「自分の体からインスリンがどれくらい出ているのか?」という疑問は、1型糖尿病の診断や、インスリン注射が必要かどうかの判断において決定的に重要です。
血糖値だけを見ていてはわからない「膵臓の本当の状態」を映し出す鏡、それがCペプチド(CPR)検査です。
糖尿病と診断されたばかりの方や、現在の治療法に不安を感じている方にとって、自身のインスリン分泌能(膵臓がインスリンを出す力)を正確に知ることは、適切な治療方針を決めるための羅針盤となります。
本記事では、難しくなりがちなCペプチド検査の数値をわかりやすく解説し、あなたの今後の治療と生活に役立つ知識を提供します。
Cペプチドとは何か?体内で作られるインスリンの影を追う
Cペプチドを測定すると、自分の膵臓がどれだけのインスリンを自力で分泌できているかを正確に把握できます。
外部から注射で補ったインスリンと区別して評価できるため、ご自身の膵臓の「真の実力」を知るために欠かせない指標となります。
インスリンと一緒に作られるCペプチドの正体をご存知ですか
私たちが食事を摂り血糖値が上がると、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞という場所からインスリンが分泌されます。このとき、最初から完成形のインスリンが作られるわけではありません。
まず「プロインスリン」という前駆体(もとになる物質)が作られます。このプロインスリンが酵素によって分解されると、「インスリン」と「Cペプチド」という2つの物質に分かれます。
つまり、インスリンとCペプチドは、必ず1対1の割合で同時に血液中に放出されます。インスリン分子が1つ作られれば、Cペプチド分子も必ず1つ作られるのです。
この生理学的な仕組みがあるため、血液中や尿中に含まれるCペプチドの量を測れば、間接的に「自分の膵臓が作ったインスリンの総量」を知ることができます。
なぜインスリンそのものではなくCペプチドを測るのか
「インスリンの量を知りたいなら、直接血中のインスリン濃度を測ればいいのではないか?」と思われるかもしれません。
しかし、これには2つの大きな理由があります。1つ目は、肝臓での代謝の影響です。分泌されたインスリンの約半分は、全身を巡る前に肝臓で壊されてしまいます。
そのため、血液検査で測ったインスリン値は、実際に膵臓から分泌された総量を正確に反映しているとは限りません。
一方、Cペプチドは肝臓でほとんど壊されずに腎臓から排泄されるため、膵臓からの分泌量をより正確に反映します。
2つ目の理由は、治療に使われるインスリン製剤の影響です。すでにインスリン注射を行っている患者さんの場合、血液中のインスリン濃度を測っても、それが「自分の膵臓が出したインスリン」なのか「注射で打ったインスリン」なのか区別がつきません。
しかし、Cペプチドは体内で生成されるインスリンにしか付随しないため、注射の影響を受けずに「自前のインスリン分泌(内因性インスリン)」だけを純粋に評価できます。
インスリンとCペプチドの性質の違い
| 項目 | インスリン(IRI) | Cペプチド(CPR) |
|---|---|---|
| 生成由来 | 膵臓からの分泌および注射製剤 | 膵臓からの分泌のみ(内因性) |
| 肝臓での代謝 | 約50%が肝臓で分解される | 肝臓でほとんど分解されない |
| 測定の目的 | 現在の血中インスリンレベル | 膵臓のインスリン分泌予備能 |
| 注射の影響 | 大きく受ける(区別不能) | 受けない(区別可能) |
自分の膵臓がどれくらい頑張っているかが見えくる
糖尿病の治療において、血糖値を下げるのはもちろん大切ですが、それ以上に「なぜ血糖値が上がっているのか」という原因を見極める必要があります。
原因は大きく分けて「インスリンの効きが悪い(抵抗性)」か「インスリンの出が悪い(分泌不全)」の2つです。Cペプチド検査を行うと、あなたの高血糖の原因がどちらにあるのかが明確になります。
もしCペプチドの値が十分に高ければ、膵臓は頑張ってインスリンを出しているのに血糖値が下がらない状態、つまり「抵抗性」が主原因だとわかります。
逆にCペプチドの値が極端に低ければ、膵臓が疲弊している、あるいは破壊されていてインスリンを出せていない「分泌不全」が主原因だと判断できます。
