「最近、なんだか筋肉に力が入らない」「物がうまく持てない」「立ち上がるのがつらい」といった症状でお悩みではありませんか。

一時的な疲れなら良いのですが、続く場合は何らかの病気が隠れている可能性も考えます。

この記事では、筋肉に力が入らないという症状の原因や考えられる病気、特に内分泌疾患との関連、そして医療機関での対応について、内分泌内科の視点から詳しく解説します。

「階段を上るのが辛い」「物を持ち上げるのに力が入らない」といった筋力低下は単なる運動不足や加齢だけでなく、甲状腺機能低下症やクッシング症候群、副腎不全などの内分泌系疾患が隠れている可能性があります。

放置すると日常生活動作が困難になるだけでなく、転倒リスクの増加や全身の機能低下につながることもあります。筋肉の力が入らないとお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。詳しくはこちら

この記事を書いた人

神戸きしだクリニック院長 岸田雄治
岸田 雄治
神戸きしだクリニック院長

医学博士
日本医学放射線学会認定 放射線診断専門医
日本核医学会認定 核医学専門医
【略歴】
神戸大学医学部卒。神戸大学大学院医学研究科医科学専攻博士課程修了。神戸大学附属病院 放射線科 助教。甲南医療センター放射線科医長を経て神戸きしだクリニックを開業(2020年6月1日)

筋肉に力が入らないとはどのような状態か

筋肉に力が入らない、いわゆる「脱力感」や「筋力低下」は、日常生活において様々な支障をきたす症状です。

単に「だるい」と感じる倦怠感とは異なり、実際に筋肉の収縮力が弱まっている状態を指します。特定の部位に限定して現れることもあれば、全身に及ぶこともあります。

症状の具体的な現れ方

筋肉に力が入らないと感じる具体的な状況は人によって様々です。例えば、以下のような症状がみられることがあります。

  • ペットボトルのキャップが開けにくい
  • 階段の昇り降りがつらい
  • 腕や脚が重く感じる
  • 長時間立っていることが困難

これらの症状が一時的なものか、持続的なものか、徐々に悪化しているのかなど、症状の経過も重要な情報となります。

倦怠感との違い

倦怠感は全身のだるさや疲労感を指し、必ずしも筋力の低下を伴いません。一方、筋肉に力が入らない状態は、実際に筋力が発揮できないことを意味します。

しかし、これら二つの症状は合併することもあり、区別が難しい場合もあります。正確な判断のためには、医師による診察が大切です。

症状の区別

症状主な特徴筋肉の力の状態
筋肉に力が入らない(筋力低下)実際に筋肉の力が弱まる低下している
倦怠感全身のだるさ、疲労感必ずしも低下していない

症状が現れる部位

力が入らないと感じる部位によっても、考えられる原因が異なります。

腕や手などの上肢、脚や足などの下肢、あるいは顔面や体幹など、どの部分に症状が出ているかを確認することが診断の手がかりになります。左右対称か、片側だけかという点も重要です。

筋肉に力が入らないときに考えられる主な原因

筋肉に力が入らないという症状は、様々な原因によって起こります。

原因を特定するためには、詳しい問診や検査が必要です。ここでは、主な原因をいくつか紹介します。

神経系の異常

脳、脊髄、末梢神経といった神経系に問題が生じると、筋肉への指令がうまく伝わらなくなり、力が入らなくなることがあります。

代表的なものには、脳卒中、脊髄損傷、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症などがあります。

これらの疾患では、筋力低下の他に、しびれや感覚障害、複視などを伴うことがあります。

筋肉自体の病気

筋肉そのものに異常がある場合も、筋力低下を引き起こします。筋ジストロフィーや多発性筋炎、皮膚筋炎などがこれに該当します。

これらの病気では、筋肉の炎症や変性が起こり、徐々に筋力が低下していくことが多いです。

筋肉の病気による症状の例

病名(例)主な症状特徴
筋ジストロフィー進行性の筋力低下、筋萎縮遺伝的要因が関与
多発性筋炎・皮膚筋炎筋力低下、筋肉痛、皮膚症状(皮膚筋炎の場合)自己免疫が関与

電解質異常

血液中のカリウムやナトリウム、カルシウムといった電解質のバランスが崩れると、筋肉の正常な収縮が妨げられ、力が入らなくなることがあります。

特に低カリウム血症は、周期性四肢麻痺という形で急な脱力を引き起こすことがあります。これは内分泌疾患とも関連が深いです。

内分泌疾患(ホルモンバランスの乱れ)

