糖尿病や慢性腎臓病(CKD)の進行を食い止めるには、血糖値の管理だけでなく「アルドステロン」というホルモンの働きを正しく理解し、適切に制御することが極めて重要です。
このホルモンは本来、体内の塩分と水分のバランスを保ち血圧を維持するために働きますが、過剰に分泌されると腎臓の血管や組織に直接的なダメージを与え、腎機能を急激に低下させる要因となります。
特に糖尿病患者においては、インスリン抵抗性との兼ね合いでアルドステロンが悪影響を及ぼしやすいため、早期の対策が腎不全への道を閉ざす鍵を握ります。
本記事では、このホルモンが腎臓に及ぼす影響と、それを抑制するための治療戦略について詳しく解説します。
アルドステロンの基本的役割と分泌の仕組み
アルドステロンは副腎皮質から分泌され、レニン・アンジオテンシン系によって厳密に制御されることで、体液量と血圧の恒常性を維持する重要なホルモンです。
しかし、その過剰な作用は高血圧や臓器障害の引き金となるため、生成部位や分泌メカニズムを正しく理解することが治療の第一歩となります。
副腎皮質から分泌されるミネラルコルチコイド
アルドステロンは、腎臓の上部にある「副腎」という小さな臓器から分泌されます。
副腎は皮質と髄質という二つの層に分かれており、アルドステロンはその外側にある「副腎皮質」の球状層と呼ばれる部分で作られます。
このホルモンは「ミネラルコルチコイド(電解質コルチコイド)」というグループに分類され、その名の通り体内のミネラル分、特にナトリウムとカリウムのバランスを調整する強力な作用を持っています。
体内の血液循環量を維持するために、腎臓でのナトリウムの再吸収を促し、代わりにカリウムを尿中へ排出させる働きを担います。
その結果、体内に水分を留め、血圧を維持するという生命維持に欠かせない機能を果たしています。しかし、この働きが強すぎると高血圧を招き、血管や臓器への負担増大につながります。
副腎皮質で作られるホルモンの分類
| 生成部位 | ホルモン分類 | 主な作用 |
|---|---|---|
| 球状層(外層) | アルドステロン(ミネラルコルチコイド) | ナトリウムの再吸収促進、カリウムの排出、血圧維持 |
| 束状層(中層) | コルチゾール(糖質コルチコイド) | 糖代謝の制御、抗炎症作用、ストレス応答 |
| 網状層(内層) | 副腎アンドロゲン(性ホルモン) | 性機能の補助、筋肉や骨の維持に関与 |
このように副腎皮質は層ごとに異なるホルモンを産生しており、それぞれのホルモンが生命活動において独自の役割を果たしています。
アルドステロンが過剰になる病態では、同じ副腎で作られる他のホルモンとのバランスも考慮に入れた包括的な評価が必要となります。
レニン・アンジオテンシン系による制御
アルドステロンの分泌は勝手に行われるわけではなく、主に腎臓が感知する血流の変化によって精密に制御されています。これを「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)」と呼びます。
腎臓への血流が低下したり、血圧が下がったりすると、腎臓から「レニン」という酵素が分泌されます。
レニンは血液中のタンパク質に作用してアンジオテンシンIを作り出し、それが変換酵素によって強力な昇圧作用を持つアンジオテンシンIIに変化します。
このアンジオテンシンIIが副腎皮質を刺激することで、アルドステロンの分泌が促されます。
この一連の流れは本来、血圧低下時の緊急システムとして機能しますが、糖尿病や肥満などの病態ではこのシステムが慢性的に活性化してしまい、過剰なアルドステロン分泌を引き起こす原因となります。
体液量と血圧調整の恒常性維持
私たちの体は常に一定の状態を保とうとする恒常性(ホメオスタシス)という機能を持っています。アルドステロンはこの恒常性維持において、細胞外液量(血液やリンパ液など)の調節役を担っています。
塩分(ナトリウム)を体内に留めることは、浸透圧の関係で水分も一緒に保持することを意味します。
脱水状態や出血時においては、この機能が速やかに働き生命を守ります。
一方で、現代人のように塩分摂取が多い環境下では、アルドステロンが必要以上に働くと体液量が過剰になり、血管内がパンパンに膨れ上がった状態になります。
これが全身の血管壁に高い圧力をかけ続けることになり、結果として動脈硬化や高血圧症を進行させる要因となります。
