脂質異常症(高コレステロール血症)の治療でアトルバスタチンなどのスタチン系薬剤を服用中、「最近、筋肉痛が気になる」と感じていませんか。

その筋肉の痛みは単なる疲れではなく、注意すべき副作用のサインかもしれません。スタチン系薬剤はコレステロール値を下げる非常に効果的な薬ですが、まれに「横紋筋融解症」という重篤な副作用を引き起こすことがあります。

この記事では横紋筋融解症とはどのような病気なのか、アトルバスタチン服用中に注意すべき筋肉痛の症状、そして副作用が疑われる場合にどう対処すべきかを糖尿病内科の専門的な視点から詳しく解説します。

正しい知識を身につけ、安心して治療を続けましょう。

スタチン系薬剤(アトルバスタチンなど)の役割

スタチン系薬剤は、血液中の悪玉(LDL)コレステロールを効果的に下げることで動脈硬化の進行を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気のリスクを減らす重要な薬です。

コレステロール値を下げて動脈硬化を防ぐ

スタチンは、肝臓でコレステロールが作られるのを抑える働きがあります。この作用により、血液中のLDLコレステロール値が低下します。

LDLコレステロールは増えすぎると血管の壁にたまって動脈硬化を引き起こすため、スタチンによる管理は脂質異常症治療の基本となります。

日本で広く使われる主なスタチン系薬剤

スタチンにはいくつかの種類があり、効果の強さによって「スタンダードスタチン」と「ストロングスタチン」に分けられます。

アトルバスタチン(製品名:リピトール)はストロングスタチンに分類され、広く使用されています。

主なスタチン系薬剤の種類

分類一般名(主な製品名)特徴
ストロングスタチンアトルバスタチン(リピトール)強力なLDLコレステロール低下作用を持つ
ロスバスタチン(クレストール)アトルバスタチンと同様に作用が強い
スタンダードスタチンプラバスタチン(メバロチン)比較的マイルドな作用を持つ

糖尿病患者さんになぜ必要か

糖尿病の患者様は血糖値が高いだけでなく、脂質異常症を合併しやすいことが知られています。

高血糖と脂質異常が重なると動脈硬化が急激に進行するリスクが高まるため、血糖コントロールと同時に、スタチンを用いた厳格な脂質管理が心血管疾患の予防にとても重要です。

副作用としての筋肉痛と横紋筋融解症の基本

スタチン服用中に見られる筋肉の症状は軽いものから重篤なものまで様々です。その中でも特に注意が必要なのが横紋筋融解症です。

スタチンに関連する筋肉の症状

副作用として最も多いのは、特に原因のない筋肉痛や筋肉の違和感(こわばり、脱力感など)です。

多くの場合は軽度で、薬の変更や休薬で改善しますが、中には注意深い観察が必要なケースも含まれます。

横紋筋融解症とはどんな病気か

横紋筋融解症は骨格筋の細胞が壊れてしまい、その成分(ミオグロビンなど)が血液中に流れ出してしまう病態です。

血液中に流れ出たミオグロビンが腎臓にダメージを与え、急性腎障害を引き起こすことがあるため、命に関わる可能性のある重篤な副作用と位置づけられています。

通常の筋肉痛と横紋筋融解症の違い

項目通常の筋肉痛横紋筋融解症の初期症状
原因運動、慣れない作業など明確薬の副作用など、明確な原因がない
範囲使った筋肉が中心(局所的)広範囲(特に太ももや肩など)
経過数日で自然に軽快する持続、または悪化する

発症頻度は非常にまれ

横紋筋融解症は重篤な副作用ですが、その発症頻度は非常にまれです。

過度に心配する必要はありませんが、「まれな副作用」であることを知っておき、万が一の時に適切に行動できることが安全な治療の継続につながります。

横紋筋融解症の初期症状を見逃さないために

横紋筋融解症は早期に発見し対処することが極めて重要です。

服用中に以下のような症状が現れた場合は自己判断で様子を見ずに、速やかに医師や薬剤師に相談してください。

注意すべき筋肉のサイン

最も代表的な初期症状は広範囲にわたる筋肉の痛みです。特に太もも、ふくらはぎ、腕の付け根、肩など、体の中心に近い大きな筋肉に症状が出やすい傾向があります。

それと同時に手足に力が入らない「脱力感」や、筋肉の「こわばり」を感じることもあります。

横紋筋融解症の主な初期症状

  • 広範囲の筋肉痛
  • 手足の脱力感
  • 筋肉のこわばり
  • 灼熱感

尿の色の変化は危険な兆候

筋肉の成分であるミオグロビンが尿中に排出されると、尿の色が赤褐色(コーラのような色)になります。これは腎臓に負担がかかっているサインであり、非常に危険な兆候です。

筋肉痛と共にこのような尿の色の変化に気づいたら、直ちに医療機関を受診してください。

全身の倦怠感や発熱

筋肉の炎症に伴い、全身の倦怠感や吐き気、発熱といった風邪に似た症状が現れることもあります。

原因不明の筋肉痛と合わせて、このような全身症状が出た場合も注意が必要です。

見逃してはいけない危険なサイン

症状対処
赤褐色の尿直ちに医療機関を受診
急激な手足の脱力直ちに医療機関を受診
持続する広範囲の筋肉痛速やかに主治医に相談

なぜスタチンで横紋筋融解症が起こるのか

スタチンが横紋筋融解症を引き起こす詳細な理由は完全には解明されていませんが、いくつかの説が考えられています。

筋肉細胞への影響

スタチンはコレステロールの合成を阻害しますが、この過程で筋肉細胞の機能を維持するために必要な「コエンザイムQ10」という物質の生成も減少させることが知られています。

