妊娠中の薄毛や抜け毛に悩んでいる方は、思いのほか多くいらっしゃいます。「育毛剤を使いたいけれど、おなかの赤ちゃんへの影響が心配で手が出せない」という声も少なくありません。

女性用育毛剤の中には妊娠中に避けるべき成分を含む製品がある一方、比較的安心して使えるスカルプケアも存在します。大切なのは成分表示を正しく読み解き、かかりつけ医に相談したうえで判断することです。

この記事では、妊娠中の頭皮ケアに関する医学的な根拠をもとに、避けたい成分と選び方のポイントをわかりやすく解説します。

目次

妊娠中に抜け毛が増えるのはなぜ?ホルモン変動と毛髪サイクルの関係

妊娠中の抜け毛は、エストロゲン(女性ホルモン)の急激な変動によって毛髪の成長サイクルが乱れることで起こります。多くの場合は一時的な現象であり、出産後に自然と回復していきます。

エストロゲンが毛髪の成長期を延ばしてくれる妊娠前半

妊娠すると体内のエストロゲン濃度が大幅に上昇します。エストロゲンには毛髪を成長期(アナジェン期)にとどめる働きがあるため、妊娠中は髪のボリュームが増えたと感じる方もいるでしょう。

普段より髪が太く艶やかに見えるのは、ホルモンの恩恵といえます。

産後に一気に抜ける「休止期脱毛」のしくみ

出産後にエストロゲンが急降下すると、成長期に長くとどまっていた毛髪が一斉に休止期(テロジェン期)へ移行します。

その結果、産後3〜4か月をピークに大量の抜け毛が生じる「休止期脱毛(テロジェン・エフルビウム)」と呼ばれる状態になります。

1日100本程度の抜け毛は通常の範囲内ですが、産後はそれを大きく超える量が抜けることも珍しくありません。驚くかもしれませんが、多くの場合は6〜12か月で元の状態に戻ります。

妊娠中と産後の毛髪サイクル変化

時期ホルモン状態毛髪への影響
妊娠前半エストロゲン上昇成長期が延長し抜け毛が減る
妊娠後半ホルモン高値維持髪にボリュームを感じやすい
産後3〜4か月エストロゲン急降下休止期脱毛が起こりやすい
産後6〜12か月ホルモン正常化毛髪サイクルが徐々に回復

妊娠中でも抜け毛が起きるケースとは

すべての妊婦が髪のボリュームアップを実感するわけではありません。鉄欠乏性貧血や甲状腺機能の異常が妊娠中に見つかる場合、ホルモンの恩恵を受けにくく薄毛が進行する可能性があります。

つわりが重く栄養摂取が不足している方や、精神的なストレスを強く感じている方も注意が必要です。気になる量の抜け毛がある場合は、まず産科や皮膚科で血液検査を受けてみてください。

女性用育毛剤に含まれる成分で妊娠中に避けるべきものを見極める

妊娠中に女性用育毛剤を使う際、もっとも注意が必要なのはミノキシジルやフィナステリドといった医薬成分です。これらは胎児への悪影響が懸念されるため、妊娠がわかった時点で使用を中止するのが原則になります。

ミノキシジル外用剤は妊娠中に使ってはいけない

ミノキシジルは女性の薄毛治療薬として広く使われている外用成分です。しかし、動物実験で胎児毒性が確認されており、ヒトにおいても外用剤を使用していた妊婦の胎児に先天異常が報告された症例があります。

経皮吸収率はおよそ1〜4%と低いものの、妊娠中は胎盤を通じて胎児に影響が及ぶリスクをゼロにできません。米国FDAの旧カテゴリーでもCランクに分類されており、妊婦への使用は推奨されていません。

フィナステリド・デュタステリドは女性自体が触れてもいけない

フィナステリドとデュタステリドは、男性型脱毛症に対して処方される内服薬です。

5αリダクターゼ阻害作用があり、男性胎児の外性器形成に深刻な影響を与える可能性があるため、女性は妊娠の有無にかかわらず服用が禁止されています。

砕けた錠剤に触れるだけでも経皮吸収のおそれがあるため、パートナーが服用中の場合は取り扱いに細心の注意を払いましょう。

パラベン・エタノール・合成香料も慎重に判断したい

防腐剤であるパラベンや高濃度エタノールは、一般的には少量であれば問題ないとされています。ただし、妊娠中は皮膚が敏感になりやすく、頭皮にかゆみや炎症が出る方も少なくありません。

