咳が続くと、「ただの風邪だろう」と思いつつも、「何か悪い病気だったらどうしよう」と不安になるものです。

医療機関を受診しようか迷っている方のために、この記事では、咳を主訴に病院を訪れた際に、どのような問診、診察、検査が行われるのかを具体的に解説します。

診察の流れや検査の目的を事前に知ることで、少しでも安心して受診に臨むための一助となれば幸いです。ご自身の症状と照らし合わせながら、適切な対応を考えるための情報としてお役立てください。

咳が続くときに考える医療機関の受診

一時的な咳であれば自然に治まることも多いですが、長く続く場合や特定の症状を伴う場合は、医療機関の受診を検討することが大切です。

ここでは、受診を考えるべき咳の目安や、どの診療科にかかればよいのかについて説明します。

受診を考える咳の目安

咳は期間によって「急性(3週間未満)」「遷延性(3~8週間)」「慢性(8週間以上)」に分類されます。特に3週間以上続く咳は、単なる風邪ではない可能性が考えられます。

また、期間だけでなく、咳以外の症状にも注意が必要です。

受診を推奨する咳の状態

項目内容考えられること
持続期間3週間以上続く気管支炎、咳喘息、感染症後咳嗽など
伴う症状発熱、呼吸困難、胸の痛み、血痰肺炎、肺がん、心不全などの重い病気の可能性
咳の悪化だんだんひどくなる、夜間や早朝に特に強い喘息、逆流性食道炎など

何科を受診すればよいか

咳の症状で受診する場合、どの診療科を選べばよいか迷うことがあります。まずはかかりつけの内科、あるいは呼吸器内科を受診するのが一般的です。

症状によっては、耳鼻咽喉科や循環器内科が適している場合もあります。

症状に応じた診療科の選択

診療科このような症状の場合主な対象疾患
呼吸器内科咳が長く続く、息切れ、痰、胸の痛み喘息、COPD、肺炎、肺がん
内科発熱や倦怠感など全身症状を伴う、かかりつけ医がいる風邪、インフルエンザ、気管支炎
耳鼻咽喉科鼻水、鼻づまり、のどの痛みや違和感を伴う副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、咽喉頭逆流症

診察を受けることの重要性

長引く咳を放置すると、原因となっている病気が進行してしまう可能性があります。また、慢性的な咳は体力を消耗させ、睡眠を妨げ、生活の質を大きく低下させます。

早期に専門家である医師の診察を受け、原因を特定し、適切な治療を開始することが、健康を守る上で非常に重要です。

診察の基本となる問診の内容

診察は、医師が患者さんの話を詳しく聞く「問診」から始まります。問診で得られる情報は、咳の原因を推測し、必要な検査を計画する上で極めて重要な手がかりとなります。

医師は、症状について多角的な質問をします。

咳の症状に関する具体的な質問

咳そのものの性質について、詳しく質問します。いつから始まったか、どんな時に出やすいか、音や痰の有無など、できるだけ具体的に伝えることが診断の助けになります。

医師が尋ねる咳の特徴

質問の項目回答のポイント診断の手がかり
期間「いつから」「何週間くらい」急性か慢性かの判断
時間帯「夜間」「早朝」「日中」「食後」喘息(夜間~早朝)、逆流性食道炎(食後、就寝時)など
誘因「会話」「運動」「冷たい空気」「特定の場所」アレルギー、咳喘息、過敏性の亢進など
音・性質「コンコン(乾いた咳)」「ゴホゴホ(湿った咳)」炎症の部位や性質の推定
痰の有無・性状「色(透明、黄色、緑)」「粘り気」細菌感染(膿性の痰)、アレルギーなど

咳以外の症状や既往歴の確認

咳だけでなく、体全体の状態や過去の病歴も重要な情報です。発熱、息切れ、鼻水、胸やけ、体重減少など、咳と同時に現れている症状があれば、すべて医師に伝えてください。

また、これまでに喘息やアレルギー、心臓病などを指摘された経験も診断の参考になります。

生活習慣や環境についての質問

喫煙歴は、咳の原因を考える上で非常に重要な情報です。本人だけでなく、家族など周囲の人の喫煙(受動喫煙)についても尋ねることがあります。

また、職業や住環境、ペットの有無など、アレルギーや刺激物の原因となりうる生活背景についても確認します。

問診で正確に情報を伝えるためのポイント

診察室では緊張してしまい、うまく説明できないこともあるかもしれません。事前に症状の経過をメモしておくと、落ち着いて正確に情報を伝えることができます。

「いつから、どんな咳が、どんな時に出て、他にどんな症状があるか」を整理しておくだけでも、診察はスムーズに進みます。

医師が行う身体診察(フィジカルイグザミネーション)