このように、自分の膵臓の頑張り具合(分泌能)を客観的な数値として可視化することが可能になります。
その結果、食事療法や運動療法を強化すべきなのか、それとも薬物療法やインスリン補充を急ぐべきなのか、的確な判断が可能になります。
1型糖尿病の診断になぜCペプチド検査が必要なのか
Cペプチド検査は、1型糖尿病と2型糖尿病を見分けるための最も信頼できる判断材料の一つであり、自身の病型を正しく知ることは、命を守るための適切な治療法を選択する第一歩となります。
1型と2型の違いを見分ける決定的な証拠になる
糖尿病は大きく1型と2型に分類されますが、この2つは治療方針が根本的に異なります。1型糖尿病は、自己免疫反応などによりβ細胞が破壊され、インスリンが出なくなる病気です。
一方、2型糖尿病は生活習慣や遺伝的要因により、インスリンの効きが悪くなったり分泌が低下したりする病気です。
初期段階や非典型的なケースでは、臨床症状だけで両者を区別するのが難しい場合があります。ここでCペプチド検査が力を発揮します。
1型糖尿病の場合、β細胞が破壊されているため、Cペプチドの値は著しく低いか、測定感度以下(枯渇状態)になります。
対して2型糖尿病では、初期にはむしろ正常範囲かそれ以上の値を示すケースが多く、進行してもある程度の分泌が保たれているケースが大半です。
Cペプチド値が「枯渇しているか、保たれているか」を確認すると、医師は自信を持って1型糖尿病という診断を下せます。
突然発症する劇症1型糖尿病を見逃さないために
1型糖尿病の中には「劇症1型糖尿病」と呼ばれる、非常に急激に進行するタイプが存在します。風邪のような症状からわずか数日でインスリン分泌が完全に枯渇し、重篤なケトアシドーシス(血液が酸性に傾く危険な状態)に陥ります。
このタイプはHbA1c(過去1〜2ヶ月の平均血糖値)がまだ上昇していないことも多く、一般的な健康診断の基準では見逃されてしまうリスクがあります。劇症1型糖尿病が疑われる場合、直ちにCペプチド検査を行います。
血糖値が異常に高いにもかかわらず、Cペプチドがほとんど検出されない場合、それは膵臓の機能が急激に失われたことを意味します。
この迅速な判断が生死を分けます。Cペプチドの低値を確認すると、医療チームは緊急のインスリン補充が必要であると即断できます。
緩徐進行1型糖尿病の早期発見に役立つ
劇症型とは対照的に、年単位でゆっくりとインスリン分泌が低下していく「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)」というタイプもあります。
発症初期は2型糖尿病のように見えるため、飲み薬で治療が開始されるケースが多いのですが、次第に薬が効かなくなってきます。
このタイプを2型と誤診したまま放置すると、気づかないうちにインスリン分泌が枯渇し、ある日突然重篤な状態に陥る可能性があります。定期的にCペプチドを測定していれば、このような事態を防げます。
最初は保たれていたCペプチド値が、経過とともに徐々に低下していく傾向が見られれば、緩徐進行1型糖尿病の可能性を疑うことができます。
完全にインスリンが出なくなる前に適切なタイミングでインスリン治療へ切り替えると、血糖コントロールを良好に保てます。
糖尿病タイプ別Cペプチドの典型的特徴
| 病型タイプ | Cペプチド値の傾向 | インスリン分泌能の状態 |
|---|---|---|
| 1型糖尿病(急性発症) | 著しく低い | 高度な分泌低下 |
| 劇症1型糖尿病 | 測定感度以下(枯渇) | ほぼ完全な廃絶 |
| 緩徐進行1型糖尿病 | 徐々に低下していく | 進行性の分泌低下 |
| 2型糖尿病(初期) | 正常または高値 | 過剰分泌または正常 |
| 2型糖尿病(進行期) | 正常または軽度低下 | 中等度の分泌低下 |
検査結果の数値はどう見る?インスリン分泌能の評価基準
Cペプチド検査には主に「早朝空腹時」と「蓄尿(24時間尿)」の2種類があり、それぞれの基準値と自分の数値を照らし合わせると、インスリン分泌能力を客観的に評価できます。
早朝空腹時血中Cペプチド(CPR)値が示す意味とは
最も一般的に行われるのが、朝食前の空腹時に採血して測る血中Cペプチド(Serum CPR)検査です。この数値は、基礎分泌(食事をしていない時でも常に出ている微量のインスリン)の能力を反映しています。