アルドステロンが血圧と血管に及ぼす影響
アルドステロンはナトリウム貯留による体液量の増加だけでなく、血管壁の肥厚や繊維化を直接的に促進し、動脈硬化や高血圧を悪化させます。
このホルモンによる血管への物理的および構造的な変化は、腎臓への負担を増大させる主要因となります。
ナトリウム貯留による循環血液量の増加
アルドステロンが腎臓の尿細管にある受容体に結合すると、尿として排出されるはずだったナトリウムが再び血管内へと取り込まれます。
人間の体は体液の塩分濃度を一定に保とうとするため、増えたナトリウムを薄めるために水分を欲します。その結果、喉の渇きを感じて水分を摂取したり、腎臓での水分排泄を抑えたりします。
したがって血管の中を流れる血液の総量(循環血液量)が増加します。ホースの中を流れる水の量が増えれば水圧が上がるのと同様に、血液量が増えれば血圧は必然的に上昇します。
このタイプの高血圧は「体液貯留型」と呼ばれ、通常の降圧薬が効きにくい場合があり、利尿作用を持つ薬剤やアルドステロンを抑える薬剤の選択が必要となります。
血管壁の肥厚と弾力性の低下
近年、アルドステロンには血管の壁にある平滑筋細胞に直接作用し、細胞を肥大化させる作用があることがわかってきました。
血管壁が厚くなると、血液の通り道が狭くなり、末梢血管抵抗が増大します。これは血圧をさらに上昇させる悪循環を生みます。
また、アルドステロンは血管の繊維化を促進します。繊維化とは組織が硬くなる現象で、血管のしなやかさや弾力性が失われることを意味します。
弾力を失った血管は血圧の変動を吸収できず、動脈硬化を加速させます。特に腎臓の微細な血管においてこの変化が起きると、ろ過機能が物理的に損なわれ、不可逆的なダメージへとつながります。
アルドステロンによる血管への直接作用
- 血管内皮機能が障害されることで、血管が本来持つ拡張能力が低下し血流が悪化する。
- 酸化ストレスが増大し、血管細胞において慢性的な炎症が引き起こされる。
- 血管平滑筋細胞の増殖が促され、血管の内腔が物理的に狭小化する。
- 細胞外マトリックスが過剰に蓄積し、血管壁の硬化が進んで弾力性が失われる。
これらの作用は、血圧上昇という結果だけでなく、血管そのものの質を低下させるという点で非常に厄介です。血管の老化を早めないためにも、アルドステロンの過剰なシグナルを遮断することが重要です。
交感神経系への刺激と心血管リスク
アルドステロンは脳の中枢神経系にも作用し、交感神経の活動を活発にする働きがあります。交感神経が興奮すると、心拍数が増加し、末梢血管が収縮するため、血圧はさらに上昇します。
この状態が続くと、心臓は常に全力疾走しているような負担を強いられます。
さらに、心筋(心臓の筋肉)に対してもアルドステロンは繊維化を引き起こします。心筋が硬くなると、血液を全身に送り出すポンプ機能や、血液を受け入れる拡張機能が低下し、心不全のリスクが高まります。
腎臓病と心臓病は「心腎連関」と言われるほど密接に関係しており、アルドステロンはこの両方の臓器を同時に蝕む危険因子として働きます。
糖尿病患者におけるアルドステロンと腎障害の連鎖
糖尿病患者では、高血糖やインスリン抵抗性がRAASを活性化させ、アルドステロンの感受性を高めるという悪循環が生じています。
この特有の病態において、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰な活性化をいかに防ぐかが、腎障害の進行を抑制する鍵となります。
インスリン抵抗性とホルモン分泌の亢進
2型糖尿病の多くの患者に見られる「インスリン抵抗性」は、インスリンが効きにくくなる状態を指しますが、これは同時にアルドステロンの悪影響を受けやすい体質を作ります。
インスリン抵抗性が高い状態では、代償的に血中のインスリン濃度が高くなりますが、この高インスリン血症自体が交感神経を刺激し、RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)を活性化させます。
つまり、血糖値を下げようと体が頑張るほど、皮肉にも血圧を上げるホルモンであるアルドステロンの分泌が促されてしまうのです。
また、肥満細胞から分泌される生理活性物質も副腎を直接刺激し、アルドステロン分泌を促す因子となるため、肥満を伴う糖尿病患者では特に注意が必要です。
糖尿病環境下でのアルドステロン活性化要因
| 要因 | 機序(メカニズム) | 腎臓への影響 |
