足のしびれや違和感を「年齢のせい」と決めつけていませんか。実はその症状、糖尿病の合併症の中でも最も早く現れる「糖尿病性神経障害(DPN)」のサインかもしれません。

放置すると足の壊疽(えそ)や切断といった取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。

しかし正しい知識を持ち、自宅でのセルフチェックや病院でのアキレス腱反射、振動覚検査などを早期に行うと、進行を食い止めることは十分に可能です。

この記事ではDPNの早期発見に役立つ具体的なチェックリストと検査内容をわかりやすく解説します。

目次

なぜ糖尿病になると足の神経が傷ついてしまうのか?

高血糖の状態が長く続くと、血管だけでなく全身の神経にも深刻なダメージが蓄積します。神経障害がどのように発生するのか、そしてなぜ足から症状が現れるのかという基本的なしくみについて解説します。

血液中の余分な糖が神経細胞を直接攻撃する

血液中に溢れたブドウ糖は、神経細胞の中に流れ込み「ソルビトール」という物質に変化して蓄積します。この物質が神経細胞を傷つけ、正常な信号の伝達を妨げるのです。

また高血糖は神経に酸素や栄養を運ぶ微小な血管をボロボロにし、血流を悪化させます。栄養不足になった神経は、まるでガス欠の車のように動かなくなったり、誤作動を起こして痛みやしびれ信号を勝手に送り出したりするようになります。

手袋や靴下で覆う部分から症状が始まる

糖尿病性神経障害の特徴として、神経の繊維が長い場所ほどダメージを受けやすいという性質があります。心臓から最も遠い足先は、血液が届きにくいうえに神経も長いため、真っ先に影響を受けます。

症状は足の指先や裏から始まり、やがて足首、ふくらはぎへと上がってきます。同様に手にも症状が出るときがあり、ちょうど靴下や手袋を身につける範囲に症状が集中することから「手袋靴下型」と呼ばれています。

神経障害が進行する典型的なパターン

  • 足の指先や足の裏にピリピリとしたしびれを感じる
  • 足の裏に薄皮が張り付いているような感覚がある
  • 砂利の上を歩いているような違和感を覚える
  • 入浴時にお湯の熱さがわかりにくくなる
  • こむら返りが頻繁に起きるようになる

早期発見ができれば足の切断リスクを減らせる

神経障害の恐ろしい点は、痛みが進行すると逆に「何も感じなくなる」ことです。感覚が麻痺すると、靴擦れや火傷、小さな怪我に気づくことができません。

高血糖で免疫力が落ちているため、小さな傷から細菌が入り込み、気づいたときには組織が腐る「壊疽(えそ)」に至るときがあります。最悪の場合は足を切断しなければなりません。

しかし、しびれや痛みを「異常のサイン」として早期に捉え、血糖コントロールを開始すれば、神経の機能を回復させたり悪化を防いだりすることが可能です。自分の足を守るために、初期症状を見逃さないことが何より大切です。

自宅ですぐできるDPN早期発見チェックリストはある?

特別な器具を使わなくても、日々の生活の中で自分の感覚を確かめるのが早期発見の第一歩です。日常生活の中で注意すべき自覚症状や足の見た目の変化について、具体的なチェックポイントを解説します。

足の感覚や痛みに違和感がないか確認

最も分かりやすいサインは感覚の異常です。正座をした後のようなジンジンするしびれが、何もしていない時に続く場合は要注意です。

また「冷たい」と感じる異常知覚や、逆に触られても感覚が鈍いといった症状も現れます。布団に入って体が温まると痛みやしびれが強くなり、眠れないほどになる人もいます。

痛み止めが効きにくいのも神経障害による痛みの特徴です。日々の生活で「いつもと違う」と感じる瞬間を見逃さないようにしましょう。

足の見た目や皮膚の状態を観察

神経障害が進むと、自律神経の働きも乱れるため汗をかきにくくなります。その結果、足の皮膚が極端に乾燥し、ひび割れやかかとのガサガサが目立つようになります。

また、足の筋肉が萎縮して指が鉤爪(かぎづめ)のように曲がったり、足の甲が高くなる変形(ハイアーチ)が見られたりするケースもあります。

タコやウオノメができやすくなっている場合も、足の感覚が鈍くなり特定の部分に圧力がかかり続けている証拠かもしれません。

症状が出るタイミングや左右差をチェック

糖尿病性神経障害の症状は、左右両方の足に同時に現れるのが一般的です。片足だけが痛む場合は、整形外科的な疾患(坐骨神経痛など)の可能性があります。

しかし、必ずしも左右同時に始まるとは限らないため、医師の診断が必要です。

症状は安静にしている時や夜間に悪化しやすく、逆に動いたり歩いたりしている時は気にならない方が多いです。これは血行障害による痛み(歩くと痛む)とは対照的ですので、いつ痛むかというタイミングも医師に伝える重要な情報となります。

