「最近、口周りの産毛が濃くなった気がする」「腕や脚の毛が男性のように太くなってきた」など、女性の髭や体毛の変化に悩んでいませんか。
女性の多毛は見た目の問題だけでなく、背景にホルモンバランスの乱れや何らかの病気が隠れている可能性もあります。
この記事では、女性の髭や多毛がなぜ起こるのか、その原因として考えられること、医療機関での検査や治療、そして日常生活でできることについて詳しく解説します。
ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対処法を見つけるための参考にしてください。
「顔や体の毛が濃くなってきた」「以前はなかった髭が気になる」こんな多毛症(hirsutism)は単なる体質や遺伝だけでなく、多嚢胞性卵巣症候群や副腎過形成症などのホルモンバランスの乱れが隠れている可能性があります。
放置すると毛の症状だけでなく、不妊や月経異常、代謝障害など他の健康問題にも影響するリスクがあります。多毛や髭の増加にお悩みの女性は、ぜひお気軽にご相談ください。詳しくはこちら
この記事を書いた人

神戸きしだクリニック院長
医学博士
日本医学放射線学会認定 放射線診断専門医
日本核医学会認定 核医学専門医
【略歴】
神戸大学医学部卒。神戸大学大学院医学研究科医科学専攻博士課程修了。神戸大学附属病院 放射線科 助教。甲南医療センター放射線科医長を経て神戸きしだクリニックを開業(2020年6月1日)
女性の髭や多毛はどれくらいが「多い」と感じる基準なのか
まずは女性の髭や多毛について、どのような状態を指すのか、また医学的にどのように評価するのかを解説します。
毛深さの感じ方は主観的な部分もありますが、客観的な判断基準を知ることも大切です。
人によって異なる毛深さの感じ方
体毛の量や濃さには個人差が大きく、どの程度から「毛深い」「多毛」と感じるかは人それぞれです。肌の色が白い方は体毛が目立ちやすく、気にされる傾向があるかもしれません。
また、ご自身の体毛に対する意識の高さや、周囲の環境によっても感じ方は変わってきます。
一般的に、女性ホルモンの影響が強い時期(思春期や妊娠中など)に一時的に毛が濃くなることもありますが、これは生理的な変化であり、過度に心配する必要はありません。
しかし、これまで気にならなかった部位に濃い毛が生えてきたり、毛の量や質が明らかに変化したりした場合は注意が必要です。
男性のような硬く太い毛が生える状態
医学的に「多毛」と判断されるのは、単に産毛が多いという状態ではなく、女性では通常あまり見られない部位(口周り、顎、胸、背中、太ももなど)に男性の髭のように硬く太い毛(硬毛)が生えてくる状態を指します。
これは、男性ホルモンであるアンドロゲンの影響が強く出ている可能性を示唆しています。
特に急激に症状が進行した場合や、月経不順、にきび、声変わりなどの他の症状を伴う場合は、背景に何らかの病気が隠れている可能性も考えられます。
多毛の自己チェック項目例
部位 | 毛の状態 | 考慮すべき点 |
---|---|---|
口周り・顎 | 産毛ではなく、硬く太い毛が生える | 男性ホルモンの影響が考えられる代表的な部位 |
胸部 | 乳輪周りや胸の間に太い毛が生える | ホルモンバランスの乱れが疑われる |
背中・腹部 | 広範囲に濃い毛が生える | 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの可能性も考慮 |
多毛症の医学的な評価方法
医療機関では、女性の多毛の程度を客観的に評価するために、「フェリマン・ゴールウェイ スコア(Ferriman-Gallwey score)」という指標を用いることがあります。
これは、口ひげ、顎ひげ、胸毛、上背部、下背部、上腹部、下腹部、上腕、大腿の9つの部位における硬毛の程度を、それぞれ0点(なし)から4点(男性並み)で評価し、合計点数で多毛の重症度を判定する方法です。
合計点数が8点以上の場合、多毛症と診断される一つの目安となります。
ただし、このスコアはあくまで評価法の一つであり、点数だけで全てが決まるわけではありません。
