発熱、嘔吐、下痢などで食べられない日も、基礎インスリンを自己判断で中止しないのが原則です。体調不良時は食事量が減っても、病気への反応によって血糖が上がり、インスリン不足が深刻になるおそれがあります。

一方、食事に合わせて使う速効型や超速効型のインスリンは、食べた量や血糖値に応じた判断が必要です。普段どおりの量を機械的に打つのではなく、あらかじめ主治医と決めたシックデイルールに従い、決めていないときは医療機関へ連絡してください。

この記事では、食べられない日の注射、血糖とケトンの確認、水分のとり方、医療機関へ連絡する目安を解説しています。

シックデイで食べられない日は注射をどうする?

食事がとれないという理由だけで、すべてのインスリンを止めるのは危険です。基礎分と食事分では働きが異なるため、まず自分が使っている製剤名と注射の目的を分けて確認します。

最初に確認するのはインスリンの種類

基礎インスリンは、食事をしていない時間にも肝臓から出る糖を抑える役目があります。一般に1日1回または2回使う持効型や中間型が該当しますが、商品ごとに働く長さが違うため、手元の薬剤名で確認が必要です。

食事時インスリンは、食後に上がる血糖へ対応する速効型や超速効型です。混合型や配合溶解製剤には基礎分と食事分の両方が含まれるので、食べない日も種類ごとの対応確認が必要です。

注射の区分主な働き食べられない日の基本
基礎インスリン食間や夜間の血糖を支える自己判断で中止しない
食事時インスリン食事による血糖上昇に対応事前に決めた指示を確認
混合型・配合溶解基礎分と食事分を含む医療機関へ扱いを確認

食事分はいつもの量をそのまま使わない

食事量が大幅に減ると、いつもの食事時インスリンでは血糖が下がりすぎるおそれがあります。反対に、感染症による高血糖が強ければ、食べていなくても別の対応が必要になる場合があります。

そのため、食事時の注射は「食べなければ中止」「高ければ追加」と一律に決められません。個別の指示がなければ、直近の血糖値、最後に食べた時刻、食べられた量、症状を伝えて相談するのが安全です。

迷った時点で確認先へ連絡する

「打つのも怖いし、止めるのも怖い」と感じるのは自然です。迷いを抱えたまま次の注射時刻を迎えるより、主治医や受診先へ連絡してください。その際は製剤名と測定値を伝え、指示を受けます。

連絡がつかず、意識がぼんやりする、呼吸が苦しい、水分も保てないといった状態なら、通常の診療時間を待つ段階ではありません。家族がいる場合は1人にせず、救急要請を含めて緊急の受診につなげます。

体調不良で血糖が上がるわけ

風邪や胃腸炎などの最中は、食べる量が少なくても血糖が上がることがあります。病気に対抗するホルモンが増え、肝臓から糖が放出されるうえ、インスリンが効きにくくなるためです。

発熱や感染で血糖を上げる反応が強まる

発熱、痛み、強い炎症は体にとって大きな負担です。この負担に反応して増えるホルモンには血糖を上げる働きがあり、普段と同じ注射をしていても値が高くなりやすくなります。

また、脱水が進むと血液が濃くなり、測定値が高く出やすくなります。高血糖になると尿量が増えて水分が失われるため、高血糖と脱水が互いを悪化させる流れにも注意が必要です。

体の変化血糖への影響確かめる手がかり
発熱・炎症糖の放出が増える体温、症状、血糖値
インスリンが効きにくい状態いつもより下がりにくい繰り返した測定の推移
脱水高血糖を悪化させる尿量、口の渇き、飲水量

食べていないことは安全の証拠にならない

平常時なら、炭水化物の摂取量が少ないほど食後血糖は上がりにくくなります。ところが、シックデイには食事以外の要因が強く働くため、「何も食べていないから血糖も低いはず」という推測は当てになりません。

症状のつらさだけでも血糖値は判断できません。寒気が軽くても高値が続く人がいる一方、嘔吐で糖質を保てず低血糖へ傾く人もいるため、測定した数字を基準にします。

高血糖とインスリン不足が重なる危険

インスリンが大きく不足すると、体は糖の代わりに脂肪を急速に分解し、ケトンという酸性の物質を作ります。ケトンが過剰にたまって血液が酸性へ傾く病態が糖尿病ケトアシドーシスで、救急治療を要します。

