既にアメリカやイギリスなど複数の国で開始している新型コロナウイルスワクチン接種ですが、日本でも2月17日より接種開始となりました。
まずは医療従事者から優先接種を行い、その後は高齢者、そして一般の方への接種になります。厚生労働省の発表では4月より開始されています。
また、13の基礎疾患がある方は“自己申告”で優先接種となります。
そうです、厚生労働省などが個人の病状を知るはずもなく、医療機関で診断書を取らせるのも相当な手間がかかることから問診票への自己申告という手を打つことになっています。
日本政府はファイザー/バイオンテック社、武田製薬/モデルナ社、アストラゼネカ社から1億3000万人分以上の契約を既に交わしております。理論上、全国民が接種できることになっています。
これら以外にも、Johnson & Johnsonや塩野義製薬などもワクチン開発を行っています。
今回は、日本政府が契約済みの3社のワクチンについてわかりやすく解説し、今わかっている副反応などもデータを用いて解説していきます。
1. 新型コロナウイルス感染の流れ
まず、新型コロナウイルスが人に感染する仕組みはどうなっているのかを説明します。
以下なじみのない難しい言葉が出てきますので、わかりにくいと思いますが、「RNA」というものがウイルスの設計図であり、それを元にヒトの細胞で分身を作らせるのだと言うことだけ覚えて下されば、飛ばして頂いて大丈夫です。
新型コロナウイルスの正式名称は「SARS-CoV-2」といいます。
基本的に新型コロナウイルスは飛沫にて感染が広がりますが、飛沫によってヒトの体内に入ってきたウイルスは下記の通りに増殖していきます。
❶ スパイクタンパク質が細胞表面タンパク質ACE2に結合する。酵素TMPRSS2がウイルス粒子の侵入を手助けする。
❷ ウイルス粒子がRNAを放出する。
❸ 一部のRNAが小胞体によってタンパク質に翻訳される。
❹ 一部のタンパク質が複製複合体を形成し、さらに多くのRNAを生成する。
❺ タンパク質とRNAはゴルジ装置で新しいウイルス粒子として組み立てられる。
❻ 新たなウイルスが放出される。
このようにウイルスが増えていくとともに、ウイルスを外敵と判断した各種免疫細胞が退治しようと頑張り抗体を作成する、ということが体内で行われます。
2. 今回の新型コロナワクチンは新技術が使われた革新的なワクチン
まず、新型コロナウイルスに対するワクチンとしては2種類の作成方法があります。
ファイザー・バイオンテック社と武田・モデルナ社のワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)という遺伝子の設計図を用いた新技術で、そしてアストラゼネカ社はウイルスベクターという方法でワクチンを作っています。
そして、以前より一般的に使われていたものは不活化ワクチンといいます。
以下にそれぞれを説明します。
①mRNAワクチン
mRNAというのは、簡単に言えば“DNAの設計図”です。
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)のスパイク蛋白(受容体にひっつくトゲトゲ)のmRNAを利用してそれを壊れないようにリン脂質で包んだものを接種することになります。
❶mRNAワクチンはウイルス抗原の鋳型であり(COVID-19 mRNAワクチンの場合は、スパイクタンパ ク質の一部または全てをウイルス抗原として産生する鋳型です)、脂質の膜に包まれて標的細胞へ運ばれます。
この脂質の膜はmRNAを保護するだけでなく、mRNAを細胞の中に運び入れます。
❷細胞内に取り込まれたmRNAは細胞質に放出されます。
❸mRNAが細胞質に取り込まれると、細胞内のタンパク質産生工場であるリボソームがmRNAを設計図として用いてウイルス抗原を産生します。このプロセスは翻訳と呼ばれます。
❹ウイルス抗原は細胞内で運ばれて、細胞表面に抗原として提示されます。抗原に対して液性免疫(抗体産生)および細胞性免疫(T細胞)の両方の免疫応答を起こします。
導入されたmRNAは自然に分解され、人の身体の遺伝子には組み込まれません。
重要なのは、今回のワクチンはウイルスそのものを使っていないんです。
ワクチンと言えば、不活化ワクチンとか生ワクチンとかいうのを聞いたことがあると思います。あれらはウイルスそのものを弱めたり、無毒化して接種するのです。ココが大きく違います。
なので、このワクチンを接種することにより新型コロナウイルスに感染することはありません。
また、この技術の最大のポイントは、短期間に大量生産が可能なのです。現在のような世界的なパンデミックでは早急な配給体制が必要であり、その一役を買っているというわけです。
では、問題点はないのでしょうか?