健康な人の基準値はおおよそ0.6〜1.8 ng/mL程度とされています。1型糖尿病の診断やインスリン依存状態の評価においては、この値が「0.6 ng/mL未満」であるかどうかが一つの大きな目安となります。
もし0.6 ng/mLを下回っている場合、インスリン分泌能力はかなり低下しています。その場合、体外からのインスリン補充が必要な可能性が高いと考えられます。
特に0.2 ng/mL未満などの極めて低い値は、インスリン分泌がほぼ枯渇していることを示唆し、生命維持のためにインスリン注射が不可欠な状態(インスリン依存状態)であると判断されます。
尿中Cペプチド検査でわかる1日の総分泌量
血液検査が一時点の「点」の評価であるのに対し、尿中Cペプチド(Urine CPR)検査は1日を通じた「総量」を評価します。
Cペプチドの一部は尿中に排泄されるため、24時間の尿をすべて溜めて(蓄尿して)その中のCペプチド総量を測ると、1日に膵臓がどれだけのインスリンを出したかを知れます。
1日(24時間)の尿中Cペプチド排泄量が「20 μg/日以下」の場合、インスリン分泌能は著しく低下しており、インスリン依存状態であると考えられます。
一方、100 μg/日以上あれば、ある程度のインスリン分泌は保たれていると判断されます。
Cペプチド検査の評価基準と目安
| 検査項目 | 数値の目安 | インスリン分泌能の評価 |
|---|---|---|
| 空腹時血中CPR | 0.6 ng/mL未満 | 分泌低下(インスリン療法の適応) |
| 空腹時血中CPR | 0.6 〜 1.8 ng/mL | 正常範囲または境界域 |
| 空腹時血中CPR | 2.0 ng/mL以上 | 過剰分泌(インスリン抵抗性の疑い) |
| 24時間尿中CPR | 20 μg/日以下 | 高度低下(インスリン依存状態) |
| 24時間尿中CPR | 20 〜 100 μg/日 | 低下しているが一部残存 |
| 24時間尿中CPR | 100 μg/日以上 | 分泌能は保たれている |
蓄尿検査と随時尿検査の違いを整理
尿検査には、1日分の尿を溜める「蓄尿」と、外来受診時にその場で採尿する「随時尿」があります。
入院中などは蓄尿が可能ですが、通院中の患者さんにとって24時間の蓄尿は負担が大きいため、実臨床では随時尿を用いる場合もあります。
随時尿で評価する場合、尿中のクレアチニンという物質の濃度で補正した「尿中CPR指数(CPR index)」を用います。
計算式は「尿中CPR(ng/mL) ÷ 尿中クレアチニン(mg/dL) × 100」です。この指数が0.8〜1.5程度であれば正常範囲とされます。
しかし、これも食事の影響を受けるため、評価には専門的な知識が必要です。基本的には、より正確な評価が必要な場合は蓄尿検査が推奨されますが、生活スタイルに合わせて随時尿でのモニタリングも有効な手段となります。
腎機能低下時の評価には注意が必要
Cペプチド値を解釈する上で絶対に忘れてはならないのが、腎臓の機能です。Cペプチドは主に腎臓から尿中へ排泄されるため、腎不全などで腎機能が低下していると排泄が滞り、血液中のCペプチド値が見かけ上高く出てしまうときがあります。
つまり、腎機能が悪い患者さんの場合、「血中Cペプチド値が高いから安心だ」とは単純には言えません。実際にはインスリン分泌が低下しているのに、排泄されないために数値が高く見えているだけかもしれないからです。
そのため、血清クレアチニン値やeGFR(推算糸球体濾過量)などの腎機能データと照らし合わせながら、慎重に数値を補正して評価する必要があります。
主治医はこうした背景も考慮して診断を行いますが、患者さん自身も「腎機能によって数値が変わる」という知識を持っておくと良いでしょう。
インスリン療法が必要かどうかの判断ライン
Cペプチド検査の結果は、「インスリン注射が必要か」「一生続けなければならないのか」という重大な決断を下すための、客観的かつ科学的な根拠となります。
Cペプチド枯渇はインスリン依存状態を意味する
検査の結果、Cペプチドの反応がほとんど見られない「枯渇」状態にあると判明した場合、これはあなたの体が自力で血糖値をコントロールする手段を失っていることを意味します。この状態を「インスリン依存状態」と呼びます。