スコアに加えて、患者さんの自覚症状、毛の生え始めた時期や変化の経緯、他の随伴症状などを総合的に判断して診断します。
気になる症状があれば専門医へ
ご自身の髭や体毛の状態が「多毛」に当てはまるかどうか、またその原因が何なのかを自己判断するのは難しいことです。
もし急に毛が濃くなった、硬い毛が生えてきた、月経不順やにきびなど他の症状もある、といった気になる変化があれば、まずは医療機関に相談することをおすすめします。
特にホルモンバランスの乱れが疑われる場合は、内分泌内科や婦人科が専門となります。
女性の髭・多毛を引き起こす主な原因
次に、女性の髭や多毛がなぜ起こるのか、その背景にある主な原因について解説します。特にホルモンバランスとの関連は重要です。
男性ホルモン(アンドロゲン)の影響
女性の体内でも、副腎や卵巣で男性ホルモンであるアンドロゲンが少量作られています。
アンドロゲンは筋肉や骨の形成、性欲などに関わる重要なホルモンですが、その量が多くなりすぎたり、アンドロゲンに対する感受性が高まったりすると、女性でも男性のような特徴が現れることがあります。
その一つが、髭や胸毛、すね毛といった部位に硬く太い毛が生える「多毛」です。
アンドロゲンには毛母細胞を刺激して毛の成長を促進する作用があるため、その影響が強く出ると、産毛が硬毛へと変化し毛深くなるのです。
女性の体毛に影響する主なホルモン
ホルモン種類 | 主な産生場所 | 体毛への主な影響 |
---|---|---|
アンドロゲン | 副腎、卵巣 | 過剰になると硬毛化・多毛を引き起こす |
エストロゲン | 卵巣 | 毛の成長期間を延長させるが、アンドロゲンの作用を抑制する |
プロゲステロン | 卵巣 | アンドロゲン産生を一部抑制する可能性がある |
アンドロゲンにはいくつかの種類があります。
テストステロンが最も活性が強い代表的なアンドロゲンですが、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)やアンドロステンジオンといった他のアンドロゲンも体内でテストステロンに変換されることがあります。
- テストステロン
- デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)
- アンドロステンジオン
これらのアンドロゲンのいずれかが過剰になったり、バランスが崩れたりすることで、多毛症状が現れると考えられています。
ホルモンバランスの乱れとは
「ホルモンバランスの乱れ」とは、体内で働く様々なホルモンの分泌量が正常な範囲からずれてしまう状態を指します。
女性の場合、特に女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)と男性ホルモン(アンドロゲン)のバランスが重要です。
通常、女性の体内では女性ホルモンが優位に働いていますが、何らかの原因でアンドロゲンの分泌が増えたり、女性ホルモンの分泌が減ったりすると、相対的にアンドロゲンの作用が強まり多毛をはじめとする男性化兆候が現れることがあります。
ストレス、睡眠不足、不規則な生活、急激な体重変動、そして後述するような病気などがホルモンバランスを乱す要因となります。
加齢によるホルモン変化
女性は閉経期を迎えると卵巣機能が低下し、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が大きく減少します。
一方で、副腎から分泌されるアンドロゲンの量は比較的維持されるため、相対的にアンドロゲンの影響が強まることがあります。
これにより閉経後に顔の産毛が濃くなったり、軽い多毛傾向が見られたりすることがあります。
生理的な変化の一部と考えられますが、急激な変化や重度の多毛が見られる場合は他の原因も考慮する必要があります。
遺伝的な要因
病的な原因がないにもかかわらず、体質的に毛深いというケースもあります。
これは「体質性多毛症」と呼ばれ、特定の民族や家系に見られることが多い傾向があります。
この場合、アンドロゲンの分泌量自体は正常範囲内であることが多いのですが、毛包(毛を作り出す組織)のアンドロゲンに対する感受性が高い、あるいはアンドロゲンをより活性の高い形に変換する酵素の活性が高いことなどが原因として考えられています。
