朝食の定番である食パン。手軽で美味しいため、毎日のように食べている方も多いでしょう。

しかし、糖尿病の方や血糖値が気になる方にとって、食パン1枚に含まれる糖質量は気になるところです。「パンは血糖値が上がりやすいから」と、食べるのを我慢していませんか。

実は、食パンも種類や食べ方を工夫することで血糖値の上昇を穏やかにし、上手に食事療法に取り入れることが可能です。

この記事では食パン1枚の糖質量から血糖値を上げにくい食べ方のコツまで、専門医が詳しく解説します。

食パン1枚の糖質量と血糖値への影響

まずは私たちが普段食べている食パンに、どのくらいの糖質が含まれているのかを正しく知りましょう。

食パンの種類別(6枚切り・8枚切り)の糖質量

食パンの糖質量は厚さによって異なります。一般的に、6枚切り1枚(約60g)あたりの糖質は約27g、8枚切り1枚(約45g)では約20gです。これは角砂糖に換算すると6枚切りで約7個分に相当します。

思った以上に多くの糖質が含まれていることがわかります。

食パンの厚さ別 糖質量(1枚あたり)

種類重量の目安糖質量の目安
6枚切り約60g約27g
8枚切り約45g約20g
5枚切り約72g約32g

なぜ食パンは血糖値が上がりやすいのか

食パンの主原料である小麦粉は、細かく精製された炭水化物です。そのため消化吸収が速く、食後の血糖値を急激に上昇させやすいという特徴があります。

血糖値の上がりやすさを示す指標である「GI値」も、白米より高い傾向にあります。

この食後の血糖値の急上昇(血糖値スパイク)が、血管にダメージを与え、糖尿病の合併症を進める原因となります。

ごはん一杯分との糖質量の比較

主食として比較されるごはんの場合、お茶碗に軽く一杯(約150g)あたりの糖質量は約55gです。

一見、ごはんの方が多いように見えますが、6枚切りの食パンを2枚食べると糖質量は約54gとなり、ごはんとほぼ同等になります。

食べる量や組み合わせを考えないと、パン食はごはん食以上に糖質を摂りすぎてしまう可能性があります。

糖尿病食事療法の基本と血糖値スパイク

食パンの食べ方を考える前に、なぜ糖尿病の食事療法で糖質の管理が重要なのか、基本をおさらいしましょう。

血糖値スパイクが血管を傷つける

血糖値スパイクとは食後に血糖値が急激に上昇し、その後急降下する現象です。この血糖値の激しい変動は血管の内壁を傷つけ、動脈硬化を進行させます。

このことにより、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる合併症のリスクが高まります。食事療法は、この血糖値スパイクを防ぐことが大きな目標の一つです。

1食あたりの糖質量の目安

糖尿病の食事療法では、1食あたりの糖質量をコントロールすることが推奨されます。

体格や活動量によって異なりますが、一般的には1食あたり20g〜40g、1日で70g〜130g程度が目安とされます。

食パン1枚でも、この目安量のかなりの部分を占めることがわかります。

主食の糖質量比較

主食の種類1食分の目安糖質量の目安
食パン(6枚切り)1枚(60g)約27g
ごはんお茶碗小盛り(100g)約37g
うどん(ゆで)1玉(200g)約41g

糖質の種類と「GI値」

同じ糖質量でも、食品によって血糖値の上がりやすさは異なります。その指標が「GI(グリセミック・インデックス)値」です。

GI値が高い食品ほど食後血糖値が急上昇しやすく、低い食品ほど穏やかに上昇します。糖尿病の食事療法では、低GIの食品を選ぶことが推奨されます。

血糖値を上げにくい食パンの選び方

食パンを選ぶ際に少し工夫するだけで血糖値のコントロールはしやすくなります。スーパーやパン屋さんで選ぶ際のポイントを紹介します。

全粒粉パンやライ麦パンを選ぶ

白い食パンの代わりに全粒粉やライ麦を多く含むパンを選びましょう。これらのパンは精製された小麦粉に比べて食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富です。

食物繊維は糖の吸収を穏やかにするため、食後の血糖値上昇を緩やかにする効果が期待できます。

  • 全粒粉パン
  • ライ麦パン
  • ブランパン(ふすまパン)

食物繊維が豊富な「ブランパン」

ブランとは、小麦の外皮部分である「ふすま」のことです。このブランを配合したパンは「ブランパン」や「ふすまパン」と呼ばれ、糖質が低い上に食物繊維が非常に豊富です。

コンビニエンスストアなどでも手軽に購入でき、糖尿病の方の間食や主食として人気があります。

パンの種類とGI値の目安

パンの種類GI値の目安特徴
食パン90前後高い
ライ麦パン50~60低い
全粒粉パン50前後低い

原材料表示をチェックする習慣を

パンを選ぶ際は裏面の原材料表示を確認する習慣をつけましょう。

小麦粉の次に「砂糖」や「果糖ぶどう糖液糖」などが記載されているパンは、甘みが強く糖質も多い傾向にあります。

できるだけシンプルな原材料のものを選ぶのがポイントです。

血糖値の上昇を抑える食べ方のコツ

パンの種類だけでなく、「食べ方」を工夫することが血糖値スパイクを防ぐ上で非常に重要です。今日から実践できる簡単なコツを紹介します。

食べる順番を工夫する「ベジファースト」

食事の最初に野菜やきのこ、海藻などの食物繊維が豊富なものから食べる「ベジファースト(ベジタブルファースト)」を実践しましょう。

食物繊維が後から来る糖質の吸収を遅らせ、血糖値の急上昇を抑えてくれます。パンを食べる前にサラダや野菜スープを摂るのがおすすめです。

おすすめの食べる順番

順番食品の例役割
1番目野菜、きのこ、海藻食物繊維で糖の吸収を穏やかにする
2番目肉、魚、卵、大豆製品たんぱく質・脂質で満腹感を得る
3番目食パン、ごはん主食(糖質)は最後に食べる