合成香料も同様で、つわり時期には匂いで気分が悪くなることもあるでしょう。成分表示を確認し、不安があれば低刺激・無香料の製品を選ぶのが賢明です。

成分名リスク区分妊娠中の対応
ミノキシジル高リスク使用中止
フィナステリド禁忌触れることも避ける
デュタステリド禁忌触れることも避ける
高濃度エタノール注意頭皮の状態を見て判断
パラベン類注意低刺激製品を選ぶ

妊娠中でも使いやすい育毛剤成分はどれ?安心できるスカルプケア成分を厳選

妊娠中のスカルプケアには、天然由来成分や低刺激性の有効成分を中心に選ぶのがポイントです。医薬部外品として認可されている成分の中にも、妊婦が比較的安心して使えるものがあります。

グリチルリチン酸ジカリウムで頭皮の炎症を穏やかに抑える

グリチルリチン酸ジカリウムは、甘草(カンゾウ)の根から抽出される抗炎症成分です。医薬部外品の有効成分として多くの育毛剤に配合されており、頭皮の赤みやかゆみを穏やかに鎮めてくれます。

経皮吸収率が低く、外用での全身への影響はきわめて小さいと考えられています。妊娠中の頭皮トラブルが気になる方にとって、取り入れやすい成分のひとつといえるでしょう。

センブリエキスが頭皮の血行を自然にサポートする

センブリエキスはリンドウ科の植物から得られる成分で、頭皮の血行促進が期待できます。古くから生薬として利用されてきた歴史があり、穏やかな作用で頭皮環境を整えます。

妊娠中に選びやすい育毛関連成分

成分名主な作用特徴
グリチルリチン酸ジカリウム抗炎症甘草由来で低刺激
センブリエキス血行促進植物由来の穏やかな作用
パントテニルエチルエーテル毛母細胞活性化ビタミンB5誘導体
酢酸トコフェロール抗酸化・血行促進ビタミンE誘導体

ビタミン系誘導体で毛根にやさしく栄養を届ける

パントテニルエチルエーテル(ビタミンB5誘導体)や酢酸トコフェロール(ビタミンE誘導体)は、毛母細胞の活性化や頭皮の血行促進に役立つ成分です。どちらもビタミン由来のため比較的安全性が高く、多くの育毛剤に採用されています。

ただし、どんな成分でも妊娠中は体質の変化により反応が異なる場合があります。初めて使う製品は、まず少量を腕の内側に塗ってパッチテストを行い、異常がないことを確認してから頭皮に使うようにしましょう。

育毛剤を使わなくてもできる妊娠中の抜け毛対策と頭皮ケア習慣

育毛剤に頼らなくても、毎日の生活習慣や頭皮ケアの工夫だけで妊娠中の抜け毛をかなり軽減できます。食事・洗髪方法・ストレス管理の3つの柱を意識することが大切です。

鉄分・亜鉛・タンパク質を毎日の食事で意識して摂る

妊娠中は胎児の成長に多くの栄養素が使われるため、母体の鉄分や亜鉛が不足しがちです。鉄分が不足すると毛根への酸素供給が減り、抜け毛の原因になる場合があります。

レバー、ほうれん草、赤身の肉、大豆製品、牡蠣(亜鉛)、卵(タンパク質)などをバランスよく取り入れてください。産科で処方されるプレナタルビタミン(妊婦用サプリメント)も、不足しがちな栄養素の補給に役立ちます。

シャンプーの選び方と洗い方で頭皮への負担を減らす

洗浄力の強い硫酸系シャンプーは頭皮の乾燥を招き、かゆみやフケの原因になります。妊娠中はアミノ酸系やベタイン系の低刺激シャンプーに切り替えるのがおすすめです。

洗い方にもコツがあります。ぬるま湯(38度前後)で予洗いしたあと、シャンプーを手のひらで泡立ててから頭皮に乗せましょう。爪を立てずに指の腹でやさしくマッサージするように洗うと、頭皮への刺激を減らせます。

ストレスを溜めない工夫と質のよい睡眠が髪を守る

精神的なストレスはホルモンバランスをさらに乱し、抜け毛を悪化させる要因になります。散歩やストレッチなど軽い運動を日課にするだけでも、気分転換の効果は大きいものです。

睡眠中には成長ホルモンが分泌され、毛髪の修復が行われます。寝る前のスマートフォンを控え、できるだけ決まった時間に就寝する習慣をつけると、髪だけでなく体全体の回復力が高まります。