体質性多毛症の場合、他の男性化兆候(月経不順、にきび、声変わりなど)を伴わないことが一般的です。
髭・多毛と関連する可能性のある病気
女性の髭や多毛が、単なる体質やホルモンバランスの乱れだけでなく、特定の病気の症状として現れる可能性について解説します。早期発見・早期治療が重要です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome: PCOS)は生殖年齢の女性に見られる内分泌疾患の一つで、多毛の最も一般的な原因の一つです。
PCOSでは、卵巣でのアンドロゲン産生が過剰になったり、排卵がうまくいかなかったりします。
その結果、多毛の他に、月経不順(無月経、稀発月経など)、にきび、肥満、インスリン抵抗性(血糖値を下げるインスリンが効きにくくなる状態)、そして超音波検査で卵巣に多数の小さな卵胞(嚢胞)が見られるといった特徴が現れます。
PCOSは不妊の原因となるだけでなく、将来的には糖尿病や心血管疾患、子宮体がんのリスクを高める可能性も指摘されており、適切な診断と管理が重要です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)でみられる主な症状
- 月経不順(無月経、稀発月経など)
- 多毛(髭、胸毛、太ももの毛など)
- にきび(特に治りにくいもの)
- 肥満(特に上半身中心)
- 不妊
これらの症状が複数当てはまる場合は、婦人科または内分泌内科への相談を検討してください。
クッシング症候群
クッシング症候群は、副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰になる病気です。
コルチゾールはストレス反応に関わるホルモンですが、その作用の一部にアンドロゲン産生を刺激するものがあります。
そのため、クッシング症候群の患者さんでは多毛が見られることがあります。
多毛以外には、顔が丸くなる(満月様顔貌)、顔が赤くなる、首の後ろや肩周りに脂肪がつく(野牛肩)、お腹周りを中心に太る(中心性肥満)、手足は細くなる、皮膚が薄くなりあざができやすくなる、高血圧、高血糖、骨粗しょう症、精神症状(うつ、不眠など)といった多彩な症状が現れます。
原因としては、副腎自体の腫瘍や、脳下垂体の腫瘍(クッシング病)などが考えられます。
先天性副腎過形成症
先天性副腎過形成症は、副腎でのホルモン合成に必要な酵素が生まれつき欠けている、あるいは働きが弱い遺伝性の病気です。
この酵素の欠損によりコルチゾールの合成がうまくいかず、その手前の段階の物質が過剰に蓄積します。
その一部がアンドロゲンに変換されるため、アンドロゲン過剰症状が現れます。
生まれた時に外性器の異常で気づかれる重症型(古典型)と、思春期以降に多毛や月経不順、にきびなどの症状で気づかれる軽症型(遅発型/非古典型)があります。
女性の多毛の原因としては、遅発型が考慮されます。
多毛を引き起こす主な病気と特徴的な症状
病名 | 主な原因 | 多毛以外の主な症状 |
---|---|---|
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) | 卵巣でのアンドロゲン過剰、排卵障害 | 月経不順、にきび、肥満、インスリン抵抗性、不妊 |
クッシング症候群 | 副腎でのコルチゾール過剰 | 満月様顔貌、中心性肥満、高血圧、高血糖、皮膚の菲薄化、骨粗しょう症 |
先天性副腎過形成症(遅発型) | 副腎での酵素欠損によるアンドロゲン過剰 | 月経不順、にきび、不妊(古典型では外性器異常) |
卵巣・副腎腫瘍 | 腫瘍によるアンドロゲン過剰産生 | 急速に進行する多毛や男性化兆候(声変わり、筋肉量の増加など) |
卵巣や副腎の腫瘍
非常にまれですが、卵巣や副腎にアンドロゲンを産生する腫瘍ができることも多毛の原因となりえます。
この場合、比較的急速に多毛症状が進行し、声が低くなる、筋肉量が増加するといったより強い男性化兆候を伴うことが多いのが特徴です。