たんぱく質・脂質と一緒に食べる

パンだけで食事を済ませるのではなく、卵やチーズ、肉、魚、アボカドなど、たんぱく質や脂質を含むおかずと一緒に食べましょう。

これらの栄養素は糖質の消化吸収を遅らせる働きがあり、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。また、満足感も高まり、食べ過ぎを防ぐ効果もあります。

ゆっくりよく噛んで食べる

早食いは血糖値が急上昇する大きな原因の一つです。一口ごとに20〜30回を目安に、ゆっくりとよく噛んで食べましょう。

時間をかけて食べることで満腹中枢が刺激されて食べ過ぎを防げる上、消化吸収も穏やかになります。

食パンと組み合わせたいおすすめの食材

血糖コントロールに役立つ、食パンと相性の良い食材を紹介します。いつものトーストにプラスしてみましょう。

食物繊維が豊富な野菜・きのこ類

レタスやトマト、きゅうりなどの生野菜はもちろん、アボカドやきのこ類もおすすめです。

アボカドは良質な脂質と食物繊維が豊富です。きのこはソテーにして乗せると風味も増して美味しくいただけます。

おすすめの食物繊維トッピング

食材特徴
アボカド食物繊維と良質な脂質が豊富
きのこ類低カロリーで食物繊維たっぷり
葉物野菜サラダとしてパンと一緒に食べる

良質なたんぱく質源

目玉焼きやスクランブルエッグ、チーズ、ツナ缶、鶏むね肉(サラダチキン)などは、手軽にたんぱく質を補給できる優れた食材です。

これらを乗せるだけで栄養バランスが向上し、血糖値の安定にもつながります。

オリーブオイルやナッツ類

パンに塗るバターやマーガリンの代わりに、エキストラバージンオリーブオイルを使うのも良い方法です。良質な脂質は血糖値の上昇を穏やかにします。

砕いたナッツをトッピングするのも、食感と栄養価をプラスできます。

これは注意!血糖値を上げやすい危険な食べ方

良かれと思ってやっていることが、実は血糖値を急上昇させる原因になっているかもしれません。注意したい食べ方を確認しましょう。

ジャムやはちみつなどの「塗る糖分」

食パンにジャムやはちみつ、チョコレートスプレッドなどを塗って食べるのは、糖質にさらに糖質を重ねる行為であり、血糖値を急激に上げてしまいます。

これらの甘いスプレッドはできるだけ避けるか、ごく少量にとどめましょう。

注意したいスプレッド類

種類注意点
ジャム、マーマレード果物と多量の砂糖から作られている
はちみつ、メープルシロップ天然の甘味料だが、主成分は糖質
チョコレートスプレッド砂糖と脂質が多く、高カロリー

菓子パンや総菜パンに潜む糖質

メロンパンやあんぱんなどの菓子パンは、パン生地の糖質に加えて大量の砂糖が使われており、お菓子と変わりません。

また、カレーパンや焼きそばパンなどの総菜パンも、具材にじゃがいもや小麦粉、ソースなどが使われ、予想以上に糖質が高いことが多いので注意が必要です。

ジュースや加糖コーヒーとの組み合わせ

パン食の際に果物ジュースや砂糖入りのコーヒー、甘い乳飲料などを一緒に飲むと、食事と飲み物の両方から大量の糖質を摂取することになり、血糖値スパイクの大きな原因となります。

飲み物は水やお茶、無糖のコーヒー、牛乳などを選びましょう。

よくある質問

最後に、糖尿病とパンに関するよくある質問にお答えします。

Q
糖尿病になったら、パンはもう食べられないのですか?
A

いいえ、そんなことはありません。糖尿病だからといってパンを完全に禁止する必要はありません。

大切なのは、「量」と「種類」、そして「食べ方」です。

全粒粉パンやライ麦パンを選び、1食の量を守り、野菜やたんぱく質と一緒に食べるなどの工夫をすれば、パン食を楽しむことは十分に可能です。

Q
ローソンなどで売っている低糖質パンは食べても良いですか?
A

はい、上手に活用するのは良い方法です。

コンビニエンスストアなどで販売されている低糖質パン(ブランパンなど)は、一般的なパンに比べて糖質量が大幅に抑えられています。

ただし、低糖質だからといって食べ過ぎては意味がありません。

また、脂質が高い製品もあるため、栄養成分表示をよく確認して選ぶことが大切です。

Q
パンをトーストすると血糖値が上がりにくくなるというのは本当ですか?
A

パンに含まれるでんぷんは、冷えることで「レジスタントスターチ」という消化されにくい成分に変化する性質があります。

そのため、トーストしたパンを少し冷ましてから食べると、血糖値の上昇が穏やかになる可能性があるという研究報告があります。

劇的な効果ではありませんが、試してみる価値はあるでしょう。

  • 食べる量を守る
  • 種類を選ぶ
  • 食べ方を工夫する
Q
朝食はごはんよりパンの方が手軽ですが、どちらが良いですか?
A

ごはんとパンのどちらが優れていると一概には言えません。

白米と白い食パンを比べれば、GI値は食パンの方が高い傾向にあります。しかし、玄米や雑穀米と全粒粉パンやライ麦パンを比べれば、どちらも血糖値を上げにくい良い選択肢です。

重要なのは単品で済ませず、野菜やたんぱく質のおかずをしっかり添えることです。ご自身のライフスタイルに合わせて、バランスの良い食事を継続することが最も大切です。

以上

参考にした論文

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