|---|---|---|
| 高インスリン血症 | 腎尿細管でのナトリウム再吸収を直接促進 | 体液量増加による糸球体内圧の上昇 |
| 高血糖による酸化ストレス | ミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性化 | 腎組織の炎症と繊維化の進行 |
| 内臓脂肪の蓄積 | 脂肪細胞からのアルドステロン分泌刺激因子の放出 | 全身的なRAASの亢進と血圧上昇 |
こうした要因が複雑に絡み合うことで、糖尿病患者の腎臓は常にアルドステロンによる攻撃に晒されています。
それぞれの要因に対し、血糖管理や体重コントロールなどの多角的なアプローチを行うことが、腎臓を守る防波堤となります。
ミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化
アルドステロンが作用するためには、「ミネラルコルチコイド受容体(MR)」という受け皿と結合する必要があります。
興味深いことに、糖尿病や肥満の状態では、アルドステロンの血中濃度がそれほど高くなくても、このMRが勝手に活性化してしまう現象が知られています。
高血糖や塩分の過剰摂取は、Racl(ラックワン)というタンパク質を通じてMRを活性化させます。
これにより、アルドステロンが存在しているかのように組織が反応し、炎症や繊維化のスイッチが入ってしまいます。
したがって、糖尿病性腎臓病の治療においては、単にアルドステロンの量を減らすだけでなく、このMRの働きをブロックすることが極めて重要になります。
アルドステロン・ブレイクスルー現象への対策
腎臓保護や血圧管理のために、ACE阻害薬やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という薬が標準的に使われます。
これらの薬は一時的にアルドステロンの生成を抑えますが、長期間投与していると、一部の患者では再びアルドステロン濃度が上昇してしまうことがあります。
これを「アルドステロン・ブレイクスルー」と呼びます。
この現象が起きると、せっかく治療をしていても腎臓の保護効果が薄れ、タンパク尿が増加したり腎機能が悪化したりします。
糖尿病患者ではこのブレイクスルーが起きやすいとも言われており、従来の治療薬に加えて、アルドステロンの働きを直接阻害する薬剤(MR拮抗薬)を併用する意義がここにあります。
腎臓の破壊を防ぐための具体的メカニズム理解
アルドステロンによる腎障害は、糸球体への圧力負荷、組織の炎症、そして不可逆的な繊維化という3つのプロセスを経て進行します。
これらの病的メカニズムを断ち切ることで、タンパク尿を減少させ、腎機能の低下を緩やかにすることが可能です。
糸球体高血圧と過剰ろ過の抑制
腎臓には「糸球体」という毛細血管の塊があり、ここで血液をろ過して尿を作っています。アルドステロンの作用で全身の血圧が上がると、この糸球体にかかる圧力(糸球体内圧)も上昇します。
さらに、アルドステロンは糸球体の出口側の血管(輸出細動脈)を収縮させる作用が強いため、糸球体の中に血液がうっ滞し、パンパンに膨れ上がります。
この状態は「過剰ろ過」と呼ばれ、一見すると腎機能が良いように見えますが、実際には糸球体に無理をさせている状態です。
高い圧力に晒され続けた糸球体は、やがてボロボロになり、タンパク質が尿に漏れ出すようになります。
アルドステロンを抑制することは、この輸出細動脈の収縮を解き、糸球体の内圧を下げて休ませてあげることにつながります。
腎組織障害の進行過程
| 段階 | 腎臓内で起きている現象 | 臨床的な検査値の変化 |
|---|---|---|
| 初期(過剰ろ過期) | 糸球体内圧の上昇、血流量の増加 | eGFR(推算糸球体ろ過量)の一時的な上昇または正常 |
| 中期(微量アルブミン期) | 糸球体基底膜の障害、内皮細胞の機能不全 | 微量アルブミン尿の出現 |
| 進行期(顕性タンパク尿期) | 糸球体の硬化(つぶれる)、尿細管の萎縮 | 顕性タンパク尿、eGFRの低下 |
病期が進むにつれて腎臓の組織変化は不可逆的になります。初期の段階で介入し、糸球体への過剰な負担を取り除くことが、その後の経過を大きく左右します。
炎症細胞の浸潤と酸化ストレスの軽減
