糖尿病による自律神経障害の症状とは？舌の色もサイン？早期発見と対策

「立ちくらみがする」「胃の調子が悪い日が続く」「汗のかき方がおかしい」。

これらの症状、もしかしたら糖尿病による自律神経障害が原因かもしれません。糖尿病の合併症は様々ですが、自律神経障害は日常生活の質に大きく影響します。

また、「舌の色で体調がわかる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、糖尿病や自律神経障害と舌の状態には関連があるのでしょうか。

この記事では糖尿病性自律神経障害の具体的な症状、原因、そして早期発見と対策について詳しく解説します。

自律神経とは？私たちの体を支える司令塔

まず、自律神経が私たちの体でどのような役割を果たしているのか基本的な知識を理解しましょう。

自律神経の基本的な働き

自律神経は私たちの意思とは関係なく、呼吸、心拍、体温、消化、代謝、排泄など生命を維持するための様々な機能を自動的に調節している神経系です。

内臓や血管、汗腺など、全身の器官の働きをコントロールしています。

交感神経と副交感神経のバランス

自律神経は主に「交感神経」と「副交感神経」という2つの神経から成り立っています。

これら2つの神経は互いに反対の作用（アクセルとブレーキのような関係）を持ちながら、体の状態に応じてバランスを取り合っています。

交感神経と副交感神経の主な働き

項目	交感神経（活動・緊張時）	副交感神経（リラックス・休息時）
心拍数	増加させる	減少させる
血圧	上昇させる	下降させる
気管支	拡張させる	収縮させる
消化管の動き	抑制する	促進する
瞳孔	拡大させる	縮小させる

このバランスが崩れると体に様々な不調が現れることがあります。

これが一般的に「自律神経の乱れ」や「自律神経失調症」と呼ばれる状態です。

自律神経が調節する体の機能

自律神経は心臓血管系（心拍数、血圧）、消化器系（胃腸の動き、消化液の分泌）、呼吸器系（気管支の拡張・収縮）、泌尿器系（排尿機能）、体温調節（発汗）、内分泌系（ホルモン分泌）など、非常に広範囲な体の機能をコントロールしています。

このため自律神経に障害が起こると影響は全身に及びます。

糖尿病と自律神経障害 なぜ起こるのか

糖尿病患者さんにおいて、なぜ自律神経障害が起こりやすくなるのでしょうか。その背景にある原因を探ります。

高血糖による神経細胞へのダメージ

糖尿病性自律神経障害は糖尿病の三大合併症の一つである「糖尿病神経障害」の一種です。長期間にわたる高血糖状態は神経細胞に様々な悪影響を及ぼします。

過剰なブドウ糖は神経細胞内で代謝異常を引き起こし、神経細胞の機能障害や変性を招きます。

また、高血糖は神経に栄養を送る細い血管の血流を悪化させ（細小血管障害）、神経細胞への酸素や栄養の供給を滞らせることも神経障害の進行に関与します。

自律神経線維の広範な障害

糖尿病による神経障害は感覚神経や運動神経だけでなく、全身に分布する自律神経の線維にも及びます。

自律神経は非常に細く長い神経線維で構成されているため、高血糖によるダメージを受けやすいと考えられています。

このため体の様々な部分で自律神経がコントロールする機能に異常が生じます。

発症に関わるその他の要因

高血糖の期間や程度が最も重要な要因ですが、その他にも脂質異常症、高血圧、喫煙、肥満、遺伝的素因なども糖尿病性自律神経障害の発症や進行に関与すると考えられています。

これらの要因が複合的に作用して神経障害を悪化させる可能性があります。

糖尿病性神経障害の分類

• 多発神経障害（手足のしびれ、痛みなど）
• 単神経障害（顔面神経麻痺など）
• 自律神経障害（本記事のテーマ）

要注意！糖尿病性自律神経障害の多様な症状

「自律神経障害糖尿病」の症状は障害される神経の部位や程度によって多岐にわたります。気づきにくい初期症状から、生活に支障をきたす重篤な症状まで様々です。

消化器系の症状

胃や腸の動きをコントロールする自律神経が障害されると以下のような症状が現れることがあります。

消化器系の主な症状

症状	具体的な内容
胃もたれ・吐き気（胃不全麻痺）	食べたものが胃に長く留まり、消化が進まない
便秘	腸の動きが悪くなり、便がスムーズに排出されない
下痢（特に夜間や食後）	腸の蠕動運動の異常や、細菌の異常増殖などが原因
腹部膨満感	ガスが溜まりやすい、お腹が張る感じ