このコエンザイムQ10の不足が筋肉細胞にエネルギー障害を引き起こし、筋肉を壊れやすくする一因ではないかと考えられています。

薬物相互作用による血中濃度の上昇

スタチンの多くは肝臓にある「CYP3A4」という酵素で代謝されます。

他の薬でこの酵素の働きを阻害するものと一緒に服用するとスタチンの分解が遅れ、血液中の濃度が異常に高くなってしまいます。

このことが副作用のリスクを高める大きな要因です。

スタチンの血中濃度を上昇させる薬の例

薬の種類主な薬剤名
抗真菌薬(水虫の飲み薬など)イトラコナゾール
マクロライド系抗生物質クラリスロマイシン
免疫抑制薬シクロスポリン

遺伝的な要因の可能性

ごくまれに、特定の遺伝的素因を持つ人がスタチンによる筋肉障害を起こしやすいことが報告されています。

しかしこれは非常に特殊なケースであり、一般的なリスク要因ではありません。

横紋筋融解症のリスクを高める要因

誰にでも起こる可能性がある副作用ですが、特にリスクが高まる特定の条件があります。ご自身に当てはまるものがないか確認してみましょう。

腎機能や肝機能の低下

腎臓や肝臓の機能が低下している方は薬の排泄や代謝が遅れがちになり、スタチンの血中濃度が上がりやすくなります。そのため副作用のリスクが高まります。

特に糖尿病の患者様は合併症として腎機能が低下していることがあるため、定期的な検査が重要です。

他の薬剤との併用(飲み合わせ)

前述の通り、特定の薬剤との併用はリスクを著しく高めます。また、スタチンと同じく横紋筋融解症の副作用があるフィブラート系の脂質異常症治療薬との併用も注意が必要です。

他の医療機関で薬を処方してもらう際や市販薬を購入する際には、必ずスタチンを服用中であることを医師や薬剤師に伝えてください。

高齢者や小柄な女性

高齢の方は加齢に伴い腎機能が低下していることが多く、また筋肉量も少ないため、副作用が出やすい傾向にあります。

同様に小柄で筋肉量の少ない女性も、相対的に薬の影響を受けやすいため注意が必要です。

特に注意が必要な方の特徴

項目リスクが高まる背景
腎機能・肝機能障害薬の代謝・排泄が遅れるため
特定の薬剤の併用スタチンの血中濃度が上昇するため
高齢者腎機能の低下や筋肉量の減少のため

筋肉痛を感じた時の検査と診断の流れ

スタチン服用中に筋肉痛などの症状が現れた場合、医療機関では原因を特定するためにいくつかの検査を行います。

血液検査によるCK(クレアチンキナーゼ)値の測定

最も重要な検査が血液中のCK(クレアチンキナーゼ)値の測定です。CKは主に筋肉細胞に含まれる酵素で、筋肉が壊れると血液中に漏れ出てきます。

このCK値が著しく上昇している場合、横紋筋融解症を強く疑います。

CK値の目安

CK値状態
基準値内筋肉の損傷は軽微か、ない状態
軽度上昇激しい運動後などでも見られる。慎重に経過観察。
著しい上昇(基準上限の10倍以上など)横紋筋融解症を強く疑い、専門的な対応が必要

問診による症状の詳しい確認

いつからどの部位に、どのような痛みがあるのか、他に症状はないかなどを詳しくお聞きします。

また、最近激しい運動をしなかったか、他に飲んでいる薬はないか、なども診断の重要な手がかりとなります。

他の病気との鑑別

筋肉痛は多発性筋炎や皮膚筋炎といった膠原病、甲状腺機能低下症など、他の病気でも起こることがあります。

血液検査などでこれらの病気の可能性がないかを確認し、総合的に診断を下します。

よくある質問

最後に、スタチンの副作用に関して患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
筋肉痛が出たら、すぐに薬をやめるべきですか?
A

自己判断で中止しないでください。まずは処方した主治医に相談することが最も重要です。

筋肉痛の原因は様々であり、必ずしも薬の副作用とは限りません。医師が診察と検査の上で休薬や減量、他の薬への変更などを判断します。

自己判断で中止すると脂質管理が不十分になり、心筋梗塞などのリスクを高めてしまう可能性があります。

Q
グレープフルーツジュースを飲んではいけないと言われました。なぜですか?
A

グレープフルーツに含まれる成分が肝臓の薬物代謝酵素「CYP3A4」の働きを強く阻害するためです。

これにより、アトルバスタチンなどの一部のスタチンの血中濃度が上昇し、横紋筋融解症などの副作用のリスクが高まります。

スタチンを服用中はグレープフルーツ(果実そのものや加工品を含む)の摂取は避けてください。

Q
副作用が心配なので、スタチンを飲みたくありません。
A

スタチンは心筋梗塞や脳梗塞の予防効果が科学的に証明されている非常に有益な薬です。重篤な副作用の頻度は極めてまれであり、そのリスクを上回る大きなメリットがあります。

副作用について正しく理解し、定期的な検査を受けながら服用することが大切です。

心配な点があれば、遠慮なく主治医にご相談ください。納得して治療を続けることが、健康を守る上で何よりも重要です。

以上

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