1型糖尿病の典型的なケースがこれに該当します。この場合、外部からのインスリン補充は「選択肢の一つ」ではなく、「生きるための必須条件」となります。
飲み薬(経口血糖降下薬)の多くは膵臓を刺激してインスリンを出させる仕組みですが、もともと出すインスリンがない状態では効果は期待できません。
むしろ、効果のない薬を使い続けると高血糖が続き、合併症のリスクを高めてしまいます。Cペプチド枯渇が確認されたら、迷わずインスリン療法を受け入れることが、健康な未来を守るための最善の策となります。
内因性インスリンが残っている場合の治療選択
一方で、Cペプチドがある程度の値を示し、内因性インスリン分泌が残っていることが確認できた場合は、治療の選択肢が広がります。
1型糖尿病と診断されても、発症早期や緩徐進行型の一部では、まだ自分のインスリンが残っている場合があります。
この時期を「ハネムーン期」と呼ぶこともありますが、少量のインスリン注射で良好なコントロールが得られたり、一時的に注射が不要になったりする場合もあります。
2型糖尿病であれば残存する分泌能に合わせて、インスリン分泌を促す薬や、インスリン抵抗性を改善する薬などを組み合わせると、必ずしも最初からインスリン注射が必要とは限らないケースも出てきます。
経口薬からインスリン注射へ切り替えるタイミング
2型糖尿病で飲み薬による治療を続けていても、血糖コントロールが悪化してくるときがあります。このとき、「薬を増やす」のか「インスリン注射を始める」のかの判断に、Cペプチド検査が役立ちます。
もし空腹時血中Cペプチドが低下してきているなら、それは「薬が効いていない」のではなく「膵臓が疲れてインスリンを出せなくなっている」サインです。このタイミングを逃さずにインスリン治療へ切り替えることを「BOT療法」や「早期インスリン導入」と呼びます。
膵臓を休ませるために早めに外からインスリンを補うと、残っている貴重なβ細胞を守り、将来的なインスリン分泌能の維持につながることが期待できます。
インスリン導入を検討する主なCPR値の目安
- 空腹時血中CPR値が0.6 ng/mL未満を持続的に示す場合
- 24時間尿中CPR値が20 μg/日以下となった場合
- グルカゴン負荷試験後のCPR増加反応が不良な場合
- 血糖値が高いにもかかわらず、CPR値が相対的に低い場合(分泌不全の疑い)
食後Cペプチド検査や負荷試験でわかる予備能力
空腹時の状態だけでなく、「食事をしたとき」や「負荷を与えたとき」に膵臓がどれくらい反応できるかという「予備能力」を調べると、より詳細な治療方針の決定が可能になります。
グルカゴン負荷試験で膵臓の余力を調べる
膵臓の予備能力を測る最も代表的な検査が「グルカゴン負荷試験」です。空腹時に採血した後、インスリン分泌を直接刺激する「グルカゴン」というホルモンを静脈注射し、その5分後または10分後に再度採血してCペプチドの変化を見ます。
健康な膵臓であれば、刺激を受けてCペプチド値が大きく上昇します。しかし、1型糖尿病などで分泌能が低下している場合、刺激を与えても数値はほとんど上がりません。
一般的に、負荷後のCペプチド値が特定の値を超えない場合、インスリン依存状態であると強く示唆されます。この試験は、インスリン離脱が可能かどうかを判定する際のゴールドスタンダード(標準的な基準)として広く用いられています。
主な負荷試験の種類と判定基準の目安
| 試験名 | 方法 | インスリン依存の目安(CPR値) |
|---|---|---|
| グルカゴン負荷試験 | 空腹時とグルカゴン静注5分後を測定 | 負荷後CPR 1.0〜1.5 ng/mL未満 |
| 食事負荷試験 | 食前と食後(60分や120分)を測定 | 食後CPRの有意な上昇なし |
| 75gOGTT | ブドウ糖液を飲み経時的に測定 | 負荷後CPRの低反応 |
食事の後にどれだけインスリンが出るかを確認する
特別な注射を使わずに、普段通りの食事(または検査食)を摂っていただき、その前後のCペプチドを測る「食後CPR検査」も行われます。これは日常生活に近い状態でのインスリン分泌反応を見れるため、実用的な評価に適しています。