  • 鉄分を多く含む食品(レバー、ほうれん草、小松菜)
  • 亜鉛を多く含む食品(牡蠣、牛肉、ナッツ類)
  • 良質なタンパク源(卵、大豆製品、鶏むね肉、魚)
  • ビタミンB群を含む食品(玄米、豚肉、バナナ)

妊娠中に育毛剤を選ぶなら成分表示のここを必ずチェックする

妊娠中に育毛剤を購入する際は、パッケージ裏面の成分表示を必ず確認し、禁忌成分が入っていないことを自分の目で確かめてから使うべきです。見るべきポイントをしっかり押さえておけば、判断はそれほど難しくありません。

「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」の分類で安全性の目安をつかむ

日本の法律では、育毛関連製品は「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」の3つに分類されます。医薬品は効果を実感しやすい反面、ミノキシジルのように妊娠中は使えない成分を含むものがあります。

医薬部外品は厚生労働省が認可した有効成分を一定濃度で含む製品で、効果と安全性のバランスがとれています。化粧品は有効成分の表示ができない代わりに、比較的穏やかな処方になっていることが多いでしょう。

成分表示の読み方と配合量の順番に注目する

成分表示は配合量の多い順に記載されるのが基本ルールです。先頭に水やエタノールが来るものが多いですが、有効成分がどの位置に記載されているかを確認しましょう。

成分表示チェック時に確認したい3つのポイント

確認項目見るべき箇所判断基準
禁忌成分の有無全成分表示ミノキシジル等が含まれていないか
製品区分パッケージ表面医薬品・医薬部外品・化粧品の分類
アレルギー成分全成分表示の後半香料・着色料・防腐剤の種類

迷ったときは産科医・皮膚科医に成分表示を見せて相談する

インターネット上には育毛剤に関するさまざまな情報があふれていますが、個人の体験談だけで安全性を判断するのは危険です。

気になる製品があれば、成分表示をスマートフォンで撮影し、次の健診時に医師に見せるのが確実な方法といえます。

薬剤師に相談するのもよい選択です。ドラッグストアの薬剤師は成分の安全性に関する知識を持っており、妊娠中に使える製品を一緒に探してくれるでしょう。

妊娠中の頭皮マッサージとスカルプケアで血行を促進して髪を育てる

頭皮マッサージは薬剤に頼らず血行を改善できる手軽な方法であり、妊娠中でも安心して続けられるスカルプケア習慣として取り入れる価値があります。正しいやり方を覚えれば、毎日のバスタイムが頭皮の健康を守る時間に変わります。

指の腹を使ったセルフマッサージの正しいやり方

両手の指の腹を使い、生え際からつむじに向かって小さな円を描くようにゆっくり動かします。1か所につき5〜6回ほど回したら、少しずつ位置をずらしていきましょう。

力を入れすぎると頭皮を傷つけるため、「気持ちいい」と感じる程度の強さが目安です。

入浴時にシャンプーの泡がついた状態で行うと、指の滑りがよくなりマッサージしやすくなります。所要時間は3〜5分で十分です。

天然オイルを使った頭皮ケアで乾燥を防ぐ

ホホバオイルやアルガンオイル、椿油などの天然オイルは、頭皮の保湿と柔軟性の維持に役立ちます。シャンプー前に少量を頭皮に塗布し、5分ほどなじませてから洗い流す「プレシャンプーオイルケア」が手軽でおすすめです。

オイルを選ぶ際は、添加物や合成香料が入っていない純度の高いものを選んでください。1回の使用量は500円玉大程度で十分であり、つけすぎると洗い残しの原因になります。

マッサージを習慣にするための続けやすい工夫

「毎晩のシャンプー時に3分だけ」と決めてしまうのが、継続のコツです。特別な道具を買い揃える必要はなく、自分の指だけで始められます。

シリコン製のスカルプブラシを使うのもひとつの方法です。ブラシの先端が丸くなっているタイプを選べば、頭皮を傷つけずに広範囲をまんべんなくマッサージできるでしょう。

  • セルフマッサージは1回3〜5分、毎日のシャンプー時が習慣化しやすい
  • 天然オイルは無添加・高純度のものを500円玉大で使用する
  • シリコン製スカルプブラシは先端が丸いタイプを選ぶ