DPNの可能性を探るセルフチェック

確認項目注意すべき具体的な症状緊急度
しびれ・痛み足先がジンジンする、針で刺されたような痛みがある
感覚の鈍化怪我をしても痛くない、お風呂の温度が分からない
皮膚の状態異常に乾燥している、ひび割れ、タコが多い
足の変形指が曲がっている、土踏まずが極端に高い
発症の仕方両足同時に症状が出る、夜間に症状が強まる

病院で行うアキレス腱反射検査とは?

医師が診察室で最初に行うことが多いのがアキレス腱反射検査です。ハンマーで足をトントンと叩くこの検査が、神経障害の判定にどう役立つのかについて解説します。

ゴムのハンマーで足首の後ろを軽く叩く

検査はベッドに膝立ちになったり、椅子に座って足をブラブラさせた状態で行います。医師が打腱器(だけんき)と呼ばれるゴム製のハンマーで、かかとの上にあるアキレス腱を軽く叩きます。

通常であれば、叩かれた刺激が脊髄を通って瞬時に筋肉に伝わり、足首が自然にカクンと動きます(底屈)。これは意識しなくても起こる反射運動です。

痛みは全くありませんし、ほんの数秒で終わる簡単な検査ですのでリラックスして受けられます。

アキレス腱反射の結果と判定基準

反応の状態判定の内容DPNの疑い
正常叩くと足首が自然に動く低い
減弱動きが鈍い、あるいは弱い中程度
消失全く動かない高い

足が動かない場合は神経の伝達が悪くなっている

アキレス腱を叩いても足がピクリとも動かない、あるいは反応が極端に鈍い場合、感覚神経や運動神経に障害が起きている可能性が高くなります。

糖尿病性神経障害の初期段階からこの反射は低下しやすく、自覚症状が出る前になくなってしまうことさえあります。

つまり「自分では何も感じていないけれど、検査をしたら反射が消えていた」というケースが珍しくありません。客観的に神経の状態を知るための非常に重要な手がかりとなります。

加齢による変化と区別する必要がある

ただし、アキレス腱反射は健康な人でも加齢とともに弱くなる傾向があります。高齢の方であれば、糖尿病でなくても反射が出にくい場合があります。

そのため、アキレス腱反射の結果だけで糖尿病性神経障害だと断定することはしません。年齢を考慮に入れつつ、他の検査結果や自覚症状と組み合わせて総合的に判断します。

反射が消失しているからといって即座に重症というわけではありませんが、医師にとっては神経の状態を評価する大きな材料の一つとなります。

振動覚検査で神経の感度をどのように調べるのか?

「振動」を感じ取る能力は、糖尿病性神経障害で比較的早期に低下します。音叉(おんさ)などを使った振動覚検査の具体的な内容と、その数値が持つ意味について解説します。

C128という専用の音叉をくるぶしに当てる

振動覚検査では、主にC128という周波数の音叉を使用します。医師が音叉を叩いて振動させ、その柄の部分を患者さんの足のくるぶしや親指の付け根の骨に当てます。

患者さんは目を閉じた状態で、その「ブーン」という振動を感じるかどうか、そして振動がいつ止まったと感じたかを答えます。痛みや電気刺激などは一切なく、ただ振動を感じ取るだけの負担の少ない検査です。

振動を感じている秒数で重症度を判定

検査のポイントは「何秒間振動を感じ続けられるか」です。健康な人であれば長い時間振動を感じ取れますが、神経障害があると、まだ音叉が振動しているにもかかわらず「もう止まった」と感じてしまいます。

一般的には10秒未満しか感じられない場合に神経障害の疑いありと判断され、5秒以下になると重度の障害が疑われます。左右それぞれの足で測定し、数値化すると進行度合いを客観的に評価ができます。

太い神経繊維の働きをピンポイントで評価

神経には痛みや熱さを伝える細い神経と、触った感覚や振動を伝える太い神経があります。振動覚検査は、このうち「太い神経」の機能を調べるのに適しています。

糖尿病性神経障害では太い神経も細い神経もダメージを受けますが、振動を感じる能力の低下は比較的早期に発見しやすいため、スクリーニング検査として非常に優秀です。

アキレス腱反射と同様に、自覚症状が乏しい段階での「隠れ神経障害」を見つけ出すのに役立ちます。

振動覚検査の判定目安

振動を感じる時間判定状態の目安
10秒以上正常太い神経は正常に機能している可能性が高い
10秒未満軽度〜中等度低下神経障害が始まっている可能性がある
5秒以下重度低下神経障害が進行しており、怪我のリスクが高い

他にも受けておくべき精密な神経検査はありますか?