食後2時間の血中Cペプチド値が十分にあれば、食事による血糖上昇を抑えるだけの追加分泌能力が残っていると判断できます。
逆に、食前と食後でCペプチド値があまり変わらない場合は、食後の高血糖(食後高血糖)を抑える力が不足していることを意味し、食直前に効く超速効型インスリンの必要性などが検討されます。
インスリン離脱が可能かどうかを見極める指標
ある程度血糖コントロールが改善した患者さんから「もうインスリン注射をやめて飲み薬に戻せませんか?」と相談を受けるときがあります。このときも、感覚ではなくCペプチドの数値で判断します。
負荷試験の結果、しっかりとしたCペプチドの分泌反応(予備能力)が確認できれば、インスリン離脱を試みるチャンスがあります。
逆に、予備能力が低い状態で無理にインスリンをやめると、急激な高血糖やケトアシドーシスを招く危険があります。
安全に治療ステップを変更するためにも、負荷試験による正確な評価が必要となります。
Cペプチド検査を受けるタイミングと注意点
Cペプチド検査は、適切なタイミングで行い、結果に影響を与える要因を考慮して解釈することで、初めて正しい評価が得られます。
診断時だけでなく治療経過中も定期的に測る
「診断がついたときに一度測れば終わり」ではありません。特に1型糖尿病や進行性の2型糖尿病の場合、インスリン分泌能は時間とともに変化(低下)していく可能性があります。
診断時にはある程度残っていたインスリン分泌が、数年後には枯渇しているかもしれません。定期的に(例えば年に1回など)Cペプチドを測定すると、病態の進行具合をモニタリングできます。
「最近血糖値が乱れやすくなったな」と感じたとき、それが生活の乱れによるものなのか、それともインスリン分泌能の低下によるものなのかを見極めるためにも、継続的なチェックが大切です。
血糖値が高い状態での検査結果は慎重に読み解く
「糖毒性」という言葉をご存知でしょうか。著しい高血糖状態が続くと、一時的にβ細胞が麻痺してしまい、能力はあるのにインスリンを出せなくなる現象です。この状態でCペプチド検査を行うと、本来の実力よりも低く数値が出てしまうときがあります。
そのため、初診時などで血糖値が非常に高いときは、まずインスリン治療などで血糖値をある程度下げて(糖毒性を解除して)から、改めてCペプチド検査を行うことがあります。そうすると、一過性の機能低下ではなく、真の分泌能力を評価できます。
低い値が出たからといって即座に「一生治らない」と悲観せず、治療によって回復する可能性があるかを医師とよく相談しましょう。
食事や時間帯が検査結果に与える影響
Cペプチドは食事の影響を受けて変動します。そのため、「空腹時」の基準値と「食後」の基準値を混同しないように注意が必要です。
医師が「空腹時の値を測りたい」と判断した場合は、検査当日の朝食を抜く指示が出ます。この指示を守らないと、正確な基礎分泌能力が評価できません。
また、採血のタイミング(朝なのか昼なのか)によっても多少の変動があります。基本的には早朝空腹時が最も安定した指標となりますが、随時採血の場合は「最後に食事をしてから何時間経っているか」を記録し、それを考慮して数値を解釈します。
正確な検査のために患者さんができること
- 医師の指示通り、絶食が必要な場合は必ず守る。
- 蓄尿検査を行う際は、開始時間と終了時間を厳守し、こぼさないように全量採取する。
- 現在服用している薬やサプリメントを正確に申告する。
- 検査当日の体調不良(発熱や下痢など)があれば事前に伝える。
自分の数値を把握してこれからの治療に活かす
患者さん自身が自分のCペプチド検査の結果を知り、それが何を意味するかを理解すると、治療への向き合い方が大きく変わり、より良い血糖コントロールにつながります。
主治医と一緒に検査結果を共有しましょう
診察室で「検査結果は問題ないですね」と言われるだけでなく、ぜひ「Cペプチドの値はいくつでしたか?」と尋ねてみてください。
そして、その値が前回と比べてどう変化しているか、自分の病型や治療段階においてどう評価されるのかを詳しく聞いてみましょう。
数値を知るのは怖いことではありません。現状を正しく把握することは、漠然とした不安を解消する第一歩です。
「自分の膵臓はまだこれだけ頑張ってくれているんだ」と知れば、その機能を守るために食事療法を頑張ろうというモチベーションにもつながります。