この病態は1型糖尿病で特に警戒されます。ただし、インスリン治療中の2型糖尿病でも起こり得ます。強い口渇、繰り返す嘔吐、腹痛、深く速い呼吸、意識の変化があれば、自宅で様子を見ないでください。

基礎インスリンは自己判断で止めない

基礎インスリンは食事を処理するためだけの薬ではなく、体が絶えず必要とするインスリンを補っています。食べられない日も必要性が消えるわけではないので、原則として処方どおり続けます。

食間にも肝臓は糖を送り出している

眠っている間や絶食中も、脳や臓器が働けるように肝臓は糖を血液中へ送り出します。基礎インスリンはその量が過剰にならないよう抑え、食事のない時間帯の血糖を支えています。

注射を止めると、この抑えが急に弱まります。体調不良による血糖上昇の反応も重なり、高血糖やケトンの増加へ進む危険が高まるため、中止は自己判断で行わないのが原則です。

低血糖が心配なら測定して相談

嘔吐や下痢で糖質を保てないと、低血糖への不安が強くなるでしょう。その心配は基礎インスリンを丸ごと抜く理由にはせず、血糖を測り、飲める糖質があるかを確かめて医療機関へ相談します。

ただし、低血糖の症状がある、または主治医から示された低い値になった場合は、事前に教わった低血糖時の対応を優先してください。意識が悪い人へ家族が無理に飲食させると誤嚥のおそれがあるため、救急要請が必要です。

量の変更は個別の指示が前提

必要な量は、使っている製剤、普段の血糖、食事量、腎機能、体調不良の原因によって変わります。安全な増減を一律の数字で示すことはできず、主治医が作った個別の指示が判断の基準です。

  • 製剤名と普段の注射時刻
  • 食べられない場合の基礎分の扱い
  • 食事量が減った場合の食事分の扱い
  • 相談先と時間外の連絡方法

シックデイになる前の診察で、この4点を紙に残しておくと迷いを減らせます。指示が古い場合や処方が変わった場合は、現在の注射内容に合っているかを改めて確認しましょう。

シックデイの血糖確認は普段よりこまめに

体調不良時の血糖は短時間で動く可能性があるため、普段より頻繁な確認が必要です。測る間隔は治療内容と症状で異なるので、主治医から示された間隔を優先します。ただし、症状が急に悪化したら、次の測定時刻を待たずに医療機関へ連絡してください。

1回の値より変化の方向を見る

1回だけ高かった値より、高い状態が続いているか、さらに上がっているかという推移が判断に役立ちます。反対に、食べられず下がり続けている場合も、次の注射をどう扱うか早めの相談が必要です。

測定時刻と血糖値に加え、体温、飲めた量、尿や嘔吐の回数、最後の注射時刻を同じ紙へ簡単に並べます。連絡時に経過を正確に伝えやすくなり、緊急度の判断にも役立つ情報です。

確かめる項目見るポイント連絡時に伝える内容
血糖高値・低値の持続と変化値と測定時刻
体調発熱、嘔吐、下痢、呼吸始まった時刻と強さ
飲食・排尿水分を保てるか飲めた量と尿の有無
注射最後に使った製剤製剤名、量、時刻

測定器の値と体調が合わないとき

持続血糖測定器を使っていても、脱水や急な変化がある場面では表示と実際の血糖に差が生じる可能性があります。表示値と症状が合わないと感じたら、主治医から教わった方法で指先の血糖測定を行い、確認値を連絡時に伝えます。

血糖測定器で測れない、エラーが続く、試験紙が足りない場合も放置できません。体調不良の程度と最後に分かっている値を添え、確認手段がない旨を医療機関へ伝えてください。

測定値だけで待ち続けない

血糖値は大切な判断材料ですが、重症度を示す情報のすべてではありません。値が極端に高くなくても、水分が飲めない、嘔吐を繰り返す、意識や呼吸がおかしい場合は緊急性があります。