アキレス腱反射や振動覚検査以外にも、神経の状態をより詳しく調べるための検査方法がいくつか存在します。専門的な機器を使った検査や、触覚を詳細に測るテストについて解説します。

モノフィラメント検査で触覚の鈍さを測る

タッチテストとも呼ばれる検査で、適度な弾力を持ったナイロン製の糸(フィラメント)を足の裏の数カ所に押し当てます。糸が「くにゃっ」と曲がるくらいの強さで押し当てた時に、触られている感覚があるかどうかを確認します。

もしこの刺激を感じ取れない場合、足の裏の防御感覚(怪我を避けるための感覚)が失われていることを意味します。

靴の中に小石が入っていても気づかないレベルまで感覚が鈍麻している恐れがあり、フットケアの緊急性が高いと判断されます。

主な神経機能検査の種類と目的

検査名調べる内容分かること
神経伝導検査電気信号の速度と大きさ神経のダメージの場所と程度を数値化する
CVR-R検査心拍数の変動自律神経が正常に働いているかを確認する
モノフィラメント触覚の有無足を守るための感覚が残っているかを判定する

神経伝導検査で信号の速度を数値化

より客観的で確定的な診断が必要な場合に行われるのが神経伝導検査です。皮膚の上から神経に微弱な電気刺激を与え、その信号が伝わる速度や信号の大きさを測定します。

神経が傷ついていると、信号が伝わるスピードが遅くなったり、届く信号が弱くなったりします。

やや専門的な装置が必要ですが、どの神経がどの程度傷んでいるかを正確に把握できるため、他の病気との区別や治療方針の決定において非常に信頼性の高いデータが得られます。

自律神経の働きを心電図でチェックする

糖尿病性神経障害は感覚神経だけでなく、内臓の働きを調整する自律神経も侵します。

これを調べるのがCVR-R(心拍変動係数)検査です。通常、深呼吸をすると心拍数はわずかに変動しますが、自律神経に障害があるとこの変動が少なくなります。

心電図計をつけて深呼吸をするだけの簡単な検査ですが、立ちくらみや便通異常、発汗異常といった自律神経症状の原因を探るのに役立ちます。また、無痛性心筋梗塞のリスクを予測する指標としても重要です。

早期発見を見逃して放置するとどうなるのですか?

「少ししびれるだけだから」と油断して治療を受けずにいると、取り返しのつかない事態に陥ることがあります。神経障害が進行した先に待っている重篤な合併症について解説します。

足の壊疽(えそ)による切断リスクが高まる

感覚が失われると、画びょうを踏んでも、靴擦れができても、ストーブで火傷をしても気づきません。痛みという警告サインがないため、傷口の手当てが遅れます。

そこに高血糖による血流障害と免疫力低下が加わると、傷口は瞬く間に化膿し、皮膚や肉が腐る「壊疽」へと進行します。

壊疽が骨まで達したり全身に菌が回ったりすると、命を守るために足を切断せざるを得なくなります。日本でも年間数千人が糖尿病が原因で足を失っているという現実があります。

シャルコー関節という足の変形を引き起こす

神経障害が進むと、足の骨や関節を支える感覚や筋肉のバランスが崩れます。痛みを感じないため、骨折や捻挫をしていても無理に歩き続けてしまい、足の骨が砕けたり関節が破壊されたりします。

これを「シャルコー関節」と呼びます。足のアーチが崩れて平らになり、足の裏の特定の場所に異常な圧力がかかるようになります。

変形した足は靴が合わなくなり、さらなる靴擦れや潰瘍(かいよう)の原因となる悪循環を生み出します。

心臓発作に気づかない無痛性心筋梗塞を招く

自律神経が障害されると、心臓の痛みを感じるセンサーも麻痺してしまいます。通常、心筋梗塞は激しい胸の痛みを伴いますが、糖尿病患者さんの場合は「なんとなく息苦しい」「肩が少し重い」程度の症状しか感じないことがあります。

これが「無痛性心筋梗塞」です。痛くないからと放置している間に心臓の壊死が進み、突然死に至るケースも少なくありません。神経障害は足だけでなく、全身の命に関わるアラーム機能をも壊してしまうのです。

神経障害を放置した場合の危険な結末

  • 小さな傷に気づかず、細菌感染を起こして足が腐る
  • 骨折に気づかず歩き続け、足の形が大きく変形する
  • 心筋梗塞の激痛を感じず、治療が遅れて命を落とす
  • 立ちくらみや下痢・便秘が慢性化し、生活の質が著しく下がる
  • 勃起不全(ED)などが進行し、自信を喪失する