腫瘍が原因の場合、早期に発見し、手術などで取り除くことが必要になります。急速な症状の進行が見られる場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。
内分泌内科での検査と診断の流れ
髭や多毛の原因を調べるために内分泌内科を受診した場合に、どのような検査が行われ、どのように診断が進められるのか、その一般的な流れについて解説します。
問診で詳しく症状を確認
まず、医師は患者さんから詳しいお話を聞きます。これを問診といいます。いつから髭や多毛が気になり始めたか、どの部位の毛がどのように変化したか、毛深さの程度、進行の速さなどを具体的に尋ねます。
また、月経の状態(周期、期間、量、規則性など)、妊娠・出産の経験、にきび、体重の変化、声の変化、体型の変化、現在治療中の病気や服用中の薬、家族に同様の症状を持つ人がいるか(家族歴)なども重要な情報です。
これらの情報を総合的に判断し、原因としてどのような可能性が考えられるか、どのような検査が必要かを探っていきます。
些細なことと思っても、気になることは遠慮なく医師に伝えてください。
血液検査によるホルモン値の測定
多毛の原因としてホルモンバランスの乱れや内分泌系の病気が疑われる場合、血液検査でホルモン値を測定することが重要です。
主に測定するのは、男性ホルモンであるテストステロン(総テストステロン、遊離テストステロン)、DHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン サルフェート:副腎由来のアンドロゲン)、アンドロステンジオンなどです。
また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が疑われる場合には、LH(黄体形成ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)といった性腺刺激ホルモン、プロラクチンなども測定します。
クッシング症候群が疑われる場合はコルチゾール、先天性副腎過形成症が疑われる場合は17-OHP(17-ヒドロキシプロゲステロン)などを測定します。
さらに、インスリン抵抗性の評価のために血糖値やインスリン値を測定することもあります。
これらのホルモン値は月経周期によって変動するものもあるため、適切な時期に採血を行うことが大切です。
内分泌内科で行う主な血液検査項目
検査項目例 | 主な目的 | 関連する可能性のある疾患例 |
---|---|---|
テストステロン (総・遊離) | アンドロゲン過剰の評価 | PCOS、卵巣・副腎腫瘍 |
DHEA-S | 副腎由来のアンドロゲン過剰の評価 | 副腎腫瘍、先天性副腎過形成症 |
LH, FSH | 性腺機能、排卵障害の評価 | PCOS |
コルチゾール | 副腎皮質機能亢進の評価 | クッシング症候群 |
17-OHP | 副腎でのホルモン合成異常の評価 | 先天性副腎過形成症 |
血糖値、インスリン | インスリン抵抗性、糖尿病リスクの評価 | PCOS |
画像検査(超音波検査など)の必要性
血液検査の結果や症状から特定の病気が強く疑われる場合には、画像検査を行います。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が疑われる場合は、経腟超音波検査(エコー検査)で卵巣の状態を確認し、多数の小さな卵胞(嚢胞)が見られるかどうかを調べます。これは主に婦人科で行います。
クッシング症候群やアンドロゲン産生腫瘍が疑われる場合は、副腎や脳下垂体の状態を詳しく調べるために、腹部CT検査やMRI検査などを行うことがあります。
これらの画像検査により、腫瘍の有無や大きさ、位置などを確認し、診断や治療方針の決定に役立てます。
画像検査の種類と目的
検査種類 | 主な対象臓器 | 目的 |
---|---|---|
経腟超音波検査 | 卵巣 | PCOS診断(多嚢胞性卵巣の確認)、卵巣腫瘍の有無 |
腹部CT/MRI検査 | 副腎、卵巣 | 副腎腫瘍、卵巣腫瘍の有無、大きさ、位置の確認 |
頭部MRI検査 | 脳下垂体 | クッシング病(下垂体腫瘍)の有無、大きさの確認 |
他の病気との鑑別診断