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)甲状腺機能低下症副腎皮質機能低下症(アジソン病)クッシング症候群などの内分泌疾患も筋力低下の原因となることがあります。

ホルモンは筋肉のエネルギー代謝や機能維持に重要な役割を果たしており、そのバランスが崩れることで筋肉に影響が出ます。この点については後ほど詳しく解説します。

こんな症状は要注意!見過ごせない危険なサイン

筋肉に力が入らないという症状に加えて、以下のような症状が見られる場合は緊急性の高い病気や重篤な状態である可能性があり、速やかな医療機関の受診が必要です。

急激な症状の悪化

数時間から数日の間に急激に筋力低下が進行する場合や、呼吸が苦しい、飲み込みにくいといった症状が現れた場合は、神経系の重篤な疾患や重度の電解質異常などが考えられます。

ためらわずに救急外来を受診するか、救急車を呼ぶことを検討してください。

意識障害や麻痺を伴う場合

呂律が回らない、片側の手足が動かしにくい、顔面の麻痺、激しい頭痛、意識が朦朧とするといった症状は、脳卒中(脳梗塞や脳出血)のサインである可能性があります。

これらの症状は一刻を争うため、すぐに医療機関を受診する必要があります。

緊急受診の目安

症状考えられる状態対応
急な呼吸困難、嚥下困難神経疾患の急性増悪など救急受診
片麻痺、呂律困難、意識障害脳卒中など救急受診
激しい胸痛を伴う脱力心疾患の可能性救急受診

発熱や体重減少を伴う場合

原因不明の発熱や急な体重減少とともに筋力低下が見られる場合は、感染症、悪性腫瘍、膠原病などの可能性も考えます。

これらの疾患は専門的な検査と治療が必要となるため、早期の受診が大切です。

なぜ内分泌内科?筋肉の力とホルモンの意外な関係

「筋肉の力が入りにくい」という症状で、整形外科や神経内科をまず思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実はホルモンのバランスの乱れが原因で筋力低下が起こることも少なくありません。

ホルモンが筋肉に与える影響

ホルモンは体の様々な機能を調節する化学物質です。筋肉の成長、修復、エネルギー産生、収縮力の維持などにも深く関わっています。

特定のホルモンが多すぎたり少なすぎたりすると、筋肉の機能が低下し、力が入らない、疲れやすいといった症状が現れます。

筋肉機能に関連する主なホルモン

ホルモン名主な産生場所筋肉への主な作用
甲状腺ホルモン甲状腺エネルギー代謝の調節、筋タンパク質の合成・分解
副腎皮質ホルモン(コルチゾールなど)副腎皮質糖代謝、抗炎症作用、過剰になると筋萎縮
成長ホルモン下垂体筋タンパク質の合成促進、筋肉量の維持

甲状腺ホルモンの異常と筋力低下

甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を活発にする働きがあります。

このホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では、筋肉の分解が進みやすくなり、筋力低下や筋萎縮(ミオパチー)が起こることがあります。

特に太ももや肩の周りの筋肉が影響を受けやすく、階段を昇るのがつらい、腕が上がりにくいといった症状が出ます。

逆に、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症でも筋肉の収縮や弛緩がスムーズに行えなくなり、こわばりや脱力感、筋肉痛などが生じることがあります。

副腎皮質ホルモンの異常と筋力低下

副腎皮質から分泌されるコルチゾールなどのホルモンは、ストレス対応や炎症を抑える重要な役割がありますが、これが過剰になるクッシング症候群や、長期間ステロイド薬を使用している場合などでは、筋肉のタンパク質が分解されやすくなり(ステロイドミオパチー)、筋力低下や筋萎縮を引き起こします。

逆に、副腎皮質ホルモンが不足するアジソン病でも、全身の倦怠感とともに筋力低下が見られることがあります。

内分泌内科でのアプローチの重要性

このように、ホルモンの異常は筋肉の力に直接的な影響を与えます。しかし、これらの症状は他の病気による筋力低下と区別がつきにくいことがあります。

内分泌内科では、血液検査で詳細なホルモン値を測定し、ホルモンバランスの異常が筋力低下の原因となっていないかを専門的に評価します。

原因がホルモン異常であれば、その治療を行うことで筋力低下の改善が期待できます。「原因不明の筋力低下」と診断されていた方が、実は内分泌疾患だったというケースも少なくありません。