アルドステロンがMR(受容体)に結合すると、腎臓の組織内で活性酸素が大量に産生されます。これを酸化ストレスと呼びます。活性酸素は細胞を錆びさせる毒のようなもので、腎臓の細胞を直接傷つけます。
また、炎症を引き起こすシグナル伝達物質が放出され、免疫細胞(マクロファージなど)が腎臓に集まってきます。
集まった炎症細胞はさらに炎症物質をまき散らし、火事場のような状態を作ります。これを慢性炎症と言います。
ホルモン抑制治療を行うことで、この炎症の連鎖を断ち切り、酸化ストレスによる細胞死を防ぐことが期待できます。
腎臓は一度壊れると再生しない臓器であるため、この炎症をいかに早期に鎮めるかが予後を左右します。
腎組織の繊維化(硬化)防止
炎症が長く続くと、火傷の跡がケロイドになるように、腎臓の組織も硬く変化していきます。
これを「繊維化」と言います。繊維化した組織は本来のろ過機能を持たないただの傷跡であり、これが広がると腎臓全体の機能が失われ、最終的には腎不全に至ります。
アルドステロンは、コラーゲンなどの結合組織を作る細胞を刺激し、この繊維化を強力に推し進める作用を持っています。特に尿細管の間質と呼ばれる部分の繊維化に関与します。
MR拮抗薬を用いてアルドステロンのシグナルを遮断することは、この繊維化の進行を食い止め、透析導入を遅らせるための防波堤として機能します。
アルドステロン濃度の検査と診断
適切な治療方針を決定するためには、血液検査によるPACやPRAの測定、ARRの算出を通じて、RAASのバランス異常や原発性アルドステロン症の有無を正確に把握する必要があります。
隠れたホルモン異常を見逃さないための診断プロセスについて解説します。
血液検査によるPACとPRAの測定
アルドステロンの状態を知るための基本は血液検査です。主に測定されるのは「血漿アルドステロン濃度(PAC)」と「血漿レニン活性(PRA)」または「活性型レニン濃度(ARC)」の2つです。
PACは実際に血液中を流れているアルドステロンの絶対量を、PRAはアルドステロンを出させる命令系統(レニン)の強さを示します。
単にPACが高いだけでなく、PRAとのバランスを見ることが重要です。例えば、PACが高くPRAが低い場合は、副腎が勝手にアルドステロンを作っている「原発性アルドステロン症」の可能性があります。
一方、糖尿病性腎症などで問題となるのは、PACが正常範囲内であっても、塩分摂取量や体液量に対して相対的に高すぎる場合や、局所での作用が強まっている場合です。
検査を受ける際の注意点
- 検査値の日内変動を考慮し、原則として午前中の早い時間に採血を行う。
- 採血時の姿勢(安静臥位か座位か)によって基準値が異なるため、指示に従う。
- 服用中の降圧薬が検査値に影響を与える可能性があるため、医師へ正確に伝える。
- 激しい運動直後は数値が大きく変動するため、検査前は避けるようにする。
これらの条件を整えることで、より正確なホルモン状態の評価が可能になります。特に薬剤の影響は大きいため、休薬や変更が必要かどうかは医師の判断を仰いでください。
アルドステロン・レニン比(ARR)の重要性
診断において最も重視される指標の一つが「アルドステロン・レニン比(ARR)」です。これはPACの値をPRAの値で割って算出します。
この比率が高いということは、レニンの刺激がないにもかかわらずアルドステロンが不釣り合いに多く分泌されていることを示唆します。
高血圧患者の約10%、治療抵抗性高血圧(薬が効きにくい高血圧)の約20%に原発性アルドステロン症が隠れていると言われています。
ARRの計算は、これを見逃さないためのスクリーニングとして非常に有効です。
糖尿病患者においても、血圧管理が難しい場合は一度この比率を確認し、ホルモン異常が隠れていないかをチェックすることが推奨されます。
画像診断による副腎の確認
血液検査で異常が疑われた場合、CTスキャンやMRIなどの画像診断を行うことがあります。これは副腎に腫瘍(腺腫)があるか、あるいは副腎全体が肥大しているかを確認するためです。
腫瘍が見つかり、それがホルモン過剰の原因であると確定すれば、手術による摘出が根本治療となる場合もあります。
しかし、糖尿病や慢性腎臓病の患者の多くは、明らかな腫瘍がなくてもRAASのバランス異常やMRの過剰活性化が起きています。
この場合、画像診断では異常なしとされても、内科的なホルモン抑制治療(薬物療法)が必要となるケースが大半を占めます。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)による治療