出産後の抜け毛はいつまで続く?産後の育毛剤再開時期と注意点

産後の抜け毛は通常6〜12か月で自然に落ち着き、育毛剤の再開は授乳の有無を考慮しながら医師と相談して決めるのが安全です。焦って自己判断で使い始めるのではなく、タイミングを見極めましょう。

産後の抜け毛ピークは出産後3〜4か月にやってくる

産後の時期毛髪の状態対応の目安
1〜2か月変化を感じにくい栄養と睡眠を優先
3〜4か月抜け毛がピークに達する過度な心配は不要
6か月前後徐々に回復し始める必要に応じて皮膚科受診
12か月前後ほぼ元の状態に戻る回復が遅い場合は検査を

出産後のホルモン急降下により、妊娠中に抜けなかった毛髪が一気に休止期へ入ります。この時期にごっそり髪が抜けると不安になりますが、多くの方は半年〜1年で回復していきます。

授乳中のミノキシジル使用は避けたほうがよい

ミノキシジルは母乳中に移行することが報告されています。乳児への影響データは限られているため、授乳中も使用を控えるのが無難です。

産後の抜け毛が気になって早く治療を再開したい気持ちはよくわかりますが、授乳が終わるまでは食事やマッサージなど薬剤以外のケアで対応するのが賢明でしょう。

育毛剤の再開は授乳終了後に医師と相談して決める

授乳を終えたあとであれば、ミノキシジル外用剤をはじめとする育毛剤の使用を検討できるようになります。

ただし、産後はホルモンバランスがまだ安定していない時期が続くこともあるため、独断で始めるのは避けましょう。

皮膚科や薄毛専門のクリニックを受診し、現在の頭皮状態を踏まえたうえで、担当医と治療計画を立てることをおすすめします。再開の際は低濃度から始め、頭皮の反応を見ながら調整していくのが一般的です。

よくある質問

Q
女性用育毛剤に含まれるミノキシジルは妊娠中に使用しても安全?
A

ミノキシジルは妊娠中の使用が推奨されていません。動物実験では胎児毒性が確認されており、外用剤であっても経皮吸収を通じて胎児に影響が及ぶ可能性が否定できないためです。

妊娠がわかった時点で使用を中止し、かかりつけの産科医や皮膚科医に相談してください。妊娠中は薬剤に頼らない頭皮ケアや栄養管理で対応するのが安全な方法です。

Q
妊娠中のスカルプケアとして頭皮マッサージは抜け毛予防に効果がある?
A

頭皮マッサージには血行を促進し、毛根への栄養供給をサポートする効果が期待できます。薬剤を一切使わないため、妊娠中でも安心して取り入れられるケア方法です。

指の腹を使い、やさしく円を描くように3〜5分ほどマッサージするだけで十分です。劇的に抜け毛を止める効果があるわけではありませんが、頭皮環境の改善や気分のリラックスにも役立ちます。

Q
女性用育毛剤を産後の授乳期間中に再開してもよい?
A

ミノキシジルなどの医薬成分を含む育毛剤は、授乳中も使用を控えるのが望ましいとされています。ミノキシジルは母乳への移行が報告されており、乳児への安全性が十分に確認されていないためです。

授乳が完了してから皮膚科医と相談のうえで再開するのが安全な進め方になります。それまでは食事管理やマッサージなど薬剤以外の方法でケアを続けてください。

Q
妊娠中に使える育毛剤の成分としてグリチルリチン酸ジカリウムは安心できる?
A

グリチルリチン酸ジカリウムは甘草由来の抗炎症成分で、医薬部外品の育毛剤に広く配合されています。経皮吸収率が低く、外用での全身への影響はきわめて小さいため、比較的安心して使える成分といえます。

ただし、妊娠中は体質が変わりやすいため、初めて使う製品はパッチテストを行ったうえで使用を始めてください。少しでも異常を感じた場合は使用を中止し、医師に相談しましょう。

Q
産後の休止期脱毛(テロジェン・エフルビウム)はどのくらいの期間で回復する?
A

産後の休止期脱毛は、出産から3〜4か月後にピークを迎え、その後6〜12か月かけて徐々に回復していくのが一般的な経過です。ほとんどの方は、お子さんが1歳になるころには髪のボリュームが元に戻ります。

12か月を過ぎても回復の兆しが見られない場合は、鉄欠乏性貧血や甲状腺機能の異常など別の原因が隠れている可能性があります。その際は皮膚科で血液検査を受けることをおすすめします。

参考にした論文