多毛を引き起こす原因は様々であり、症状も似ていることがあるため、正確な診断のためには、他の病気の可能性を除外すること(鑑別診断)が重要です。
例えば、薬剤性多毛(特定の薬剤の副作用として多毛が起こる)や、甲状腺機能低下症など、他の内分泌疾患でも体毛の変化が見られることがあります。
問診や診察、血液検査、画像検査などの結果を総合的に評価し、可能性のある病気を一つ一つ検討しながら最終的な診断に至ります。
診断が確定するまでには複数の検査が必要になったり、他の専門科(婦人科、皮膚科など)との連携が必要になったりすることもあります。
女性の髭・多毛に対する治療法
女性の髭や多毛と診断された場合の治療法について解説します。原因となっている病気や症状の程度、患者さんの希望などを考慮して、適切な治療法を選択します。
原因疾患の治療が基本
女性の多毛症の治療において最も重要なのは、その原因となっている基礎疾患を特定し、治療することです。
例えば多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、クッシング症候群、先天性副腎過形成症、アンドロゲン産生腫瘍などが原因であれば、それぞれの病気に対する治療を優先します。
PCOSであれば、生活習慣の改善(食事療法、運動療法)や排卵誘発、インスリン抵抗性改善薬の使用などが検討されます。
クッシング症候群やアンドロゲン産生腫瘍であれば、原因となっている腫瘍の摘出手術が基本となります。
先天性副腎過形成症に対しては、不足しているホルモン(糖質コルチコイド)を補充する薬物療法を行います。
原因疾患の治療が成功すれば、アンドロゲンの過剰状態が改善され、多毛の症状も軽減することが期待できます。
ホルモン療法(低用量ピルなど)
原因疾患の治療と並行して、あるいは体質性多毛症などで特定の原因が見つからない場合に、多毛の症状を改善する目的でホルモン療法を行うことがあります。
代表的なのは低用量経口避妊薬(低用量ピル)です。低用量ピルに含まれるエストロゲンには、卵巣からのアンドロゲン産生を抑制する作用や、血液中でアンドロゲンと結合してその働きを弱めるタンパク質(SHBG)を増やす作用があります。
また、一部の低用量ピルに含まれる黄体ホルモン(プロゲスチン)には、アンドロゲンの作用を直接ブロックする効果を持つものもあります。
これにより、アンドロゲンの影響を抑え、多毛の改善が期待できます。
ただし低用量ピルは血栓症のリスクなど副作用もあるため、使用にあたっては医師とよく相談し、定期的なチェックを受けることが必要です。
抗アンドロゲン薬
低用量ピルだけでは効果が不十分な場合や、低用量ピルが使用できない場合に抗アンドロゲン薬の使用を検討することがあります。
スピロノラクトンという薬剤は本来は利尿薬(高血圧治療薬)ですが、アンドロゲンが受容体に結合するのを阻害したり、アンドロゲンの産生を抑制したりする作用も持っており、多毛症の治療に用いられることがあります(保険適用外使用となる場合があります)。
ただし、スピロノラクトンは高カリウム血症や月経不順などの副作用を起こす可能性があり、妊娠中の使用は禁忌であるため使用には注意が必要です。
その他、より強力な抗アンドロゲン薬もありますが、副作用のリスクも高いため使用は慎重に判断します。
多毛症の治療法(原因疾患治療、ホルモン療法、対症療法)
治療法の種類 | 具体的な方法例 | 主な目的・効果 |
---|---|---|
原因疾患の治療 | 手術(腫瘍摘出)、薬物療法(ホルモン補充など) | 多毛の根本原因を取り除く |
ホルモン療法 | 低用量経口避妊薬(ピル) | アンドロゲン産生抑制、アンドロゲン作用抑制 |
抗アンドロゲン薬 | スピロノラクトンなど | アンドロゲン作用の阻害、アンドロゲン産生抑制 |
対症療法 | 医療脱毛(レーザー、光)、電気脱毛、自己処理(剃毛) | 生えている毛を除去する(根本治療ではない) |
薬物療法以外の選択肢(対症療法)
薬物療法は、アンドロゲンの影響を抑えることで新たな毛の硬毛化を防いだり、毛の成長を遅らせたりする効果は期待できますが、すでに生えている硬毛をなくすわけではありません。