また、高い値が続いても、自分で注射を何度も足して下がるのを待つのは避けます。個別の指示の範囲を外れた時点で連絡し、次の行動を確認する必要があります。

ケトンが示す危険信号

ケトンは、体内で使えるインスリンが足りず、脂肪の分解が進んでいるかを知る手がかりです。血糖が高いときや嘔吐が続くときに測定を指示されている人は、決められた基準に従って確認します。

ケトンはインスリン不足の手がかり

細胞が糖を十分に使えないと、体は脂肪を代わりの燃料として分解します。その途中で生じるのがケトン体です。少量なら絶食時にも増えますが、高血糖と体調悪化を伴う増加は見過ごせません。

特に、吐き気、腹痛、深く速い呼吸、強いだるさを伴う場合は、糖尿病ケトアシドーシスへ進んでいるおそれがあります。2型糖尿病でもインスリン不足が強ければ生じ得るため、病型だけで除外しない姿勢が大切です。

血液と尿では結果の意味が少し違う

血中ケトン測定は現在に近い状態を反映しやすく、尿ケトンは少し前からの変化が残る傾向があります。どちらを使うか、どの値で連絡するかは機器や試験紙で異なるため、処方時の説明を基準にしてください。

確認方法特徴注意点
血中ケトン現在に近い変化を捉えやすい対応機器と専用試験紙が必要
尿ケトン尿に出た変化を確認する脱水や排尿困難では測りにくい

判定結果を血糖値と同じ感覚で読まないようにします。測定方法ごとの連絡基準を書面で持ち、陽性または高値が出たら、その結果、測定時刻、症状を医療機関へ伝えましょう。

測れなくても症状を優先する

ケトン試験紙がない、期限が切れている、尿が出ず測れない状況でも、危険な症状があれば確認を待ってはいけません。繰り返す嘔吐、強い腹痛、呼吸の異常、意識の変化があれば緊急受診が必要です。

血糖がそれほど高く見えない場合も、症状とケトンの疑いを軽く扱わないでください。測定できない事実そのものを伝え、救急外来への移動方法や救急要請を含む指示を受けます。

飲食できないときの水分と糖質

水分を少量ずつ保つことは、脱水を防ぎ、血糖の悪化を抑えるために大切です。水分まで吐いてしまう場合は自宅での工夫を続けず、医療機関へ連絡する段階です。

一度に飲めないなら少量ずつ試す

吐き気があるときに一度に多く飲むと、嘔吐を誘う場合があります。意識がはっきりして飲み込めるなら、ひと口程度を間隔をあけて試し、保てているかを見ます。

発熱や下痢では水分だけでなく塩分も失われます。ただし、心不全や腎臓病などで水分・塩分の制限を受けている人には、一般的な飲み方が合いません。あらかじめ主治医に上限と飲料の種類を確認しておく必要があります。

血糖に応じて飲料を選ぶ

血糖が高いときの水分補給には、糖分を含まない水やお茶が候補になります。一方、食べられず血糖が低下しているときは、糖質を含む飲料や消化しやすい食品が必要になるため、測定値を見ずに選ばないようにします。

状況飲食の考え方次の判断
血糖が高く飲水できる糖分のない水分を少量ずつ血糖と尿量の推移を確認
食べられず血糖が下がる糖質を含む飲料などを検討個別の低血糖時指示を優先
水分を吐いてしまう無理な経口摂取を続けない医療機関へ連絡

スポーツ飲料や経口補水液にも糖質が含まれる製品があります。名称だけで決めず栄養表示を見て、血糖の状態と主治医の指示に合うものを選びます。

飲めない状態は連絡の目安

何度試しても水分を保てない、尿が極端に減った、立つと強くふらつく状態は、脱水が進んでいる可能性を示します。高齢の人は口の渇きが目立たないまま悪化する場合もあり、飲水量と尿の変化を家族も一緒に確認すると安心です。

飲めない状態でインスリンの扱いにも迷うなら、受診まで自己判断で調整せず、医療機関へ同時に相談してください。意識低下や起き上がれないほどの脱力があれば救急要請を考えます。

医療機関へ連絡する目安を決めておく

連絡の基準は体調を崩す前に決め、電話番号とともに見える場所へ置いておきます。血糖やケトンの基準は個別に異なりますが、危険な症状があるときは数値を待たずに受診が必要です。

