禁煙すればもとの毛量まで戻ると請け合える段階には、まだ届いていないというのが、いまの研究の状況です。女性の薄毛は、風邪のように治りきって終わる形をとらないからです。
とはいえ、もとの毛量へ戻ることと、これ以上進みにくい状態へ近づけることは、まったく別の話として分けられます。
やめてから戻るものには順番があり、一酸化炭素、日中の血圧と心拍、味覚やにおいと続いて、それぞれに時間の目盛りがついています。
髪が応じるのはその列のいちばん後ろで、変化を確かめられるまでには季節をまたぐ長さがかかります。何がいつ動き、どの場面で期待が外れやすいのか、時間の流れに沿って順にたどります。
禁煙で薄毛が治るという言い方を、まず二つに分けます
結論から言えば、たばこをやめたことで失われた毛量がもとどおりになると示した研究は、いまのところ見当たりません。分けておきたいのは、戻すという意味と、進みを緩めるという意味の二つです。
| 治るの読み方 | 期待している中身 | 今わかっている範囲 |
|---|---|---|
| もとの毛量へ戻る | 減った本数が元へ復する | やめた人の毛を数えた研究は見当たらない |
| 進みを緩める | 今より減りにくい状態へ寄せる | 体の側の指標には改善の報告がある |
| 抜け毛が収まる | 一時的に増えた分が落ち着く | 引き金が去れば戻る型は知られている |
同じ言葉を使っていても、思い描いている中身は人によってずいぶん違います。どの意味で期待しているのかを最初にはっきりさせておくと、途中で落胆する場面はぐっと減ります。
もとの毛量へ戻ることと、進みを緩めることは別です
減ってしまった状態から本数が復するのか、それとも今より減りにくくなるのか。似た言葉で語られがちなこの二つは、確かめるために必要となる証拠の種類からして、まるで違っています。
前者を示すには、たばこをやめた人の毛を数えて何年も追いかけた研究が要りますが、そうした報告はいまのところ見当たりません。
後者であれば、体の側で測れる指標が代わりの手がかりになります。血液に溶けた一酸化炭素の量や日中の血圧、舌の感じ方といった数字には、やめてから確かに動きが出ています。
女性の薄毛は治りきる形をとりません
女性型脱毛症は、薬を飲みきれば終わる感染症のように、はっきりした区切りのある病気ではありません。年齢や体質を背景にして、少しずつ移り変わっていく状態にあたります。
そのため治療の目標も、完全に治すことではなく、進みを緩めて今の状態をできるだけ長く保つあたりに置かれます。たばこをやめる手立ても、その枠組みの中に収まります。
治るという言葉が当てはまりにくい理由は、相手にしている状態そのものの性質のほうにあります。禁煙の力が足りないから治らない、という話ではありません。
禁煙で確かめられているのは体の側の指標です
やめたあとに測られてきたのは、血液中の一酸化炭素、日中の血圧と心拍、舌の感じ方、においを見分ける力といった、いずれも数字にできる項目でした。
どれも髪そのものではありませんが、髪が生えている土台の具合を映しています。土台のほうが動けば、その上に広がる環境もいずれ動きうる、という順序で眺めていくことになります。
ただし、土台の改善が毛量の回復にまで本当に届くのかどうかは、いまのところ確かめられていません。分からない範囲は分からないままお伝えするほうが誠実でしょう。
禁煙してから体が戻る順番には目盛りがあります
戻り方は一斉ではなく、早いものから順に並んでいきます。半日ほどで抜けていくものもあれば、2か月かかるものもあります。
一酸化炭素は半日で抜けていきます
たばこの煙に含まれる一酸化炭素は、血液の中で酸素の運び手と結びつき、酸素が乗れる席をその分だけ減らしてしまいます。吸うのをやめると、この結びつきはわりあい早くほどけていきます。
喫煙者の呼気を追いかけた研究では、濃度の下がり方がなめらかな減衰の曲線を描き、その半減期は4.5時間でした。8時間吸わずにいた人は、12ppmという線でかなり見分けられています。
禁煙を始めて一晩眠り、朝を迎えるころには、体の中に残る一酸化炭素はだいぶ減っているはずです。最初の変化は、思っているよりずっと早く訪れるわけです。
日中の血圧と心拍は6週間で下がりました
閉経後の女性66人を対象にした研究では、すぐにやめる群と待機する群へ分けたうえで、6週間後に24時間の血圧と心拍を測り直しています。
やめられた19人では、起きている時間帯の収縮期血圧が3.6mmHg下がった一方、待機した15人のほうは逆に1.7mmHg上がっていました。