そのため、美容的な観点から、すでに生えている毛に対する対症療法を併用することが一般的です。
医療機関で行われる脱毛(レーザー脱毛、光脱毛、電気脱毛など)は、毛根の組織にダメージを与えて毛の再生を抑制するため、長期的な減毛効果が期待できます。
ただし効果には個人差があり、複数回の施術が必要です。また、費用も高額になる傾向があります。
自身で行う剃毛、毛抜き、除毛クリーム、ワックス脱毛などは、一時的な処理方法であり、肌への負担も考慮する必要があります。
どの方法を選択するかは、症状の程度、費用、効果の持続性、肌への影響などを考慮し、医師や専門家と相談して決めることが大切です。
日常生活でできることと注意点
医療機関での治療と並行して、あるいは症状が軽微な場合に、日常生活の中で髭や多毛に対してできることや注意すべき点について解説します。
自己処理の方法と肌への影響
気になる髭や体毛を自己処理している方は多いと思います。カミソリでの剃毛は手軽ですが、肌表面を傷つけやすく、カミソリ負けや埋没毛の原因になることがあります。
毛抜きでの処理は一時的につるつるになりますが、毛穴への負担が大きく、毛嚢炎(毛穴の炎症)や色素沈着のリスクがあります。
除毛クリームは毛を溶かす成分で処理しますが、肌が弱い方は刺激を感じたり、かぶれたりすることがあります。
ワックス脱毛は広範囲の毛を一度に処理できますが、痛みがあり、肌への負担も大きいです。どの方法も一長一短があり、肌トラブルを引き起こす可能性があります。
自己処理方法の比較(メリット・デメリット)
処理方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
剃毛 | 手軽、安価 | 肌への負担、カミソリ負け、埋没毛、効果が短い |
毛抜き | 一時的に綺麗になる、根元から抜ける | 痛み、毛嚢炎、埋没毛、色素沈着、時間がかかる |
除毛クリーム | 痛みがない、広範囲も可能 | 肌への刺激、かぶれ、独特の臭い、効果は一時的 |
ワックス脱毛 | 広範囲を一度に処理、比較的長持ち | 痛み、肌への負担、埋没毛、ある程度の長さが必要 |
自己処理を行う場合は肌を清潔にし、処理後は保湿をしっかり行うなど、スキンケアを心がけることが大切です。
また、頻繁な処理は肌への負担を増やすため、適切な頻度を見つけることも重要です。肌トラブルが続く場合は、皮膚科医に相談することも考えましょう。
生活習慣の見直し
ホルモンバランスは生活習慣と密接に関わっています。特に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、肥満やインスリン抵抗性が関与していることが多いため、生活習慣の改善が重要です。
バランスの取れた食事を心がけ、適度な運動を取り入れることで、体重管理やインスリン抵抗性の改善につながり、結果としてアンドロゲンの過剰状態が緩和される可能性があります。
また、十分な睡眠時間を確保し、ストレスを溜め込まないようにすることもホルモンバランスを整える上で大切です。
生活習慣で見直すべきポイント
- 食事: バランスの取れた食事、過食を避ける、食物繊維を多く摂る
- 運動: 定期的な有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)
- 睡眠: 質の高い睡眠を十分にとる
- ストレス: 自分なりのリラックス法を見つける、溜め込まない
すぐに効果が出るわけではありませんが、長期的な視点で生活習慣を見直すことは多毛の改善だけでなく、全身の健康維持にもつながります。
サプリメントや市販薬への注意
多毛に悩む方の中には、サプリメントや市販薬に頼りたいと考える方もいるかもしれません。
しかし、多毛の原因は様々であり、自己判断での対応は症状を悪化させたり、原因の特定を遅らせたりする可能性があります。
「ホルモンバランスを整える」とうたうサプリメントもありますが、その効果や安全性は科学的に十分に証明されていないものも多く、特定のホルモンに影響を与える成分がかえってバランスを崩してしまう可能性も否定できません。
また、原因が病気である場合、サプリメントなどで対処している間に適切な治療を受ける機会を逃してしまう恐れもあります。