まず、保管が難しいことです。
超低温での保管が必要で-20~-70℃で保管しなければなりません。
このような冷凍庫を置いてある病院は多くありません。しかし、実際は、その後冷蔵保存でも5日ほどは品質の問題はないので、予約数からムダのないようにうまくやれば問題はなさそうです。最近ではパナソニックがワクチン輸送用の保冷箱を開発したこともニュースでやっていましたね。
あとは、新技術を用いているためまだわかっていないような免疫反応が起こる可能性も0ではありません。
②ウイルスベクターワクチン
アストアラゼネカ社のワクチンはウイルスベクターという方法で開発しています。これは過去にもエボラワクチンなどで使われたことがありますが、珍しいものといえば珍しいです。
簡単に言うと、無害化されたアデノウイルス(かぜの原因となるウイルスの一種)に新型コロナウイルス(SARS-CoV2)のスパイク蛋白を注入したものです。この無害のアデノウイルスが”運び屋”(ベクター)となって体内に入っていくわけです。
体の中に入ってウイルスが増えていった後の流れは、上記mRNAワクチンと同様です。
こちらのメリットは安いことと通常の冷蔵保存でOKなので、mRNAワクチンのような超低温冷蔵などが不要です。
しかし、アストラゼネカ社のワクチンは日本に入ってくる時期はまだ決まっていません。
なお、ドイツなどが「アストラゼネカ社のワクチンは65歳以上には効果がない」という発表を行いましたが、こちらについてもまだ事実はわかりません。
臨床研究のデータとして65歳以上の参加者が少なかったから「効果を保証するデータがない」という意味では正しいです。それ以外にも実は政治的問題も絡んでいるとも言われています。
背景にはアストラゼネカ社(英国)とEUはワクチンの契約を結んだのですが、急にアストラゼネカ社側が契約したのにEUへの提供量を大幅に削減するとしたことが原因で今かなり揉めています。それも背景にあるのかもしれません。
また、現在はアストラゼネカ社のワクチンに血栓ができる副反応が報告されているため、現在30歳以下への接種がEUにて避けられるようになっています。
③不活化ワクチンではない理由
インフルエンザワクチンは不活化ワクチンです。もちろんこの製法で開発している会社があるのも事実です。では、なぜファイザーやモデルナ、アストラゼネカは違う方法なのでしょうか?
答えは「スピード」です。
不活化ワクチンを作るのは時間がかかります。さきほどmRNAワクチンで書いたように、現在のようなパンデミックでは短期間に大量のワクチンを確保する必要があるのです。
ですので、いまは新技術をもちいた方法のワクチンが最初に出てきているわけです。
このような大きな“災害”があった後に、技術は大幅に躍進します。
ファイザー社とmRNAワクチンを共同開発したバイオンテック社は今までの不活化ワクチンではない、mRNAワクチンであるインフルエンザワクチンを開発していますし、同様にmRNAワクチン開発したモデルナ社はCMVに対するワクチンを開発中です。
今までのワクチン情勢のパラダイムシフトが訪れる日も近いかもしれません。
3. 「筋肉注射」・「2回打つ」・「有効性・安全性が高い」という新型コロナウイルスワクチンの3つの重要な特徴
①筋肉注射を2回打つ
今回のワクチンは「筋肉注射」で行います。筋肉注射っていうのは、ニュースなどで海外の接種シーンを見たと思います。
肩の少し下のところにブスッ!と刺すやつです。見ていると「もう少し優しく打ってあげなよ」と日本人的には思うわけですが(笑)
実は、ワクチンはほとんど筋注でやるのが海外では主流なんです。
筋肉注射の方が副反応が少ないとされています。ところで日本ではインフルエンザワクチン皮下注射ですね。
これは1970年代とかに筋注で筋拘縮という副反応がが多くでた事で、日本国内で社会問題になったからです。
いつもの通りメディアが「小」→「大」へ騒ぎ立てを行い、反ワクチン運動が過熱したという経過があります。
それ以降、日本では皮下注射が多くなっています。
子宮頸癌ワクチン(HPVワクチン)の問題もそうでした。
雑誌や新聞などが騒ぎ立てたため、日本だけが先進国で唯一子宮頸癌ワクチンを推奨しないという立場を取る羽目になり、世界中から嘲笑され、WHOからも非難されている実情があります。
現在、下図の様にHPVワクチン接種への各国の取り組みは、接種対象者の年齢、性別、実施場所などさまざまですが、多くの国では子宮頸がん予防への意識は高く、接種完遂率が80%を超える国もあります。
その一方、日本のHPVワクチン接種率は0.3%と低い水準にとどまっています。
さて、今回のワクチンは海外で筋注のみでのデータしかありませんので、皮下注射をしたときに効果が衰えるかどうかなどもわかっていません。
しかし、後述の通り安全性は確認されているため、諸外国と同様の、きちんと結果が出るとわかっている方法で打つということです。
②有効性が非常に高い