アルドステロンによる腎障害を防ぐためには、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)が極めて有効です。
ステロイド骨格を持つ従来薬と、副作用リスクを低減し臓器保護効果を高めた非ステロイド型新規薬の特性を理解し、適切に選択することが重要です。
ステロイド骨格を持つ従来薬の特徴
古くから使われているスピロノラクトンやエプレレノンといった薬剤は、ステロイド骨格という化学構造を持っています。
これらはアルドステロンが受容体(MR)に結合するのを防ぐことで、ナトリウムの再吸収を抑え、血圧を下げると同時に腎臓や心臓を保護します。
非常に効果が高い薬ですが、構造が性ホルモン(プロゲステロンやアンドロゲン)と似ているため、副作用として女性化乳房(男性の胸が膨らむ)や生理不順などが起きることがありました。
また、カリウムを体内に留める作用が強いため、腎機能が既に低下している患者では高カリウム血症のリスク管理が課題となります。
非ステロイド型選択的MR拮抗薬の登場
近年、開発された新しいタイプの薬(フィネレノン、エサキセレノンなど)は、ステロイド骨格を持たない「非ステロイド型」です。
これらはMRに対する結合の仕方が従来薬とは異なり、より強力かつ特異的にアルドステロンのシグナルを遮断します。
性ホルモン受容体への影響がほとんどないため、女性化乳房などの副作用が大幅に軽減されています。
特に糖尿病性腎臓病に対して適応を持つ薬剤も登場しており、大規模な臨床試験において、尿タンパクの減少効果や、腎不全への進行抑制効果、さらには心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)の抑制効果が証明されています。
これらは血圧を下げる効果はマイルドでありながら、臓器保護効果が高いという特徴を持ちます。
ステロイド型と非ステロイド型MR拮抗薬の比較
| 特徴 | ステロイド型(従来薬) | 非ステロイド型(新規薬) |
|---|---|---|
| 化学構造 | ステロイド骨格あり | ステロイド骨格なし |
| 受容体への選択性 | やや低い(性ホルモン受容体にも作用) | 非常に高い(MRに特化して作用) |
| 主な副作用リスク | 高カリウム血症、女性化乳房、月経異常 | 高カリウム血症(頻度は比較的低い)、性ホルモン関連副作用は稀 |
| 期待される効果 | 降圧作用、利尿作用 | 強力な抗炎症・抗繊維化作用、臓器保護 |
このように、非ステロイド型は長期的な使用において安全性と忍容性が向上しており、糖尿病性腎臓病治療の新たな選択肢として注目されています。
患者の背景に合わせて最適な薬剤が選択されます。
治療中の高カリウム血症への対策
MR拮抗薬を使用する上で最も注意が必要なのが「高カリウム血症」です。アルドステロンの働きを抑えると、カリウムが尿に捨てられにくくなり、血液中のカリウム濃度が上昇します。
カリウムが高くなりすぎると、不整脈などの重篤な症状を引き起こすリスクがあります。
しかし、現在はカリウム吸着薬(消化管でカリウムと結合して便として出す薬)の進歩により、カリウム値をコントロールしながらMR拮抗薬を継続することが可能になっています。
定期的な血液検査でカリウム値をモニタリングし、食事中のカリウム摂取量を調整することで、安全に腎臓を守る治療を続けることができます。
生活習慣の改善によるアルドステロン制御
薬物療法の効果を最大限に引き出すためには、減塩によるRAASの抑制、肥満解消による脂肪細胞からの刺激低減、そしてストレス管理が不可欠です。
日々の生活習慣を見直すことが、アルドステロン感受性を低下させ、腎臓を守る基盤となります。
減塩がもたらす最大の防御効果
アルドステロン対策において、減塩は「王道」であり「最強」の治療法です。体内の塩分が多いと、MR(受容体)が活性化しやすくなり、少量のアルドステロンでも大きなダメージを受けてしまいます。
逆に、塩分摂取を控えることで、MR拮抗薬の効果を最大限に引き出すことができます。
1日の塩分摂取量は6g未満を目指します。加工食品や外食を減らし、出汁や酸味(酢、レモン)、香辛料を活用して味にメリハリをつけることが継続のコツです。
減塩は単に血圧を下げるだけでなく、酸化ストレスを減らし、タンパク尿を減少させる直接的な効果があります。