数値を待たず緊急受診する症状

意識がぼんやりする、呼びかけへの反応が鈍い、けいれんがある、呼吸が深く速い場合は緊急性の高い徴候です。強い胸痛や息苦しさ、片側の手足の動かしにくさなど、糖尿病以外の救急疾患を疑う症状も救急要請の対象になります。

自力で移動できない状態なら、家族の車で無理に運ばず救急車を利用してください。意識が悪い人には飲み物や食べ物を口へ入れず、普段の薬とお薬手帳を準備して到着を待ちます。

当日中に相談したい変化

高血糖が主治医の示した基準を超えて続く、またはケトンが陽性・高値の場合は、当日中の連絡が必要です。水分や糖質を保てない場合や、嘔吐や下痢が続く場合も同様です。基準値を決めていない人は、迷った時点で受診先へ電話し、測定値と症状を伝えます。

  • 血糖・ケトン … 直近の値、測定時刻、変化
  • 症状 … 発熱、嘔吐、下痢、腹痛、呼吸の状態
  • 飲食と排尿 … 最後に飲食できた時刻、尿量
  • 注射と内服 … 薬剤名、最後に使った量と時刻

電話では、この順に情報を伝えると状況を共有しやすくなります。話すのが難しいほどつらいときは、家族に読み上げてもらえるよう紙へ書いておきましょう。

平常時に用意するシックデイルール

準備しておきたいのは、注射ごとの扱い、血糖とケトンを測る条件、連絡する数値、時間外の受診先です。家族にも保管場所を伝え、処方変更や受診先の変更があったら内容を更新します。

また、血糖測定用の試験紙、ケトン測定を指示されている人の試験紙、体温計、糖分を含む飲料と含まない飲料の期限を定期的に確認します。体調を崩してから不足に気づくと、測定や補給が遅れるためです。

食べられない日の基本は、基礎インスリンを勝手に止めず、測定値と症状の両方を見て、個別の指示から外れたら連絡することです。事前に決めた連絡基準が、迷いを安全な行動へ変える支えになります。

よくある質問

Q
朝食を食べられなくても基礎インスリンは打ちますか?
A

原則として、基礎インスリンは食べられなくても自己判断で止めず、処方どおり使います。低血糖がある、嘔吐が続く、個別の指示が分からない場合は、血糖値と製剤名を確認して次の注射前に医療機関へ連絡してください。

Q
食事時インスリンも普段どおり打ってよいですか?
A

食事量が違う日に、食事時インスリンを普段と同じ量で使うとは限りません。食べた糖質が少ないと低血糖の危険がある一方、発熱や感染による高血糖への対応が要る場合もあります。

主治医から受けたシックデイの指示を確認し、指示がなければ、血糖値、食べられた量、最後の注射時刻を伝えて相談してください。

Q
血糖が高いのに食べていないのはなぜですか?
A

発熱や感染への反応で血糖を上げるホルモンが増え、肝臓が糖を放出するためです。体調不良時はインスリンも効きにくくなり、脱水が加わると高血糖が悪化しやすくなります。

食べていないという理由で安心せず、普段よりこまめに測定します。高値が個別の連絡基準を超えて続く場合やケトンが出た場合は、医療機関へ連絡してください。

Q
ケトンを測る道具がない場合はどうしますか?
A

ケトンを測れない旨と血糖値、症状を医療機関へ伝え、指示を受けます。繰り返す嘔吐、腹痛、深く速い呼吸、意識の変化があれば、測定器の入手を待たずに緊急受診してください。

Q
夜間や休日はどの時点で救急受診が必要ですか?
A

意識の変化、けいれん、深く速い呼吸、強い息苦しさ、水分をまったく保てない状態なら、夜間や休日でも救急受診が必要です。自力で動けない、反応が鈍い場合は救急車を呼んでください。

症状がそこまで強くなくても、高血糖やケトンが個別の連絡基準を超えたときは、事前に決めた時間外の相談先へ連絡します。基準をまだ決めていない場合は、次の診療日を待つべきか電話で確認します。

参考にした文献