糖尿病の治療中や血糖値が気になる方にとって、お酒との付き合い方は悩ましい問題です。「飲みたいけれど、血糖値が心配」「どんなお酒なら大丈夫なの?」と感じている方も多いでしょう。

お酒が血糖値に与える影響はアルコールそのものだけでなく、含まれる「糖質(炭水化物)」の量が大きく関わっています。

この記事では様々なお酒の糖質量を一覧で比較し、糖質ゼロ・オフ商品の賢い選び方、そして血糖値を上げにくい飲み方の工夫まで詳しく解説します。正しい知識で、お酒と上手に付き合っていきましょう。

糖尿病とお酒の基本的な関係

お酒が体に与える影響は複雑です。特に糖尿病をお持ちの方はアルコールと糖質の両方が血糖値にどう作用するかを理解することが重要です。

アルコールが血糖値に与える二つの影響

お酒は血糖値に対して二つの異なる影響を与えます。まず、ビールや日本酒、甘いカクテルなどに含まれる糖質は血糖値を直接上昇させます。

一方でアルコール自体は肝臓での糖の生成を抑制するため、飲酒後数時間経ってから「遅発性低血糖」を引き起こす危険性があります。

この二つのリスクを常に意識することが大切です。

なぜ糖質の把握が重要なのか

食後の血糖値の上がりやすさは、お酒に含まれる糖質の量に大きく左右されます。糖質の多いお酒を飲むと食後の血糖値が急上昇し、血糖コントロールを乱す原因となります。

お酒の種類によって糖質量は大きく異なるため、自分が飲むお酒にどれくらいの糖質が含まれているかを知っておくことが上手な付き合い方の第一歩です。

適量を守ることの大切さ

どんなお酒であっても飲み過ぎは禁物です。厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒」は、1日平均純アルコールで20g程度です。

これはあくまで目安であり、血糖コントロールの状態や合併症の有無によっては、さらに厳しい制限が必要な場合や禁酒が望ましい場合もあります。必ず主治医と相談しましょう。

純アルコール20gの目安

お酒の種類目安量
ビール(5%)中瓶1本(500ml)
日本酒(15%)1合(180ml)
ワイン(12%)グラス2杯弱(200ml)

【種類別】お酒の糖質量を比較する

お酒は製造方法によって「醸造酒」「蒸留酒」「混成酒」の3つに大別され、それぞれ糖質量に大きな違いがあります。

醸造酒(ビール・日本酒・ワイン)

穀物や果物を酵母で発酵させて造るお酒です。

原料由来の糖質が残りやすいため、一般的に糖質量は多めです。特にビールや日本酒は注意が必要です。

蒸留酒(焼酎・ウイスキー・ブランデー)

醸造酒をさらに加熱し、気化したアルコールを冷やして液体にしたお酒です。

この蒸留の過程で糖質は取り除かれるため、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒そのものの糖質はゼロです。

混成酒(梅酒・リキュール)

醸造酒や蒸留酒に果物や糖、ハーブなどを加えて造るお酒です。

梅酒やカクテルに使われるリキュール類は製造の過程で多くの砂糖を加えるため、糖質量が非常に高くなる傾向があります。

お酒の分類と糖質量の傾向

分類代表的なお酒糖質量の傾向
醸造酒ビール、日本酒、ワイン多い
蒸留酒焼酎、ウイスキー、ジン、ウォッカほぼゼロ
混成酒梅酒、リキュール類、みりん非常に多い

ビール・日本酒・ワインの糖質を詳しく見る

日常的によく飲まれる醸造酒。種類によって糖質量は異なります。具体的な数値を見ていきましょう。

ビール系飲料の糖質

ビールは麦芽を原料とするため、糖質が多く含まれます。近年は糖質を大幅にカットした発泡酒や第三のビール、糖質ゼロをうたう商品も増えています。

選ぶ商品によって糖質量は大きく変わります。

ビール系飲料100mlあたりの糖質量(目安)

種類糖質量(g)
ビール(淡色、ピルスナー)約3.1g
発泡酒約3.6g ※商品による
糖質オフ・ゼロ商品0g ~ 1.5g

日本酒の糖質

日本酒も米を原料とするため、糖質が多いお酒です。

甘口や辛口といった味わいや、純米酒、本醸造酒などの種類によっても糖質量は変動します。

ワインの糖質

ワインはブドウを原料としますが、発酵の過程でブドウの糖分がアルコールに変わるため、日本酒やビールに比べると糖質量は少なめです。

特に辛口のワインは糖質が少ない傾向にあります。

日本酒・ワイン100mlあたりの糖質量(目安)