心拍数の差はもっとはっきりしており、やめた群が1分あたり7拍減ったのに対し、待機した群はほとんど変わりませんでした。眠っている間の値には、差が出ていません。
差が日中にだけ出た点は実際にたばこを吸っていた時間帯と重なり、体が受けていた負担がその時間から抜けていったと読み取れます。眠っている間に差がつかなかったところも、この読み方を支えています。
味覚は2週間から2か月かけて戻ります
舌の感じ方を弱い電気で測った研究では、喫煙者83人と吸わない48人を比べたところ、吸う人のほうが感度は低く出ていました。
やめた24人を追いかけると、舌の先と縁の部分は2週間で持ち直しており、奥のほうは9週間、背の部分にいたっては2か月以上かかっています。
食事の味が濃く感じられるようになったという手応えにはこうした裏づけがあり、髪よりずっと早く届く変化として覚えておけば、待つあいだの励みにもなります。味の変化は、数週間という単位で確かめられます。
においの検査は45日で改善しました
やめる前と45日後ににおいの検査を受けた28人の報告では、においを見分ける成績も、言い当てる成績も、合計点もそろって改善していました。
ただし吸ってきた年数が長い人ほど伸びしろは小さく、過去の分がすべて帳消しになるわけではないという事実も、同じ研究が同時に示しています。
それでも1か月半という区切りで測れる変化が出ている以上、続けていくうえでの手がかりにはなります。においと味は、髪よりずっと手前で動く指標です。
| 戻るもの | やめてからの目安 | 報告された中身 |
|---|---|---|
| 呼気の一酸化炭素 | 半減期4.5時間 | 8時間で12ppmの線を下回る |
| 日中の血圧 | 6週間 | 収縮期で3.6mmHg低下 |
| 日中の心拍 | 6週間 | 1分あたり7拍減少 |
| 舌の感じ方 | 2週間〜2か月 | 部位ごとに順に回復 |
| においの識別 | 45日 | 検査の成績が改善 |
上から下へ読み進めるにつれて、時間の単位は時間から週へ、そして週から月へと伸びていきます。髪はこの表のさらに下に、もう一段ぶら下がる位置で待っています。
髪が禁煙に応じるのは、薄毛の時間割のいちばん後ろ
毛は日々の変化をそのまま映してくれる組織ではありません。何かが起きてから抜け毛として表に出るまでには、3〜4か月ほどの遅れが挟まります。
引き金から3〜4か月遅れて抜け毛が動きます
休止期脱毛という状態をまとめた総説によると、体に何らかの負担がかかってから抜け毛が目立つまでには、3〜4か月の間があきます。
毛には伸びる時期と休む時期があり、休みに入った毛はしばらく頭にとどまってから抜け落ちていきます。この滞在時間が、そのまま遅れを生みます。
同じ理屈は、良い方向の変化にも当てはまります。やめた影響が髪まで届いたとしても、それが目に見える形になるのは数か月あとになるでしょう。
頭皮環境が整っても見た目は季節をまたぎます
仮に頭皮環境が良い方向へ動いたとしても、その分が伸びて指に触れるまでには時間がかかります。髪が伸びる速さは、おおよそ1か月に1cmです。
分け目の見え方まで変わるには、生え替わった毛がある程度の長さまで育っている必要があります。半年ほどの幅で眺めておくのが、無理のない構えでしょう。
踏み出した月と、変化をようやく感じ取れる月とのあいだには、季節がまるごと一つか二つ挟まります。待つ時間の長さを先に見積もっておけば、途中に生まれる空白の時期にもずっと耐えやすくなります。
変化を確かめる間隔は3か月ごとが目安です
毎日の抜け毛の本数だけで良しあしを決めてしまうと、判断が日ごとに揺れてしまい長続きしません。数え方そのものも、その日の洗い方でばらつきます。
同じ場所、同じ明るさ、同じ乾かし方で撮った写真を3か月おきに並べるほうが、落ち着いて眺められます。条件をそろえておく点が肝心です。
見守るときの決めごとは少ないほうが守れますから、次の4つくらいに絞っておくと、記録そのものが負担になりません。
- 撮る場所と時間帯を固定する
- 髪を乾かした直後に撮る
- 分け目と頭頂部の2枚だけ残す
- 比べる相手は3か月前の写真にする
枚数を絞っておけば見比べる作業そのものが億劫になりませんし、精密さを追うより続けられる形にしておくほうが大切です。長く残した記録だけが、あとで意味を持ちます。
禁煙の直後に薄毛が悪化したと感じる場面があります
