば、その前後に軽い運動を取り入れると、血糖値の上昇を抑えるのに効果的です。
例えば、アイスを食べる前に10〜15分程度のウォーキングをする、あるいは食べた後に散歩や軽い家事をするなど、体を動かす習慣をつけましょう。
筋肉がブドウ糖を消費してくれるため、血糖値の安定につながります。
- 食前の軽いウォーキング
- 食後の散歩
- 軽いストレッチや筋トレ
血糖値の上昇を緩やかにする食べ合わせ
アイスを単体で食べるのではなく、他の食品と組み合わせることで、血糖値の上昇をより緩やかにすることが可能です。
ここでは、美味しく、かつ身体にやさしい食べ合わせの工夫を紹介します。
ナッツ類や乳製品と一緒に
アーモンドやクルミなどのナッツ類には、良質な脂質と食物繊維が豊富に含まれています。これらは糖の吸収を遅らせる働きがあるため、砕いたナッツをアイスにトッピングするのは非常におすすめです。
また、無糖のヨーグルトや牛乳と一緒に摂るのも良い方法です。乳製品に含まれるたんぱく質や脂質が、同様に血糖値の急上昇を抑えてくれます。
おすすめのトッピング
食品 | 期待できる効果 | 注意点 |
---|---|---|
アーモンド、クルミ | 食物繊維、脂質 | 無塩のものを選ぶ |
無糖ヨーグルト | たんぱく質、脂質 | プレーンタイプを選ぶ |
きな粉 | 食物繊維、たんぱく質 | かけすぎに注意 |
温かい飲み物との組み合わせ
冷たいアイスを食べると胃腸の働きが鈍り、消化吸収のバランスが崩れることがあります。
無糖の温かいお茶やハーブティー、ブラックコーヒーなどを一緒に飲むと、胃腸への負担を和らげることができます。身体を温めることで代謝の低下を防ぐ効果も期待できます。
避けるべきトッピングやソース
一方で、血糖値をさらに上げてしまうトッピングには注意が必要です。チョコレートソース、キャラメルソース、フルーツソース、あんこ、甘いシリアルなどは糖質が非常に多いため避けましょう。
- チョコレートソース
- キャラメルソース
- あんこ
- 加糖シリアル
せっかく糖質を気にしてアイスを選んでも、これらのトッピングで台無しになってしまいます。
甘みを足したい場合は、シナモンパウダーなど風味があり、糖質を含まないスパイスを活用するのがおすすめです。
手作りアイスのすすめ
市販品では好みのものが見つからない場合や、より厳密に糖質を管理したい場合には、アイスを手作りするのも一つの方法です。自分で材料を選べるため、安心して食べることができます。
糖質を抑えた手作りアイスの利点
手作りアイスの最大の利点は、甘味料を自分で選べることです。
砂糖の代わりに血糖値に影響しない天然由来の甘味料(ラカント、エリスリトールなど)を使えば、糖質を大幅にカットできます。
また、生クリームや無調整豆乳、ヨーグルトなどをベースにすることで、たんぱく質や脂質を調整し、より血糖値が上がりにくいオリジナルアイスを作ることが可能です。
手作りアイスの材料例
ベース | 甘味料 | 風味付け |
---|---|---|
生クリーム、牛乳 | ラカント | 純ココア、バニラエッセンス |
無糖ヨーグルト | エリスリトール | 冷凍ベリー(少量) |
無調整豆乳 | ステビア | きな粉、抹茶 |
簡単な手作りアイスのレシピ紹介
特別な機械がなくても、材料を混ぜて冷凍庫で冷やすだけで簡単に作れるレシピはたくさんあります。
例えば、泡立てた生クリームに甘味料とバニラエッセンスを混ぜ、保存袋に入れて冷凍庫で揉みながら冷やし固めるだけで、濃厚なバニラアイスが完成します。
凍らせたバナナやアボカドをフードプロセッサーにかける方法も手軽でおいしいです。
手作りする際の甘味料の選び方
糖尿病の方が使用できる甘味料には様々な種類があります。エリスリトールやラカントSなどは、カロリーゼロで血糖値に影響を与えないため、調理によく使われます。
それぞれ甘みの質や特徴が異なるため、いくつか試してみて、ご自身の好みに合うものを見つけると良いでしょう。
使用量は製品の指示に従ってください。
糖尿病のアイスに関するよくある質問
最後に、患者様からよく寄せられる糖尿病とアイスに関する質問とその回答をまとめました。
- Q糖尿病予備群でもアイスは控えるべきですか?
- A
糖尿病予備群(境界型糖尿病)と診断された方は、本格的な糖尿病への進行を防ぐために生活習慣の見直しが重要です。
アイスを完全に断つ必要はありませんが、食べる頻度や量には注意が必要です。糖質の多い食生活はインスリンの働きを悪くする原因になります。
この記事で紹介したような糖質の少ないものを選び、量を決めて食べる習慣を今のうちから身につけることが大切です。
- Q低糖質アイスなら毎日食べても大丈夫ですか?
- A
「低糖質」や「糖質オフ」と表示されていても、カロリーや脂質がゼロというわけではありません。
毎日食べる習慣がついてしまうと総摂取エネルギーが増え、体重増加につながる可能性があります。体重管理も血糖コントロールには不可欠です。
アイスはあくまで嗜好品と捉え、「特別な日のご褒美」などとして、頻度を決めて楽しむのが望ましいでしょう。
間食との付き合い方
ポイント 具体的な行動 頻度を決める 週に1~2回などルールを作る 量を守る 栄養成分表示を確認し、食べ過ぎない 記録をつける 食べたものを記録し、血糖値との関係を見る
- Q子供が糖尿病の場合、アイスはどうすればよいですか?
- A
お子様が1型糖尿病などの場合、食事療法は成長や発達も考慮する必要があるため、より専門的な管理が求められます。
アイスなどのおやつについても、主治医や管理栄養士の指導のもとでインスリンの単位数と糖質量(カーボカウント)を計算しながら与えることが基本となります。
家族や学校と情報を共有し、みんなでサポートする体制を整えることが重要です。
- Q外食でアイスを選ぶ際のポイントはありますか?
- A
レストランやカフェでデザートを選ぶ際は栄養成分が分からないことが多いため、より慎重な判断が求められます。
- シンプルなバニラアイスを選ぶ(ソースやトッピングが少ないもの)
- セットのデザートは量を半分にしてもらうかシェアする
- パフェなど複数の甘いものが組み合わさったものは避ける
これらの点を心がけるだけでも、血糖値への影響を減らすことができます。
もし血糖値測定器をお持ちであれば、外食時のデータを記録しておくと次からのメニュー選びの参考になります。
糖尿病との付き合いは長期戦です。上手に息抜きを取り入れながら、無理なく治療を続けていきましょう。
以上
参考にした論文
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