ワクチンは有効性と安全性の2つの指標で見ます。安全で有効なワクチンがよいワクチンです。
ワクチンを受けた人が受けていない人よりも、新型コロナウイルス感染症を発症した人が少ないということが分かっています。(発症予防効果は約95%と報告されています。)
それだけでなく、重症化も予防するということが示唆されており、非常に有効性が高いのが、今回の新型コロナウイルスワクチンです。
ファイザー社、モデルナ社ともmRNAを用いたワクチンの有効率は臨床試験で90%以上という報道がありましたね。ちなみにインフルエンザワクチンは50%くらいですからスゴいですね。
国民の約1/3が接種したイスラエルでは2回接種が終わった人が陽性となる割合は1万人に1人だけだった、つまり、接種による予防効果が大きかったという希望にあふれる結果も出ています。有効性は問題ないと考えてもいいでしょう。
なお、本ワクチンの接種で十分な免疫ができるのは、2回目の接種を受けてから7日程度経って以降とされています。
ワクチン接種にかかわらず、適切な感染防止策を行う必要があります。
③安全性が高い
安全性で問題となるのはアレルギーですね。
特にアナフィラキシーショックといった重篤なアレルギーでは、打った直後~15分ほどで血圧低下や、失神することもあります。
その割合は、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)の発表では20万回に1回程度と決して高くありません。
また、ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンでの心配は、新技術のためmRNAによる異常反応などを気にされるかと思います。
しかし、mRNA自体は長く体内には残りません。
ですので、長期的に問題となるのはmRNAを包んでいるLNP(脂質ナノ粒子)というものです。これの長期的な安全性はまだわかりません。炎症を引き起こしやすいとも言われていますが、不明です。
なお、本ワクチンは、新しい種類のワクチンのため、これまでに明らかになっていない症状が出る可能性があります。
接種後に気になる症状を認めた場合は、接種医あるいはかかりつけ医に相談しましょう。
万が一、ワクチンの接種によって健康被害が生じた場合には、国による予防接種健康被害救済制度がありますので、お住まいの各自治体にご相談ください。
4. 新型コロナウイルスワクチンの副反応は、「筋肉痛」・「発熱」・「倦怠感」が多いが、1、2日程度で改善する
アナフィラキシーというすぐに処置が必要な重篤な反応はまれなことはわかりました。ではそれ以外のものはどうでしょうか。
以下に詳細を書きますが、まず覚えておいて頂きたいことは、特に2回目接種の翌日は発熱・倦怠感・頭痛などが起きる可能性があると言うことです。
ただし、1、2日程度で改善する為、解熱鎮痛剤を内服して経過観察すれば大体は問題なく、心配はそれほど必要ないということです。
mRNAワクチン接種の8~9割の人が接種後の疼痛を訴えています。アストラゼネカ社の方は5割くらいが疼痛を訴えました。ちなみにインフルエンザワクチンでは20%くらいですから、それよりはかなり高いですね。
発熱についてはmRNAワクチンでは、1回目は少なく、2回目の接種後に35%程度の方が発熱しています。
一方、アストラゼネカ社のワクチンでは1回目に24%と非常に高い数字となっていますが、これらはすべて55歳未満の若い人で見られたようです。若く免疫反応が強いんでしょうか。2回目は全年齢層で0%でした。
いずれにしてもインフルエンザワクチンよりも発熱しやすいのは特徴としてあります。
その他で倦怠感と頭痛も比較的高い割合で出ているのも今回のワクチンの特徴といえます。
ファイザー社やモデルナ社は2回目の接種後に増える傾向、アストラゼネカ社は1回目に強く出る傾向にあります。
これら副反応は、からだの中の免疫機構がしっかり仕事をしていることの現れだと言うことでもあります。
対策として、カロナールやタイレノールといったアセトアミノフェンと呼ばれる薬剤の解熱鎮痛剤を、あらかじめ1日目夜や2日目朝から1日程度飲んでおくというのもありだと思います。
5. 結局、新型コロナウイルスワクチンをうつべきなの?
天秤で考えるのが大事
どんな薬でもそうですが、いい面と悪い面があります。
ワクチンも同じです。
重要なのは自分にとって、その天秤がどちらに傾くのか、で決めるのが大事です。
少なくとも有効率が高いこと、アナフィラキシーなどの重篤な副反応の頻度が高くないことはわかってきました。
あとは、自分のリスクと照らし合わせて、発熱・倦怠感・疼痛などの副反応を受け入れるに値するか。
医療従事者のように新型コロナ患者と接する機会が多いとか、高齢者や基礎疾患のある人は重症化しやすいので接種が望ましいですね。
一方で、過去にアナフィラキシーショックになったことがある人などは慎重になるべきです。ここから先は個人の判断となります。
妊婦は接種すべき?