DPNと診断されたら必要な対策

神経障害と診断されても、諦める必要はありません。適切な管理を行えば、症状の進行を抑え、生活の質を保つことは可能です。今日から始められる具体的な対策と治療の方向性について解説します。

血糖コントロールを徹底することが治療の土台

最も基本的かつ強力な治療法は、血糖値を正常範囲に近づけることです。高血糖という根本原因を取り除かなければ、どんな薬を使っても神経のダメージは止まりません。

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値を医師と相談した目標値まで下げると、初期の神経障害であれば症状が改善する方も多いです。

食事療法や運動療法を見直し、処方された糖尿病薬を正しく服用することが、神経を守るための最短ルートになります。

今日から始めるフットケアの基本

ケアの内容具体的な行動目的
毎日の観察入浴時に足の裏や指の間を見る傷や水虫の早期発見
清潔と保湿優しく洗い、クリームで保湿する感染予防と乾燥によるひび割れ防止
靴の確認履く前に中に異物がないか手で探る異物による怪我の防止

毎日のフットケアで足を徹底的に守る

感覚が鈍っている足を守るには、自分の目と手で代わりに見守るしかありません。毎日お風呂に入る時に、足の裏、指の間、かかとに傷や水虫、色の変化がないかを目視で確認します。鏡を使うと裏側も見やすくなります。

また、深爪をしないように爪を真っ直ぐに切る(スクエアカット)、自分の足に合った靴を選ぶ、室内でも靴下を履いて怪我を防ぐといった地道なケアが、切断リスクを劇的に下げます。

症状を和らげる薬物療法を併用

しびれや痛みが強くて生活に支障が出る場合は、症状を緩和する薬を使用します。神経の修復を助けるビタミンB12製剤や、神経障害性疼痛に特化した鎮痛薬などが処方されます。

また、神経細胞内にソルビトールが溜まるのを防ぐ「アルドース還元酵素阻害薬」という薬が使われるときもあります。

ただし、これらの薬はあくまで症状を和らげたり進行を遅らせたりするものであり、血糖コントロールなしに薬だけで完治させることはできません。主治医とよく相談しながら、自分に合った治療法を選択していきます。

Q&A

Q
糖尿病性神経障害は一度なると治らないのですか?
A

完全に神経が死滅してしまった重度の段階では元の状態に戻すのは困難ですが、初期や中期の段階であれば血糖コントロールを改善すると症状が和らいだり、進行を停止させたりすることは十分に可能です。

しびれが消えたからといって治ったと自己判断せず、検査数値を見ながら長期的に管理していく姿勢が必要です。

Q
足のしびれが糖尿病性神経障害によるものか坐骨神経痛によるものか見分ける方法はありますか?
A

糖尿病性神経障害は通常、両足の靴下を履く範囲に左右対称にしびれが現れるのに対し、坐骨神経痛などの整形外科的疾患は片足だけに症状が出たり、特定の姿勢をとった時に痛みが強くなったりする傾向があります。

しかし、両方の病気を併発している場合もあるため、自己判断はせず、内科と整形外科の両方で診察を受けると良いでしょう。

Q
自宅で糖尿病性神経障害のチェックをする際に道具は必要ですか?
A

専用の道具がなくても、爪楊枝の丸い頭の方で足の裏を軽く突いて感覚があるか確認したり、柔らかい布で触れて感触がわかるか試したりすると簡易的なチェックは可能です。

ただし、感覚の低下は徐々に進行するため自分では気づきにくいケースが多く、正確な状態を知るためには病院でのアキレス腱反射検査や振動覚検査を受けるのが確実です。

Q
糖尿病性神経障害の検査はどのくらいの頻度で受けるべきですか?
A

自覚症状がない場合でも、糖尿病と診断されたら少なくとも年に1回は神経障害の簡易検査を受けることが推奨されています。

すでにしびれや感覚低下などの症状がある場合や、過去に足の潰瘍などのトラブルがあった場合は、医師の指示に従ってより短い間隔で定期的に検査を受け、足の状態を細かくチェックする必要があります。

Q
糖尿病性神経障害のしびれにお風呂やマッサージは効果がありますか?
A

血行不良を伴うしびれの場合、温めたりマッサージをしたりすると一時的に楽になることがありますが、神経障害そのものが原因の場合は効果が限定的であるケースも多いです。

また、感覚が鈍っている状態で熱いお湯に入ったり強いマッサージをしたりすると、火傷や怪我に気づかず症状を悪化させる危険性があるため、必ず医師に相談してから行うようにしてください。

参考にした文献