もし、なかなか改善しない筋力低下でお悩みであれば、一度内分泌内科の受診も検討してみる価値があります。

自分でできること・日常生活での注意点

筋肉に力が入らない症状がある場合は原因に応じた治療が基本ですが、日常生活で気をつけることで症状の悪化を防いだり、体調を整えたりすることができます。

バランスの取れた食事

筋肉の材料となるタンパク質や、エネルギー代謝に必要なビタミン、ミネラルをバランス良く摂取することが大切です。

特に、カリウムやマグネシウムなどのミネラルは筋肉の正常な機能に必要です。

筋肉の健康に役立つ栄養素

栄養素主な働き多く含む食品例
タンパク質筋肉の構成成分肉、魚、卵、大豆製品
カリウム筋肉の収縮、神経伝達ほうれん草、バナナ、いも類
マグネシウムエネルギー産生、筋肉の弛緩海藻類、ナッツ類、豆類

適度な運動と休息

筋力低下の原因や程度にもよりますが、医師の指示のもと、無理のない範囲で適度な運動を行うことは筋力の維持に役立ちます。

ただし、過度な運動は症状を悪化させる可能性もあるため注意が必要です。十分な睡眠と休息も、筋肉の回復には重要です。

ストレス管理

過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、症状を悪化させる可能性があります。

リラックスできる時間を作る、趣味を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。

  • 十分な睡眠時間を確保する
  • 趣味やリフレッシュの時間を設ける
  • 過度なカフェイン摂取を避ける

医療機関での検査と診断の流れ

筋肉に力が入らないという症状で医療機関を受診した場合、原因を特定するために様々な検査が行われます。内分泌内科では、特にホルモン関連の検査を重視します。

問診と身体診察

まず、症状がいつからどのように現れたか、他に症状はないか、既往歴や家族歴、服用中の薬などについて詳しく問診します。

その後、実際に筋力を評価する徒手筋力テストや、神経学的な診察(反射の確認など)を行います。

血液検査

血液検査は非常に重要な情報源です。

炎症反応(CRPなど)、筋肉の酵素(CK、ASTなど)、電解質(カリウム、ナトリウム、カルシウムなど)、そして各種ホルモン値(甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンなど)を測定します。

自己免疫疾患が疑われる場合は、関連する自己抗体の検査も行います。

血液検査で調べる主な項目例

検査項目何がわかるか
CK(クレアチンキナーゼ)筋肉の損傷の程度
電解質(K, Na, Caなど)体液バランス、筋肉の興奮性
甲状腺ホルモン(TSH, FT3, FT4)甲状腺機能の状態

画像検査やその他の専門検査

必要に応じて、筋肉の状態を詳しく見るためにMRIや超音波検査、神経の伝導速度を調べる神経伝導検査、筋肉の電気的な活動を記録する筋電図検査などを行うことがあります。より専門的な医療機関で実施されることが多いです。

筋肉に力が入らない症状の治療法

治療法は、筋肉に力が入らない原因によって大きく異なります。原因疾患を特定し、それに応じた治療を行うことが基本です。

原因疾患に対する治療

例えば、甲状腺機能亢進症が原因であれば抗甲状腺薬やアイソトープ治療、甲状腺機能低下症であれば甲状腺ホルモン補充療法を行います。

副腎皮質機能低下症であれば副腎皮質ホルモンの補充が必要です。

電解質異常が原因であれば、その補正を行います。重症筋無力症や多発性筋炎などの自己免疫疾患では、ステロイドや免疫抑制剤などを使用します。

薬物療法

上記の原因疾患の治療薬のほか、症状を和らげるための対症療法として薬が使われることもあります。ただし、根本的な解決には原因の治療が重要です。

リハビリテーション

筋力低下が著しい場合や、日常生活に支障が出ている場合には、理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションが行われます。

筋力トレーニングや関節可動域訓練、日常生活動作の練習などを通じて、機能回復を目指します。

生活習慣の改善

食事療法や運動療法、十分な休養など、生活習慣の見直しも治療の一環として重要です。特に内分泌疾患では、規則正しい生活がホルモンバランスを整える上で役立ちます。

放置するリスクと早期受診の重要性

筋肉に力が入らないという症状は、単なる疲れや加齢によるものと自己判断してしまいがちですが、背景に重大な病気が隠れている可能性もあります。

放置することで病気が進行し、治療が難しくなったり、生活の質が著しく低下したりする恐れがあります。

症状の悪化と合併症

原因となる病気によっては、筋力低下が進行し、最終的には寝たきりになったり、呼吸筋麻痺により生命に関わる事態に至ることもあります。

また、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を合併している場合、それらのコントロールも悪化する可能性があります。