薬局で購入できる医薬品の中にも、副作用として多毛を引き起こすもの(例えば一部の育毛剤に含まれるミノキシジルなど)があります。
使用する際には成分をよく確認し、不明な点は医師や薬剤師に相談することが大切です。
医療機関への相談のタイミング
以下のような場合は、自己判断せずに医療機関への相談を検討してください。
- 急に髭や体毛が濃くなった、または太くなった
- 多毛の範囲が広がってきた
- 月経不順、重い生理痛、無月経がある
- 治りにくいニキビが多発する
- 急激な体重増加や体型の変化がある
- 声が低くなった気がする
- 家族に多毛やホルモンの病気を持つ人がいる
- 自己処理による肌トラブルが絶えない
これらのサインは、背景に何らかの医学的な問題が隠れている可能性を示唆しています。早めに専門医に相談することで原因を特定し、適切な対処や治療につなげることができます。
何科を受診すればよいか
女性の髭や多毛の症状で悩んでいる場合は、どの診療科を受診すればよいのでしょうか。それぞれの診療科の役割について解説します。
まずはかかりつけ医への相談
特定の症状に特化する前に、まずは日頃から健康相談に乗ってくれているかかりつけ医に相談するのも一つの方法です。
全身の状態を把握しているかかりつけ医であれば、症状を総合的に判断し、必要に応じて適切な専門科を紹介してくれます。
どの専門科を受診すべきか迷う場合には、最初の窓口として頼りになります。
婦人科が適しているケース
多毛の症状に加えて、月経不順(周期がバラバラ、長期間来ないなど)、重い生理痛、不正出血、不妊といった、月経や妊娠に関連する悩みがある場合は婦人科の受診が適しています。
特に、女性の多毛の最も一般的な原因である多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は婦人科が専門とする疾患です。
超音波検査で卵巣の状態を確認したり、ホルモンバランスを整える治療(低用量ピルなど)を行ったりすることができます。
内分泌内科が専門とする領域
内分泌内科は、ホルモンを作り出す臓器(内分泌腺:下垂体、甲状腺、副腎、卵巣、精巣など)の病気や、ホルモンの異常によって起こる様々な症状を専門とする診療科です。
髭や多毛がホルモンバランスの乱れ、特にアンドロゲンの過剰によって引き起こされていると考えられる場合、内分泌内科が診断と治療の中心となることがあります。
具体的には、クッシング症候群、先天性副腎過形成症、アンドロゲン産生腫瘍など、副腎や下垂体の病気が疑われる場合です。
また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)も内分泌疾患の一つであり、婦人科と連携しながら内分泌内科で治療を行うこともあります。
血液検査で詳細なホルモン値を測定し、原因を特定するための専門的な知識と経験を持っています。
皮膚科での対応(脱毛など)
多毛の原因となっている病気の治療とは別に、現在生えている毛を美容的に改善したいという希望がある場合は、皮膚科(特に美容皮膚科)に相談するのも良いでしょう。
皮膚科では、医療レーザー脱毛や光脱毛、電気脱毛(針脱毛)といった、長期的な減毛効果が期待できる医療脱毛を行っています。
また、自己処理による肌トラブル(カミソリ負け、毛嚢炎、埋没毛、色素沈着など)に対する治療やスキンケア指導も受けられます。
ただし皮膚科での脱毛はあくまで対症療法であり、多毛の原因そのものを治療するわけではありません。根本的な原因治療が必要な場合は、内分泌内科や婦人科と連携して治療を進めることが大切です。
どの診療科を受診すればよいか迷う場合は、症状や併存する悩みによって判断するとよいでしょう。
月経関連の悩みがあれば婦人科、ホルモン異常全般が疑われる場合や原因がはっきりしない場合は内分泌内科、まずは脱毛や肌トラブルの相談をしたい場合は皮膚科、といったように考えることができます。
女性の髭・多毛に関するよくある質問
この章では、女性の髭や多毛に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Q髭や多毛は自然に治りますか?