検査結果を自分で記録・管理するメリット
| メリット | 具体的な効果 |
|---|---|
| 病態理解の深化 | なぜインスリン注射が必要なのか、なぜ薬が効かないのかが論理的に納得できる。 |
| 変化の早期発見 | 経年変化を追うことで、分泌能の低下傾向にいち早く気づき対策が打てる。 |
| 治療意欲の向上 | 残存機能を守ろうという意識が芽生え、生活習慣改善の動機づけになる。 |
インスリン分泌能を知ると生活の質が上がる
自分のインスリン分泌パターンを知ることは、QOL(生活の質)の向上に直結します。
例えば、「基礎分泌は枯渇しているが、追加分泌はわずかに反応する」といった詳細がわかれば、基礎インスリン(持効型)は絶対に欠かせないということが理解できます。
その一方で、食事ごとのインスリン量は食事内容によって柔軟に調整できるかもしれません。
また、「分泌能がゼロではない」とわかるだけでも、重症低血糖からの回復力に期待が持てるなど、安心材料になります。
逆に完全に枯渇しているとわかれば、シックデイ(体調不良時)のケトアシドーシス予防により一層の注意を払うなど、リスク管理の精度を高められます。
不安な数値が出たときこそ相談してください
検査結果が予想よりも低かったり、急激に下がっていたりするとショックを受けるかもしれません。「もう自分の膵臓はダメなのか」と落ち込む前に、その数値が何を意味し、どのような対策があるのかを医療スタッフと話し合ってください。
現代の糖尿病治療は進歩しています。たとえ自前のインスリンが出なくなっても、ポンプ療法(CSII)や持続血糖測定器(CGM)、そして新しいインスリン製剤などを駆使すると、健康な人と変わらない生活を送ることが十分に可能です。
Cペプチドの値はあくまで「現在の体の状態」を示す指標であり、あなたの人生の限界を決めるものではありません。その数値を味方につけて、適切な治療法を選択していきましょう。
よくある質問
- Q1型糖尿病のCペプチド値が低いと回復は難しいですか?
- A
1型糖尿病において一度破壊されたβ細胞が再生し、Cペプチド値が劇的に回復するのは、現在の医療では一般的に難しいとされています。
ただし、発症直後の適切な治療によって一時的に数値が改善する「ハネムーン期」や、糖毒性が取れることで見かけ上の数値が戻る場合はあります。
重要なのは数値の回復そのものよりも、現在の値に合わせて適切なインスリン補充を行い、血糖値を安定させることです。
- QCペプチド検査はどのくらいの頻度で受けるべきですか?
- A
患者さんの病態や病期によって異なりますが、状態が安定している場合は年に1回程度の測定が一般的です。
ただし、診断直後や治療法を変更する際、あるいは血糖コントロールが急激に悪化した際などには、その都度必要に応じて検査を行います。
主治医が必要と判断したタイミングで実施されるのが基本です。
- Qインスリン注射をしていてもCペプチドは正確に測れますか?
- A
正確に測れます。これがCペプチド検査の最大のメリットです。注射で体に入れたインスリン製剤にはCペプチドが含まれていません。
そのため、血液検査や尿検査で検出されるCペプチドは、すべてご自身の膵臓から分泌されたもの(内因性)であると断定できます。治療中でも自分の膵臓の機能を純粋に評価できます。
- Q2型糖尿病でもCペプチドを測定する必要がありますか?
- A
必要です。2型糖尿病であっても、長期間経過するとインスリン分泌能が低下してくるケースが多くあります。
飲み薬の効果判定や、インスリン治療を開始すべきかどうかの判断、あるいは1型糖尿病の要素を持っていないかの除外診断のために行われます。
2型糖尿病の患者さんに対してもCペプチド検査は非常に有用な情報をもたらします。
- Q腎不全がある場合Cペプチドの値はどう変化しますか?
- A
腎不全などで腎機能が低下していると、Cペプチドが尿へ排泄されにくくなり、血液中に溜まってしまうため、血中Cペプチド値は見かけ上高く出ます。
逆に尿中Cペプチド値は低く出る場合があります。そのため、腎機能障害がある患者さんのデータを読む際は、単純な基準値との比較ではありません。
腎機能を考慮した専門的な補正と解釈が必要になります。