やめた直後は、期待とは逆向きの出来事が重なりやすい時期です。体重、気分、そして季節性の抜け毛の三つが、ほぼ同じころに顔を出します。
| 起きやすい変化 | 目立つ時期 | 受け取り方 |
|---|---|---|
| 体重の増加 | 3か月までが中心 | 12か月で平均4.67kg・16%は減っている |
| いらだちや眠りの乱れ | 10日ほど | 多くはこの範囲で落ち着く |
| 抜け毛の増加 | 夏から秋 | 一年の周期と重なりやすい |
どれも失敗の証ではありません。三つの時期がたまたま重なっているだけだと先に知っていれば、途中で投げ出さずに済むはずです。
体重は3か月までにいちばん動きます
62件の研究をまとめた解析では、支援を受けずにやめた人の体重が、1か月で1.12kg、3か月で2.85kg、12か月で4.67kg増えていました。
ただし個人差の幅は大きく、12か月の時点では16%の人がむしろ体重を減らしていたと報告されています。5kg未満の増加にとどまった人も37%を占めました。
使った薬の種類による差はほとんどなく、体重を強く気にしていた人とそうでない人のあいだにも違いは出ていません。先に動くと知っておけば、慌てずに済むでしょう。
急いで元へ戻そうとして食事を極端に削ると、今度はその減量が抜け毛の引き金になりかねません。焦って動くより、まず体重の動く時期をやり過ごすほうが安全です。
いらだちや眠りの乱れは10日ほどで戻りました
やめたあとの気分や集中の乱れを日ごとに追いかけた研究では、測ったすべての項目が10日以内にもとの水準へ戻っていました。
これは以前の報告より短い期間です。誰がつらくなりやすいかを前もって見分ける手がかりは、この研究では見つかりませんでした。
苦しい時期の終わりに見当がつくと、耐え方そのものが変わってきますから、10日という数字は目印として使えます。抜け毛の心配は、この時期を越えてから改めて眺めれば足ります。
抜け毛の増加は季節の山と重なっていませんか?
抜け毛を気にして受診した健康な女性823人を6年ぶん集めた研究では、休止期に入っている毛の割合が夏に最も高くなっていました。
春にも小さな山があって、いちばん低くなるのは冬の終わりですから、抜け毛には一年をめぐる波があると読み取れます。毎年、同じ時期に増えていませんか。
夏に踏み出した人は、ちょうどこの山と重なるために「やめたのに増えた」と感じやすくなります。原因を取り違えやすい場面といえます。
落胆しやすい場面を、あらかじめ並べておきます。
- 体重計の数字が3か月で増える
- 排水口の毛が夏の終わりに増える
- 気分が沈み、眠りが浅くなる
- 味やにおいだけが先に変わる
こうして先に並べてみると、どれも数か月のうちに位置づけそのものが変わっていくものばかりです。目の前の一つだけを見て判断を下すと、大きく見誤ります。
禁煙を続ける手立ては、意志の強さの外にあります
続くかどうかを分けているのは、根性ではなく仕組みのほうです。薬に相談による支援を重ねた群では、やめられた人の割合がはっきりと押し上げられていました。
支援を足した群で成功率が上がりました
83件の研究、29536人ぶんをまとめた解析では、薬を使う人に相談による支援を重ねると、やめられた割合の比が1.15(95%信頼区間1.08〜1.22)になりました。
支援がまったくない群と比べた8件に絞った場合、比は1.20(95%信頼区間1.02〜1.43)まで上がっています。
| 比べた組み合わせ | 研究数と人数 | やめられた割合の比 |
|---|---|---|
| 支援が多い群と少ない群 | 65件・23331人 | 1.15 |
| 支援ありと支援なし | 8件・4018人 | 1.20 |
1割から2割ほどの上積みですから、劇的とまでは言えません。数字の幅は狭く、ひとりきりで抱え込むより明らかに分がよいという向きが、はっきりと読み取れます。
禁煙外来は相談と薬をまとめて扱う窓口です
相談による支援と薬を同じ場所で用意できる窓口として、禁煙外来という選択肢が用意されています。持病や飲んでいる薬との兼ね合いも、その場で確かめてもらえます。
薬の種類や進め方は、その人の体調や持病によって変わるため、自分の判断だけで選ぶ形は勧められません。診察のやりとりの中で決めていく部分です。
髪の相談で皮膚科を訪ねる予定があるなら、そのついでに相談先を尋ねてみるのも入り口の一つでしょう。自分から窓口を探す手間が省けるだけでも、始めやすさは変わります。
つまずいた日はどう扱えばよいのでしょうか?