- A
原因によります。一時的なホルモンバランスの乱れ(ストレスや生活習慣の乱れなど)が原因であれば、その原因が解消されることで自然に改善する可能性はあります。
しかし、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)やクッシング症候群、副腎や卵巣の腫瘍など、特定の病気が原因となっている場合は自然治癒は難しく、原因疾患に対する適切な治療が必要です。
また、体質的な多毛(遺伝的要因など)の場合は、病気ではないため「治る」という概念とは少し異なりますが、症状が自然に大きく改善することは考えにくいでしょう。
気になる症状が続く場合は、自己判断せずに医療機関で原因を調べてもらうことが重要です。
- Q妊娠・出産で毛深さは変わりますか?
- A
妊娠中は、胎盤から分泌されるホルモンの影響などで一時的に体毛が濃くなることがあります。
これは生理的な変化であり、通常は出産後にホルモンバランスが元に戻るにつれて、数ヶ月かけて元の状態に戻っていきます。
ただし、産後の抜け毛が目立つ時期と重なるため変化を感じにくい場合もあります。
一方で、妊娠をきっかけに多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が見つかることや、出産後の生活環境の変化によるストレスなどがホルモンバランスに影響を与える可能性も考えられます。
出産後も多毛が続く、あるいは悪化するような場合は一度医師に相談することをおすすめします。
- Q治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
- A
治療期間は、多毛の原因となっている病気の種類、重症度、選択する治療法によって大きく異なります。
例えば、腫瘍が原因であれば、手術で摘出すれば比較的早期に改善が見込める場合があります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対する低用量ピルなどのホルモン療法は、効果が現れるまでに通常3ヶ月から6ヶ月程度の継続が必要とされ、症状のコントロールのために長期的に服用を続けることも少なくありません。
また、医療脱毛などの対症療法は毛周期に合わせて複数回の施術が必要であり、完了までには1年から数年かかることもあります。
原因疾患の治療と対症療法を組み合わせて行う場合も多く、根気強く治療に取り組むことが大切です。具体的な治療期間については、担当医とよく相談してください。
- Q保険診療の対象になりますか?
- A
多毛の原因となっている基礎疾患(多嚢胞性卵巣症候群、クッシング症候群、先天性副腎過形成症など)の診断や治療(診察、検査、薬物療法、手術など)は、基本的に健康保険の適用となります。
ただし使用する薬剤によっては、多毛症に対する適応が承認されておらず、保険適用外(自費診療)となる場合もあります(例えば、スピロノラクトンの多毛症への使用など)。
また、医療レーザー脱毛や光脱毛などの美容目的の脱毛治療は原則として保険適用外となり、全額自己負担となります。
治療を開始する前に、どの治療が保険適用で、どの治療が自費診療になるのか、費用はどのくらいかかるのかなどを医療機関によく確認することが重要です。
当院(神戸きしだクリニック)への受診について
神戸きしだクリニックの内分泌内科では、女性の髭や多毛の原因となるホルモンバランスの異常に関する専門的な診察を行っております。
女性の顔や体の多毛は、男性ホルモン(アンドロゲン)の過剰分泌が関連しており、多嚢胞性卵巣症候群、副腎過形成症、または稀に副腎や卵巣の腫瘍などが背景にある可能性があります。
髭や体毛の増加にお悩みの女性は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
内分泌内科
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月 | – | 〇 |
火 | 〇 | 〇 |
水 | – | 〇 |
木 | 〇 | – |
金 | – | 〇 |
土 | 〇 隔週 | - |
日 | - | - |
祝 | - | - |
検査体制
- 性ホルモン検査(テストステロン・DHEAなど)
- 卵巣機能検査
- 副腎皮質ホルモン検査
- 甲状腺機能検査
- 画像検査(卵巣・副腎のエコーやMRIなど)
- フェリマン・ガルウェイスコア評価
など、症状に応じた適切な検査を実施いたします。専門的な精査や詳細検査が必要な場合は、神戸大学医学部附属病院など高度医療機関と連携して対応いたします。
予約・受診方法
当院は予約必須ではございませんが、来院予約をオンラインよりしていただけますと、来院時にお待ちいただく時間が少なくできます。

電話予約
お電話での予約も受け付けております。健康診断の再検査についてのご不明点もお気軽にご相談ください。
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