生活の質の低下

筋力低下は、歩行困難、転倒リスクの増加、身の回りのことができなくなるなど、日常生活に大きな影響を与えます。

これにより、社会参加が難しくなったり、精神的なストレスが増大したりすることもあります。

放置した場合の考えられる影響

影響の種類具体的な内容例
身体的影響症状の進行、転倒、寝たきり、呼吸困難
生活的影響ADL(日常生活動作)低下、QOL(生活の質)低下
精神的影響不安、抑うつ、孤立感

早期発見・早期治療のメリット

どのような病気であっても、早期に発見し、適切な治療を開始することが良好な経過を得るためには大切です。

特に内分泌疾患が原因の場合、ホルモンバランスを整える治療を行うことで、劇的に症状が改善することも少なくありません。

「たかが脱力感」と軽視せず、症状が続く場合は早めに医療機関を受診しましょう。

どの科を受診すればよいか迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談するか、症状に応じて内科、神経内科、あるいは当院のような内分泌内科にご相談ください。

よくある質問

Q
筋肉に力が入らないのは、年のせいでしょうか?
A

加齢に伴いある程度の筋力低下は起こりえますが、急激な変化や日常生活に支障が出るほどの脱力感は、何らかの病気が原因である可能性も考えます。

自己判断せず、一度医療機関にご相談ください。

Q
筋肉痛とは違うのでしょうか?
A

筋肉痛は運動後などに起こる筋肉の痛みであり、通常は数日で改善します。

筋肉に力が入らない状態(筋力低下)とは異なりますが、病気によっては筋肉痛と筋力低下が同時に起こることもあります。

Q
内分泌内科ではどのような検査をするのですか?
A

主に血液検査で甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、電解質などを測定し、ホルモンバランスの異常がないかを確認します。

必要に応じて、超音波検査などの画像検査や、さらに専門的な負荷試験を行うこともあります。

Q
ストレスで筋肉に力が入らなくなることはありますか?
A

過度なストレスは自律神経のバランスを崩し、全身の倦怠感や脱力感を引き起こすことがあります。また、ストレスが誘因となって内分泌系のバランスが乱れることもあります。

ただし、他の病気が隠れていないかを確認することも重要です。

Q
子供でも筋肉に力が入らない症状は出ますか?
A

はい、お子さんでも筋力低下をきたす病気はあります。先天性の筋疾患や、小児期に発症する内分泌疾患、神経系の病気などが考えられます。

気になる症状があれば、小児科や専門医にご相談ください。

当院(神戸きしだクリニック)への受診について

神戸きしだクリニックの内分泌内科では、筋力低下に関わるホルモンバランスの異常について専門的な診察を行っております。

筋肉に力が入らない、筋力が低下したといった症状は、甲状腺機能異常、副腎皮質ホルモンの過不足、成長ホルモン分泌低下、あるいは電解質バランスの乱れなど、内分泌系の問題が背景にある可能性があります。

原因不明の筋力低下にお悩みの方は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。

内分泌内科

診療時間日祝
9:00 – 12:00
隔週
13:30 – 16:30
09:00~12:0013:30~16:30

隔週

検査体制

  • 甲状腺機能検査(TSH・FT3・FT4)
  • 副腎皮質ホルモン検査(コルチゾールなど)
  • 成長ホルモン・IGF-1測定
  • 血液検査(電解質・カルシウム・マグネシウムなど)
  • 筋酵素検査(CK・アルドラーゼなど)
  • ビタミンD・副甲状腺ホルモン測定

など、症状に応じた適切な検査を実施いたします。専門的な精査や詳細検査が必要な場合は、神戸大学医学部附属病院など高度医療機関と連携して対応いたします。

予約・受診方法

当院は予約必須ではございませんが、来院予約をオンラインよりしていただけますと、来院時にお待ちいただく時間が少なくできます。

24時間いつでも予約可能

電話予約

お電話での予約も受け付けております。健康診断の再検査についてのご不明点もお気軽にご相談ください。

▽ クリック ▽

電話予約

内分泌内科(神戸きしだクリニック)TOPページに戻る

参考文献