減塩効果を高める食品の選び方
| 控えるべき食品(高塩分) | 置き換え・推奨食品(低塩分) | 工夫のポイント |
|---|---|---|
| ハム、ソーセージ、練り物 | 肉、魚、卵、豆腐(素材そのもの) | 加工品は見えない塩分の宝庫。素材から調理する習慣をつける。 |
| 麺類のスープ、漬物 | 具だくさんの味噌汁(汁は残す)、浅漬け | 「汁は残す」だけで数グラムの減塩になる。酸味を利用する。 |
| 即席食品、スナック菓子 | 無塩ナッツ、ヨーグルト、果物 | 成分表示の「食塩相当量」を必ず確認する癖をつける。 |
食品の置き換えは、我慢するのではなく「選ぶものを変える」という意識で行うと長続きします。日々の小さな積み重ねが、将来の腎機能を守ることにつながります。
肥満解消と内臓脂肪の減少
脂肪細胞、特に内臓脂肪からは、アルドステロンの分泌を促す物質が放出されています。つまり、太っていること自体が、副腎に対して「もっとアルドステロンを出せ」と命令している状態なのです。
体重を減らすことは、この悪循環を断ち切るために必要です。
適度な有酸素運動(ウォーキングなど)は、脂肪を燃焼させるだけでなく、インスリン抵抗性を改善し、交感神経の緊張を和らげる効果もあります。急激なダイエットは必要ありません。
現体重の3〜5%を減らすだけでも、ホルモンバランスや血圧、血糖値に好ましい変化が現れます。
ストレス管理と睡眠の質向上
精神的なストレスは交感神経を刺激し、RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)を活性化させます。
慢性的なストレス状態は、常に戦闘態勢にあるようなもので、副腎を疲弊させホルモンバランスを崩します。自分なりのリラックス法を見つけることは、立派な治療の一つです。
また、睡眠不足もアルドステロンのリズムを乱す要因です。質の良い睡眠をとることで、夜間の血圧(夜間血圧)を下げ、腎臓を休ませることができます。
夜間頻尿がある場合は、睡眠時無呼吸症候群などが隠れている可能性もあるため、医師に相談することをお勧めします。
Q&A
- Qアルドステロンが高いかどうか、自覚症状でわかりますか?
- A
基本的に自覚症状はほとんどありません。
血圧が高めであったり、足のむくみが取れにくかったりすることはありますが、これらは他の要因でも起こるため、症状だけで判断することは困難です。
ただし、カリウムが極端に低下した場合は、手足の脱力感や筋肉痛を感じることがあります。確実な判断には血液検査が必要です。
- Q糖尿病の薬を飲んでいれば腎臓は大丈夫でしょうか?
- A
血糖値を下げる薬だけでは不十分な場合があります。血糖コントロールが良好でも、血圧やアルドステロンの影響で腎機能が低下するケースは少なくありません。
腎臓を守るためには、血糖、血圧、脂質、そしてアルドステロンを含めた包括的な管理が必要です。定期的に尿タンパクやeGFRの値をチェックしましょう。
- Qバナナや野菜などのカリウムが多い食品は避けるべきですか?
- A
腎機能の段階と服用している薬によって異なります。腎機能が正常であれば、カリウムを含む野菜や果物は血圧を下げるために推奨されます。
しかし、腎機能が低下している場合や、MR拮抗薬を服用している場合は、カリウム制限が必要になることがあります。
自己判断で極端に制限したり摂取したりせず、必ず主治医や管理栄養士の指導に従ってください。
- Qアルドステロンを抑える薬は一生飲み続ける必要がありますか?
- A
多くの場合は長期的な服用が必要になります。これは、アルドステロンによる腎障害が慢性的な体の仕組みの変化に基づいているためです。
ただし、減量や減塩に成功し、血圧や尿タンパクが劇的に改善した場合には、薬を減らしたり中止したりできることもあります。
薬をやめられるかどうかは、日々の生活習慣の改善度合いにかかっています。
- Q血圧が正常ならアルドステロンの心配はしなくて良いですか?
- A
血圧が正常範囲内であっても安心はできません。
近年、血圧を上げない程度の微量なアルドステロン増加であっても、腎臓の受容体(MR)が活性化し、炎症や繊維化が進行することがわかっています。
特に糖尿病患者では、血圧とは独立してアルドステロンが腎障害のリスク因子となるため、血圧だけでなく尿検査の結果などを総合的に見る必要があります。