循環器系の症状

心臓や血管の働きを調節する自律神経が障害されると、命に関わることもある深刻な症状が出現する可能性があります。

循環器系の主な症状

• 起立性低血圧（立ちくらみ、めまい）
• 無自覚性低血糖（低血糖の警告症状が出にくい）
• 安静時頻脈（安静にしていても脈が速い）
• 無痛性心筋梗塞（胸痛を感じにくい心筋梗塞）

無自覚性低血糖の危険性

通常、低血糖になると冷や汗、動悸、手の震えなどの警告症状が現れますが、自律神経障害があるとこれらの症状が出にくくなり、気づかないうちに重篤な低血糖（意識障害や昏睡）に陥る危険性があります。

血糖コントロールをしている方は特に注意が必要です。

泌尿器・生殖器系の症状

排尿や性機能に関わる自律神経が障害されると以下のような問題が生じることがあります。

泌尿器・生殖器系の主な症状

症状	具体的な内容
排尿障害（神経因性膀胱）	尿意を感じにくい、残尿感、尿失禁、排尿困難
勃起障害（ED）	男性の性機能障害
逆行性射精	射精時に精液が膀胱へ逆流する

発汗異常と体温調節障害

汗腺の働きをコントロールする自律神経が障害されると、汗のかき方に異常が出ます。

例えば下半身では汗をかきにくいのに、上半身（特に顔や首）で異常に汗をかく（味覚性発汗：食事中に大量の汗をかくなど）、あるいは全く汗をかかなくなる（無汗症）といった症状が見られます。

このため体温調節がうまくいかず、熱中症のリスクが高まることもあります。

舌の色と自律神経障害 関連はある？

糖尿病性自律神経障害と舌の色との直接的な医学的関連性については、どのように考えればよいのでしょうか。

東洋医学における舌診の考え方

東洋医学（漢方など）では舌の状態（色、形、苔のつき方など）を観察する「舌診（ぜっしん）」が、体全体の健康状態を把握するための重要な診断方法の一つとされています。

舌の色が赤い、白い、紫がかっているなど様々な状態から体内の気血水のバランスや内臓の不調を推測します。

自律神経の乱れも舌の状態に影響を与えることがあると考えられています。

西洋医学における舌の所見

西洋医学においても舌は健康状態を反映する鏡と言われることがあります。

例えば舌の色が非常に白い場合は貧血、真っ赤な場合は炎症やビタミン不足、乾燥している場合は脱水などが疑われます。

また、特定の感染症や薬剤の副作用で舌に変化が現れることもあります。

糖尿病性自律神経障害と舌の色の直接的な関連

現時点では糖尿病性自律神経障害に特有の舌の色の変化が西洋医学的に明確に確立されているわけではありません。

しかし糖尿病患者さんでは高血糖による免疫力の低下や血流障害、唾液分泌の減少などにより、口腔内のトラブル（歯周病、口腔カンジダ症、口腔乾燥症など）が起こりやすくなります。

これらの状態が舌の色や状態に影響を与える可能性は考えられます。

口腔乾燥（ドライマウス）と糖尿病

糖尿病患者さんでは唾液の分泌量が減少したり、唾液の質が変化したりすることで、口腔乾燥（ドライマウス）を訴える方が少なくありません。口渇の症状と重なることもあります。

口腔乾燥は味覚の変化、話しにくさ、嚥下困難、虫歯や歯周病のリスク増加などにも繋がります。自律神経障害が唾液腺の機能に影響を与える可能性も指摘されています。

従って「舌の色がおかしい」と感じた場合は、それが直接的に自律神経障害のサインであると断定するのではなく、糖尿病のコントロール状態や他の全身状態、口腔内の環境など様々な要因を総合的に考慮する必要があります。