種類糖質量(g)
日本酒(純米酒)約3.6g
日本酒(本醸造酒)約4.5g
ワイン(赤)約1.5g
ワイン(白・辛口)約2.0g

糖質オフ・ゼロ商品の賢い選び方

健康志向の高まりを受け、様々な糖質オフ・ゼロ商品が販売されています。しかし、表示の意味を正しく理解することが大切です。

「糖質ゼロ」と「糖類ゼロ」の違い

栄養成分表示には、「糖質」と「糖類」という二つの言葉が出てきます。糖質は炭水化物から食物繊維を除いたものの総称で、糖類は糖質の一部です。

食品表示基準では「糖質ゼロ」は100mlあたり糖質0.5g未満、「糖類ゼロ」は100mlあたり糖類0.5g未満と定められています。

「糖類ゼロ」と表示されていても、でんぷんなどの他の糖質が含まれている可能性があるため、血糖コントロールを意識するなら「糖質ゼロ」を選ぶのがより確実です。

栄養成分表示のチェックポイント

商品を選ぶ際はパッケージの「糖質ゼロ」というキャッチコピーだけでなく、必ず裏面の栄養成分表示を確認する習慣をつけましょう。

「炭水化物」または「糖質」の欄を見て、具体的な数値を確認することが重要です。

人工甘味料について

糖質オフ・ゼロ商品にはカロリーのない人工甘味料が使われていることが多くあります。

人工甘味料は血糖値を直接上げることはありませんが、長期的な影響については様々な研究が進行中です。摂りすぎには注意し、あくまで適量を守る上での選択肢と考えるのが良いでしょう。

血糖値を上げにくいお酒の飲み方

お酒の種類を選ぶだけでなく、飲み方や合わせるおつまみを工夫することで血糖値への影響をさらに抑えることができます。

蒸留酒(ハイボールなど)を選ぶ

糖質を気にするなら、選ぶべきは焼酎やウイスキーなどの蒸留酒です。

これらを炭酸水で割ったハイボールや水割り、お茶割りなどは、糖質をほとんど含まないため、安心して楽しめます。

割り材に注意する

蒸留酒であっても、甘いジュースやトニックウォーターで割ってしまうと、大量の糖質を摂取することになります。

割り材には、水、炭酸水、無糖のお茶など糖質を含まないものを選びましょう。

おすすめの割り材と避けたい割り材

分類具体例
おすすめ水、炭酸水、無糖の緑茶・ウーロン茶
注意が必要オレンジジュース、コーラ、トニックウォーター

おつまみの選び方

お酒と一緒に食べるおつまみも血糖値に大きく影響します。ポテトフライや唐揚げなどの揚げ物、ポテトサラダ、シメのラーメンなどは糖質が高いため避けましょう。

枝豆、冷奴、チーズ、ナッツ、焼き魚、野菜スティックなどタンパク質や食物繊維が豊富なものがお勧めです。

  • 枝豆、豆腐、チーズ
  • 焼き魚、鶏の炭火焼き
  • きのこのソテー、海藻サラダ

飲酒における特に重要な注意点

糖尿病の方がお酒を飲む際には血糖値の管理以外にも命に関わる重要な注意点があります。

遅発性低血糖のリスク

アルコールを摂取すると肝臓はアルコールの分解を優先するため、血糖値を維持するための糖の放出(糖新生)が抑制されます。

このため飲酒から数時間後、特に就寝中や翌朝に重篤な低血糖を起こす危険性があります。これが「遅発性低血糖」です。

薬との相互作用

糖尿病の治療薬の中にはアルコールと一緒に服用すると作用が強まり、重い低血糖を引き起こすものがあります(特にSU薬など)。

また、ビグアナイド薬では、まれに乳酸アシドーシスという重い副作用のリスクを高めることがあります。服用中の薬とアルコールの関係については、必ず主治医や薬剤師に確認してください。

必ず食事と一緒に楽しむ

空腹時の飲酒は、アルコールの吸収を速め、低血糖のリスクを著しく高めるため非常に危険です。お酒は必ず、糖質の少ないおつまみや食事と一緒に、ゆっくりと楽しむようにしてください。

よくある質問(Q&A)

最後に、お酒に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
糖質ゼロのお酒なら、いくら飲んでも良いですか?
A

いいえ、そうではありません。糖質がゼロでもアルコールは含まれており、カロリーもあります。

アルコールそのものに遅発性低血糖のリスクがあることや、肝臓への負担を忘れてはいけません。どんなお酒であっても適量を守ることが大原則です。

Q
飲んだ日のインスリンや薬はどうすれば良いですか?
A

自己判断でインスリンや薬の量を調整するのは絶対にやめてください。低血糖や高血糖を招く原因となり、非常に危険です。

飲酒の機会がある場合は事前に主治医に相談し、当日の食事内容や飲酒量に応じた対処法について、具体的な指示を受けておくことが重要です。

Q
飲み会で周りに合わせるのが大変です
A

乾杯は付き合い、その後は自分のペースで糖質の少ないハイボールや焼酎の水割りを頼むなど、工夫してみましょう。

また、お酒を飲む合間にウーロン茶などのノンアルコールドリンクを挟むことで、飲む量をコントロールしやすくなります。

ご自身の健康が第一であることを忘れず、無理のない範囲で楽しむことが大切です。

以上

参考にした論文

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