問診の次に行うのが、身体診察です。医師が五感を使って患者さんの体の状態を直接調べることで、病気の兆候を探します。特に咳の診察では、胸部の聴診が中心となります。

視診で確認する項目

視診では、患者さんの顔色や呼吸の様子、胸郭の形、ばち指(指先が太鼓のばちのように丸くなる状態)の有無などを目で見て確認します。

これらは全身の状態や酸素が足りているかどうかの指標となります。

視診での主な観察点

  • 呼吸の速さや深さ
  • 呼吸時に肩が上下していないか(努力呼吸)
  • 唇や爪の色(チアノーゼの有無)
  • 首の血管の張り

聴診器を使った呼吸音の確認

聴診は、咳の診察で最も重要な診察手技の一つです。医師は聴診器を胸や背中に当て、肺から聞こえる呼吸音に異常がないかを確認します。

「大きく息を吸って、吐いてください」という指示に従って、ゆっくりと深い呼吸をすることが大切です。正常な呼吸音の他に、異常な音(副雑音)が聞こえることがあります。

聴診で聴取する異常音の例

異常音の種類音の特徴疑われる病気
喘鳴(ぜんめい)ヒューヒュー、ゼーゼー気管支喘息、COPD
水泡音(すいほうおん)プチプチ、ゴロゴロ肺炎、心不全、気管支拡張症
捻髪音(ねんぱつおん)パリパリ、バリバリ間質性肺炎

打診や触診で調べること

打診は、胸部を指で軽く叩き、その音の響き方の違いから肺の状態(空気の量や液体貯留の有無など)を推測する方法です。触診では、胸郭の動きやリンパ節の腫れなどを手で触れて確認します。

これらの診察を通じて、医師は病気の可能性を絞り込んでいきます。

咳の原因を探るための基本的な検査

問診と身体診察の結果から、医師は咳の原因として疑わしい病気をいくつか考えます。その推測を確かめ、診断を確定するために、次に行うのが客観的なデータを得るための検査です。

まずは、体への負担が少なく、多くの情報が得られる基本的な検査から始めることが一般的です。

胸部X線(レントゲン)検査

胸部X線検査は、咳の診察において基本となる画像検査です。X線を胸部に照射し、肺や心臓、大血管、胸郭などの影を画像化します。

肺炎や肺がん、心不全、結核など、多くの呼吸器疾患の発見に役立ちます。撮影は数分で終わり、痛みもありません。

胸部X線検査で発見可能な主な病態

所見疑われる病気特徴
浸潤影肺炎、肺結核肺の中に白くぼんやりとした影が見える
腫瘤影肺がん、良性腫瘍塊のようなはっきりとした影が見える
胸水貯留心不全、胸膜炎肺の下の方や側面に水が溜まり白く見える

血液検査でわかること

血液検査は、全身の状態を把握するための重要な検査です。採血によって得られた血液から、炎症反応の有無や程度、アレルギーの関与、貧血の有無、臓器の機能などを調べることができます。

咳の原因特定だけでなく、治療方針を決める上でも参考になります。

血液検査の主な項目と目的

検査項目目的何がわかるか
白血球数・CRP炎症反応の確認細菌やウイルスによる感染症の有無や重症度
好酸球数・IgE抗体アレルギーの確認アレルギー性疾患(喘息など)の可能性
BNP心機能の評価心不全の可能性

喀痰(かくたん)検査の目的

湿った咳で痰がからむ場合、その痰を調べる喀痰検査を行うことがあります。

痰を顕微鏡で観察して細菌やがん細胞がいないか(喀痰細胞診)、あるいは痰を培養して原因菌を特定する(喀痰培養検査)ことで、より正確な診断につながります。

特に、感染症が疑われる場合や、肺がんの可能性を調べる際に有用な検査です。

必要に応じて行う専門的な検査

基本的な検査で原因が特定できない場合や、さらに詳しい情報が必要な場合には、より専門的な検査を行います。どの検査を行うかは、疑われる病気によって異なります。

呼吸機能検査(スパイロメトリー)

呼吸機能検査は、肺の容積や空気を出し入れする換気能力を調べる検査です。マウスピースをくわえ、検査技師の合図に合わせて息を吸ったり吐いたりします。

「喘息」や「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」など、気道が狭くなる病気の診断に特に重要です。気管支拡張薬を吸入する前と後で検査を行い、気道の狭まりが改善するかを見ることもあります。

呼吸機能検査で評価する主な指標

  • 努力肺活量(FVC):空気を胸いっぱいに吸い込み、一気に吐き出した時の空気の量
  • 1秒量(FEV1):努力肺活量のうち、最初の1秒間で吐き出せる空気の量
  • 1秒率(FEV1/FVC):努力肺活量に対する1秒量の割合

胸部CT検査

胸部CT検査は、X線を使って体を輪切りにしたような詳細な画像を撮影する検査です。通常の胸部X線検査では見つけにくい、小さな病変や肺の細かな構造の変化を捉えることができます。

間質性肺炎の診断や、肺がんの広がりを評価する際などに力を発揮します。

気管支鏡検査

気管支鏡検査は、先端にカメラが付いた細い管(気管支鏡)を口や鼻から挿入し、気管や気管支の内部を直接観察する内視鏡検査です。原因不明の血痰や、画像検査で異常な影が見つかった場合などに行います。