一度吸ってしまったからといって、それまで積み上げた日数が消えてなくなるわけではありません。多くの人は何度か往復しながら、少しずつ距離を取っていきます。
大切なのは、その日を自分を責める材料ではなく、次に生かすための材料として残しておく点です。どんな場面で手が伸びたのかを、一行だけ書き留めておきます。
書き留める項目は、次の4つで足ります。
- 吸いたくなった時刻と場所
- そのときにしていた作業
- 代わりにできそうな動作
- 次の受診まで紙を置く場所
紙が一枚あるだけで診察の場に持ち込む材料がそろい、記憶をたどるより、はるかに具体的な相談ができます。書く量は少なくてかまいません。
禁煙しても薄毛が進むときに確かめておきたいこと
やめる手立ては、薄毛を止める保険ではありません。続けていても進んでいくようなら、ほかの要因が隠れていないかを確かめる場面です。
禁煙は薄毛を止める保険になるのでしょうか?
血圧や味覚といった体の側の指標が動いたとしても、それで髪の行く先まで決まるわけではありません。年齢や体質といった条件は、やめたあともそのまま残ります。
変えられる条件を一つ減らした、という位置づけがいちばん実際に近く、減らせる条件はほかにもいくつか手元に残っています。眠りの浅さや鉄の不足など、確かめられる項目は並んでいます。
期待の置き場所をあらかじめ体の土台の側へ寄せておけば、髪の動きが遅いときでも続けやすくなります。約束されていないものを当てにしない、という構えです。
検査で見つかる原因が隠れている場合があります
鉄の不足や甲状腺の働きの乱れ、急な体重の変化といった背景は、いずれも血液検査で確かめられます。そちらが主役であれば、たばこをやめただけでは髪の状態が動きません。
抜け毛が3か月以上続いている、分け目の地肌が急に目立ってきたといった変化があるなら、暮らしを変える前に一度調べておくほうが安心です。
順番を逆にすると、効きにくい手立てをそのまま長く続けてしまいますから、先に原因を確かめるほうが、遠回りに見えて近道になります。調べる負担は、思うほど大きくありません。
受診のときに持っていくと話が早いもの
診察の時間は限られています。手ぶらで診察室に座るより、書き留めた記録を一枚持っていくほうが、伝えられる量は確実に増えます。
1日の本数と吸ってきた年数、やめた日付、そして3か月おきに撮った写真がそろっていれば、話の道すじがすぐに立ちます。
髪の悩みとたばこの話は同じ診察室で並べてかまいませんし、別々に抱えているより、まとめて相談したほうが手間も減ります。
よくある質問
- Q禁煙すれば薄毛は治るのでしょうか?
- A
もとの毛量へ戻ると請け合える段階ではありません。やめた人の毛を数えて追いかけた研究が乏しく、答えを出すための材料がそろっていない状況です。
確かめられているのは、一酸化炭素や日中の血圧、味覚といった体の側の指標が動くところまでです。髪への効き目は、いまも空欄のまま残っています。
進みにくい状態へ寄せる手立ての一つ、という距離感で受け止めておくと、あとから落胆しにくくなります。
- Q禁煙してから髪の変化を感じるまで、どのくらいかかりますか?
- A
毛は3〜4か月遅れて反応する組織なので、早くても季節が一つ二つ変わったころの話になります。伸びる速さも、1か月に1cmほどです。
半年ほどの幅で眺めながら、同じ条件で撮った写真を3か月おきに並べていく形が向いています。日々の抜け毛の本数では、判断が揺れてしまいます。
- Q禁煙した直後に抜け毛が増えたように感じるのはなぜですか?
- A
抜け毛には一年をめぐる波があって、休止期の毛の割合は夏に最も高くなると報告されています。夏に踏み出すと、ちょうどこの山と重なります。
やめた直後は髪のほうへ意識が向きやすくなり、いつもなら気に留めない量まで目に入ってきます。数え始めた時期の問題も、いくらか混ざっています。
3か月以上続くようであれば季節だけでは説明しきれませんから、一度受診して調べておくと安心できます。
- Q禁煙で体重が増えると、薄毛にも響きますか?
- A
たばこをやめたあとの体重の増加と髪の状態を直接つないで調べた研究は、いまのところ見当たりません。増えた分がそのまま髪へ響く、とは言えない段階です。
62件をまとめた解析では、12か月で平均4.67kg増えた一方、16%の人はむしろ減っていました。動く時期は、3か月までが中心です。
急な減量のほうが抜け毛の引き金になりやすいため、体重を戻そうとして食事を極端に削る形は避けたほうが無難でしょう。
- Q禁煙外来では、どんな支援を受けられますか?
- A
相談による支援と薬を同じ窓口で組み合わせられます。83件をまとめた解析では、薬に支援を重ねた群でやめられた割合の比が1.15でした。
薬の種類や進め方は体調や持病によって変わるため、診察のやりとりの中で決まっていきます。自分で選ぶ形は勧められません。