WHOは妊婦の接種は推奨しないとしています。
それは、妊婦でのデータがないからわからないというものです。
アメリカの産婦人科学会は、妊婦は感染すると重症化する可能性が高いことも考慮して自己判断するように言っています。
イギリスやカナダでも妊婦への接種は推奨しない立場です。
ちなみに日本産婦人科学会は、医療従事者や、基礎疾患がある人などは打つことも考慮してよいとしています。
その場合、赤ちゃんの器官形成の終わる妊娠12週以降で打つようにとしています。
なお、mRNAは胎盤を通じて赤ちゃんに移行することはないとされていますので心配は要りません。
少なくとも日本の今の感染状況では、重症化のリスクのない妊婦は、とりあえずは打たずに感染予防しっかりがベターですが、ワクチンを打つことも十分考えて良いと個人的には思います。
日本では判断が難しい
実際のところ、日本は世界的に見て、感染の状況は軽いです。
4月において、日本では1日2000人程度ですが、下図の様に諸外国では1日最低万単位での感染者が出ています。
それが故に、ワクチン接種すべきかを迷う方が多くなります。
欧米やブラジルなど新型コロナウイルス感染症により大きな被害を受けている国では、接種希望が圧倒的に多くなります。
「若くて病気ない人は、感染しても軽症で済むことがほとんだから打たない!」とか「日本の感染者数がこんなに少ないのに副反応のリスクを考えたら打ちたくない」という人もいるでしょう。
それはそれで個人の自由です。
しかしながら、リスクの高い高齢者や基礎疾患のある方と同居しているならば若くても家族へ移さないためにも接種するのが望ましいともいえます。
ここから先は価値観で、何を重視するかによって変わってきます。
ワクチンに不安があるなら・・・
「だいたいの話はわかったけれど、やっぱりワクチンを打つのは不安だ」という方もかなりいるのではないでしょうか。
お気持ちは十分にわかります。
またニュース、週刊誌などでも副反応ばかりを強調して「危険」だというイメージを植え付けられてしまいます。
もし今打つか迷っているならば、まず「わかっていること」の整理をしてみてください。
ワクチンはまだ始まったばかりでわからないこともあります。しかし、この1年のコロナ禍から“リスク”はわかっています。
もし、あなたが高齢者、高血圧、糖尿病、喫煙者、肥満・・・などリスクがある、またはそのような家族と同居しているような状況であれば、打つ方がいいという考え方です。
どれにも当てはまらず、不安があるならば打たないようにお勧めします。
なぜなら、大きい不安を持ったまま接種すると、軽度の副反応や、ワクチンと関係がないようなことが起きても「ワクチンを打ったからだ」と責めてしまうからです。
幸い、日本という国は強制はされません。
ですので、打つか打たないかはあなた次第です。
6. まとめ
新型コロナウイルスワクチンは、現在医療従事者から優先接種を行い、その後は高齢者、そして一般の方への接種になります。
新型コロナウイルスの正式名称は「SARS-CoV-2」といいます。
基本的に新型コロナウイルスは飛沫にて感染が広がりますが、飛沫によってヒトの体内に入ってきたウイルスは、mRNA(メッセンジャーRNA)を介して増殖し、発熱などの症状が発症するという流れがあります。
今回のワクチンは、そのmRNAやウイルスベクターというものを上手く使った新型のワクチンとなります。
特徴的なのは、「筋肉注射であり」・「2回打つ必要があり」・「有効性・安全性が非常に高い」ということです。
しかし、特にmRNAワクチンは発熱・倦怠感・頭痛などの副反応が起きる可能性が高い事に留意する必要がありますが、1日程度で改善するため心配はそれほどありません。
どんな薬でもそうですが、いい面と悪い面があります。
自分の状況とワクチンのメリット・デメリットを天秤にかけ、冷静に判断することが重要です。
当院では、上記の情報から新型コロナウイルスワクチンを接種することを基本的にお勧めしており、当院でもワクチン接種が可能です。
5/17より、1日最低30人程度は接種できるよう予約枠を設けています。
ワクチンの予約は神戸市が一括管理して行っていますが、予約や相談など含めて、下記コールセンターが設置されています。
新型コロナウイルスワクチン コールセンター
078−277−3220
平日8:30〜20:30、休日(土日祝)8:30〜17:30
なお、当院のコラムでも下記の新型コロナワクチンに関連した記事があるため興味があればチェックしてみてください。
【コラム】うがいをすると、本当に新型コロナウイルス対策になるの?
【コラム】新型コロナウイルス感染対策は、3密を避けるのがやっぱり有効!