観察するだけでなく、組織の一部を採取(生検)して病理診断を行ったり、気管支内の異物を除去したりすることも可能です。

アレルギー検査

咳の原因としてアレルギーが疑われる場合に行う検査です。

血液検査で特定のアレルゲン(アレルギーの原因物質)に対する抗体(特異的IgE抗体)を測定する方法や、皮膚にアレルゲンエキスを少量つけて反応を見る皮膚テスト(プリックテストなど)があります。

どの物質がアレルギー反応を引き起こしているかを知ることは、治療や生活指導に役立ちます。

検査結果の説明と診断までの流れ

一通りの検査が終わると、その結果をもとに医師が総合的に判断し、診断をくだします。ここでは、検査結果がどのように伝えられ、診断に至るのかを説明します。

検査結果が出るまでの期間

検査の種類によって、結果が判明するまでの時間は異なります。その日のうちに結果がわかる検査もあれば、数日から数週間かかる検査もあります。

各検査の結果判明までの目安

検査の種類結果判明までの目安期間備考
胸部X線、呼吸機能検査当日多くの場合、診察中に説明があります
血液検査(一部を除く)数日~1週間特殊な項目はさらに時間がかかる場合があります
喀痰・培養検査、病理検査1~2週間細胞の培養や詳細な分析に時間が必要です

医師からの結果説明

後日、改めて受診し、医師から検査結果について説明を受けます。画像検査の結果は実際の画像を見ながら、血液検査などの数値データは基準値と比較しながら、分かりやすく説明します。

疑問や不安な点があれば、遠慮せずに質問することが大切です。

確定診断と今後の治療方針

すべての検査結果と、問診、診察で得られた情報を総合的に評価し、医師は咳の原因となっている病気の「確定診断」を行います。

そして、その診断に基づいて、今後の治療方針(薬物療法、生活指導など)を患者さんと相談しながら決定していきます。

診察をスムーズに進めるための準備

医療機関を受診する際に、少し準備をしておくだけで、より正確な情報を医師に伝えることができ、診察が円滑に進みます。ここでは、受診前にできる準備について紹介します。

事前にまとめておくと良い情報

問診で尋ねられる内容を、あらかじめメモにまとめておくと便利です。記憶に頼るだけでなく、客観的な記録として持参することで、伝え忘れを防ぎます。

受診前に準備する情報メモ

カテゴリー具体的な項目メモのポイント
症状の経過いつから、どんな咳か、時間帯、悪化・改善する状況時系列で整理すると分かりやすい
既往歴・アレルギー過去にかかった大きな病気、喘息、アレルギーの有無診断された病名や時期を具体的に
服用中の薬すべての薬(処方薬、市販薬、サプリメント)お薬手帳を持参するのが最も確実
生活習慣喫煙歴(本人・家族)、職業、ペットの有無正直に伝えることが重要

服装や持ち物について

胸部の聴診やX線検査をスムーズに行うため、着脱しやすい服装が望ましいです。ワンピースよりも上下が分かれた服の方が便利です。

また、健康保険証や診察券、お持ちであればお薬手帳や紹介状を忘れないようにしましょう。

お薬手帳の持参

現在服用している薬は、咳の原因になったり、これから処方される薬との飲み合わせに影響したりすることがあります。

お薬手帳は、安全で適切な治療を受けるための重要な情報源です。必ず持参してください。

咳の診察に関するよくある質問

最後に、咳の診察や検査に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
検査にかかる費用はどのくらいですか?
A

費用は、行う検査の種類や数、医療機関によって異なります。また、健康保険の適用(通常は3割負担)によって自己負担額が変わります。

基本的な診察と胸部X線検査、血液検査であれば数千円程度が目安ですが、CT検査や気管支鏡検査など専門的な検査を行う場合は、さらに費用がかかります。

詳しい費用については、受診する医療機関に直接問い合わせるのが確実です。

Q
検査は痛みを伴いますか?
A

ほとんどの検査は痛みを伴いません。胸部X線やCT、呼吸機能検査は全く痛みはありません。血液検査は採血の際に針を刺す痛みがありますが、一瞬です。

気管支鏡検査は、のどに麻酔をしてから行うため、強い苦痛を感じることは少ないですが、違和感や咳き込みが出ることがあります。

医師や技師が声をかけながら進めるので、不安な点は事前に伝えてください。

Q
妊娠中や授乳中でも検査は受けられますか?
A

妊娠中やその可能性がある場合、授乳中である場合は、必ず診察前に医師に伝えてください。X線を使用する検査(レントゲン、CT)は、胎児への影響を考慮し、原則として行いません。

ただし、母体の状態によっては、利益が危険性を上回ると判断された場合に、腹部を保護して撮影することもあります。

血液検査や呼吸機能検査など、影響のない検査は安全に受けられます。

Q
子どもの咳でも同じような検査をしますか?
A

子どもの場合も、基本的な診察の流れは大人と似ていますが、年齢や協力度に応じて検査の方法を工夫します。

例えば、幼い子どもでは呼吸機能検査を正確に行うのが難しいため、別の方法で評価することがあります。また、X線検査なども、必要性を慎重に判断した上で行います。

小児科医が子どもの特性を理解した上で、適切な診察と検査を進めます。

以上

参考にした論文