気になる場合は、まず主治医や歯科医師に相談することが大切です。

糖尿病性自律神経障害の検査と診断

糖尿病性自律神経障害が疑われる場合、どのような検査を行って診断するのでしょうか。

詳細な問診と症状の評価

まず、医師が患者さんから自覚症状（立ちくらみ、胃もたれ、便秘・下痢、排尿障害、発汗異常など）を詳しく聞き取ります。

症状の出現時期、頻度、程度、日常生活への影響などを把握することが診断の第一歩です。

自律神経機能検査

自律神経の機能を客観的に評価するための検査を行います。代表的なものに以下のような検査があります。

主な自律神経機能検査

検査名	主な評価項目
心拍変動検査（CVR-R）	深呼吸時の心拍数の変動を測定し、副交感神経機能を評価
起立試験（血圧測定）	臥位から立位になった際の血圧と心拍数の変化を測定し、交感神経機能を評価
発汗機能検査	定量的軸索反射性発汗試験（QSART）などで局所の発汗機能を評価

これらの検査は比較的簡便に行えるものが多く、自律神経障害の有無や重症度の判定に役立ちます。

原因となっている臓器の検査

症状に応じて原因となっている可能性のある臓器の詳しい検査を行うこともあります。

例えば胃もたれが強い場合は胃カメラや胃排出能検査、排尿障害がある場合は泌尿器科的な検査（残尿測定など）を行います。

他の疾患との鑑別

自律神経症状は糖尿病以外の原因（薬剤の副作用、他の神経疾患、内分泌疾患、精神疾患など）でも起こりうるため、これらの疾患との鑑別も重要です。

必要に応じて血液検査や画像検査などを追加します。

糖尿病性自律神経障害の治療と対策

糖尿病性自律神経障害の治療は、根本的な原因である高血糖の是正と、現れている症状に対する対症療法が中心となります。

血糖コントロールの徹底

最も重要なのは、厳格な血糖コントロールです。

食事療法、運動療法、薬物療法を適切に行い、血糖値を良好な状態に保つことが自律神経障害の進行を遅らせ、症状の改善につながる可能性があります。

HbA1cの目標値を主治医と相談し、達成を目指しましょう。

症状に応じた対症療法

現れている症状を和らげるための治療も行います。

症状別対症療法の例

• 起立性低血圧：弾性ストッキングの使用、昇圧剤の投与など
• 胃不全麻痺：消化管運動機能改善薬、食事の工夫（少量頻回食など）
• 便秘・下痢：緩下剤、止痢剤、整腸剤など
• 排尿障害：排尿訓練、薬物療法、自己導尿など
• 勃起障害：ED治療薬など

生活習慣の改善

血糖コントロールの基本である食事療法や運動療法に加え、禁煙、節酒、十分な睡眠、ストレス管理なども自律神経のバランスを整える上で大切です。

特に起立性低血圧がある場合は急に立ち上がらない、長時間の立位を避けるなどの工夫が必要です。

日常生活での注意点

症状	日常生活での工夫・注意点
起立性低血圧	ゆっくり起き上がる、長時間の立位を避ける、水分・塩分を適度に摂る（医師の指示のもと）
胃腸症状	消化の良いものを少量ずつ頻回に食べる、脂っこい食事を避ける、食後すぐ横にならない
発汗異常	暑い場所を避ける、通気性の良い衣服を選ぶ、こまめな水分補給、皮膚を清潔に保つ

フットケアの継続

糖尿病性神経障害は自律神経だけでなく、足の感覚神経や運動神経にも影響を及ぼします。足の感覚が鈍くなると怪我に気づきにくく、血流障害も相まって潰瘍や壊疽のリスクが高まります。

毎日足を観察して清潔に保ち、適切な靴を選ぶなどのフットケアを継続することが非常に重要です。

よくある質問

糖尿病性自律神経障害に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

以上

参考にした論文

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